にのじ@ばよりん的日常

バイオリン弾きにのじの日常生活!
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音楽と言う拠り所

2008-09-02 01:45:48 | オーケストラ
夕べはずっとテレビを見ていました。
NHKのBSで放送されていたベルリンフィルのドキュメンタリーです。
第2次大戦下のベルリンで終戦まで演奏活動を続けていたベルリンフィルの活動をメンバーやその家族たち、そしてフィルムに収められた記録を交えて再現していたのです。

ドイツ文化の象徴として利用されたオーケストラ、演奏会は克明に記録され宣伝にも使われたのです。
メンバーも個々の葛藤を乗り越えて演奏を続け、でもそこにはユダヤ系のメンバーの追放やナチス党員になったメンバーとの確執なども。
空襲が激しくなったベルリンで市民の心の拠り所として演奏活動を続けた姿はある種の感動も呼びます、でも美談のように聞こえますが決してそんな美しいものでは無かったとも思うのです。
当時のメンバーの証言を聞けば、徴兵免除許可証も発行されどんなに戦況が悪化しても彼らだけは音楽を演奏するというある種の免罪符を与えられていたのです。
メンバー達も自分たちがいかに恵まれていて、他の市民たちがどんな状況下にあるかには関心が無かったらしいのです。
「素晴らしい指揮者と素晴らしい音楽を演奏する事」にひたすら没頭し現実を見据える事が無かったと。

素晴らしい指揮者と素晴らしい音楽を演奏する喜び、これはオーケストラのメンバーにとって何物にも代え難い宝物です。
時代や地域を越えてオーケストラのメンバーにだけ与えられた特権でもあります。
決して聴衆の皆さんには解らない、我々だけの楽しみです。
ですから当時のメンバーがこの喜びに浸りきっていた事は良く理解できます。
でも外との隔絶は相当な物、演奏を続けた事は気高い行為であるとは思いますが同時に色々な意味で悲しい事でもありました。
オーケストラが民衆と深く深く結びついていたドイツならではの事ではありますが、戦争が如何に残酷で悲惨なものであるか思い知らされます。

ずいぶんと昔に買ったレコードで大戦末期のベルリンフィルのライブがありました。
フルトヴェングラーが指揮したベートーベンの7番のレコード。
スイスに亡命する直前のフルトヴェングラー渾身の演奏です。
客席では咳をする人が多くて決して最上の録音環境ではありませんが、あの当時の空気を知る事が出来る貴重な録音です。
これも宣伝省が克明に記録していたからこそ今に残っている。
戦争の遺産ではあってもとても貴重なドキュメンタリーです。
これから未来がどうなるのか判りませんが、こうして平和にオーケストラで演奏できる喜びを全身で感じています。