ヒューマン・ギルドの岩井俊憲です。
今日もふだんとは違った時間帯に記事を書き始めています。
10月10日、11日、12日は、3連休なのですが、PHP研究所から出す『心の雨の日の過ごし方 ― 失意の時こそ、人生味わい深くなる』のゲラのチェックと原稿の追加に忙殺される3日間になりそうです。
ところで、今日のテーマは、「城山三郎を読む」の2回目。『もう、きみには頼まない―石坂泰三の世界』のことを書きます。
「気弱で、真っ正直で、勉強家で。ウェットで、おやさしく、苦労人で。倹約家で、素寒貧(すかんぴん)で、その他いろいろ。唯一のお家芸は毒舌広言。腹中何ものも蓄えぬオヒトヨシ」
城山三郎描くところの石坂泰三のややふざけての自己紹介。
城山三郎は、「あとがき」にこんなことを書いています。
存在感のある人間が、いま求められている。
大不況の壁の前で、揃って足踏みしているのではなく、広い野原へ連れ出してくれる大きな人に会ってみたい。王道や大局をつかむ力があり、懐の深い人に―。
これは、わたしひとりの思いではない、と思う。
第一生命、東芝の社長を務め、経団連会長を4期、12年間務め、「財界総理」の名をほしいままにした石坂泰三(1886年 - 1975年)の伝記小説。
タイトルの由来は、石坂が経団連ビル建築のために国有地の払い下げを頼みに行った際に、時の水田大蔵大臣 ―柔道5段、剣道3段―の煮え切らない態度に石坂が言い放った言葉です。
『官僚たちの夏』が気骨ある官僚をモデルにした小説だとすれば、この本は、気骨ある経営者・財界人の実話に基づく小説です。
私個人としては、『官僚たちの夏』よりも『もう、きみには頼まない―石坂泰三の世界』の方が高いお勧め度です。
私が特に印象に残ったのは、自分が社長を務めていた日比谷の第一生命ビルが連合国軍総司令部(GHQ)に接収された後、自社ビルで目撃した石坂の回顧です。
「日本人ほど骨のない御しやすい国民はいないのではないか。GHQに出入りする将軍連に対する日本警察の直立不動の敬礼は、世界中に見られない光景である。彼らは、外国人に敬礼する機会を得たことを、誇りとし光栄としているのである。あきれ返ったことである」
アメリカではできなかった実験を日本で行おうとするニュー・ディール派たちのことを次のように回顧しています。
「アメリカにこそ必要であるかもしれないが、日本ではこれでは何もかもツブれてしまいます」
戦後の日本経済を担った気骨ある経営者、石坂泰三。このタイプの人間が今の日本にいないのが残念です。