学習障害と英語指導を考える

特別支援の視点から。
どの子もハッピーになるような指導を。

Invented Spellingという考え方

2017年04月17日 | 本、書籍の紹介

私は英単語の初期指導における読み書き発達でデコーディングを中心に見ているのですが、

スペリングの発達についても関心があります。

英語圏の論文などでは専門用語を知らなければ見逃してしまうことが多く、

勉強不足がたたっているのですが、

先日読んだinvented spelling についてメモしておきます。

 

invented spelling は直訳だと「考案されたスペリング」かな。

つまり正しいスペリングではなくても良い、本人が考えて綴ったもの、

というニュアンスではないかと思います。

 

ただし綴れば何でも良いわけではなく、

「音声的に書く(spell phonologically)」ことが重視されています。

下の論文はキンダーの幼児を対象とした読み調査を行った結果です。
先日FBでもシェアされていたのですが、非常に興味深い内容でした。
 


Ouelletteらの論文を含むInvented Readingについての解説
Landmark Study Finds Better path to Reading Success

 

文字と音の対応について考えると、

読みでは「文字を音声に対応させる」音韻の混成(blending)スキルを用いますが、

「音を文字に対応させる」際には、音声情報を分節する分解(segmenting)スキルを用います。

英語圏の小学1年生であればまだ音素感覚も十分に育っていないだけでなく、

フォニックスもこれから本格的に学ぶ時期になります。

そこで「正しいスペルを暗記させる」のではなく、

まずは自分で聞こえた(知覚した)音声を、知っている書字の規則を駆使して書かせる。

子どもたちは”自分で考えて”、書く。(←個人的にはここが最大のポイントかと)

その際のミススペルは「誤り」ではなく、Invented spellingとして、

能動的な学習の一過程として認める。

 

学年が進めばフォニックス知識や読み経験が積み重なり、標準のスペリングへと発達していくのだから

まずは聞こえた音声を文字にする気持ちや、書けたという喜びを大切にすることが

本人のスペリングの発達にもプラスの影響を与えるということかと思います。

教育においてこの姿勢は、今後もっと強まるのかなと感じます。
(すでに英語圏の現場ではそうなっているのかもしれないですね)

 

しかし検索するとあちこちで「子供の”間違い”をそのままにすることへの教師が感じる恐怖」についても述べられていました

”間違いを正したくなる教師”にとってはまさにこれが障害になりそうです。 

 
「Invented Spllingですべきこと、すべきでないこと」では、

"Instead of focusing on correct spelling, encourage your first grader to write phonetically.

If first graders are representing all the sounds they hear in words, they will be able to read their own writing. That’s what we want from young writers-- standard spelling will come later."

「もし1年生が聞き取ったすべての音をその単語で示していれば、自分が書いたものを読むことができるでしょう。

それが若い書き手に私たちが期待することなのです。標準のスペリングは後でできるようになります」

 
これを信じて先生はぐっと我慢、なのかな。
 
でも投稿コメントなどを読んでいると、まだまだ賛否両論ありそうです。

姿勢としては、”すべて放置しましょう”ではなく、

”知識やスキルの発達とともにスペルも発達するから毎回エラーに目くじら立てず待ちましょう”くらいでしょうか

 

ちなみに日本でもinvented spellingは「創発つづり」という訳語が当てられ、

かな文字の書字がどのように発達するかがわかりやすく紹介されていました。

海津亜希子「すべての子どもたちに使いやすい教科書であるために ~「新編新しい国語」における特別支援教育への対応~」

 

塚田先生は日本語の特殊音節に焦点を当て、誤り事例を紹介していますが、

英語指導者にとっても参考になる知見が多くあります。

特殊音節のつづりはつまずきが多く確認されることから、

指導では「音韻意識を喚起して、意図的に特殊音節文字を指導する必要がある」

と結論しています。

塚田先生論文の最後の一文は、

「なお入門期基礎研究が貧弱なまま語教育研究が行われきた質的問題このことにかかわって確認される必要がある。 」

 

英語教育者にも耳が痛い・・・はず。

 

 海津先生の考案した、音から文字を「見える化」する工夫はいいですね!

いいな、英語もこうならないかしら。

 

 

Invented spellingを奨励しようにも、

やはり「音から文字」というのは言語の音韻の感覚が先にあってこそなわけで・・・

日本ではLDの児童生徒だけでなく、

ほとんどの子どもにとって英語の音韻感覚は備わっていないという現状があります。

おまけにフォニックスも体系的に導入されていないという現状では、

「暗記しかない」と先生方が感じてしまうのも当然ですね・・・・。

 

また、ローマ字綴りが敵のように思われていますが、

あれは日本人ならではの初期のinvented spellingですね。

一生懸命、頭にある英語の単語(の音声)を、

知っている知識(ローマ字)で文字化したのですから、

わたしは、「おお、よくがんばった!」といつも思います。

 

これを英語の音韻で捉えられるようにし、

英語の書字の知識を教えるのが指導者の役割でしょう。

 
暗記では結果的に学習時間の割にその効果が十分に得られません。

「聞こえた単語を音韻単位で文字にする」が基礎と言われているのに

そこから目を背けていつまでも、何年間も、

「暗記」を子供に強いるばかりでは、

「学習した時間は無駄だった」「英語じゃなくてもっと他の有意義な勉強をしたかった」

と言われても仕方がないでしょう・・・・

 

 

英語の音韻意識は日本人でも身につきますので、

せっかく小学校から英語が導入されるのであれば、

文字の単位(音素、オンセット-ライム、音節)での英語の音韻感覚を養う方向に目を向けてほしい。

体系的なフォニックス指導を導入し、「音と文字」「文字と音」の接続を時間をかけて完成させることで、

今よりもずっと、読めるようにも書けるようにもなります。

 

ただし、英語圏のものをそのまま導入するのではなく、

日本人に合わせた音韻意識指導、フォニックス指導の研究開発が必須でしょうね。

音韻意識指導そのものはとても楽しいので、

早く教材にしないといけないと焦ります。

英語教育の明日、いや10年・・・20年後くらい?を見据えてがんばりたいところです。

 

 

 


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