学習障害と英語指導を考える

特別支援の視点から。
どの子もハッピーになるような指導を。

英語指導の基本の”き”のところ。

2014年03月03日 | Toe by Toe指導について

私は学習障害のある生徒に英語の読み書きをどう指導するかに関心があって、

国内外の実践を勉強したり実際に教室指導もしている。

子どもたちが英語の何に躓いて、どこが難しいのか、

どう対応すれば乗りこえていくことができるのか、

そういうことを子どもたちと一緒に模索するのが本当に楽しい。

 

 

ただ、英語教育全体については、少々腑に落ちない点がある。

 

英語の指導で、”読み書き指導”が必要だという観点が、

なぜ、こんなにすっぽり抜け落ちているのだろう。

(ここで言う”読み”とは、デコーディング=音と文字との対応

 ”書き”とは、スペリング、つまり音を正しい文字で綴ること)


なぜ、英語の読み方略(読み方のストラテジー)を育てるという手順をまったく踏まず、

最初から「読めるでしょ」といわんばかりに、

アルファベット単語を読ませ、書かせるのだろうか。

 

 

例えばチャレンジ教室ではイギリスのToe by Toe読み書き指導を取り入れてから

子どもたちはルールを習得し、

そのルールを使ってどんどん未知語も読めるようになっている。

もしかすると、

”訓練を受けたLD児が、何も訓練を受けていない定型発達の児童よりも読み書きができるようになる”

という事例が出るんじゃないかと思うくらい、

読むためのスキルを知っていると、知らない単語も自力で読めるし、

聞いた未知語を文字に起こすことも、できるようになってきている。

それもかなりの短期間で。

 

 

 

 

 

日本語のかな文字はアルファベットと違って非常に習得がしやすい。

それでも小学生1年生に、一度に全部”書かせる”ことはせず、

書き順も含めて形と音をきちんと確認しつつ進んでいくではないか。

 

一方、”英語一年生”のはずの中学生がおかれている状況というと、

いきなり規則も何もバラバラな単語が文章レベルで出てきて、

それを暗記して読みなさい、書きなさい、である。

それがいかに不親切で、非効率的で、高望みをしすぎていることか、

まともに考えると怖ろしい。

 

 

 

例えば、

”読むためのスキル”を知らない子どもが、

英語の単語を見たときにどうするか。

 

当然、

母語である日本語の読み方略を英語にも同じように適用するだろう。

 

漢字のように”視覚的”に文字を暗記しようとしたり

(その結果、語頭だけ正しかったり、視覚的に似たような単語と間違える)、

日本語のアルファベット表記として習った

ローマ字の読み方略を用いて対応するしかないだろう。

 

 

視覚的な記憶力の良い子は、丸覚えで単語を覚えたり、

語呂合わせでなんとか音と結びつけていく(英語の音ではない)。

 

なので、単語は、「知っている」か「知らない」。

 

つまり日本の子は、ちょっと極端な例かも知れないけれど

skip という単語に見覚えがあれば「すきっぷ」と言うことはできても、

skidのように一文字入れ替えた途端、

「知らないから読めない」状態になってしまいがちではないだろうか。

知らない漢字を見せられたのと同じ反応で。

 

 

もし、文字の1つ1つと音が結びついていないと、

本当には読めない(デコーディングができない)。

 

”dの音”を知らないから、pと入れ替わっただけで、

読めなくなってしまうのは、そもそも本当におかしな現象なのだ。

 

それがどれくらいおかしいかというと、

「たぬきうどん」が読める子が、「どんきうたぬ」が読めないのと同じくらい、おかしいのだ。

 

 

上の例でいうと、

 s + k  + i + p  という子音と母音の組み合わせは、

kips ,  piks, など、どのように入れ替えても読めるのが、

本当に読めるということなのだが、

日本の多くの子どもは、

skipという単語を、「全体的な形」として捉え、

「すきっぷ」という一語に対応させているのではないだろうか。

 

それが、記憶力の良い子しか語彙を増やすことができない理由ではないか。

 

 

子どもたちが読めないのは、

読みのルールを教えていないこちら側が悪いのであって、

子どもの読み間違いの100%は指導のやり方じゃないかと感じている。 

知らないことはできなくて当然のこと。

 

 

読みの基本となる力は、その言語の音の単位を捉え、

自由に操作できるようになることである。

 

日本語の場合は、4歳半ごろになると

日本語の音の単位、”モーラ”を操作することができるようになる。

音韻認識はは年齢と共に発達していくのだが、

さいしょは、「ほにゃららら」という語を、かたまりとして捉えていたのが、

だんだん、「ほ・にゃ・ら・ら」という、

日本語の音の基本の単位で、1つ1つの音を独立した粒のように、

意識できるようになっていく。

それでようやく、かな文字が読む準備ができる。

 

「きょう」という語が、「きょ」と「う」でできている、という意識である。

「こっぷ」という語が、「こ」と「きこえない一拍」と「ぷ」という3つの単位で成り立っている、

とわかってようやく、小さい”っ”、が書けるようになる。

私たちにとって母語である日本語でも、

このように音の単位を習得してから、

正しく読んだり、書いたりという力を身につけてきたのだ。

 

 

一方、英語の場合は、より小さな単位(音素)の操作が必要な言語である。

一般的には5才以降に、ようやく音節や、onset-rime(C+VC)の分析ができ、

そのつぎに音素の分析ができるようになると言われている。

(日本人に比べて、読みを習得する年齢も高くなる)

 

特に、音素の操作に関しては、

日本語のモーラのように「なんとなく自然に習得していく」というよりは、

意識した訓練がなくては難しいことが

これまでの英語圏の研究でも指摘されている。

 

 

私たちは、ネイティブですら習得に苦労し、

実際にディスレクシアが10%以上も出現し、

アルファベット言語の中でもとりわけ習得が難しい言語を指導しているのだ。

 

なぜ英語にディスレクシアがこれほど多いのか。

なぜ英語の読み書き習得がこれほど難しいのか。

その議論がなされないまま、方法論だけが先行し続けている気がする。

 

 

言語の基本は、音韻認識、そして、文字と音の対応といった、

認知的なベースがあって、ようやく読みや書きにつながっていく。

 

私は特別支援としての英語指導を考えているわけだけれど、

これに対応していくのが、”特別支援”だけでいいのだろうかと思う。

 

本来は、特別な支援が必要でない多くの生徒も

暗記に頼る以外、正しく読めない・書けない状態ではないのか。

 

日本の英語教育は、意外と、言語習得のきほんの、き、のところを抜かしているのではないだろうか。

 

 


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6 コメント

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Unknown (質問させてください。)
2014-03-06 06:50:34
とても共感しました。

このようなことを指導するのに,フォニックスのようなものを導入した方がよいということでしょうか。
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Unknownさんへ (まとりょん)
2014-03-07 16:06:53
フォニックスは、文字と音の対応ルールを教える指導法です。文字音対応ルールを教えるのでしたら、フォニックスは必須でしょう。多くの研究で効果があることがわかっています。

フォニックスは理念によっていくつもの違ったアプローチの指導法がや教材があります。
Toe by Toeはその1つです。
日本では松香さんが有名ですが、
あれが唯一と勘違いしてはいけません。
イギリスではJollyさんが有名ですし、他にもさまざまなフォニックス指導法があります。
文字音対応規則導入のスタート地点、日本人に必須の内容、導入の順序、など大いに議論されていくべきことかと思います。
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中1男子の英語勉強について (けんたろう)
2014-05-08 16:57:18
はじめまして
小学校時代は特に問題なく(普通に)きましたが
ローマ字をきちんと覚えておらず、英単語が覚えにくい
ようです。
まず ローマ字を覚えさせた方が良いでしょうか?
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けんたろうさん (まとりょん)
2014-05-12 12:34:17
そうですか・・・
ローマ字を覚えていないから英単語を覚えにくいのかどうか、は少しわかりません。
ローマ字は、日本語の音素の操作の練習になりますが、英単語とはシステムが違いますので・・・。

ローマ字ができていないとすれば、どんな間違いをしていますか?例えばアルファベットの文字の形が間違っているとか、特殊音節が書けていないとか?

特殊音節でしたら、音韻認識が弱いのかも知れないですし、音から文字への認識が弱いのかも知れませんね、他にも理由が考えられます。

もし音韻認識が弱いのでしたら、小学校時代の国語で、もしかしたら作文が苦手だったとか、書き取りが苦手だったとかあるかもしれませんね。
カタカナはどうだったでしょう。
そもそも生徒さんは、日本語の発音は、明瞭でしょうか。しゃしゅしょ、や、だぢづでど、ぱぴぷぺぽなど、苦手な音はありませんか。

ことばをまず正しく聞こえているか、
聞こえた音が、文字に正しく結びついているか、
これはどうでしょうか。

こうしたことをアセスメントで行ってから、
たとえばアルファベットがやっぱりわかっていないので、音をしっかり練習してから文字に行こう、といった指導の流れができると思います。

ちなみにアルファベットは全部書けますか。
それも、バラバラに言っても大丈夫ですか。
フォニックスの音はどうでしょうか。

数行からは、生徒さんのご様子がわからないので、なんとも具体的なアドバイスができなくて申し訳ないのですが、なんでできないんだろう?がわかれば、指導は意外とスムーズに決められます。

そこからかな~と思います!


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Unknown (Unknown)
2014-07-08 14:17:51
こんにちは。学校で教鞭をとっているものです。私は音に関しては、まずはローマ字から指導します。ローマ字が書けたり、読めたりすると、英語を読む助けにかなりなりますし、パソコンを打つ時や、名前を書くときなど、日常生活にローマ字は切っても切り離せない道具だと思っています。
そもそも、ローマ字にもフォニックス的な要素がありますので、日本語的な音素であったとしても、基礎的な理解にはつながるはずです。実際英語を読めない生徒に、ローマ字は書けるか質問すると、読めない書けない生徒がたくさんいます。だから、私は授業で必ず一時間ローマ字を復習する時間をとっています。
私も学校の英語教育に基本の「き」ができていないことがあると思います。
参考に私は入門期の指導は、アルファベット読み書き→ローマ字→フォニックス、というふうにしています。

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Unknownさんへ (まとりょん)
2014-07-13 19:55:33
コメントありがとうございました。
お返事遅くなってしまいすみません。

ローマ字の指導、反対される方も多いのですが、基礎的な理解につながるという点、私も同感です。

英語が苦手な子がローマ字が苦手というのも共通していますね・・・。






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