Dr. WAKASAGI at HEI-RIVER(閉伊川ワカサギ博士)

森川海をつなぐ学び合いの活動を紹介します

三陸復興の要諦ー主体性とつながりー

2012-02-22 | 水圏環境教育
1 津波災害の現状
 2011年3月11日1000年に一度という大津波が東日本を襲った。10月18日現在で行方不明やお亡くなりになった方は15824名,行方不明の方は3824名で19648名となった。三陸海岸における津波は,1611年から数えると8回目になるが,少なくともこの400年間で最大規模の被害であり,太平洋沿岸地域に甚大な被害を与えた。
2 三陸の課題と復興の指針
 2011年12月岩手県立大学宮古短期大学部で行われた県知事の講演では「(三陸復興は)行政の力だけでは極めて難しいところである。多くの主体の参画が必要とされるところである。人と自然との共生,人と人との共生の理念が復興の理念である。」と復興の指針を述べた。また,2004年さんりく沿岸地域の課題として三陸海岸塾月尾嘉男塾長は次のように語った。「主権在民がキーワードである。住民が賢くなることが必要である。そういう意識を地域の人にもって欲しい。地域は最先端をいくトップである。」
 このように,震災前と震災後においても地域の課題は変わっておらず,いかに主体性を高め,新しい公共をどう展開発展させていくかが大きな鍵となっており,これからの三陸復興の目指すべき方向性「要諦」であるといえる。
3 市民団体の取り組み津波前と津波後
 次に,個々の市民団体の活動を見てみることとする。三陸沿岸各地域で活躍されている市民活動の紹介とそれらの活動をネットワーク化しようとする目的のもとに2011年2月22日岩手県釜石市で「さんりくエコフェスタ2010」が開催された。「一番大切なのは,つながりであり,それぞれの個々の素晴らしい活動を共有して,よりよいモノを作り上げたい」とまとめられ,地域住民の主体性とつながりが強調された。
 さんりくエコフェスタに参加した地域住民団体の多くはネットワーク化を図るという新しい目標に向かって取り組んでいこうとした。その矢先に,津波被害により大きなダメージを受けた。多くの活動家は自然の脅威を改めて認識するとともに活動の復活を誓った。ここで,グリーンリンケージと閉伊川大学校の活動を紹介する。
 グリーンリンケージは、大槌釜石地区を中心に蛍の飼育保護観察会、大槌川源水に生息する町の天然記念物淡水型イトヨ生息場における環境教育活動など水圏に関わる環境教育活動に取り組んでいる団体である。主催者の一人は大槌地区で家屋とともに津波に流され寒い夜の海を泳ぎきり間一髪で生き延びた。環境教育活動は停止状態となったが、まず復興にあたっては被災した地域住民のケアが大切であるのと考えから避難所に泊り込み、炊き出し、支援物資の運搬、手配など被災者のケアにつとめた。こうした避難所での活動と同時に、被災者と外部の市民団体との交流拠点を目指し臼澤地区に「臼澤まごころ食堂」を開設した。臼澤まごころ食堂は今や交流の拠点として全国的に知られるようになった。このような活動が功を奏し地域住民の間に活気が戻り始めた。水圏での活動を再開したいという声が上がり,来年度の環境教育活動に向け準備にとりかかっている。
 さんりくESD閉伊川大学校は,閉伊川流域の自然を活用した環境教育プログラムの開発と小学生を対象とした教育実践を行なっている。幸いにもメンバーに被災者はいなかったものの,自然に対する恐怖心から活動の継続が危ぶまれた。しかしながら,被災児童を対象とした閉伊川体験活動を9月に11日に実施したところ,100名を超す児童と保護者の参加が見られた。参加児童は,「確かに水は怖いが遊びたい。今回の体験で川流れのコツが分かり恐怖心の軽減につながった」と感想を寄せた。閉伊川大学校は地元の大人たちへの指導者養成講座を開設し来年度の準備を進めている。
 
4 主体性とつながり
 市民団体の活動を紹介したが,一度は継続が危ぶまれたもの,被災したにもかかわらず,むしろ被災をバネにして主体性を高めて活動している様子が見受けられた。マイナス条件が主体的な取り組みの根源となっている。
 このような活動は,これまで三陸の課題とされ復興の要諦である。水産業においても,消費者と生産者を結ぶ取り組みが震災を契機に活発になり,「宮古湾カキ養殖組合」,「北浜虹の会」,「立ち上がれ!ど真ん中・おおつち」などオーナー制度に取り組む生産組合等が各地に立ち上がり,生産して出荷するのみならず全国に支援者を募り消費者と生産者とのつながりを拡大している。さらに,おのおのの活動は時間の経過とともに発展し続けている。
 しかし,それぞれの活動はあくまでも独立の活動でありリンクしたものではない。個々の活動は集中化して発展しているが、つながりという面では十分ではない。個々の活動がさらに縦横につながる事によって復旧だけではなく復興になっていくものと確信する。
 しかし,そのつながりを縦横につなげて発展させるための取り組みは十分ではなく,全体としての構想が明確ではない。
 活発になった市民の活動をさらに継続的に支援をして行く仕組みが必要であり,その役割として期待したいのが、岩手大学三陸地域復興研究センターの存在である。岩手大学三陸地域復興研究センターは2011年10月に開設された。現在、釜石市に本部を置いているが三陸全域をカバーするには十分とはいえない。今後、各市町村にエクステンションを設置することによって,個々の市民活動に寄り添いより主体性とつながりを高めるための「三陸沿岸域の総合的な構想」を立て全体評価がなされる仕組みの構築が急がれる。