北京・胡同窯変

北京。胡同歩きが楽しい。このブログは胡同のあんな事こんな事を拙文と写真で気ままに綴る胡同お散歩日記です。本日も歩きます。

第215回 北京・蘇州胡同(3) 今は昔、延寿庵、八宝楼という胡同がありました。

2018-12-18 10:00:36 | 北京・胡同散策
118号院を後にして再び胡同を歩き始めると、前方に一匹のネコがいました。



名前はボス。
数ヶ月前に出会い、飼い主がいるのかいないのか分からず、もちろん名前も知りません。
「ネコ、ネコ」と呼ぶのではどうもしっくりしない。そこで勝手に付けた名前が「ポス」。
その貫禄のある容貌やのっしのっしと歩く姿から付けた名前です。



ボスはその顔は怖いのですが、その顔とはうらはらにけっこう甘えん坊将軍。
こちらがボスのそばに立ってその姿や周囲の景色を眺めていると、「ミャオ、ミャオ」と
可愛らしい声を出しながら、こちらの足に身体をすりつけてくるのです。ボスではなく、
甘えん坊将軍あるいはミャオ子と名づけた方がよかったかもしれません。



ボスの話をすると長くなるのでこの辺で切り上げますが、ボスがウロウロしている辺りの
南側には一軒の食堂。



店名を示す看板は出ておらず、そのため遠くから見ただけでは、ここに飲食店のあること
が分からないかもしれません。



メニュー。



この食堂を通り過ぎると、蘇州胡同を間に南方向と北方向に二本の道が走っています。



右手南側の道は前にご紹介した「南八宝胡同」。





上の胡同牌の向かい側には「政府便民工程/您恵万家」という公営のマーケット。



南八宝胡同とは反対側にある路地に歩みを進めてみました。





この道沿いの左手西側には手前から蘇州胡同1号楼、2号楼、3号楼と合計三棟の五階建てアパートが北方向に
並んでいます。後述しますが反対の東側もアパートです。




ところで、この蘇州胡同沿いから北方向に走る路地を『古都北京デジタルマップ』中の「乾隆京城全図」
(vol.10の0004)で探してみると、この地図が作られた乾隆15年(1750)頃、この路地が「延寿庵胡同」
という名称であったことが分かりました。

そして、さらにこの「延寿庵胡同」のほぼ真ん中辺りから右方向(東方向)へほんの少し行ったところには、
名前の由来となったに違いない「延寿庵」というお寺のあったことも知りました。

これからその「延寿庵」のあったと思しき辺りをこの目で確認するべく訪れてみたいと思います。



こちらは「蘇州胡同101号」というアパートです。



ゲート。



ゲートを入って左手には古い建物。



この建物は「伝達室」。現在ならば管理人室といったところでしょうか。

この「伝達室」の外壁にさがっていた「厳禁商販進此院内」と書かれた年季の入った木札。



伝達室の脇から北東方向を撮ってみました。
道が北方向と東方向に分かれています。



あくまで素人の見方に過ぎないのですが、問題の「延寿庵」は、上の写真正面奥に写っている建物辺り
に建っていたのではないかと思われます。なお、先に挙げた「乾隆京城全図」を見ると「延寿庵」は南
側に山門のあったことがわかります。

ついでにアパート敷地内を少し歩いてみました。
まずは、北方向へ。



物置があり、その中に気になるものがありました。



犬の大きな置物。



北方向の道沿いにはミニクーパー。



次は東方向へ。
かつてこの敷地内に「延寿庵」のあったことを知らなければそれまでのことなのでしょうが、
一度知ってしまうと不思議なもので、この何気ない中庭が特別な意味を帯びた場所に変貌し
てしまうようで、写真左手前辺りにさしかかったとき、「この辺りから北方向に延寿寺は建
っていたんだな」と歩きながら乾隆時代に思いを馳せました。





写真奥に二階建ての洋館。



「延寿庵胡同」は1965年の地名整頓時に蘇州胡同に編入されました。


さて、次は昔「延寿庵胡同」と呼ばれた路地に戻り、「延寿庵」とは反対の西側を散策してみたいと
思います。

まずは、次の地図をご覧ください。


(この地図は2007年4月に出版された『北京胡同志』(主編段柄仁/北京出版社)所収「建国門地区」地図
の一部。)

この地図を見ると、前々回ご覧いただいた中国の百度地図では「蘇州胡同」の一部となっていた道路が、
『北京胡同志』が出版された2007年頃には「八宝楼胡同」(オレンジ色矢印)という名称であったことが
分かります。

そこで、今から10年ほど前には地図に記載されているにもかかわらず、残念なことに今はなくなってし
まった「八宝楼胡同」という胡同の痕跡がほんの少しでもよいから残ってはいまいか、そんな思いを抱
いて先の「延寿庵胡同」の西側を歩いてみました。

はじめは、蘇州胡同1号楼の北側の路地から。
ちなみに、次の写真の左手に見えるのが蘇州胡同1号楼。



衣物回収機が置いてありました。



回収機の前を少し行くと「城管執法」。
ちなみに、ここは地方行政機関で「城市管理行政執法局」の略。



城管執法の周辺をウロウロしてみたのですが、かつてこの辺りが「八宝楼胡同」であったことを示す
痕跡はありません。

もう少し前へ行っても、それは同じことでした。



時代を感じさせる三輪車が停まっていました。

電動車、換電瓶などと書かれています。
ひょっとしてこの言葉たちにまじって痕跡はないものかと探してみたのですが、やはりありません。



次の写真奥を横切っているのは現在「蘇州胡同」で、かつて「八宝楼胡同」という名前であった道。
正面に見えるのは「内蒙古大厦(ビル)」。



元のところに戻ります。



蘇州胡同2号楼の脇を少し行くと、西方向に路地。
左手に見えるのが2号楼。



右手北側に「北京東条城区思必達食品店」というお店がありました。



その西隣にも看板が出ています。
ご覧のように飲み物の倉庫のようです。



ありましたよ、ありましたよ、ありました。
ご覧ください。



「奥士凱銀龍商貿公司」とあり、その下に「八宝楼店」と書かれているではありませんか。
「八宝楼」という言葉がなんと輝いて見えたことか。

まだまだあるかもしれない。そんな期待を抱かせる「八宝楼店」という文字。
力が入り「よっしゃぁ」と先へ。



「yha/china」(ユースホステル)という看板が見えてきました。





ここは「北平北京駅青年旅舎」。



屋根の隅には鳳凰に乗った仙人、仙人騎鳳に続いて二体の走獣、



門扉には中国結。



試しにケータイでこちらの住所を調べてみると、なんと「北京市東条城区八宝楼胡同12号」となって
います。ということは、現在も「八宝楼胡同」という地名は生きているのか?
これはいったいどういうことなのか。あれこれ考えながら先へ。





玄関脇のプレートには「北京京誠集団建国門房屋管理有限公司維修管段」と刻まれ、
建国門地区の地名が書かれていました。



このプレートにも「八宝楼」という文字が載っています。「八宝楼」は現役なのか。

次の写真は西方向突き当たりにある「内蒙古大大厦」。




再び昔「延寿庵胡同」と呼ばれていた道に戻り、さらに北方向へ。





左手には蘇州胡同3号楼。



右手。



屋根越しに「北京日報北京晩報」の社屋が見えます。



北端から西方向へ歩いてみたのですが、残念ながらここにはわたしの見た範囲では「八宝楼胡同」
の痕跡は見当たりませんでした。




もと「延寿庵胡同」を戻りながら先ほどの「北平北京駅青年旅舎」に電話をかけ、その住所を
確認してみました。

その時のやりとりの詳細は省いて書きますと、この青年旅舎の住所は現在「蘇州胡同2号楼北面」
とのこと。しかし、前にご紹介した「八宝楼胡同12号」でも通用するということでした。

今も「八宝楼胡同」は残っているのか、それとも残っていないのか。この点についてまとめてみ
ると、現在「八宝楼胡同」という地名は正式には残っていない。しかし、通用名(慣用名)として
は使用されている、ということになるようです。


八宝楼胡同(Babaolouhutong/バーバオロウフートン)。
この名前は1965年に付けられたもので、それ以前は「八宝楼」(1947年)という名称でした。

かつて胡同内に大きな厠所(トイレ)があり、人々に「巴巴楼(Babalou/バーバロウ/注参照)
と呼ばれていたのを後年「八宝楼」と改名したのが由来と伝えられているそうです。(注:資料
では「巴」は「 尸しかばねかんむり」の中に「巴」となっています。『北京胡同志』主編段
柄仁/北京出版社を参照)

ちなみに、この胡同は文化大革命中に「滅資胡同(Miezihutong/ミエズーフートン)」と改名され、
その後「八宝楼胡同」に戻されました。


以下に余談を二つ。
『古都北京デジタルマップ』の「乾隆京城全図」(vol.10の0004)中、「蘇州胡同」
西端近く、「麻线胡同」寄りのところに今回とりあげた「八宝楼胡同」と同様「八」
と言う数字を使用した「八調湾」という胡同名が記載されていました。「八宝楼」と
の関係で私事ながら興味深く思われたので、ここに記しておくことにしました。

もう一つ。
蘇州胡同沿い南側には前にご紹介しましたように「南八宝胡同」という胡同があり、
今回は北側に「八宝楼」という名の胡同の有無を確認することができました。
なぜ蘇州胡同の附近に「八宝」という文字のついた胡同が二本あるのか。それは、
たまたまなのか、それとも単なる偶然ではないのか興味のつきないところです。
只今思案中。




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