北京を旅する人は、かならず槐(エンジュ)の木を見かけるはずだ。
明治42年の『北京誌』(清国駐屯軍司令部)には「城内に成長する喬木はほとんど
槐(エンジュ)と楡(ニレ)というも過言にあらず」とあり、昭和の日中戦争下の
北京に在留した日本人は「北京の街路樹は、中国歴代の為政者が、幹を切る者は
首を、枝を折る者は腕を、切るとの峻厳な施策を以て、苦心惨憺の結果今日の大
木に生育したものである」(『北支那開発株式会社之回顧』槐樹会刊行会)と書い
ている。大切に育てられた街路の樹とは、槐の木を指す。
また、幸運な旅人は街路の樹を飛び交う鹊(カササギ)の美しい姿に眼をみはる
にちがいない。
鹊(カササギ)とは、七夕の夜、牽牛、織姫の逢瀬のために、その翼で橋をつくる
といわれる、人々に喜びをもたらす御目出度い鳥。
昔、一本の老いた槐の木があり、その樹上に常に鹊が巣を作っていたという。今回
とりあげる胡同が、明の時代「喜鹊胡同(XiqueHutong/シーチュエフートン)と呼
ばれた由来なのだそうだ。
地図を見ると、前回ご覧いただいた「麻线胡同」の東口から現在の「北京站街」まで
あったことが判る。
地図は、『北京胡同志』(主編段柄仁、北京出版社)所収のものを使用。
時代が下り、清の時代「喜雀胡同(XiqueHutong/シーチュエフートン)」と改名。
地図、同上。
次の中華民国では、なぜか「喜鹊胡同」という名称が復活しているのが興味深い。
ちなみに、日本との関連で書いておけば、日本占領時、この胡同内には日本の医院
があった。
名前は、「坂口医院」。
住所は、喜鹊胡同二号
(『北京案内記』昭和十六年一月発行、新民印書館より)。
『最新北京市街地図』(東京アトラス社編纂、昭和十三年四月五日発行、複製)を
使用。
そして、復活した「喜鹊胡同」は1965年に「喜慶胡同(XiqingHutong/シーチンフートン)」
となる。しかし、この「喜慶胡同」は25年後の1990年に取り壊しの憂き目に遭遇。その跡地
には、北京市邮区中心局や天元大厦などが建てられた。天元大厦は、現在、湖南大厦(HUNAN
HOTEL)となっている。
決して正確とはいえないが、「喜慶胡同」があったのは次の地図のオレンジ色の
点線部分。
地図は百度地図。
もし、北京を旅する旅人に北京站近くに立ち寄る時間があったならば、昔、喜慶胡同
があった辺りをぜひ訪れてほしい。きっと、樹上に鹊の巣のある一本の老いた槐の木
を幻視するにちがいない。
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明治42年の『北京誌』(清国駐屯軍司令部)には「城内に成長する喬木はほとんど
槐(エンジュ)と楡(ニレ)というも過言にあらず」とあり、昭和の日中戦争下の
北京に在留した日本人は「北京の街路樹は、中国歴代の為政者が、幹を切る者は
首を、枝を折る者は腕を、切るとの峻厳な施策を以て、苦心惨憺の結果今日の大
木に生育したものである」(『北支那開発株式会社之回顧』槐樹会刊行会)と書い
ている。大切に育てられた街路の樹とは、槐の木を指す。
また、幸運な旅人は街路の樹を飛び交う鹊(カササギ)の美しい姿に眼をみはる
にちがいない。
鹊(カササギ)とは、七夕の夜、牽牛、織姫の逢瀬のために、その翼で橋をつくる
といわれる、人々に喜びをもたらす御目出度い鳥。
昔、一本の老いた槐の木があり、その樹上に常に鹊が巣を作っていたという。今回
とりあげる胡同が、明の時代「喜鹊胡同(XiqueHutong/シーチュエフートン)と呼
ばれた由来なのだそうだ。
地図を見ると、前回ご覧いただいた「麻线胡同」の東口から現在の「北京站街」まで
あったことが判る。
地図は、『北京胡同志』(主編段柄仁、北京出版社)所収のものを使用。
時代が下り、清の時代「喜雀胡同(XiqueHutong/シーチュエフートン)」と改名。
地図、同上。
次の中華民国では、なぜか「喜鹊胡同」という名称が復活しているのが興味深い。
ちなみに、日本との関連で書いておけば、日本占領時、この胡同内には日本の医院
があった。
名前は、「坂口医院」。
住所は、喜鹊胡同二号
(『北京案内記』昭和十六年一月発行、新民印書館より)。
『最新北京市街地図』(東京アトラス社編纂、昭和十三年四月五日発行、複製)を
使用。
そして、復活した「喜鹊胡同」は1965年に「喜慶胡同(XiqingHutong/シーチンフートン)」
となる。しかし、この「喜慶胡同」は25年後の1990年に取り壊しの憂き目に遭遇。その跡地
には、北京市邮区中心局や天元大厦などが建てられた。天元大厦は、現在、湖南大厦(HUNAN
HOTEL)となっている。
決して正確とはいえないが、「喜慶胡同」があったのは次の地図のオレンジ色の
点線部分。
地図は百度地図。
もし、北京を旅する旅人に北京站近くに立ち寄る時間があったならば、昔、喜慶胡同
があった辺りをぜひ訪れてほしい。きっと、樹上に鹊の巣のある一本の老いた槐の木
を幻視するにちがいない。
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