北京・胡同窯変

北京。胡同歩きが楽しい。このブログは胡同のあんな事こんな事を拙文と写真で気ままに綴る胡同お散歩日記です。本日も歩きます。

第118回 北京の胡同・「これ、なぁーんだ?」

2016-11-29 11:17:43 | 北京・胡同散策
「胡同会」の皆さんと北京の胡同を歩いていて見つけたもの。




                   これ、なぁーんだ?


(撮影・北京の胡同にて)

胡同歩きは、これだから燃えるんだよね!!
割れてんのは、私の顔を映したからじゃないよ。



にほんブログ村

にほんブログ村 海外生活ブログへ
にほんブログ村



第117回 通州・南二条胡同(その二) 吉祥図案のオンパレードか!?

2016-11-25 16:31:05 | 通州・胡同散歩


前回ご紹介したWさんにお礼を言ってから、再び胡同を歩き始めました。

すると、さっそく私をふらふらっと惹き寄せるものが。



それは、こちら!!





今回私を惹き寄せたのは、この年季の入った、庶民のお宅に多く見られる
鉄製「門钹(menbo・ドアノッカー)」じゃあなくて・・・。



置き方が全く違う、彫り飾りが綺麗に削り取られた門墩でもなくて・・・。





それにしても、よくまぁ、ここまでキレイに削り取ったもんです。



今回ハートをぐいぐい吸引したのは、玄関脇に貼られた10個の★!!



いったい、なに??? と、言った点についてはさておいて、書かれていたのは次の通り。
ハートに火の点いた私は忘れずにちゃんとメモしておきました。
向かって右から、衛生星、新風星、団結星、計生星、科教星、文化星、文明星、守法星、致富星、五愛星。

上の十項目をメモ用紙に写し終わって振り向くと、目の前の道端に、参ったなぁ、自宅の三輪車と
色使いの似たものが置かれているではありませんか。



三輪車は慣れるまで乗りづらい点もあるのですが、慣れると荷台が大きく、買い物に便利。
飼い犬を荷台に乗せて走ることもありました。
でも、近頃は車の交通量も増え、危なっかしいので、地下の駐輪場に置きっぱなしになっています。


目を元に戻すと「花瓦頂」のあるお宅が並んでいました。



ファッションなどと同様、こういう飾りなどにも「伝染」「感染」と言うことがあるのかも。



可愛らしい自転車。レンガの外壁とモダンな自転車の取り合わせがお洒落かな???
でも、外壁をこの色に塗る必要などなかったんじゃないかと勝手なことを思うのですが・・・。
塗られたのは2,3年前のこと。



ちなみに右上空に舞っているのは、「頭条胡同」でお茶をご馳走してくださったDさんの
30羽の鳩たちではありません。

この胡同と南北に貫く中街(胡同)との交差点から東方向。
ワンちゃんがいました。



しかも二匹。
目が合っちゃいました。



右側のお宅の外壁。レンガの上からモルタル?(それとも漆喰)が塗られているだけで、ペンキは
塗られていません。



上のお宅の対面。やはり塗られていない。
今後、上のお宅の壁がペンキを塗られてしまうものかどうか。些細なことですが個人的には
興味深く思っています。



白いドア。「白」と言えば、ここ数年、白い窓枠が目につくようになったのは、この界隈の胡同の変化
の特徴かもしれません。



ところで、次の写真は、前回敷地内をご紹介したお宅の外壁を写したもの。
ご覧のようにペンキが塗られていますが・・・



・・・3年前にはペンキは塗られていませんでした。
ご参考までにアップしてみました。



玄関部分もご紹介。
次のものは現在。



3年前。




時計の針を戻して、白いドアのお宅前辺りから進行方向です。



左。長ネギが大量に出回る季節になりました。



通州産か???
ちなみに通州の農家野菜や果物は、美味しい。



長ネギのお宅の対面。



現代的な窓になっています。



可愛らしい、レンガ造りの二層のお宅。



その隣。明るい茶系の新しいタイルが張られた玄関周り。
やはり、とっても今風。ドアの上の「花瓦頂」もなぜかモダンに見えてしまいます。
ドアの色で周囲のお宅の色使いとバランスを取っているところが憎いなぁ。



上のお宅の前辺りから進行方向。



3年前の同時期にほぼ同じ位置で写してみたもの。


向かって左一番手前が3年前の上のお宅の玄関周り。ちょっとしたことで雰囲気ががらっと変わって
しまうから、おもしろい。ここ数年の間にこの界隈の胡同も大きく変わろうとしています???

次の写真は、上の写真の壁沿いにテーブルが置かれたお宅です。
現在は、テーブルではなく、鉢植えが置かれています。



その隣。





やはり3年前の写真と比べてみてくださると、うれしい。





上の前のお宅。





通路に沿って住居が並んでいます。



手前に見えるドア二つ。かなり狭小ですが、持ち主が、ひと間を二部屋に分けて貸しているのでは? と
思われます。

隣の物置には「英語」の家庭教師の貼り紙。



このお宅かな、家庭教師をやっているのは?



見ていて楽しい壁のデザイン。でも、この壁の裏側は、伝統的な形式の屋根。
洋風と華風とのコラボ。例えば、このお宅から、「今日はフレンチレストランだ、明日は
イタリアンレストランだ」と目を輝かせながらも、おでんを食べたり、畳に座ったりすると、
なぜかほっとしてしまう日本人の姿を想い起こす方もいらっしゃるかもしれません。あるい
は、異質なもの同士の豊かな共存、そんなことを考える方もいらっしゃるかも・・・。
中には異質なもの同士がどうやって折り合いをつけているんだろう?と深ーく考える方も
いらっしゃるかもしれませんね。私はなぜかまだ日本で生活している頃、「中国人は寿司は
食べないだろう。和醤油のうま味なんて、分りっこないよ」と言っていたある日本人の顔
を想い浮かて、思わず「クスっ」と笑ってしまいました。
いずれにしましても、見る人の立ち位置の数だけ答えがあるので十分に楽しませてくれる
お宅です。





次は斜め前のお宅。



玄関


伝統的住居に見られる石段両脇の傾斜部分。用途は分らないのですが、「垂帯」と言うそうです。
その「垂帯」の両脇には、ずいぶん小振りですが、乗馬の際踏み台として使う「上馬石」を髣髴と
させる石まで置かれています。

上の玄関前辺りから前方。



一瞬足元がぐらっと揺れました。
な、なんと、「紅旗」ではありませんか!!





ここで「紅旗」に出会うとは・・・ムムム。
「紅旗」という自動車会社は1958年に設立されました。


この「CA7180A4E」は、確か日産のエンジンを搭載していたのではないかと思います。


曰く言い難いこの古風な風貌。

エンジンフードの飾りは、赤旗に由来しています。



次の写真をご覧ください。
やはり、「紅旗」。でも、こちらはもっと古風です。
撮影は、昨年2015年4月。北京・東四六条にある某クラブ前に路上展示されていたもの。


ファンには、かぶった土ぼこりもひと味違ったものに見えるに違いない。

話しを元に戻しますが、「紅旗」の置かれた隣のお宅の壁沿いには吉利汽車(自動車)の
「英倫(ENGLON)」。




ご存知の方も多いのではと思いますが、吉利汽車(Geely・浙江吉利控股集団の傘下)
の「英倫(ENGLON)」は、英国を意味するブランド。吉利傘下のロンドンタクシー
製造会社に由来。





その対面のお宅ですが・・・



・・・玄関が見当たりません。赤褐色した物置らしきものが見えますが、そこを左に曲がると
路地なので、そこにあるのかもしれません。

行ってみます。







やはり、ありました。


年季の入った門。堅牢そうな壁。

実はこのお宅、3年前はこんな感じでした。


全体的には変化無しなんですが、その時は「福」の字が逆さま。「福がやって来た」「福がやって来る」は
中国語で「福到了」。「福が逆さま」は「福倒了」。ともに同じ発音。音を掛けているんですね。


屋根の形も素敵です。





さらに奥へ。





右側のお宅の玄関には「出入平安」。



もう少し前へ。



正面のお宅の玄関脇。


土の香りのしそうな長ネギ。


無事にもとに戻れてよかったァァ。









またまた立派な屋根のお宅。


かつて屋根のそりの大きいこともその家の格の高さを示したそうです。

対面には、梅の花と鳳凰の彫り飾り





その清楚で凛とした姿や香りが日本人にも愛される梅の花。前にも書きましたが、花びらが
5枚あることから「五福」に通じるものと考えられているようです。
長寿、富貴、康寧(無病息災)、修好徳(陰徳を積む)、考終命(天命を全うする・平和)の五つ。



鳳凰。
いろいろ意味はあるのですが、ここでは、世の中に平安をもたらす治者の出現の前触れを示すという
ことから、「日々平安でありますように」という願いが込められている、と考えておきます。



あと少しでこの胡同も終点です。



右側のお宅は改装中ですが・・・



後日訪れてみると、外壁が淡いピンク色で塗装されていたのには、ちょっとビックリ!!


この色使いは、この界隈の胡同では実に画期的な改装なんじゃないかと思われます。
これは1つの「事件」です!!

このピンク色、けっこう好きなんですが、諸刃の剣ともなりかねない「ブロークン・ウィンドウ理
論」を思い出しました。人には言葉の習得を見てもわかるように、模倣癖があったり、知らず知ら
ずのうちに他からの影響を受けやすいと言う傾向がありますが、「ブロークン・ウィンドウ」は人
のこのような傾向を土台にしているのでは?と私は思っています。このピンク色のお宅が周囲に今後
どのような影響を与えるのか? ちょっとした愉しみになっています。

「ブロークン・ウィンドウ理論」に興味をお持ちの方は、ウィキペディアでよろしければ
ご覧ください。ご面倒をおかけしますが、コピペの上、検索していただけると幸いです。

「割れ窓理論」


ピンク色に改装されたお宅とは対照的な色彩と飾りの施された対面。



門扉周りは、吉祥図のオンパレードか???





門扉の両脇の壁に描かれた獅子。



この図案と同じ石像を故宮博物院や寺院の門前などで見かけます。ここでのポイントは、獅子が鞠・
ボールのような球状のものを踏んでいるところで、これ、「繍球」と呼び、雄と雌の獅子が戯れるこ
とによって出来上がった毛玉のようなもの。ここから子獅子が誕生するそうです。この辺りから夫婦
和合・子孫繁栄のシンボルと考えられます。



右端には鳳凰と牡丹(のような花)。


ここでの鳳凰は牡丹との組み合わせで、牡丹同様「豪華」「華麗」で「富貴」の象徴と考えられます。

鳳凰は、麒麟・龍・亀と共に四霊とされる神聖な鳥、霊鳥。
鳳凰の「鳳」は雄鶏、「凰」は雌鳥。「鳳凰」で雌雄一対になっています。この辺りから「調和」や
そこから連想されるお目出度いことを表します。また、世の中のすべての鳥は「鳳凰」から誕生した
そうで、「百鳥の長」と言われています。

向き合う二匹の龍や燃えさかる火の玉のようなものについては、ご覧の皆さんが皆さんなりに、それ
ぞれ考えてくださるとうれしい。

「風調雨順」
気候が順調で作物の成長に良いこと。豊作なこと。ここから、「物事がすべて順調に運びますように」
という願いが込められています。


さらに進みます。



左側のお宅にも面白いものが。







描かれた図案は、鳥、その周りには蝶。



鳥は「鵲(かささぎ)」のようです。中国語では「喜鵲(xique)」。
七夕の夜、牽牛と織姫が会う時、二人の出会いを手助けした鳥。相思相愛・幸福な結婚や家庭円満
などへの願いが込められているようです。この場合の「蝶」の図案も同様。


東端に到着。



東端から西方向です。



そうそう、この日、突き当たりのお宅の中庭に小鳥がいたので写しておきました。



後日訪れてみると、玄関脇に鳥籠が吊るされて、小鳥たちが気持ち良さそうに日向ぼっこ
していました。





思えば、胡同は鳳凰を筆頭に鳥と実に関係の深い場所。
「この胡同では、どんな鳥が人気があるの?」
そんな興味もあるので、ちゃんと写しておきました。







先にご紹介しましたように、鳳凰は神聖な鳥、霊鳥ですが、その鳳凰から生まれたのが、
この小鳥たち。ということは、この小鳥たちだって「霊鳥」なのです。大切にしたいなぁ。

あ、来年2017年は「とり年」。
とり年生まれの方だけではなく、皆さんの新しい年が「風調雨順」でありますように!!
ちょっと早すぎたかな(笑)



にほんブログ村

にほんブログ村 海外生活ブログへ
にほんブログ村



第116回 通州・南二条胡同(その一)胡同のおちゃめな花

2016-11-16 13:40:23 | 通州・胡同散歩
今回は南二条胡同をご紹介。
名前の由来につきましては、前回の『通州・頭条胡同(その五)影壁と“鳩の家”』を
ご覧ください。



胡同入り口にこんな貼り紙。



「優質煤」・・・「燃焼時に発生する一酸化炭素などの有害物質の少ない練炭」販売の
お知らせ。



この胡同は少し湾曲していて、見通しが微妙に悪いところが奥床しい。









前進方向右側。



不意に目に飛び込んできた景色。
瓦に見られる小刻みな律動感、庇の色彩などが作り出す諧調が心地よい。



左側のお宅の通路で子供がオモチャで遊んでいました。



入り口に積み上げられた煉炭。胡同入り口の貼り紙に書かれていたもの。
日本の家庭用より小振りで、一個の燃焼時間が日本のものより短いのではないかと思われます。
「煉炭」は中国語で「蜂窩媒(fengwomei)」。



こちらは、ご覧のように「福」と書かれた貼り紙。



「福」は、しあわせ・幸運を招き寄せる、お目出度い文字。
この字を逆さまにすると「福倒了」、これは「福がやって来た」を意味する「福到了」と同じ発音。
ともに「hudaole」。音を掛けているのです。
金魚の絵。魚は中国語で「yu(ユイ)」。「余裕」の「余」と同音で吉祥図。



右側のお宅の玄関。



このお宅の玄関の前を通るといつも気になること。
なぜか、いかにも使いにくそうに取り付けられた取っ手・把手。



そこで私めが、下のように取り付けなおしてみました???



玄関脇に置かれた門墩。







門墩と同じ機能を持っていますが、ここに見られるのは「門枕石」。



玄関脇に何気なく置かれた石。



胡同を歩くようになってからと言うもの、このように何気なく道端に置かれた石に親しみを
覚えるようになりました。



窓が塞がれたこのお宅、もとは大きな四合院だったのでは?と思われます。



西端から東端を撮ってみました。





玄関脇には、20台の電気メーター。





置かれた門墩もなかなか立派です。





太鼓の部分の彫り飾りが気になったのですが、残念なことに削り取られているので
よく分りません。



上のものには四足動物が二頭、下のものには「鳥」(?)が二羽見えるのですが。



玄関の中(門洞)に入り、突き当たりには影壁(のようなもの)。



屋根の裏の部分。



お宅によっては壁面に絵が描かれていることがあるのですが、ご覧のように何も描かれておりません。
でも、木材の渋い色と漆喰の色の取り合わせが光を放っています。



敷地の中に入ります。



右側には建物の壁。そこで左へ。



少し行くと足元にペットのウサギ。この界隈の胡同ではウサギをペットとして飼っている方が
多いのです。実際的には、幼い子供たちの遊び相手なのでしょう。ウサギは繁殖力旺盛な動物。
この辺にも北京の皆さんに愛される理由があるように思われます。



突き当りを右へ。



さらに奥へと。



写真は突き当りから右方向を写したもの。通路を挟んで住居が整然と並んでいます。



右方向は行き止まりになっているので、左へ。



今度は突き当たりを右。



右へ曲がってほんの少し行くと、突き当たりのお宅の玄関脇に、やはりウサギ。



左方向へ。



ここが終点。



ここまで歩いてみると、表から見たよりも東側内部が広く感じられました。どうやら、かつて東隣り
との境にあった壁を取り払った結果のようです。


ところで、今回、敷地内を案内してくださったのは、Wさん。年齢は秘密???

写真を撮らせて頂きたい旨を伝えると、こんなお茶目なポーズ。



その楽しいお人柄に、思わずカメラを落としそうになりました。
でも、これだから胡同歩きは、やめられないんだな!!
改めてそう思う瞬間でした。





次回は、この玄関前辺りからさらに南二条胡同をご紹介いたします。


(追記)曲がりくねった通路についての覚書き

この敷地内を歩いてみて、改めて感じたことを取り急ぎ次に書いておき、今後の胡同歩きに役立てたい
と思います。

1、一見雑然としているように見えながら、そこに秩序(のようなもの)が感じられる。
2、くねくねと曲がりくねった通路。そのため「奥行き」が実に“深く”感じられる。
3、くねくねと曲がりくねった通路。この通路は果して単なる「偶然」の産物であるのかどうか。
  住民の人たちが意識しているかどうかは定かではないのですが、私なりにあえて書けば、心
  の奥深いところから生まれた内的必然性の現れのような気がする。この内的なものが先天的
  なものか後天的なものかは不明。
4、北京の街は、中軸線に沿って左右対称に出来上がり、そこを縦横に走る道も整然としていると
  言われている。確かにそれは真理。しかし、現実的にはそれは一面の真理。 現実の北京の街
  は、複雑でもっと魅力に富んでいる。その精髄が“胡同”だと言ったら、言い過ぎか?
  北京の街を単純化してしまうことは、利便性や効率のよさを追求していることに他ならない。
ギリシャのプロクルステスのようなことをするのは、大いに問題。
5、この「くねくね性」はもともと「四合院」に見て取れる。例えば宅門を入ったところに設置さ
  れた「影壁」。そもそもこの壁が置かれているため、直進などできないようになっている。四
  合院住宅の対称性を「影壁」が破っている。それに「東南」隅に配された宅門。これも同様。
6、「直線性」と「くねくね性」。単純な言い方になるが、この二つの性質の対立・混在・融合が北
  京の街を魅力的なものにしている。この二つは互いの補完物になっているのか?
7、もう1つあるが、ここでは書けない。
8、「くねくねした道」の誕生した場所・生まれ故郷を訪れてみたい。(11月18日晩追記)



にほんブログ村

にほんブログ村 海外生活ブログへ
にほんブログ村




第115回 通州・頭条胡同(その五) 影壁と“鳩の家”

2016-11-08 10:25:49 | 通州・胡同散歩
この胡同に人が住み始めたのは明末以降。その時の名前は「草廠胡同」。「草廠」は、
明の駐屯部隊に燃料を提供するため、ここに燃料用草木の集積場のあったことに由来
しています。

明末に「草廠」がなくなり、人が住み始めますが、時代が下り、清の初めに居住
者が次第に増加。その結果この胡同を含め、北側から南側へかけて大小三本の胡同
が形成されました。北から「草廠頭条胡同」「草廠二条胡同」「草廠三条胡同」が、
その時の名前。そして中華民国期の1913年前後「頭条胡同」「南二条」「南三条」
と改名され、現在まで続いています。

なお、先にご紹介した「草廠」が設けられる以前、ここには運河で運ばれて来た
物資用の倉(東倉)が置かれていたそうです。


前回ご紹介した花飾りのあるお宅斜め前に「あれっ」と思わせられるお宅がありました。
門墩があり、しかも、なんと石段の両脇には上馬石を想い起こさせるような石まで置いて
あるではありませんか。





痛々しくも獅子の顔が削り取られた箱型有獅子門墩。



この界隈の住宅では影壁はほとんど見かけませんが、宅門の中を見ると影壁がありました。
しかもアラビア語が書かれています。



「廂房」すなわち「正房」(日本語で母屋・上房、主房とも)の左右の部屋の側壁を利用して
しつらえられた影壁を跨山(式)影壁と呼びますが、この影壁も跨山式の仲間と言って良いか
もしれません。





よく整頓された中庭。



凝った色使い。





影壁としてよく知られているのは、他の家屋から独立したものではないかと思われます。
「独立(式)影壁」。撮影は、北京の胡同。



胡同や四合院関係の本を見ますと、影壁には他に次のようなものもあり、ここで簡単にご紹介。

「二門」(宅門の次の門)を入ると目前においてある屏風のようなもので、木製が多いようです。


(『京城民居宅院 鄭希成鋼筆白描画集』学苑出版社刊より、一部を拝借。)

上にご紹介した「跨山式影壁」「独立式影壁」などはすべて宅門の内部に設置された影壁ですが、
宅門の外部に置かれている場合もあります。

「“一”字形」。
宅門の対面に置かれているもの。


(北京の胡同で撮影。)

次の写真は、北京の「法源寺」の山門前にある「“一”字形」。


(その大きさ、豪華さで有名なのは、北京の北海公園の「九龍壁」。)

なお、「一字形」影壁に似ているものに「“八”字形」というものもあり、やはり宅門の対面に
置かれているのですが、「“一”字形」の両側が内側に少し折れ、『〔・きつこうカッコ』のよ
うな形をしています。北京の孔子廟(「北京孔廟」)の前のものをご覧になった方は多いのではな
いでしょうか。

他に、次の二つのものを影壁とする場合もあるようなので、やはりご参考までに挙げておきます。

1つは、「垂花門」の両側の壁で、「看面墙」と呼ぶのだそうです。
もう1つは、次の写真に見られるような宅門両脇の内側にやや折れた壁。
「撇山影壁(pieshanyingbi)」。「撇山」は日本語で「へつざん」。
この形のものを「燕翅影壁」とも。なお、この壁は俗に「撇子墙(pieziqiang)」と
呼ぶそうです。


(写真は、北京の「文天祥祠」。)


(北京の胡同で見かけたもの。)


(このお宅は次回ご紹介予定の「南二条胡同」。)

以上六種類の「影壁」をご紹介しましたが、あくまでも1つの参考例としてあげて
います。出来ればご自身で胡同を歩き、さらに四合院や胡同関係の本に当たってみ
ることをお薦めいたします。ご自分なりの「影壁」を発見するかもしれません。

話は変わりますが、上にご紹介したお宅の影壁にはアラビア語がまるで絵のように
描かれ、独特の美しさを湛えていました。アラビア書道にご興味をお持ちの方は次
の記事をご覧ください。アラビア語は、北京に住む回民の方たちに関係の深い文字。
回民の方たちを理解するための一助ともなれば幸いです。

『アラビア書道を語る-朝日新聞GLOBE』
globe.asahi.com/feature/120108/02_1.html
『書体-日本アラビア書道協会HP』
alqalam.jp/shotai.htm
お手数をおかけしますが、次の記事は、コピペのうえ、検索してください。
『「文字の美しさを極限まで追求した芸術です」アラビア書道家・本田孝一』


アラビア語の書かれた影壁のお宅の前から、前進方向。



左に改修中のお宅。





中を拝見すると・・・



ご覧のように洋式トイレが設置されています。

後日、再び訪問すると・・・



清潔な白の窓枠。


トイレの顛末を見届けたいと気になっていたのですが、残念なことに中を確認することは
出来ませんでした。

対面のお宅も改修中。




後日、再び訪問。




右側に門墩。





門墩としての基本的な機能は果たしていないのですが、にも関わらず置いてあるところに
住民の方の門墩に対するこだわりが感じられます。






彫られた図柄を調べてみたのですが、削り取られているため、何が描かれているのかよく
分かりません。二匹の猿に松の木、そして左側の猿の上方に蜂がいるように私には見える
のですが。岩本公夫さんのWEB版「中国の門墩 」をもとに敢えて書けば「昇進の願い」を
表す吉祥図「封侯掛印」の図か?



タイル貼りの玄関まわり。この界隈の胡同の何箇所かで見かけるのですが、一時の流行であった
らしく、最近改修や新築された建物では見かけない意匠。



胡同内の建物の意匠にも流行り廃りがあるようです。言うまでもなくその流行り廃りには人心の変
化を含め時代状況の移り変わりが反映されているので、反映している時代状況がどのようなものか
を考えながら胡同を歩くのも、胡同歩きの楽しみの一つになっています。

斜め前に胡同植物園。











アルファベットの「Y」を想い起こさせるような、手作り感たっぷりの取っ手・把手。



胡同を歩くようになってから、このような道具たちと向き合う機会が多くなり、このような道具
たちの誕生した場所・生まれ故郷を訪れてみたいと思うようになりました。

さらに歩くと左側の物置の中に生き物の気配。



ペットのウサギ。



さらに歩きます。





あと少しでこの胡同の東端です。







やはり本来の機能を果たしていない門墩がありました。









いよいよこの胡同の東端が近付いてきました。



左上に鳩小屋。







人が鳩小屋に入ろうとしています。



水をやっています。



この角を曲がって少し行くと、前にご紹介した「白将軍胡同」。





鳩小屋から出た飼い主さんが、鳩たちの様子を眺めています。







鳩小屋のところに戻って鳩たちを眺めていると、飼い主さんに突然声をかけられ
ました。



こちらが気押されてしまうような声で「どこから来たんですか!!」。
「日本から・・・」
やっとのことで応え、続けて訊かれもしないのに胡同を見て歩いていることを告げると、
飼い主さん、頭を縦に一回振ったかと思うと、近くにあった腰掛けのところに行き、腰掛
けを手で勢いよくポンと叩くではありませんか。どうやら「ここにお座りなさい」という
ことのようです。

そこで遠慮なく腰を掛けたのですが、飼い主さん、何を思ったか突然ご自宅の中に姿を
消してしまいました。



仕方がないのでしばし鳩たちを眺めていると、飼い主さん、今度は手に茶葉の入ったグラスを
持って現れました。お茶をご馳走してくれるというわけです。

魔法瓶からグラスになみなみと注がれたお湯の熱かったこと熱かったこと。飼い主さんは急須
の口からその熱いお茶を平然と飲んでいました。



鳩たちを見守る飼い主さん。



飼い主さんのお名前はDさん。年齢62歳。



趣味はもちろん鳩の養育。お訊きすると飼っている伝書鳩の数は30羽だそうです。



無口でちょっと見ると頑固そうで「こわもて」のDさん。でも、鳩たちに寄せる愛情には、
クルマ除けとして置かれたこの倒木のような揺るぎないものが一本貫いているようで、鳩
たちに注ぐ眼差しには優しく穏やかな光が宿っていました。



午後3時半ごろから4時ごろの間にこの界隈の胡同を訪れた人は、上空に鳩笛の音を聞くで
しょう。見上げた瞳に映るのはDさんの30羽の鳩たちなのです。




にほんブログ村

にほんブログ村 海外生活ブログへ
にほんブログ村