04・8/24海保
海保著「失敗をまーいいかにする心の訓練」 小学館文庫
より
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1章 偉人にみる失敗人生 25枚
章扉の一句
「失敗すれば偉人になれるんだって!!それなら、失敗ばかりしてきた自分は偉人中の偉人になれるってわけだ」
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1.1 偉人の失敗エピソード3題
●失敗が発見に
我が筑波大学を2000年の3月に定年退官されたばかりの白川英樹教授(1936-)が、ノーベル章の設置後100回目の記念すべき年(2000年)にノーベル化学賞を受賞された。
受賞対象となった発見がなされたとき(千九七七年)のエピソードとして、白川教授が語るには、実験の指示を取り違えた大学院生がとんでもないものを作ってしまった失敗がきっかけで、とんでもない導電性物質ポリアセチレン薄膜が発見されたとのことである。
この話が、あちこちのマスコミであまりにたびたび流されたので、あたかも失敗すればノーベル賞がもらえるような錯覚をしそうなほどであった。
言うまでもないが、失敗を生かせる努力とタレント(才能)がノーベル賞につながるのであり、失敗そのものはあくまで失敗でしかない。失敗の中に成功の種を見つけることができる人だけが成功できるのである。
「待ちかまえている知性の持ち主だけに好意を示す」(シャピロ)のが発見なのである。
なお、見つけようとしているときは見つからなかったが、他のものを探しているときに偶然それが見つかったというような現象を、セレンディピティと呼ぶ。白川教授は、偶然の失敗の中に前々から探していたものを見つけたのだから、まさにセレンディピティである。
●失敗は投機にはつきもの
木原武一著「大人のための偉人伝」(新潮選書、「続編」もある)には、著名な偉人の素顔が巧みに紹介されていておもしろい。
その本によると、野口英世(1876-1928)が、小学生の頃、偉人伝で読んだ人物像からはおよそかけ離れていてびっくり。
巷間伝えられている野口像「黄熱病原体の発見者---実際は間違い。野口だけがそう思っていた---であり、アフリカでその病原体に感染して亡くなったハンディキャップを克服して世界で成功した努力家」とはおよそ異なって、野心満々、最初からノーベル賞を取ることをめざし、「学問は投機なり」(木原による)を実践した人生だったらしい。
ノーベル賞はとれなかったもののそれに値する業績、たとえば、梅毒病原体スピロヘータの発見などがあっての話であるところがおもしろい。
人生をみずからの手で切り開くような人にとって、失敗は大便のようなもの。排泄すればそれで終り。大事なことは、もっとおいしいものを食べるためにひたすら前に向かって働くこと。それが成功につながる。
こんな人生もできるならやってみたいものである。
●失敗したときこそが人生を充実させるとき
もうひとり、失敗を別の形で生かした人がいる。
名宰相でもあり、ノーベル「文学賞」---「平和賞」ではない!!---の受賞者でもある、チャーチル(1874-1965)である。
彼は、26才で下院議員として政界に入って20年、首相として大活躍した第2次世界大戦直後の一九四五年に落選してしまった。選挙の直前にかかった盲腸炎のため選挙運動が十分にできなかったらしい。ユーモアとウイットが売り物のチャーチルの落選の弁。
「私は、公務、議席、そして政党を一挙に失った。おまけに盲腸 まで失った」
しかし、この落選期間中が次の飛躍への充電期間でもあった。じっくりと思索しそれを本---「第2次大戦回顧録」など---にすることで、ノーベル文学賞をもらい、一九五一年には政界復帰まで果たしてしまった。第2次チャーチル内閣が出来て、後々さらなる名宰相としての名声まで得てしまった。
チャーチルは、失敗をたんたんと受け入れて、それがもたらした環境の変化の中で自分を鍛え直していたのであろう。捲土重来(けんどじゅうらい)を期していたのであろう。
オスカー・ワイルドの一句。
「失敗がなかったら、人生はすこぶる退屈になるだろう」