飛水峡

思い出

読売新聞

2007年02月15日 14時34分13秒 | なぞ食探検隊
どっこきゅうり


 夏といえば、キュウリのあんかけだ。と、職場で話していたらデスク(福島県出身)に「キュウリを煮るの?」とけげんな顔をされた。今年から誕生した「越中高岡もてなし料理」にも、「どっこきゅうり」のあんかけやカレーなどのメニューが載っている。でも、どっこというキュウリの名は、聞き覚えがない。さっそく、食べに行ってみた。


重さ1キロ 甘く肉厚 越中高岡もてなし料理は、県内外からの客に高岡の旬を味わってもらおうと地元商工関係者などが中心になって始まった試み。現在までに冬、春、夏のメニューが登場。夏はシロエビ、バイ貝、どっこきゅうりを素材として使うことになっている。

 参加料理店の一つ「割烹(かっぽう) 千鳥」(高岡市御旅屋町=桐木町)を訪ねた。社長の中村勝治さん(56)が「これがどっこです」と見せてくれたのは、直径約8センチ、長さ約25センチ、重さ1キロほどもある立派なキュウリ。濃い緑で手に持つとずしりと重い。

  同店では、バイ貝と合わせて梅肉酢をかけた酢の物と、素揚げのナスと一緒に煮て、あんかけにした料理を提供している。「試作では、加賀太きゅうりを使ったんですよ。でも、苦くってね。どっこきゅうりだと、全然違う。甘みが出ておいしくなった」と中村さん。

 加賀太きゅうりは、石川県の伝統野菜。生で食べると苦みが舌に残る。どっこの方が苦みが薄くて、甘みが強く、肉厚で歯ごたえがあるという。

 確かに食べてみると、シャクシャクとした歯ごたえが心地よい。酢の物は、皮をむいて種を取り、昆布を入れた塩水につけてしんなりとさせてあるが、香りも歯ごたえもしっかりと残っている。肉厚の実を使ったあんかけもだしをたっぷりと含んで、かむと口の中に汁があふれ出る。



どっこきゅうりのあんかけ(手前)と梅肉酢かけ。涼しげな色合いも食欲をそそる(高岡市桐木町の「割烹 千鳥」で) 「地元では太いキュウリは、昔からあんかけにしたり、おつゆに入れたり、煮て食べてましたね」と中村さん。

 JA高岡南部営農センター園芸特産係の武内昇さん(46)によると、太いキュウリのルーツは、はっきりわからないが、加賀藩の時代から、高岡で栽培されていたという。通常のキュウリより日持ちするため、明治時代には、遠洋漁業の漁船に積み込む野菜として盛んに栽培された。

 でも、“どっこ”という名前はどこから来たのだろうか。隊員が小さいころはただ、「太きゅうり」と呼んでいたような気がするのだが……。

 答えは、同市上北島の栽培農家石黒栄信さん(72)が教えてくれた。石黒さんは、15年かかって独自に品種改良を重ね、台湾のキュウリと太きゅうりを掛け合わせることで「高岡どっこ」を作りだした。2002年に農水省の品種登録もしている。「どっこは、太くて短いという意味。今までの太キュウリは暑い時期には色が白くなる上、苦かった。品種登録したことで、高岡名産という認識が広がったのでは」

 同センターによると、どっこきゅうりの年間生産量は60トン。現状では、ほとんどが県内市場向けという。

 隊員としては、某ビール会社のコマーシャルに登場し、首都圏でも話題を集めた加賀太きゅうりより、ずっと食べやすい。メジャーになる日も近いと思うのだが、どうだろう。



どっこきゅうりを栽培する石黒さん。「冷やしたあんかけか、軽く塩でもんで食べても甘くておいしい」
隊長 「太キュウリ 懐かしの歯ざわり」
 まいった。太キュウリは、30年以上前に高岡で食べたっきり。味の記憶をたどりたどり、やっと職場の昼食に行き着いた。

 皮を1センチ間隔で残したあんかけ。残した皮の苦さと歯ざわり、霧の中にあるような遠く懐かしい記憶を思い出す。

 一つ思い出すと、次々に出てくる。懐かしい同僚たちの笑顔。確かキュウリを作っている先輩がいて、「たくさん取れた」と、酢の物、塩漬け、みそ汁にまで……。

 味の思い出は、童歌のよう。どっこ、どこのこ、どちらのこ♪



探検隊メンバー


寺嶌圭吾隊長…富山市内で酒店を経営する傍ら、食文化研究に情熱を注ぐ53歳

隊員O…高岡市出身。体形を気にしつつ、食べ歩きに励む30歳代




(2006年7月22日 読売新聞)

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