飛水峡

思い出

読売新聞

2007年02月15日 14時30分55秒 | なぞ食探検隊
こんかいわし


 隊員が夏の食卓で思い出すのは「こんかいわし」。ぬか漬けにしたしょっぱいイワシで、不思議と夏によく登場し、汗をかきながらご飯をかっこんだ。でも、イワシの旬は夏だっけ? 調べてみた。


夏を克服 発酵パワー 県水産試験場のホームページに富山湾で取れる主要な魚の一覧表がある。1988年から97年まで10年間の年平均漁獲量ランキングで見ると、マイワシは6位(1619トン)で漁獲盛期は冬。8位(1329トン)のカタクチイワシは通年、18位(183トン)のウルメイワシは春から秋と書いてある。

 では、こんかいわしはどのイワシで作るのだろう。氷見市北大町の「柿太水産」を訪ねてみた。

 同社は100年近い歴史がある老舗。現在の社長、柿谷正成さん(70)で5代目になる。「前は地元産のマイワシで作ったもんやけど、最近はあまり取れなくてね」とおかみさんの悦子さん(65)がため息をついた。

 あれ、でも、マイワシは上位では? 「確かに10年前まではマイワシがよく取れたんですが……」と県水産試験場。農林統計で見ると、97年は1177トンの漁獲量があったものの、98年は125トン、2001年には9トンまで落ち込んだ。反対に増えたのが、マイワシより小さいカタクチイワシ。03年には3198トンも取れている。

 これは、大量に取れる魚が移り変わる「魚種交代」と言われる現象で、特にイワシは爆発的に取れる時と低迷時の差が激しいとか。富山県の場合、その差がカタクチイワシは88倍、マイワシは2100倍にも達しているという。

 そこで、柿太水産では地物のカタクチイワシを使ったこんかいわしを「糠(ぬか)いわし」として売り出し中だ「脂の乗ったカタクチイワシが取れた4年ほど前、マイワシのかわりに仕込んだら意外と好評だったんです」と娘の政希子さん(38)。

 作り方は、こんかいわしと同じ。冬の寒い時期に取れたイワシに塩をまぶして一週間ほどおく。一度水洗いして、麹(こうじ)やトウガラシを入れたぬかにつけ込み、5か月ほど発酵させ、梅雨を過ぎたあたりに木おけから取り出す。

 「ちょうど暑い時分に良い加減に漬けあがる。辛いもん食べて水分をとって汗を出す。夏を乗り切る昔ながらの知恵」と政希子さん。だから夏の定番なのだ。

 実はこんかいわしを始めとする魚のぬか漬けは、日本海側に広く伝わる伝統食。福井県には、サバで作る「へしこ」があり、石川県にもこんかいわしがある。

 ただ、作り方は若干違うようで、石川県水産総合センターによると、石川のこんかいわしはウルメイワシで作り、一年以上発酵させた硬いものだという。発酵させることでグルタミン酸などのうまみ成分が10倍以上に増え、独特の味を作り出すという。

 軽くあぶって良し、生でも良し。「オリーブオイルをかけてパンに乗せたり、パスタにもあいますよ」と政希子さん。「海洋深層水を使って塩分を抑え、伝統を守りながら、今の暮らしに合う味を目指します」とも。そんな6代目の心意気が、懐かしくて新しい味を生み出している。



木おけに漬けた「こんかいわし」の漬かり具合を見る柿谷政希子さん
隊長 「もったいないの心、いつまでも」
 昭和20年代まで漁師の家の嫁入り道具に「塩甕(しおがめ)」があった。大きな甕に塩をいっぱい詰め込んであった。冷蔵庫のない時代、夫が命がけで取った魚を塩漬けで保存するのは、漁師の嫁の心意気だった。

 もう一つ、毎日の食事から出る米ぬか。子供のころ、「米という字は八十八と書くように88手間がかかる」とよく言われたものだ。農家が丹精した米の副産物のぬかと、ブリの網に入ってくる安いイワシ。海と里のカアチャンの出会いが生み出した夏の逸品だ。

 作り方や食べ方は、これからも変わっていくだろうが、「もったいない」の心だけは、変わらないでほしい。



探検隊メンバー


寺嶌圭吾隊長…富山市内で酒店を経営する傍ら、食文化研究に情熱を注ぐ53歳

隊員O…高岡市出身。体形を気にしつつ、食べ歩きに励む30歳代




(2006年7月15日 読売新聞)

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