わたしの故郷、新潟県魚沼市の山奥に、絵本の家「ゆきぼうし」はあります。
木造の、大きなあたたかい雰囲気の家には、たくさんの絵本。
9000冊ほど、と聞きました。
窓から見えるのは、森。
深く豊かな、森。
その森には、入り込み、遊ぶことができます。
心地のいい日だまり、
木のテーブルと椅子、
ブランコ、
迷路のような道。
絵本の家を開き、長い間守ってこられたのは、みんなが親しみをこめて「絵本のおばさん」と呼ぶ、ひとりのおばあさま。
いつもゆったりと、来る人を待っていてくれました。
その大きさと優しさに包まれると、
子育て中のお母さんは疲れを忘れ、安心し、
子どもたちは嬉しくて生き生きし、
一人訪ねる人は、ゆっくりと休み、深呼吸できます。
わたしが訪ねる時は、いつもたまたま、他にどなたもいらしていなくて、
静かに絵本を読んでいたり、
おばさんとお話ししていたり、
窓から森を眺めることができました。
息子を連れていく時は、
森で遊んでいたり、
絵本の家の階段の上り降りを繰り返してみたり、
一緒に絵本を読んでいたり。
いつもにこにこ、おばさんが見守っていてくれました。
去年の暮れに、おばさんは病気になり、入院しました。
絵本の家館長の退任も決まっていましたので、新体制のみなさんが、頑張って後を継いでおられます。
開館日は、ぐんと減りましたけれど。
行きたい気持ちはいつもありましたが、おばさんの居ない「ゆきぼうし」に行くのは、あまりにも寂しくて、行くことができませんでした。
ですが、先日、里帰りした時に、
朝、急に、「今日行こう」と思ったのです。
息子を連れて、懐かしい田舎道を。
着いてみたら、
ああ、なにも変わらない。
ゆきぼうしは、変わらずにいてくれました。
スタッフさんに、恐る恐る、尋ねてみました。
おばさんのお加減は、いかがでしょうか?
そしたら、
「退院されたんですよ。
今日、こちらにおられますよ。」
とのこと。
まあ!
お忙しいかもしれないから、絵本をみて、あとでおばさんを訪ねてみましょう。
そう決めて、息子と絵本の家に行きました。
(おばさんの家は、絵本の家の隣にあります。)
しばらくすると、聴こえてくるではありませんか、懐かしい声が。
“まあ、まあ、おひさしぶりだったわねえー、ひろみさんでしょう?”
おばさんが、絵本の家にみえました。
懐かしい懐かしいおばさん。
みんなの大好きなおばさん。
わたしの名前を忘れずにいてくれました。
でも・・・
少し、小さくなられました。
それに、少し、遠い人に、感じられました。
ときおり、さまようような目をしています。
それが、寂しくて、尊くて、
わたしは、おばさんを抱きしめたいような気持ちになりました。
常に、おばさんが居なくても、
絵本の家には、おばさんのぬくもりが満ちていました。
これからもずっと、そうでしょう。
8月8日9日と、イベントを開催するそうです。
絵本を囲む、ちいさなあたたかいお祭りです。
イベントではない時に、一人静かに来てみることも、おすすめします。
その時に、おばさんに、お会いできるといいです。
でも、いらっしゃらないとしても、包まれていますからね。
おばさんの想いに。