ちいさなちいさな いのりのことば

 * にしだひろみ *

蛍 *日々のつれづれ*

2015年06月28日 | Weblog

友だち一家と、蛍を見に行きました。

わたしの暮らす村の小川に、蛍がたくさん舞うのです。





でも、昨夜は物凄い風でした。


木々はみな傾き、たくさんの木の葉が飛んでいきます。

空は灰色の雲が覆い、早送りのような速さで流れていきます。





小さな男の子は、お母さんに「抱っこ」とせがみ、顔を埋め、耳をふさいでいます。

尋ねてみると、こわいのだそうです。

風がおこす、大きな音が。




その「こわい」という気持ちが、いとしくて、お母さんと微笑みました。




わたしたちも、そうだったわね。

夜のこんなに暗い世界も、さまざまなものの影も、轟音のような風も、

あの頃、とてもこわかったわね。



こわい、でいいの。

おそろしくて、いいの。

大自然や、人の力を超えたものは、畏れ多いものだから。






強風に、蛍に逢うことをあきらめかけた時、男の子たちが叫びました。

「いた!」

「あそこ!」

「光った!」




雲間から月がおぼろに見えた、まさにその時。

蛍たちが、いくつもいくつも、光り出しました。



大人も子どもも、歓声と、歓声と、ため息。

なんて美しい・・・。





子どもたちは、蛍を追います。

そっと近寄ってみます。




10才の男の子が、蛍をそっと手にのせました。

そして、ひとりごとのように、言いました。

「感触がない・・・。感触が全然ない・・・。」



あまりの軽さ、ささやかな感触に、驚いています。

まわりは、しん、としています。





蛍が先だったでしょうか、

それとも月が先だったでしょうか、

空は晴れ渡り、月星が輝き、

地上は蛍の光に溢れ出しました。




子どもたちは地上の光とたわむれ、

大人たちは、その風景の全てに魅せられていました。







わたしたちは、こんな風景を、忘れないものです。

色鮮やかではなくても、

からだと心いっぱいに、なにかを感じた、こんな風景を。







晴れ渡った空の月は、

清らかに、透明に、

今日の日に、やがては思い出の中に、そっと架かっているでしょう。














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