友だち一家と、蛍を見に行きました。
わたしの暮らす村の小川に、蛍がたくさん舞うのです。
でも、昨夜は物凄い風でした。
木々はみな傾き、たくさんの木の葉が飛んでいきます。
空は灰色の雲が覆い、早送りのような速さで流れていきます。
小さな男の子は、お母さんに「抱っこ」とせがみ、顔を埋め、耳をふさいでいます。
尋ねてみると、こわいのだそうです。
風がおこす、大きな音が。
その「こわい」という気持ちが、いとしくて、お母さんと微笑みました。
わたしたちも、そうだったわね。
夜のこんなに暗い世界も、さまざまなものの影も、轟音のような風も、
あの頃、とてもこわかったわね。
こわい、でいいの。
おそろしくて、いいの。
大自然や、人の力を超えたものは、畏れ多いものだから。
強風に、蛍に逢うことをあきらめかけた時、男の子たちが叫びました。
「いた!」
「あそこ!」
「光った!」
雲間から月がおぼろに見えた、まさにその時。
蛍たちが、いくつもいくつも、光り出しました。
大人も子どもも、歓声と、歓声と、ため息。
なんて美しい・・・。
子どもたちは、蛍を追います。
そっと近寄ってみます。
10才の男の子が、蛍をそっと手にのせました。
そして、ひとりごとのように、言いました。
「感触がない・・・。感触が全然ない・・・。」
あまりの軽さ、ささやかな感触に、驚いています。
まわりは、しん、としています。
蛍が先だったでしょうか、
それとも月が先だったでしょうか、
空は晴れ渡り、月星が輝き、
地上は蛍の光に溢れ出しました。
子どもたちは地上の光とたわむれ、
大人たちは、その風景の全てに魅せられていました。
わたしたちは、こんな風景を、忘れないものです。
色鮮やかではなくても、
からだと心いっぱいに、なにかを感じた、こんな風景を。
晴れ渡った空の月は、
清らかに、透明に、
今日の日に、やがては思い出の中に、そっと架かっているでしょう。