教育相談室 かけはし 小中連携版

ある小学校に設置された教育相談室。発行する新聞「かけはし」が、やがて小・中3校を結ぶ校区新聞に発展しました。

大阪大学生の母親殺害を考える

2006年07月09日 | 子どもの事件
 教育相談とは「無縁」に思えるような記事が目立つ『かけはし』です。しかし奈良に続き、大阪府豊中市でも大学生が母親を殺すという事件が起こりました。この事件を目にし、私は卒業生から受けた相談を思い出しました。今回の事件を考えるヒントがあるように思えるのです。

 卒業して久しぶりに中学校を訪れたB君。進学校といわれる公立高校を卒業し、有名な国立大学工学部に入学したという話までは聞いていました。

【B君】大学に入学してから学校に行くのがいやになりました。やめたいのですが。

【相談員】大学には通っているの。

【B君】今は○○にあるイタリア料理のお店で働いています。3回生になりますが、大学には行っていません。

【相談員】大学が嫌になった理由は。

【B君】工学部で何を学ぶかを知らないまま、入試の偏差値だけで選びました。大学に入ってみると工学部の勉強にまったく興味が持てず、苦痛で仕方なくなりました。大学生活への夢が大きかっただけに、全く大学に行けなくなってしまいました。

【相談員】自分の興味関心とは違う内容だったら他の学部に転部することは考えてみては。僕たちの頃は教養部があったから、比較的転部はしやすかったと思います。友人のなかにも工学部→文学部、経済学部→法学大学院というのがいました。相談できる大学の先生はいないかな。

【B君】今は学部間の移動は難しいようですが、一度考えてみます。でも自分が何を学びたいのか、分かりません。

【相談員】それで、アルバイトに精を出しているわけかな。

【B君】アルバイト先は、チームワークがよくて、とてもやりがいを感じます。

【相談員】退学を決めるのは簡単だけど、じっくり勉強ができるという環境は、社会に出たら二度とありません。転部して学びたいという気持ちが本当にないのかもう一度考えてほしい。それに転部するのは難しいとは思いますが、どんな方法があるのかも、自分だけで判断せずに大学の先生と相談してほしいと思います。それでも大学をやめて勉強に頑張ったエネルギーを使って一流シェフを目指すなら、それも立派な進路だと思います。

【B君】わかりました。考えてみます。

 周囲から見ればうらやましいと思われる進路を選んだ子どもたちの中にも、深い悩みがあります。大学に合格した後、目標を見失ってしまう若者は、私たちの時代にもたくさんいました。しかし家族殺しという方向で「解決」しようとする傾向は、聞きませんでした。「殺さなければ独立できない」、それほど親(特に母親)への依存が強くなってきていることの現れではないでしょうか。

 今回の事件の学生と違い、B君は自分で悩み、相談し、さらに大学の外部ではありますが、自分の活動の場を見つけようとしていることに私は希望が持てました。B君のやりなおしが成功することを、心から応援しています。


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1 コメント

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人間関係が狭いのかも (neco5959)
2006-08-24 22:57:28
TBありがとうございました。

学力はあっても、どう生きるかを考えたり

そういうことを悩んでも相談する場所が

ないのかもしれませんね。

教育関係の仕事に就く者として、他人事に

思えない事件です。



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