教育相談室 かけはし 小中連携版

ある小学校に設置された教育相談室。発行する新聞「かけはし」が、やがて小・中3校を結ぶ校区新聞に発展しました。

涙の離任式

2006年04月12日 | 学校の話題
 櫻の花 ちりぢりにしも わかれゆく遠きひとりと 君もなりなむ(折口信夫)

4月11日(火)、各校では、この3月をもって去られた先生方の離任式がおこなわれました。私は14人もの先生が転出となった東町中学校の離任式に参加しました。ある先生方は中学で学んだことをこんなふうに述べていました。

かつて私のクラスにいた生徒の話をします。友人関係をうまく作れなかったその生徒は、口が悪く、いつも上級生やクラスの子と問題を起こしていました。その子が中学1年生の12月30日にお母さんが倒れたのです。癌でした。残された命は長くはなかったのです。お父さんはその子が生まれて間もなく蒸発し、行方不明となっていました。お母さんと二人で暮らしていたその生徒は、施設に入所することになりました。お母さんが病院からの一時帰宅が認められる日が何日かあり、私が施設と家の送り迎えをしたときのことです。当時2歳だった自分の娘を一人で家に置くわけにいかず、チャイルドシートに載せて生徒を迎えに行ったら、後で手紙が届きました。「先生、自分に小さな子どもがいるのに私のために時間を作ってくれてありがとう」と書いてありました。自分のお母さんが死にそうになっているにもかかわらず、その生徒は私の小さな娘のことを気遣い、自分を支えてくれている人の善意に感謝する気持ちを失わなかったのです。普段は口が悪くトラブルばかり起こしていたように見えた生徒でしたが、こんなに優しい心遣いができる子だったのです。私はその生徒を人間として本当に尊敬し、その生き方から学ぶことができました。

私は離任の言葉を聞きながら、その生徒のことを思い出しました。当時の私は生徒指導担当者として、その生徒の施設入所に深くかかわっていました。大晦日の日、一人で不安な朝を迎えた生徒の家にお寿司を持って家庭訪問をしたこと。優しく迎えてくださった施設『はるか学園』の指導員さんたち。告別式の日に共に心から悲しんでくれた友人たち。施設への面会。保護者代わりとなって参加した高校の卒業式。お母さんの身内を頼って遠く群馬に転居したこと。「他人のメシ」を食う、苦労続きの十代の日々。そして昨年の『東町中二十歳の同窓会』で再会できたこと。私にとっても忘れられない生徒でした。 

私たち教員は、もちろん知識の上では子どもたちよりたくさんのものを持ち合わせています。しかし一人ひとりの子どもたちの生活を見ると、大変な困難を抱えながら、人知れず前向きに頑張っている子どもたちに出会うことができるのです。そしてそんな生徒に出会うたび、子どもたち(私たちもふくめ)の学ぶべきものは、教科書の中にだけあるのではなく、一緒に机を並べている友だちの生活の中に、学ぶべき大切なものがあるのだと確信するのです。 

涙の離任式に中学1年生のみなさんは戸惑ったことと思います。しかし去られた先生たちが、東町中生を深く愛していたんだということは、忘れないでください。今みなさんの前にいる東町中校区のすべての先生方も、同じように皆さんへの愛情を注いでゆかれることと思います。 


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