日本国憲法の基本原理と立憲主義の重要性について
本年5月3日、国民主権・基本的人権の尊重・恒久平和主義を基本原理とする日本国憲法が施行されてから60年を迎えます。人であれば還暦というこの60年の間に、日本国憲法は、文字通り国民の血となり肉となってきました。
この記念すべき時を迎えるに当たり、日本国憲法が果たしてきた役割の重さに思いを致すとともに、日本国憲法の基本原理やその根底にある個人の尊重・法の支配の理念、そして、権力を制限して個人の権利を保障するためにこそ憲法は存在するという立憲主義の理念の重要性をあらためて確認したいと思います。
平和をめぐる問題について
日本国憲法は、先の大戦の反省の上に立って、戦争が最大の人権侵害であることに照らし、恒久平和主義をその基本原理としています。特に、第9条の戦争を放棄し、戦力を保持しないという徹底した恒久平和主義は、他に類例を見ないものであり、平和への指針として世界に誇りうる先駆的意義を有しています。
しかし、ここ約10年を見ると、周辺事態法、テロ対策特別措置法、イラク復興支援特別措置法、武力攻撃事態法などの有事法制3法、国民保護法などの有事関連7法の制定、度重なる自衛隊法の改正や防衛庁設置法の改正に基づく自衛隊の海外派遣の拡大など、平和についての我が国のあり方を大きく左右する立法が続いています。
当連合会は、このような立法に対し、その都度、日本国憲法の基本原理に抵触するおそれや日本国憲法が禁止している武力の行使・集団的自衛権の行使に当たる危険性を指摘し、憲法の遵守を求め、なし崩し的な解釈改憲の弊をおかすことのないよう求めてきました。
このような緊迫した情勢において、当連合会は、今後とも、平和憲法の遵守の重要性をより強く訴えていくものです。
基本的人権をめぐる問題について
日本国憲法は、基本的人権について、現在及び将来の国民に与えられた侵すことのできない永久の権利であると高らかに謳っています。民主主義が十全に機能し、公平で調和の取れた社会を実現するためには、人々の基本的人権、とりわけ、精神的自由が確保されることが必要不可欠であることは、人類のこれまでの経験からも明らかです。
ところが、我が国の現状を見ると、民主主義が機能するための不可欠の権利であるとされる精神的自由が危機に瀕しています。
公立の学校現場において、国旗・国歌の不利益処分を伴う強制が行われていることは、教育の場における精神的自由を脅かす一例であり、公の秩序の名の下に個人の尊重の理念が損われないようにしなければなりません。また、内閣総理大臣の靖国神社への公式参拝は、政教分離原則に違背する疑いがあり、ひいては信教の自由の確立を妨げるおそれがあります。さらに、政治的意見に関するビラの投函等が逮捕・起訴の対象とされたり、思想の段階で刑罰をもってのぞむ共謀罪の新設が国会で審議されたりするなど、自由な言論に対する公権力による規制が危惧されている上、放送事業者による報道の自由にも公権力が介入する事態が懸念されています。
当連合会は、このような危険な人権状況を踏まえ、人権擁護活動を一層充実させ、不断の取組みを続けていく所存です。
憲法改正に向けた動きについて
日本国憲法をめぐっては、近時各界から改正に向けた意見や草案が発表され、また憲法改正手続法については、法案が衆議院で可決され、現在参議院で審議されているという事態を迎え、憲法改正をめぐる議論が急を告げています。
当連合会は、日本国憲法の基本原理やそれを支える理念に照らし、改憲論議の問題点を指摘する一方、憲法改正手続法案についても、日本国憲法がもともとその安易な改正を予定しない硬性憲法であることに照らし、最も重要な最低投票率の規定が設けられていないことなど問題点が多く含まれていることを指摘し、国民に開かれた慎重な審議がなされることを求めています。是非とも参議院においては、この最低投票率の規定を設ける旨の修正を求めるものです。
今後、改憲論議においては、その是非の判断を行うために必要かつ十分な情報が国民に提供されるとともに、国民の間で十分な議論が尽くされるための期間が保障されることが不可欠であり、そして何よりも、憲法とは何か、憲法は誰のためにあるのかということが常に議論の中核となるべきであると考えます。
当連合会は、憲法改正をめぐる議論において、立憲主義の理念が堅持され、日本国憲法の基本原理が尊重されることを強く求めるとともに、これらの理念や基本原理の重要性が広く国民に理解されるよう最大限の努力を行っていくことを決意するものです。
憲法の理念の真の実現に向けて
我が国の現状を考えますと、立憲主義の理念や、国民主権・基本的人権の尊重・恒久平和主義という日本国憲法の基本原理が有する意義は、今日においても、いささかも変わるところがないばかりか、より一層その重要性が認識されるべきであると考えます。
当連合会は、憲法の理念を真に実現できるよう、基本的人権の擁護と社会正義の実現という使命を果たしていくとともに、国内外の人々と協力して、21世紀を、全世界の人々の平和的生存権が保障され、恒久平和が実現する輝かしい世紀とするため、全力を尽くすことをここにあらためて誓うものです。
2007(平成19)年4月27日
日本弁護士連合会
会長 平山 正剛
本年5月3日、国民主権・基本的人権の尊重・恒久平和主義を基本原理とする日本国憲法が施行されてから60年を迎えます。人であれば還暦というこの60年の間に、日本国憲法は、文字通り国民の血となり肉となってきました。
この記念すべき時を迎えるに当たり、日本国憲法が果たしてきた役割の重さに思いを致すとともに、日本国憲法の基本原理やその根底にある個人の尊重・法の支配の理念、そして、権力を制限して個人の権利を保障するためにこそ憲法は存在するという立憲主義の理念の重要性をあらためて確認したいと思います。
平和をめぐる問題について
日本国憲法は、先の大戦の反省の上に立って、戦争が最大の人権侵害であることに照らし、恒久平和主義をその基本原理としています。特に、第9条の戦争を放棄し、戦力を保持しないという徹底した恒久平和主義は、他に類例を見ないものであり、平和への指針として世界に誇りうる先駆的意義を有しています。
しかし、ここ約10年を見ると、周辺事態法、テロ対策特別措置法、イラク復興支援特別措置法、武力攻撃事態法などの有事法制3法、国民保護法などの有事関連7法の制定、度重なる自衛隊法の改正や防衛庁設置法の改正に基づく自衛隊の海外派遣の拡大など、平和についての我が国のあり方を大きく左右する立法が続いています。
当連合会は、このような立法に対し、その都度、日本国憲法の基本原理に抵触するおそれや日本国憲法が禁止している武力の行使・集団的自衛権の行使に当たる危険性を指摘し、憲法の遵守を求め、なし崩し的な解釈改憲の弊をおかすことのないよう求めてきました。
このような緊迫した情勢において、当連合会は、今後とも、平和憲法の遵守の重要性をより強く訴えていくものです。
基本的人権をめぐる問題について
日本国憲法は、基本的人権について、現在及び将来の国民に与えられた侵すことのできない永久の権利であると高らかに謳っています。民主主義が十全に機能し、公平で調和の取れた社会を実現するためには、人々の基本的人権、とりわけ、精神的自由が確保されることが必要不可欠であることは、人類のこれまでの経験からも明らかです。
ところが、我が国の現状を見ると、民主主義が機能するための不可欠の権利であるとされる精神的自由が危機に瀕しています。
公立の学校現場において、国旗・国歌の不利益処分を伴う強制が行われていることは、教育の場における精神的自由を脅かす一例であり、公の秩序の名の下に個人の尊重の理念が損われないようにしなければなりません。また、内閣総理大臣の靖国神社への公式参拝は、政教分離原則に違背する疑いがあり、ひいては信教の自由の確立を妨げるおそれがあります。さらに、政治的意見に関するビラの投函等が逮捕・起訴の対象とされたり、思想の段階で刑罰をもってのぞむ共謀罪の新設が国会で審議されたりするなど、自由な言論に対する公権力による規制が危惧されている上、放送事業者による報道の自由にも公権力が介入する事態が懸念されています。
当連合会は、このような危険な人権状況を踏まえ、人権擁護活動を一層充実させ、不断の取組みを続けていく所存です。
憲法改正に向けた動きについて
日本国憲法をめぐっては、近時各界から改正に向けた意見や草案が発表され、また憲法改正手続法については、法案が衆議院で可決され、現在参議院で審議されているという事態を迎え、憲法改正をめぐる議論が急を告げています。
当連合会は、日本国憲法の基本原理やそれを支える理念に照らし、改憲論議の問題点を指摘する一方、憲法改正手続法案についても、日本国憲法がもともとその安易な改正を予定しない硬性憲法であることに照らし、最も重要な最低投票率の規定が設けられていないことなど問題点が多く含まれていることを指摘し、国民に開かれた慎重な審議がなされることを求めています。是非とも参議院においては、この最低投票率の規定を設ける旨の修正を求めるものです。
今後、改憲論議においては、その是非の判断を行うために必要かつ十分な情報が国民に提供されるとともに、国民の間で十分な議論が尽くされるための期間が保障されることが不可欠であり、そして何よりも、憲法とは何か、憲法は誰のためにあるのかということが常に議論の中核となるべきであると考えます。
当連合会は、憲法改正をめぐる議論において、立憲主義の理念が堅持され、日本国憲法の基本原理が尊重されることを強く求めるとともに、これらの理念や基本原理の重要性が広く国民に理解されるよう最大限の努力を行っていくことを決意するものです。
憲法の理念の真の実現に向けて
我が国の現状を考えますと、立憲主義の理念や、国民主権・基本的人権の尊重・恒久平和主義という日本国憲法の基本原理が有する意義は、今日においても、いささかも変わるところがないばかりか、より一層その重要性が認識されるべきであると考えます。
当連合会は、憲法の理念を真に実現できるよう、基本的人権の擁護と社会正義の実現という使命を果たしていくとともに、国内外の人々と協力して、21世紀を、全世界の人々の平和的生存権が保障され、恒久平和が実現する輝かしい世紀とするため、全力を尽くすことをここにあらためて誓うものです。
2007(平成19)年4月27日
日本弁護士連合会
会長 平山 正剛