へちま細太郎

大学院生のへちま細太郎を主人公にしたお話。

つばさ君へ

2006-12-06 21:55:24 | へちま細太郎
こんばんは、へちま細太郎です。

ぼくを乗せた車は、東京からそんなに遠くない都市につきました。そして、1軒のわりと大きな家の前に停まりました。
車が停まった気配がしたのか、中からおじいさん?とおばあさん?が飛び出してきました。
「豆太郎
へっ? ぼくはびっくりです。つばさ…じゃないの?
「どうしちゃったの豆太郎…」
「あ、あの…」
ぼくは、人違いだと言おうとしましたが、おばあさん?がぎゅっと抱きしめてきたので何も話せません。なぜかというと、なんかこの抱きしめられた感じが、妙になつかしいんです。
「おかあさんに一緒に謝ってあげるからね」
「あ、あの…」
ぼくは口を開きかけてやめました。 おじいさんらしき人が、怖い顔をしています。
「おかあさん、心配で倒れたんだ。わかっているだろう」
「ごめんなさい」
自然にそんな言葉が出てきました。なんでだろう…。
そして、ぼくはこの時、ぼくにそっくりだという“つばさ=豆太郎”という子のことを考えていました。
つばさ君はぼくと同じように家出をしたんだね。理由はなんだろう。テニスだったら笑えるな。きっと今頃は、ぼくが最初に味わった解放感でいっぱいなんだろうなあ。もしかしたらぼくと間違えられて“かける”とか“細太郎”とか、呼ばれていておばあちゃんや広之お兄ちゃんにどなられ、藤川先生にはなぐられ、おとうさんには…おとうさんにはまた涙目をして見られているかもしれない。
つばさ君、ぼくはね、おとうさんが大好きな人の子供だから、おとうさんにとっては宝物みたいなんだよ。それが最近はうっとおしいんだけどね。ぼくじゃないとわかった時は、おとうさんショックだろうなあ。
つばさ君にはおかあさんがいるんだね。いいなあ、ぼくにはいないんだよ。ちょっとだけ、ぼくにおかあさんを貸してくれないかなあ。ちょっとだけ、ちょっとだけならゆるしてくれるよね、つばさ君。