へちま細太郎

大学院生のへちま細太郎を主人公にしたお話。

新学期の第一声

2011-04-11 22:18:08 | へちま細太郎

「細太郎くんと同じクラス仲良くしてあげてもよくってよ」
はるみの嬌声に、ぼくはアタマを抱えた。
「あんた、嫌われているの、まだわかってないの?」
野茂がはるみに怒鳴り返している。
「何よ、あんたこそ、細太郎くんの何様?」
「親友よ
確かにそうだけど、そんなのはるみには通用しないよ~。
「相変わらず、モテてるね」
しんいちの嫌味な笑いに、
「おめえ、彼女できたからって、そんなセリフはないだろ」
たかのりが、げんこつをぐりぐりすると、
「あれ?彼女ができたのは、たかひろだろ」
こんどはみきおが、ベランダでいちゃつくたかひろを指さした。
「う~ん。。。」
ぼくは、唸る。
「個人的感情でクラス内を混乱させないでよね」
「なんでそんなこと私がするのよ」
まだやってる。なんでそんなに仲が悪いんだ。
「なんだ、あいつ」
しんいちが廊下の窓から覗いているキチローをみつけた。
「あいつ、ほんとにはるみのストーカーやってんだ」
「キモ」
はるみも気が付いたらしく、
「なんなのよ、あんた、キモいから覗くんじゃないわよ」
と、窓に向かって教科書を投げつけた。
キチローはさっと姿を隠してしまった。
「あんな調子でこれからも覗く気かなあ」
「やだやだ」
これだったら、担任は赤松の方がマシだったかも、とつぶやいたら、みんな一斉にうなづいたのだ。
「マジ、キモい」
はるみ、うるせ~。


コント須庭寺百合絵さま

2011-04-09 22:50:32 | へちま細太郎

こんばんは、へちま細太郎です。

棒斐浄寺の尼御前さまとシスター百合絵さまの登場で、住職さまとご隠居さまはバツの悪そうな顔をしている。
「このくそじじいども、私を見捨てるつもりだったんだろうが」
「京さま、はしたないわ」
百合絵さまはおろおろ。
「ところで、あんた、誰かな?」
二人のじいさまはシスター百合絵さまをしげしげと眺める。
何者なのかは、ぼくたちも知りたい。
「本堂の中で、むきあう異様な4人にぼくたちも興味津々。
「わたくしのことですの?わたくし、京さまとは大学時代の友人でございますのよ」
「ああ、カトリックのお嬢様学校だったか、このバカ娘がよくも入学できたもんだと、さすが西洋の神さんは懐が深いと感心したもんだ」
ご隠居さま、腕組みしながらうなづく。
「くそじじいめ」
尼御前さま毒づく。
「で、シスター百合絵どのとやら、あんたは、なぜにここにいるんだな?」
住職さまは顔を百合絵さまに近づけて、みんなの知りたい質問を口にする。
ぼくらの周りには、近所の人たちも固唾をのんで聞き耳をたてている。
「あら、京さまのところからまいりましたのよ、ですからここにいるのですわ」
はい?
「だから、どうしているのかな?」
「ですから、歩いてまいりましたのよ、棒斐浄寺は瓦が落ちてしまいましたし、わたくしと京さまではとうてい無理でございますから」
目が点になるとはこのことだ、なんなんだ、この天然ボケっぷりは…。
近所の人たちも、
「さすが浮世離れしてるわ」
「お嬢様っていうのは、年くってもああいうもんかね」
と、ささやき合っている。
「単なる天然ボケのオバはんじゃね?」
(仮)亀梨軍団の直樹さんが、本堂の廂にあぐらをかいて座り込み、たばこをくわえたところで、
「このたわけもんがああ」
と、気が付いた住職様に一括されて、たばこをポロリと口から落としてしまった。
「で、あんた、どうしてここにいるのかな?」
と、百合絵さまに向き直って、三度同じ質問をしたのであった。
コントやってんじゃねえったら、と悠樹さんのつぶやきがきこえてきた。
ほんとだよ。


新学期

2011-04-07 20:14:12 | へちま細太郎

こんばんは、へちま細太郎です。

ぼくも中学3年になった。
14歳になったばかりだけど…。
いろいろとある日常だけど、このまま平凡な人生を過ごしていくんだろうなあ、と思っていたけど今回の地震だ。
人生変わった人もいるんじゃないかと、思う。
ぼくは、何の変化もない。
このブログを書き始めた年にうちを建て直したから、地震ではびくともしなかったけど、そのかわりいろんなものが壊れてしまった。
昨日まで当たり前に使っていたものが、ただのガラクタになってしまうって、なんだか変な気分だ。
不思議なことは、これでおかあさんや豆太郎くんが無事だったんだろうか、とかまったく心配しなかったことだ。
須庭寺の片づけや、先輩たちとやった炊き出しや風呂沸かしなんかで、考える隙間もなかったってことかな。
でも、連絡くらいあってもよさそうなもんなんだろうけど、おばあちゃんやおとうさんは何も言わない。
たまに余震でゆらゆらしている近衛少将さんとかは、
「心配するでない」
と、言ってくれているからきっと、考えなくてもいいってことなのかもしれない。
新学期は、老朽化して古い建物の修理をするからっていって、
「11日からになった」
と、浜中先生から電話がきた。
「3年も俺が担任な」
「マジ?」
と、答えると、
「赤松のクラスに入れたろうか」
と、ドスの効いた声が聞こえてきたので、
「藤川先生と違って怖くないから、脅かしたって無理だよ」
「くそ、揃いもそろって憎たらし連中の集まりだ」
そういって、ぼくは、たかのり、たかひろ、みきお、しんいち、おまけにはるみとも同じクラスになってしまったそうだ。
野茂の苦労する顔が目に浮かぶようだ。。。


今日もめいっぱい汗流し

2011-04-06 23:30:14 | へちま細太郎

こんばんは、へちま細太郎です。

本堂が屋根を残して一応きれいになったところで、ぼくたちはやっと解放される、と思った。
ところが、
「庭の池がまだだ」
と、バケツと網を渡された。
「どうも、ひび割れて水が抜けているように思える」
早い話、ひび割れにかこつけて池掃除をやらせようっていう魂胆みえみえ。
紀藤造園のおっちゃんも、
「この人数だから、金魚もすぐに捕まるだろう」
と、うなづく。
「金魚?え?」
「錦鯉じゃねえの?」
先輩たちも、びっくり。
「錦鯉?金魚すくいでとった金魚を放したら育ったのなんの」
住職さまは高笑い。
「おまけに、ランチュウを放り込んでいったやつもいてな、これも増えて金魚すくいと交配しちまってわけのわからん金魚になってしまった。。。」
「出目金もいるしな。色とりどりだ」
紀藤造園のおっちゃん、またもうなづく。
「よって、まさしくこの池を放生池という」
「…」
ぼくたちは、住職様のありがたいダジャレを受け流し、放生池とやらの巨大金魚を全員でとっつかまえにかかり、池の修繕を手伝い、泥まみれになったあと、ドラム缶でわかしたお湯をめいっぱい風呂に入れ、かわるがわる汗を流したのであった。
「う~ん、なんでこの寺の風呂はでかいんだ?」
「昔の名残りらしいよ。たくさんのお武家さんたちや庶民の人たちが入りにきたらしいよ」
近所の人たちも、かわるがわるお風呂に入りに来てはさっぱりして帰っていった。
これぞボランティア、といいたいけど、何本ものドラム缶にお湯をわかして何度も運び入れるのは、ぼくらなんだけどなあ。。。
「ゾク仲間を呼べや、田舎ヤンキー」
孝太郎さん、けっこう先輩もこわいです。。。


風呂の水は川の水で

2011-04-04 21:02:18 | へちま細太郎

こんばんは、ピカイチだ。

どうも、細太郎の父です。
地震があってからこっち、学校が臨時休校になったものの、職員は交代で出勤となった。
おれとバカ殿は一緒に通勤する予定なんだが、ふたり合わせたってガソリンが足りない。
「俺は飛雄馬で通勤する」
と、バカ殿は無茶苦茶なことを言っていたが、結局チャリ通勤となった。
「寮に泊まれば、体力も回復するべ」
「そうだな」
俺たちは、速攻で楽ちんなチャリを買いに行き、充電。
「いい若いもんが、自力でこげないのか」
久しぶりに県庁から帰ってきたおやじが、風呂上りなのかさっぱりした顔をしている。
風呂といったって、地震の前に汲んでいた水を毎日温めなおしているんだが、これがまたたまらん。
「どうせだから、川まで行って風呂の水をいっぱいになるまで汲んでこい」
「なんでだよ」
「それくらい当たり前だ」
なんで当たり前なんだか意味不明だが、結局充電半ばでポリタンクをふたつ荷台にくくりつけ、川よりは、と藤川家の別邸まで走った。
ここは、バカ殿が結婚して住むはずの幕末に造られた隠居屋敷なんだが、畑もあればどこからか湧いてでた小川も流れている。
「飲み水には不向きだが、口に入らないようにすれば使えるだろ」
俺たちはポリタンクいっぱいに水を詰め込み、家と別邸を何度も往復した。
足は重くなるわ、警官には呼び止められるわ、なんでこんなしんどい思いをしなくちゃならんのか、と心身ともにへとへとだよ。
で、明日の通勤のことを考えると余計に気も体も重くなった。
「東北の人は、もっとしんどい思いをしているんだ、これくらい平気だろ」
う~ん、これを言われると、辛い。
でも、やっぱりしんどいものはしんどいんだけどなあ。。。


棒斐浄寺はほったらかし?

2011-04-03 12:00:45 | へちま細太郎

こんにちは、へちま細太郎です。

須庭寺の庭に積み重なった瓦のまだ使えそうなものとわれたものを分けていたら、家の方から怒鳴り声が聞こえてきた。
「だから、棒斐浄寺のお義姉さんの安否はどうなってるの?」
あれは、副住職の奥さんのことみさんだ。
「生きてるさ、心配ない」
「何の連絡もしてないんでしょう?あなたそれでも弟なの?」
「うるせえな、ねえちゃんは自分のことは自分でできるタイプの人間だ、いざとなったら自力でここまで来るさ」
わあ、なんて薄情な…。
須庭寺の井戸水をもらいにきていた近所の人たちも何ごとか?と聞き耳を立てている。
炊き出しをやっている(仮)山下軍団さんたちは、聞こえないふり。
そこへ、
「おなかすいたあ~、風呂はいりたああい」
という、声が聞こえてきた。
「京さま、みなさまがみてましてよ」
それまでざわついていた須庭寺が、一瞬シーンとなった。視線は、声のした方にくぎ付け。
そこには、埃にまみれた尼御前さまと、なぞのシスター百合絵様がリュックを背負ってたっていたのだ。
「なんだ、あれ」
「げ、京おばちゃん」
唯一彼女を「オバちゃん」と呼んではばからない孝太郎さんが、カレーを盛り付けずに呆然。
「なんで、キリストの尼さんまでいるんだ」
「どういうコンビ?」
近所の人たちも驚いて棒立ちのまんまだ。
そういう中をずんずん歩く尼御前さまと、その後ろを、
「みなさま、ごきげんよう、このたびは大変でございましたわね」
と、頭を下げて小走りにあるくシスター百合絵様。
「あれ、棒斐浄寺に居候している、百合絵様っていう尼御前様の大学時代の同級生らしいよ」
「百合絵様って、ゆりえ~?」
「ほら、ミッション系のお嬢様学校じゃないか、お妃候補がたくさんいるような…」
ぼくたちは、この二人の出現で、新たな騒動がおこるに違いない、と確信したのであった。
案の定、
「これ、このくされヤンキー、姉を見捨てるとはいい根性じゃないか」
という、尼御前さまの怒鳴り声がきこえてきた。
「京様、はしたないですわ」
おろおろと止める百合絵様。
「んだと、この生臭坊主がっ」
「どっちのセリフだっ」
世が世なら、この二人は…。
考えるのよそう。。。


移動手段は…

2011-04-02 23:37:12 | へちま細太郎

こんばんは、おばあちゃんよ。

孫の細太郎が、須庭寺の復興作業とやらに借り出されてしまい、我が家の片づけは年寄と出来損ないの息子の3人で急ピッチで済ませた。
で、一番困ったのは「水」。
水道管が破裂したとかで、断水が続いて普及のめども立たずで、途方に暮れたわよ。
「飲み水だけはどうしようもないわねえ」
「ガソリンスタンドもあいてないから、車ってわけにはいかねえしよ」
バカ息子が貴重な水をがぶ飲みしながら、ぼけた発言をする。
「何のために、足があるのよ」
「へ?」
「自転車があるんだから、小学校まで行ってプールの水をもらっといで、トイレ用にするから」
「なんで俺が」
「リカとミッフィーにできるか、バカモノ」
バカ息子は犬とうさぎを見下ろしてため息をつく。
そこへ、戦時中の買い出しみたいな姿のバカ殿が帰ってきた。
「とりあえず、うちは井戸だから水くんできた」
リュックには米と野菜、スーツケースには大量の2ℓのペットボトルが詰まっていた。
「あらら、どうやって持ってきたの」
「馬」
「はい?」
「うちの飛雄馬にひかせてきた」
飛雄馬って・・・。
「あの、畑を耕してる農耕馬だろ」
リカは庭に向かって吠える。ミッフィーはだんまりだ。
「うまあ?」
庭を見てみりゃ、少々くたびれた様子の馬が、庭をほじくっている。
「ひええええええ」
「結構役に立つんだぞ~」
バカ殿は庭に下りていくと、馬の腹をなぜる。
「しばらくは、飛雄馬も居候な」
と、庭の隅にテントをはり、馬を中に入れる。
「ま、ここで我慢しろ」
って、馬なんて、どうやってめんどうみるのよ~。
といいつつも、結構力仕事に役立ってくれて、助かった。
少なくとも、バカ息子よりはねえ。


そろばんはじいてナンボ

2011-04-01 23:42:22 | へちま細太郎

こんばんは、へちま細太郎です。

須庭寺の本堂の後片付けが終わり、次は庭掃除だった。
庭には壊れた仏像の破片やら須弥壇のびらびらが、うずたかく積み上げられていた。
そのガラクタを前にして、ご隠居様と住職様が額を突き合わせて何やら密談中。
「直せるもんなら、直したいもんだ」
と、ご隠居様が言えば、住職さんもうなづいて、
「後始末するにも金がかかる。檀家にも出せとは言えんし」
「びた一文出さんぞ」
「あんたには頼まんよ、孝正に頼む」
孝正は、藤川先生のお父さんだ。
「当面の予算は…」
と、袖の中からそろばんを出して玉をはじく。
「壊れた仏像5体がこれくらい、須弥壇がこれくらい、ついでに本堂の屋根を直して…」
「リフォームならこの程度だろ」
今度はご隠居が電卓を差し出して、住職様に見せると、
「それはないだろうが」
と、そろばんをがしゃがしゃと鳴らして、再び玉はじき。
「どうせ、ダミーの空洞の張りぼて仏像だろうが、こんな程度だろうが」
「何を言うか、本物らしく見せるにはやはりこれくらいはみておかないと」
すごい異様な光景だ。
もはやこれ以上書くと、藤川家とその菩提寺の恥になるのでやめておこう。
いやはや。。。


銅鑼の音高く~

2011-04-01 15:18:44 | へちま細太郎

副住職だ。

なんで、朝まで爆睡してるんだ、こいつらは…。
俺のゾク仲間でさえも逃げ出した夜中の本堂。
なんで、こいつら眠れる。
あんまりムカついたので、
「てめえら、おきろ~
と、銅鑼を鳴らしてやったら、
「うっせ~ぜぞてっめえ」
と、むっくり起き上がったやつに逆に怒鳴り返された。
しかも、再び倒れ込んで寝てしまったではないか。
なんだ、寝言か…。
なんて、やつらだ。
あ~、ちきしょ~、疲れるまで働かせるんじゃなかった~