へちま細太郎

大学院生のへちま細太郎を主人公にしたお話。

ふつうはあり得ない話

2011-10-18 10:17:22 | へちま細太郎

こんにちは、へちま細太郎です。

りょうこちゃんがきょうすけと一緒に美都一高を目指していると聞いて、ぼくは進路を県立からこのまま孟宗の高校に変更した。
「何があったんだ」
と、それまでこのまま内部進学を強力に推していた浜中先生が、逆にびっくり。
「事務の兄ちゃんには何も聞いてないぞ」
「言ってないし、相談もしてないし、第一、口きかないし」
「家で親と会話してないのか」
「する必要がないというか…。うっとおしいし、それに相談ごとなら藤川先生もいるし、鎧かぶとのおじさんもいるし」
「だれだ、そいつ」
鎧かぶとのおじさんのことを説明してもわからないだろうなあ、ぼくの鎌倉時代のご先祖さまで現代では劇団に入って役者しているってこと。理解しろっていうのが無理だろうけど。
怪訝な顔をしていた浜中先生が、一瞬ぎょっとした顔でぼくの背後に視線を向けた。
「ひょっとして、鎧かぶとのおじさんて、たまにふわふわとあらわれるあれか?」
「そう、わしが鎧かぶとじゃ」
二者面談中のぼくの隣に突然ぼわっと現れた。
浜中先生は、口をぱくぱくさせていたが、
「いいよ、もうなんでもアリで。イマドキ、幽霊が出ようが、禅僧の年よりが妙齢のシスターと結婚しようが、俺はもう驚かん」
と、げんなりしている。
「細太郎が世話になっておるようじゃの」
「はいはい、お世話もいいですけどね、あんまり世話しすぎていろんな仲間を連れてこられてもこっちが困るだけでして、赤松先生の後ろにひっついている生首もいいかげん持って帰ってくれます?」
ありゃ、見えてたんだ。。。
「あれは生首があやつを気にいってしまったので、説得のしようがないが…そうか、困っているのか」
ふつう、見えてなければなんでもないけど、陰気な赤松先生の背後にはくら~いもやが漂っていることは、ものすごく有名で、そのために奥さんに逃げられてっていう話だ。
ぼくのせいじゃないし…。
「しょうがないの~、今度説得してみるがの~」
と、鎧かぶとのおじさんはつぶやきながら消えてしまった。
「おまえ、ご先祖様に守られているとは、強力な運勢の持ち主だな」
厭味ったらしい浜中先生の言葉に、
「まあね」
と、憎たらしい答えを返してやったのさ。
ふん、女なんか嫌いだ。


住職様のプロポーズ

2011-10-16 14:31:09 | へちま細太郎

副住職だ。

棒斐浄寺の修復がようやく終わり、姉の京(みやこ)がやっと帰ることになった。
俺には実家にはもう一人姉がいて、こっちは婿養子をもらってあとを継いでいてくれる。
そんな異色の藤川一族が集合して須庭寺で、恒例のお彼岸の大法要が行われた日のことを話そうとは思うが、これがまたとんでもない騒動の発端となった。
法要も終了し、本堂の縁側でのんびり茶のみをしていた場違いな客人のシスター百合絵は、一族の奇異な視線も何のその、バカ殿の甥や姪たちの相手をしていた。
法華のところの子供たちも大きくはなったが、また腹がでかくなっているのには驚いた。
「あんた何人子供を作る気だ」
と、聞けば、
「だって、いつも間に合わないんだもん、しょうがないじゃない」
と、あけすけな返事が返ってきた。
「最初からつけろ、バカ女」
「あんたと違って、体力あるんだもんしょうがないじゃない」
なんてこと言いやがるんだ、この女。
「ヤルだけ男のあんたと違う」
「うるせえ、そういうおめえだってヤルだけ女だろうが」
と、聞かれたら非常にまずい会話の途中で、住職の咳払いが聞こえた。
「おまえら、こういう話題は別な場所でしてくれんかな、百合絵さんが赤面している」
「あら、ごめんなさい」
さすがの法華も恥らっている。シスター姿の百合絵さんには、かっ飛び女の法華もかなわないか。
「な、なかなか藤川一族もおもしろかろう。うちの婿もな、娘と本堂でやらかしおってな、そこをひっつかまえて跡取りにしたんだな。本当は孝禎にやるつもりだったんだが、このバカの手がついてしまったもんでな」
住職め、本家乗っ取りを謀っていたのか。
「あら、でも孝洋さまもなかなかのお殿様ぶりではございませんの」
「そういってくれると、不詳の仏弟子も浮かばれるというもの」
死んでねえから
それに、殿様じゃねえし
「で、百合絵さんも神の花嫁になる前には、数ある結婚話もあったろうに」
「いえ、わたくしはご存じのように京さまにあこがれておりましたので」
なに?と、法華が怪訝な視線を向けてくる。
あとでな、と耳元でささやくと後ろからいきなり頭を強打された。
「何すんだ、てめえ」
と、まだまだヤンキーな俺はふりむきざまどついたやつを確かめもせずぶん殴れば、
「あら、またやきもちやいて」
と、法華が自分の亭主を助けようともせずに笑う。
「法華は俺のもんだ」
この唐変木野郎は、くそまじめな顔をしている割には、気が短く嫉妬深い。
「また従妹同士だ。文句言われる筋あいはないわ」
と、俺は意に介さない。
うすらでかい唐変木は、ごちょごちょと文句を言っていたが、俺たちが自分を無視して住職と百合絵さんに視線を移したので、口ごもるのをやめる。
「そうか、その年で生娘とは貴重なものだの」
おいおい、僧籍にあるまじき発言だろが。
「あら、わたくし神にすべてをささげてまいりましたから。ですが、やはり京さまに心を残していた自分は、もう神の花嫁でもありませんわ」
唐変木も目ん玉をひん剥いている。
「そう思うのなら、どうだ、ここいらで還俗をしてみてだな、拙僧の嫁になってはくださらんか」
え゛っ。
「住職さま」
「ばあさんが死んで、もう10年になる。許してもらえると思うんだが」
硬直している俺たちを見て、けんちゃんが、
「なんだ、どうしたんだ?」
と、声をかけてきたが、次の言葉に面食らってこいつも硬直。
「まだまだ、元気だぞ。かくいう拙僧も藤川家とは浅からぬ縁がある。男としては立派に役に立つうえに、子づくりも可能だ」
「ま
百合絵さまはぽおっと頬を赤らめた。
「ヤルだけ婿とは違うぞ」
法華たちが一斉に俺を見たが、俺は唖然だ。
「頼む、結婚してくれ、俺は、百合絵さんに惚れたんだあ」
ひえええええええ。
百合絵さんに向かって土下座をした義父の、年も住職の地位も脱ぎ捨てた、男の一吠えは、境内中にこだましたのであった。


細太郎の失恋

2011-10-16 12:13:28 | へちま細太郎

お久しぶりです、ぼくがへちま細太郎です。

夏休み明けから、全然更新しなかったのは、実は…。
作者が阪神の怒涛の連敗にショックで立ち直れなかったからです。
立ち直れなかったのは、ぼくも同じで…。

阪神が神宮で3タテをくらい、タコ壺保健室の匿名希望の東山先生が荒れまくり、自称紳士の片山教授が、東京音頭を傘をさして歌い踊っていたころ、ぼくは久しぶりにりょうこちゃんと会った。
震災以来、初めてだった。多少電話では話したりしたけど、軽く被災したのはぼくたちも一緒で、みんなショックや被害から立ち直るまでに時間が、それでもかかったわけだし。
ぼくはぼくで、いろんなところに手伝いに行かされたりして、正直りょうこちゃんのことを思い出しているヒマはなかったんだ。
「地震のあった日ね」
と、りょうこちゃんがぼつりと言った。
「同じ生徒会室にきょうすけ君といて、きょうすけ君が落ちてくるものから私をかばってくれて…」
なに?あのきょうすけが?
「それで、落ち着くまできょうすけ君が段ボールで私のからだをつつんでくれて守っていてくれたの」
「…」
「すごくきょうすけ君って男らしいな、小学校の時はただの勉強できる人としか見てなかったけど、すごく強い人なんだって思って」
「…」
「で、ようやく段ボールから出てみると、額をちょっと切ってて」
「うっ」
ぼくは、そんな大事な空間をりょうこちゃんと共有していたきょうすけに、ひどく嫉妬した。
「ごめん、私、きょうすけ君がスキになっちゃった」
「…」
ぼくは、一番ききたくない言葉をきき、何も言えなかった。
「…」
泣きたい、今、ここからりょうこちゃんからはなれて一人になりたい。
「ごめんね」
「…」
涙が出そうだ。
「私、高校は孟宗にしようと思ったけど、きょうすけ君が美都一受けるっていうからがんばろうと思って」
う、やばい、涙出そうだ。
「ごめん」
「い、いいよ、いけよ。ぼくが悪いんだ、謝らなくていいよ、いけよ」
それだけいうのが精いっぱいだ。
「ごめん」
なんで、女って謝るんだ?悪いことしてないだろ。
「ごめんね、私、ほんとうは…」
この後に及んで何を言うんだ。
「行けよ、行かないならぼくが行く」
ぼくは、りょうこちゃんに背を向けて歩き出した。
くそ、涙出てきたぜ。
女なんか、大嫌いだ。
いや、何で、おんなじ中学校にいかなかったんだ、そうすれば、地震の時、一緒にいられたじゃないか。きょうすけなんかにとられたりしなかったはずだ。
ぼくが須庭寺で住職さまたちにこき使われていた時、副住職さんにどつかれていた時、りょうこちゃんの傍できょうすけがりょうこちゃんを助けていたんだ。
ちきしょ~
バカ野郎
誰にも会いたくないぜ~
と、泣きながら須庭寺の本堂の須弥壇の裏の隠れ部屋に立てこもったぼくだった。
そのあと、副住職さんに、どつかれたのも堪えたわ~。