へちま細太郎

大学院生のへちま細太郎を主人公にしたお話。

おとうさんへ おかあさんへ

2006-03-26 23:59:37 | へちま細太郎
ぼくは、むずかしいことはわからないよ。
あんなせつめいじゃ、よけいにわからないよ。
わかったのは、おとうさん、おかあさんのことがまだすきなんだね。

おとうさん、おかあさんが今どうしているのか、ほんとにわからないの?
生きているのなら、どうしてぼくたちに会いにこないんだろうね。
わすれちゃったのかな? だとしたら、おかあさんもずいぶんだよね。



おかあさん、おかあさん、おねがいだよ。おとうさんに会いにきて。
おとうさん、かわいそうだよ。
おかあさん、おとうさんのこと、わすれちゃった?
ぼくのこと、わすれちゃった?

ぼく、むずかしいことはわからないけど、ひとつだけたしかなことはいえるよ。
ぼく、おとうさんが大好きだよ。

でも、なんかふにおちないことがあるんだけどな。
おとうさん、おかあさんの名前が梨香だってわかったけど、リカちゃん人形の頭をなでるのは…やっぱりへんだよなあ。
なっとく、いかないよなあ。。。

ね? みんなもそう思うよね。

おとうさんの告白

2006-03-24 18:50:45 | へちま細太郎
細太郎、これから話すことを黙って聞いて欲しい。
おじいちゃんもおばあちゃんも、まだ早すぎるというけれど、おとうさんは話してもいいと思った。
たぶん、ショックを受けるだろう、傷つくかもしれないけれど、やっぱりほんとのことを話しておこうと思った。

細太郎、まずは「リカ」ちゃんなんだけど、おまえのおかあさんの名前なんだ。
梨に香り、という字を書くんだ。
きれいな名前だろう。
名前の通り、梨香はきれいな人だった。

細太郎、おとうさんとおかあさんは、離婚はしていないんだよ。
じゃあ、今でも奥さんか、というとそれは違う。
おとうさんとおかあさんは、結婚していないんだ。

僕が初めて梨香に会った時、梨香には結婚相手がいて、僕の片思いだった。
梨香は僕よりも5歳年上で、僕が通っていた図書館に司書として勤めていた。
梨香のうちは大きな病院で、医者にならなかった梨香は、病院を継ぐために見合いをしてお医者さんと結婚することになっていたんだ。
僕は梨香に一目ぼれしたけど、話しかける勇気もなくて、ましてや婚約者がいる女性に恋したなんて、なんとなく気まずかった。
それでも、何とか目が合うようになって、挨拶をするようになって、言葉を少しだけ交わすようになって、僕は嬉しい反面だんだんつらくなっていった。
そして、僕は後悔したくなかったから、という理由で思い切って告白した。
梨香は困ったろうね。
僕は、相手のことも考えないで自分の気持ちばかり優先する、ただの子どもだったんだよ。
返事がもらえなくても、梨香が僕をさけても、僕は毎日図書館に通って何かと理由をつけては梨香と話したかった。嫌われてもいい、と思った。
ストーカー?
そうだよね、ストーカーだよね。
参ったね。

でもね、梨香が僕をさけていたのは、ほんとは僕が嫌いじゃなくて、僕のことがほんとは好きだったんだって。
それに婚約者がいなくても、年上だということに気兼ねして、告白されても知らないふりをしていただろうって、話してくれた。
梨香も、つらくて耐えられなくなっていたんだ。

僕たちは、誰にも内緒で付き合い始めた。
梨香が結婚するまで、という約束だったけど、でもそれもできなくなっちゃった。
梨香のお腹の中に、細太郎ができたんだ。
細太郎、僕は嬉しかったんだよ。
梨香も嬉しかったんだよ。
でも、現実は、誰も細太郎の誕生を喜ばなかった。

それからのことは、僕はあんまり覚えていないんだ。
梨香は、両親と婚約者の激怒にも耐えて、細太郎を産むとがんばってくれた。
気がつくと、僕の手に細太郎が残されていた。
それから、梨香がどうしているのか、僕は知らない。
というか、忘れちゃったんだよ。
辛かった日のことを、僕の心が封印しちゃったみたいだよ。
誰も教えてくれないし、僕も聞こうとしなかった。
僕がただひとつ理解したことは、自分のことだけでなく好きになった相手のことも考えなくちゃいけないっていうことかな。

僕が、覚えているのは、楽しかったことだけだ。

細太郎、おまえがおとうさんをどう思うか、おまえの判断にまかせるよ。

あ、おまえの名前、おかあさんがつけてくれたんだよ。
いい名前だろう。
ちゃんと、漢字で書けるか?

「かける」という字は、「翔」と書くんだぞ。

「細太郎」もおかあさんがつけたんだ。
おまえ、生まれた時、細くて小さかったからなあ。。。










押さえのエース?藤川おこる・・・

2006-03-23 15:26:07 | へちま細太郎

藤川だ・・・。

俺は、キれた。
自分で言うのもなんなんだが、この端正な顔立ちの俺に、これから合コンに行くというこの俺に、こともあろうにあの細太郎のクソガキが納豆入り豆腐をぶつけやがった。
世の中には、していいことと悪いことがある。この家族は、細太郎が素直でいい子であるということをよいことに、全くの基本的なしつけをしていない。
光一のバカが、小さいころに女装しようが(俺だって姉貴のスカートをはいた記憶がある)、リカちゃんを持っていようが、髪をなでようがどうだっていいことだ。
問題は、この犬にリカちゃんといういわくつきの名前をつけた時点で、家族がそろいもそろって反対しなかったことだ。
はっきり言うぞ。リカ・・・梨香と書くんだが・・・それは、この細太郎の母親の名前だ。
梨香とのことで光一がどれだけ傷ついているか、俺は広之から聞いて知っている。
ヤツが母親のことで細太郎に負い目があることもわかるが、はっきり言うべきだ。
細太郎も、父親がどれだけ今回のことでショックを受けているか、細太郎も理解するべきだ。

俺は、ドアと壁に手をかけると、思いっきり足を振り上げチェーンを踏み切った。
俺に踏まれている剛は、俺の力がかかって、
「ぎえっ
と悲鳴を上げた。
「どけ
ドアを開けると中に飛び込んだ。
「細太郎
俺は、床に座ってフライパンをたてにしている細太郎に突進していった。
犬のリカが立ちはだかって吠え立てたが、俺はかまわない。
「何だよ、入ってくんなよ、ナンパ野郎
「あ~誰に向って口きいてんだあ
びくっと細太郎がおびえた表情をした。
「もういっぺんいってみやがれ誰に向って口きいてんだ?あ?このクソガキが~
細太郎の表情が恐怖に変わる。
俺は細太郎を後ろ向きに肩に抱え上げると、思い切りケツを叩いた。
「いたあい
「痛いじゃねえだろうが
ようやく起き上がった剛が中に飛び込んできて、
「何してんですか、藤川さん」
と、俺を止めようとする。
「あ?」
俺はそのままの姿勢で振り返った。
「げっ」
俺にすごまれた剛は後ずさりして、及び腰になった。これで警察官だっていうんだからあきれたもんだ。
「おろしてよ~おろしてよ~
肩の上で細太郎が暴れた。
「いや、降ろさない」
「おとうさんならそんなことしないよ~おとうさん、たすけてよ~
結局、オヤジを頼るんじゃねえかよ。
「うるせえな、オヤジに助けを求めるなら、なぜオヤジをバカにした」
「してないよしてないよ
「じゃ、なぜ、この犬にリカってつけた」
細太郎はいったん動きをとめ、息を吸った。次の瞬間左足を大きく振り上げた。
みえみえだ、細太郎。
俺は、細太郎の足をぐいっとつかむと、
「こんなことぐらいで俺がやられると思ってんのか」
「うるさい、おろせおろせ。犬になんて名前をつけようが自由だろ、おろせ」
「いいや、降ろさねえ」
「おまえには関係ないだろう、おろせよ、ナンパ野郎」
足をばたばたとさせる。足が顔に当たろうが、俺はかまわない。
「死んじゃえ、バカバカおとうさんおとうさあん助けてよ、おとうさあん
剛は、真っ青になっている。
光一も剛もおふくろには殴られて育っているが、親父にはあまり叱られた記憶がないらしい。ましてや、俺のようなヤンキーに絡まれたこともない。
剛や広之は公立の進学校、光一は中高一貫の私立の進学校だ。
俺とは違い、優等生の王道を歩んでいる。
ま、広之は・・・別だけどな。。。

「細太郎・・・、黙れ」
俺は、静かに言った。
「おまえが暴れていては、おとうさんは何も話してくれないぞ」
ドアの間に光一の姿が見えた。
「うるさい、うるさい」
「そうか、じゃあ、ほんとのことをおとうさんではなく、俺が話していいんだな」
「え?」
細太郎は、動きを止めた。
光一が、ゆっくりと中に入ってきた。
ほんと、いつもながら物音をたてず、泥棒みたいに現れるやつだ。

さて、俺は疲れたから、引っ込むかな。
押さえは、長いイニングは無理なんだ。。。


押さえのエース、藤川・・・?その3

2006-03-20 11:49:28 | へちま細太郎

はあい、ベイビー、ぼくのキティちゃんたち、藤川だよ~

なんか、元気ないって?勢いがない?
そりゃ、当たり前さあ。俺にとってのビタミン剤は女の子だからね。それが、今日はあの親子のおかげでヘロヘロ~。
え?リカちゃんになつかれたからよかったろって? 犬に頬を寄せられても嬉しくも何ともねえぜ、バカ野郎。。。

 こ~いっちゃんの弟の剛は、SITだかSATだか知らないが、なんだかえらそうなことを言って突入を試みようとしている。
まぢ、大丈夫かあ?
「細太郎、君はすでに包囲されている」
は?
「速やかに投降しなさい」
何言ってんだこいつ。
「細太郎、このまま立てこもるつもりならば、強硬手段もやむをえない」
おい、おい
「細太郎、おとうさんが泣いているぞ」
・・・。
「おばあさんも落ち込んでいるぞ」
確かに、天変地異がおこる前触れのようだ。
「おじいさんも心配しているぞ」
それは、うそだな。
中からは全く応答がない。
剛は振り向くと、
「それでは、ぜろぜろさんまるじ、突入です」
なんだ、それは・・・。
「おい、わかるように説明しろ」
「だからね、12時30分に部屋に乗り込むってことですよ」
「ガキ1人に、やけに大げさだな」
「何言ってんですか、基本が大事ですよ基本が」
「マニュアルってやつか・・・」
俺、こいつの対する評価改めよう・・・。こんなアホだとは思わなかった・・・
「では、いきますよ~」
ドアに手をかけ思いっきり引っ張ろうとしたが開かない。
チェーンを引きちぎるつもりかい。。。
しばらく、うんうんうなっていたが、
「見てないで手伝ってくださいよ」
と、真っ赤な顔をしている。
「やだね」
俺は、首をふる。
「俺には体力勝負は似合わない」
すかさず剛は、
「婦警との合コン
と言ってきた。
「やる」
俺は、飛びついた。
剛はドアの隙間に足を入れ、俺はノブを握った。
「せえので、いきま・・・いってえ
剛は、足のすねを押さえて転がった。
「どした?」
俺は、悶絶している剛を顔をのぞきこむと、
「あついつ、すねを蹴りやがった
そりゃ、痛いわ。。。
「おまえ、SITってほんとかあ~?」
俺は、剛の体を跨いでドアの隙間から中の様子を窺いながら、たずねた。
「先輩がSITで、個人的にレクチャー受けただけですよ」
「バカか、それじゃあ、何でもなかろうが
と、俺は剛から視線を再び中に移した途端に、べちゃっと顔に何かがぶつかった。
「ひえっ、な、なんじゃあこりゃあ
俺は、顔にぶつけられたものを手にとってみた。
豆腐に納豆が混ぜ込んだやつだ。
「細太郎、てめえこのクソガキ
俺は、確かに納豆と豆腐の混ぜたものは好きだが、ぶつけられるのは好きじゃねえ。俺は、これから合コンなんだ。

このクソッタレ親子

俺は、剛をふんずけ、
「いて、いて、藤川さん、痛い
「やかましい黙ってろこの役立たず
と、剛を怒鳴りつけると、
「細太郎、ここまでやるのなら、覚悟をしてんだろうな。俺を怒らせるのは、ガキの分際で100年はえんだ

俺は、元ヤンキーなんだ。ガキでも容赦しねえ。。。

・・・。



押さえのエース、藤川・・・?その2

2006-03-18 14:44:44 | へちま細太郎

へろー子猫ちゃんたち藤川だよ~

毎度・・・

しかし、なんだね、問題ありの親子だね。
こ~いっちゃんもさ、女に捨てられ、男でひとつで息子を育ててきたのはわかるよ。
だからといってさ、細太郎にごねられたからといって、夜も昼も明けないって顔は情けなくね?(お~、高校生言葉を使ってしまった・・・ただし、田舎モンの)。

俺は、犬のリカちゃんを連れて、こ~いっちゃんのアパートに向った。
この俺が、何で犬を連れて歩かなくちゃなんねえんだ?カンベンしてくれよ
メスだからいいだろうって?
バカ野郎。。。
生徒に見られたら恥かしいだろう?
こ~いっちゃんのアパートに行くと、ドアの前にこ~いっちゃんの弟の剛が座っていた。
こいつはしっかりもんでな、愚兄賢弟の典型的なパターンだ。警察庁準キャリで(キャリアじゃないところが、こ~いっちゃんの弟らしいんだが)、俺に負けないくらいに女にモテまくりなところが、ムカつくことかな。。。同じ大学出ているのに~くそっ
「どしたの?」
俺は、剛に犬を押し付けるとドアのノブを回した。
「開くじゃん・・・あ~?」
チェ~ンだ。
「ったく、親そっくりなクソがきめ
犬が開いたドアの隙間から中に入っていってしまった。
「犬が口きけりゃ助かるんだげど・・・」
と、剛が中をのぞくと犬が顔を出した。
口に何かをくわえている。
「何だこりゃ」
犬は紙落とすと、じっと俺の目を見ている。
「とっとと帰れ・・・?」
犬は、

わん

と一声ほえるなり、すっと中に戻ってしまった。
犬までなめくさりやがって、この俺をなんだと思ってんだ
ちきしょう あのバカにかかわると、女運が悪くなるのは、いったいどうしてなんだあ~頼むよ、こ~いっちゃん、俺に女運を返してくれ~

剛がすくっと立ち上がって、
「こうなったら、実力行使ですね。警察のSITの実力をおみせしましょう」
と、上着を脱いだ。
「あ~?」
俺は、あっけにとられる。
「お、おまえは、木島丈一郎かあ
踊る大捜査線じゃねえんだよ~。
主役は俺のはずだろう。。。
俺より、目立つなあ~。

なに?ざまみろ?
ば、バカ野郎・・・。お、俺は、身内に手柄を譲っただけだ・・・。
俺は、人が好いんだ。。。

次回に続いてやるぜ、ば、ばかやろ~お

SIT・・・Special Investigation Team・・・警視庁特殊捜査班
     人質・誘拐などを担当し、各都道府県警刑事部捜査1・2係におかれてい      
     る。警視庁の特殊捜査班にかぎって、“SIT”という。
     ・・・らしいよ~
      詳しくは自分で調べなさい。

 

 



 



押さえのエース、藤川・・・?

2006-03-17 20:31:23 | へちま細太郎

どおもお、再び、藤川でえす。。。
はあい、ぼくのベイビーたち、元気にしていたかなあ~
はう、どぅゆ~どぅ~?。
あ~いむふぁい~ん

何で出てきたかって?このバカ野郎?とっとと引っ込め?。
うるせんだよ
この最悪な状況を回避できるのは、この俺しかいないだろうっての。
あ?ふざけたこと言ってんな?。
誰に向って言ってるわけ?。
ったくなあ。。。

そんでさ、土曜日に俺はまた合コンを計画して、昼ごろこういっちゃんを拉致りにいったわけ。そしたら、入るなり犬にじゃれつかれ、おれのGパンの裾を噛んで引っ張るんだよ。
なんだ、この犬

で、犬がぐいぐい奥まで連れて行こうとするから、俺はなんだか変に思い勝手知ったるこういっちゃんの家とばかりに居間に入っていった。
と、家族全員が雁首そろえてうなだれている。あのおっかさんまでしょげている。
おやじぐらいだ、茶なんか飲んでんのは・・・
細太郎の担任で親戚のお兄ちゃんの広之までいた。隣にいるいい女は、広之の女房の慶子だ。この俺がくどいても落ちなかった女だ。
ま、そんなことは後にして・・・。
「どうしたんですか?」
家族より早く、返事をしたのは犬だった。

「わん」

わかんねえ。。。

「細太郎の分のおすしまで食べちゃった」
「あ?」
「みんなで、細太郎を慰めるつもりでとったお寿司を、あいつが眠っているのを忘れて食べちゃったんだよ」
「へ?」
おやじさんが、何気そうに答えてくれた。
俺は、なにが起きたのかわからなかったが、瞬間想像がついた。
きっと、細太郎がまたごねだしたんだろう。。。
「で、細太郎はどこ」
俺は、思わず犬の顔を見てしまったら、犬はうなだれて後ろをむいた。

こいつも、寿司を食ったんだな。。。

犬が知らん振りを決め込む時の、お得意のポーズを見下ろして、
「おまえ、名前、リカちゃんだろ」
と、なんとなくピンときて犬を抱き上げたら、尻尾を振った
なるほど・・・。
「細太郎、2階か?」
と犬を赤ん坊のように抱っこすると、犬も心得たもんで頭をすりよせる。

しょうーもねえなあ・・・。

で、こんな時に意外と頼りになる広之に尋ねると、
「アパートにいるよ」
と、こういっちゃんを気の毒そうに横目で見ながらこたえる。
「こりゃまた・・・」
細太郎もやっかいな性格だな・・・。誰に似たんだ・・・。

父親か・・・。

肝心かなめのこういっちゃんは、クラゲみたいにやる気がなさそうだ。
俺は、とんでもないところに来合わせたなあ、とため息をついた
ついてねえ。。。
が、俺は、なんとなくこの一連のバカな騒動が、俺の肩にかかっているというのを感じ取っていた。

くそっ、また、光一のせいで女を取り逃がしたか・・・

疫病神なやつ。
俺は、それでも人が好いから、人肌脱いでやろう、という気になっちまったんだなあ。。。

な、俺っていいやつだろ?
あ?自分でそんなことをいうやつは信用できねえ?
てめえ、前回も俺をコケにした野郎だな?
なに、野郎じゃあねえ?
・・・、俺、気の強い女、タイプだぜい・・・なわけ、ね~だろっ

くそ・・・

つーびーこんてにゅーだ



ぼくの・・・

2006-03-17 10:32:33 | へちま細太郎
おじゃまします、細太郎の担任で、親戚のお兄ちゃんの佐良田広之です

きのう、細太郎の思わぬ爆弾発言で、しばし硬直状態の細太郎一家でしたが、細太郎の興奮が納まるまで保護者一同は一言も話せませんでした。
細太郎の父こーちゃんはしょげ返り、おばさんはため息ばかり、おじさんは…お、おじさん?あ~、隣の部屋で茶飲んでます。。。

相変わらずのんきなオヤジだ

犬ぐらいでしょうかね、細太郎の涙をなめ、ほおを摺り寄せて慰めているのは。
細太郎、実はなあ…、リカちゃんというのは…。
こーちゃんが何も言わないのであれば、ぼくからは何も言えません。
今は、細太郎、おとうさんを気持ち悪いって思っても、理解する日がくるだろう。それまでの辛抱だ。。。

…確かに、あんまり想像したくはないが…

細太郎は、泣きつかれて眠ってしまった。
おばさんが、犬を抱きかかえ、
「どうれ、リカちゃん、きれいきれいしましょうねえ」
と、こちらがギョッとするような言葉をはいて、チラッとこ~ちゃんを見た。
「光一バカかおまえはっ
こ~ちゃんは顔をあげた。
「いつまで細太郎をこのままにしておくつもりかおまえがやらずに誰がやるんだっ
と、いつものように怒鳴りつけると、さっさと風呂へ行ってしまった。
こ~ちゃんはのそのそと立ち上がると、床にうつ伏せで眠っている細太郎を無言で抱き上げた。
と、おじさんが顔を出して、
「寿司とっておいたぞ。広之、嫁を呼べ。剛も帰ってくるから、みんなでメシを食おう」
と、こ~ちゃんに早く細太郎を連れて2階に行けと促し、ぼくはおじさんののんきさをうらやましく思いながら、携帯を取り出した。

しばらくして、
「はいはい、リカちゃん、きれいになりましたよ~。お寿司食べようねえ」
おばさんが犬を拭きながら出てきた。
「おばさあん、リカちゃんはまずいでしょ、リカちゃんは
と、ぼくは犬の頭をなでる。
「いいじゃない別に。世の中、同じ名前の人間は大勢いるんだから」
「犬ですよ~」
「じゃあ、ハチでもいいのかこの子はイヤだと言ったよ、ねえ?」
と、犬に同意を求めた。犬も、
「わん」
と一声吠えると、尻尾を激しく振る。
「まぢ?」
ぼくは、犬の鼻をつんと押し、
「リ~カ」
と呼びかけた。
犬は嬉しそうに尻尾を振り、やがて2階から降りてきたこ~ちゃんの足下にじゃれついた。
こ~ちゃんは、犬を抱き上げて、
「リカ」
と一言つぶやき、犬を抱きしめて泣き出した
「リカ、リカ」
まだ、忘れてないのか…こ~ちゃん。
「バ~カ」
おばさんはそうつぶやくなり、部屋を出ていこうとしたが、
「光一、お寿司代、払っときなさいよ」
と、泣いている息子に無慈悲な言葉を投げていってしまった。

なんて、血も涙もない女なんだ…

さて、ぼくの妻の慶子と久しぶりに帰ってきたこのうちの次男の剛を交えて、ぼくらは特上寿司にビールにと、舌鼓を打った。犬のリカもおすそ分けをもらい、大満足だ。
うまい物やアルコールに、湿っぽい話は似合わない。
すべてはうそのように、ぼくらは団欒を楽しんだ。
でも、ぼくらは忘れていたのだ、大切な人物を…。
「ぼくの分は?」
寝ぼけたような声が聞こえてきて、ぼくらは一斉に声のした方を振り返った。
「ぼくのおすしは?」
細太郎がもう一度たずねた時、凍りついたぼくらは、再びテーブルの上をみた。
そこには、空になったお寿司の入れ物が残っているだけであった。。。

「ぼくのおすしはあ~

わんわん(おいしかったよ・・・犬がいった・・・


細太郎、爆発する

2006-03-15 18:51:04 | へちま細太郎

おじゃまします、細太郎の担任で、親戚のお兄ちゃんのさらだです
漢字で、佐良田広之、と書きます。
何だと思いましたか?

ぼくの目は、たれていて細いんです。笑った顔だって言われますが、ほんとはおこった顔をしている時もあるんですよ~。
色は・・・普通です、白くありません。
脱いだら本気ですごいんですが、別に見せびらかそうとは思っていません。
弱そうに見えますが、実は空手三段なんです
中学高校と体操部でした。今でも鉄棒の大車輪できます。跳馬だって、塚原ぐらいはできます。
うそじゃありません。
すべて、この細くてたれた目が原因なんです。弱くて笑った顔に見えるようなんですが、ぼくは気にしていません
自慢しないだけです。
奥さんにご飯を作ってもらえないとか、おばさん先生にいじめられているとか、子どもたちはいいますが気にしていません。
ぼくは妻を愛していますし、妻はきちんと家庭のこともぼくのことも大切にしてくれます。夫婦のことをとやかく言われたくありません。

とくに色が白くて、結婚生活もまともにおくれなかったやつには・・・

犬を連れ帰った金曜日、細太郎の思わぬ命名にあのバカは執拗に、
「その名前だけはやめてくれ~」
と、細太郎に泣きついたが、あの子は頑として受け付けない。しかも、これみよがしにあのバカの前で、
「リカ、リカ」
と犬を呼ぶ。犬もこの名前に尻尾を振って応えている。

けっこう、お気に入りかも(と、犬が思った)

さすがに見かねて、
「細太郎、その名前だけはよした方がいいんじゃないか?おとうさん、困っていないか?」
と、細太郎の前にしゃがみこんでじっくりゆっくりと話しかけてやる。
細太郎はぼくの目をにらみつけて、
「絶対イヤだ」
と強情だ。
「じゃ、じゃあバービーちゃんなんか、どうだ?」
ぼくは、フォローしたつもりだったが、実はぜんぜんフォローになっていなかったらしい。リカちゃんと一緒にバービー人形もあったんだってさ
細太郎の顔が引きつってきた。
「細太郎おとうさんの気持ちも考えてやれ」
細太郎は、あのバカ・・・じゃなくて、こーちゃん(ぼくはこう呼んでいます)をじっとにらんで、
「人形の頭なんかなでてる気持ちの悪いやつなんか、嫌いだ」
と、叫んだ。

わ、わん?(これには犬もびっくりだ)

「に、にんぎょう?」
と、おばさん。
「・・・の頭を・・・?」
と、おじさん。
「な、なでたあ
と、ぼく。
こ~ちゃん、真っ青。
「ぼくだって、ぼくだって、女の子のかっこしたいと思ったことあるよ。ひっく、ひっく、リカちゃんだって、ひっく、かわいいと思うよ、ひっく、だけど、だけど、大好きなおとうさんが、おとうさんが、ひっく、人形のかみの毛なでるなんて、きもちわるいよ
わあんと、細太郎が泣いた。。。

ほそたろう。。。


その名は、リカちゃん

2006-03-14 13:46:52 | へちま細太郎

こんにちは、へちま細太郎です

ぼくは、さらだ先生と一しょに犬をつれてうちにかえりました。
「あらやだ」
おばあちゃんの犬をみた第一声がこれでした。
「だめ?」
ぼくはおそるおそる聞きました。
「メスでしょ?仔犬生ませて、太らせて犬鍋にしよう」

(犬もおどろいている)

「お、おばあちゃん・・・
ぼくのクラスのよしこちゃんたちと同じこという。。。
「お、おばあちゃん・・・おばあちゃんって、やっぱり女だったんだあ」
ぼくは、ショックのあまりとんちんかんなことをいってしまった。
さっきから、こうちょくのさらだ先生。。。こういうときは、いつも役立たずだ。
「なあに言ってんのおばあちゃん、まだまだ現役よ
「へ?」
これには、さらだ先生が息を呑んだ。
そしておじいちゃんも、
「カンベンしてくれ
とあせっている
ぼく、わけわかんないから、
「ね、広之お兄ちゃん、どういういみ?」
と、さらだ先生をふりかえると、顔がひきつっている
「お、おばさん、これ以上は禁句ですよぉ。細太郎に説明できません
「あら、ほんとのことじゃない?広之、あんたもね、女房の尻の下に敷かれているようでは、まだまだよ~」
さらだ先生は、頭をかかえこんでしまった。

あ、説明してなかったね。実は、さらだ先生は、ぼくの親せきのお兄ちゃんなんです。おばあちゃんのいとこの子どもなんだって。だから、うちにいるときは、ぼくは“先生”じゃなくて“広之お兄ちゃん”ってよぶんだよ。おじさん(おじさんだけど、やっぱり剛お兄ちゃんってよんでいます)と同じとしで同じ高校と大学にいっていたからいつもあそびにきていて、ぼくのおしめをとりかえたっていってた。
ぼくのおちんちん、みちゃったんだってえ

「ま、いいや、いい運動になるから、うちで飼おう。風呂場で洗っておいで」
おばあちゃんが、とうとつにいいました。
「え?いいの?」
「いいも悪いもへったくれもないでしょ。連れて帰ってきちゃったんだ。今さら捨てて来いだなんて、そんなことさせるわけにはいかない。それに・・・」
おばあちゃんが犬の手をとって、
「細太郎にも、兄弟は必要だもんね」
と、犬相手にあくしゅをしている。
「名前は何にしようか・・・。今までなんて名前だったんだろうね。ポチかな?」

犬なら、何でもポチかい・・・(犬が思った)

「もう、名前は決まっているよ」
ぼくは、犬に頬ずりしながらいいました。
「この子にぴったりの名前だよ」
「まあ、早いこと」
おばあちゃんは、あきれています。
「一通り名前を呼んでみて、返事したらそれが名前なんじゃないの?名前変えたら混乱しないかな」
おじいちゃんも犬の手をとってにこにこしています。
「う~ん・・・ハチ

それじゃあ、伊佐坂さんちだよ・・・(犬が思った)

「名前決めたっていった
ぼくは、ハチなんてへんな名前はいやだったので、ムキになってはんろんしました。
「じゃ、何てつけたの?」
ぼくは、さらだ先生・・・広之お兄ちゃんに向ってにこっと笑うと、
「リカちゃん
と大声でいってくるっとふりかえりました。
そこには、
「ほ、ほそたろおおおおおおおお」
と、ひんけつをおこしそうなほどまっさおな顔をしたおとうさんが立っていました。

げっげ、げろげろ~



いぬをかいた~い その3

2006-03-13 22:46:25 | へちま細太郎
こんばんは、へちま細太郎です

日にち、あいちゃって、ごめんね。。。犬のおはなしのつづきです。。。

ぼくは、タッパーのお弁当箱をなめている犬をじっとみながら考えました。
もし、みんなが犬をかわなければ、この犬はどうなっちゃうんだろうか。
犬は、食べるものがなくて、うえじにしちゃうかもしれない。雪がふっても雨がふっても、あたたかいばしょがなくてぬれたまんまになってかぜをひいちゃうかもしれない。 ぼくが、あたたかいこたつに入っておいしいご飯を食べているとき、この子は外で1人でふるえている。この子は、毎日学校にいてぼくたちがくるのを待っていて、給食ののこりをもらって、みんなとあそんだあと、またぼくたちがかえるのをみおくって1人ぼっちで学校にのこってさびしい思いをするんだろうな
あ、もしかして、ほけんじょにつれていかれちゃうかも。車にひき逃げされたらどうしよう。
犬は、タッパーをなめおわるとぼくの顔をじっとみました。そして、みんなの顔もぐるっと見回しました
みんな、だまっていました。きっと、ぼくと同じ気持ちなんだと思います。
おだじま先生が、この子がいたお茶の木の下を調べて帰ってきました。
「やっぱり、捨て犬だよ。縄でお茶の木に結ばれていたみたいだ。ひでえよなあ
それをきいたさらだ先生が、
「みんな、帰ったらうちの人と相談しておいで。そして雌犬でも飼ってもいい、といわれたらうちの人と学校に連れにきて」
と言いました。
「先生、それまで学校で待っているから」
みんなは顔を見合わせています。しんいちくんはもじもじしています。しんいちくんは、この犬がかいたいんだなあと思いました。しんいちくんはやさしいし、きっとこの子もすきになるはず、と思ってるうちに、やきもちをやいちゃった。
この子がしんいちくんのものになるのは、ぼくはがまんができなくなってしまった。 この子は、ぼくがみつけたんだ。この子はぼくをみつけたんだ。
「ぼく、かうよ」
気がついたら手をあげていました。
「細太郎、おうちの人と相談しなくていいのか?」
さらだ先生はあわててききました。
「いい、だいじょうぶ。ぼく、おじいちゃんとおばあちゃんによくはなして、この子をかってもらう。ぼく、この子とくらしたい
と、さらだ先生にゆっくりとじぶんのきもちをはなしました。犬は、ぼくの手をなめてきました。 この子もぼくといっしょにいたいんだ、と思いました。
「そっか」
さらだ先生は、ぼくとこの子をかわりばんこにながめて、
「細太郎、先生もいっしょにいってやるよ」
といってくれました。
「へいきだよ~」
ぼくはこたえましたが、ちょっと力づよいかも。。。

でも、先生、うちでご飯食べるの、なしだよ。。。