へちま細太郎

大学院生のへちま細太郎を主人公にしたお話。

祭のあとは…

2011-06-29 22:44:02 | へちま細太郎

こんばんは、へちま細太郎です。

文化祭での水戸黄門対美都田吾作の芝居は、結局お家騒動の真っただ中の学園には田吾作が黄門様に、
「こらしめてやりなさい」
と言われるに及んで大うけしていた。
黄門様役の野茂は、見に来ていたおじいさんにめちゃくちゃ叱られたらしいが、そこでくじけるようなやつじゃない。逆に最後までわがままを通したはるみは、終わってからも文句ばかりいっていたけどさ。
で、今日のLHRの時間、期末テストの日程が配布されて、ぼくらは現実に引き戻された。
「中三のおまえらは、このまま進級するのか、受検をするのか考えているだろうが、どっちを選んでも大切だからな」
浜中先生の注意も上の空で聞き流し、頬杖をついてため息をついた。
「こらあ、近藤~、頬杖なんかつくなあ」
「うっ」
ぼくは慌てて頬杖をやめ、ぺこりと頭を下げた。
「おめえ、まさか、このまま高校に進級しねえっていわねえよな」
と、サンダルを引きづりながら浜中先生が近寄ってきた。
「あ、え~と、考え中です」
「考え中だああ?」
ぼくは肩をすくめてぺろりと舌を出した。
「次にそんなことをきいたら承知しねえかんな」
浜中先生は、ぼくをぎろりとにらみ、ついで教室をぐるりと見回した。
「とにかく、しっかり勉強はしとけ」
「はあい」
やる気の出ないのはこの際おいといて、正直、このまんま藤川家のごたごたに巻き込まれるのはごめんだなあと、ぼくはまたまた深いため息をついた。

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ちりめんじゃこやの…

2011-06-24 23:24:42 | へちま細太郎

こんばんは、へちま細太郎です。

明日から文化祭なんだけど、なんだか応援団騒動でしらけムードだった。
いつもなら鍋奉行みたいな中島教授は寝込んだままだ。
「面白い台本なんだけど、なんだけどねええ」
野茂は頭を抱えている。3年生になって野茂が頭を抱えないことはないくらいだ。
はるみは、ぼくと秀兄ちゃんがまたいとこと知って、
「なんで教えてくれなかったの」
と、文句たらたらだ。
「なんで、あたしが霞のお新なのよ」
知るかよ、一生そばやをやってろ、ばか。
「お銀じゃなかったの?」
と、たかのりに詰め寄れば、
「だって、おめえ、やだっていったっぺよ」
と、怒鳴り返された。
はるみのことより、何でぼくがうっかり八兵衛なんだよ。
「だけど、なんでたかのりが田吾作なんだよ」
「あいつ、食いすぎの胃下垂で痩せてたってきいたのに…」
田吾作の調理道具を振り回して、水戸黄門役となぜか忍術ごっこをするたかのりに、
「大物だなあ」
と、吾平どん役の野茂がつぶやいたのであった。
う~ん、世が世ならご家老様のお孫様らしいんだけどねえ、似合ってるよ。

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暑い梅雨の晴れ間の午後

2011-06-22 21:48:42 | へちま細太郎

こんばんは、京よ。

で、代々のうちの家臣どもが、本家の跡継ぎを巡って大騒ぎしているって。
なんてこったい。
須庭寺の本堂で、百合絵とヤンキー弟の嫁と茶飲みをしていると、バカ弟が爆音をとどろかせて帰ってきた。
「あれでよく檀家が怒らないね」
「慣れたみたいですよ。藤川の名前がものをいうみたいで」
「へえ」
このバカ野郎な弟は本来ならば婿養子になるべきところ、かたくなに拒否をしている。
理由はかっこ悪いらしい。
「最近はやりのビッグ(バイク)には絶対乗らないんだよね。元ゾクの沽券にかかわるのかな」
弟の750ccバイクは、ぴかぴかに磨かれてそりゃもう見事なもんだわ。僧服にあっているとは思わないけど。
「おかえり」
嫁が熱いお茶を出せば、バカ弟は作務衣に着替えたもののだらしなく着崩した姿で茶をずすり。
「今日は、どこへ行ったの」
「知事だよ。法事の打ち合わせ」
と、せんべいをかぶり。
「知事も本家の騒動を知って笑っていたな。体に欠陥があるんじゃないかって」
すると、百合絵が、
「あら、どこかお悪いんですの?」
と、間の抜けた発言をして、思わずみんなで苦笑しちゃったわよ。
「まあ、結婚したくない気持ちもわからくはないが、いい加減立場をわきまえてもらわないと、種馬としての役目が果たせん」
「あら、種馬とはどのような品種ですの?」
う~ん、昔からすっ呆けたお嬢様だとは思っていたけど、この年になってもこれじゃたまらんわ。
おとなしくオーストラリアの本校の修道院にこもってりゃよかったのに、何で日本に帰ってきたのかね。
もてあまされたのかなあ、それなら納得いくけどね。

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藤川先生しょげかえる

2011-06-21 23:34:40 | へちま細太郎

こんばんは、へちま細太郎です。

昨日の秀兄ちゃんの話をおばあちゃんに伝えたら、
「バカじゃないの、いつまで時代劇やってんのよ」
と、相手にしない。
「それだから、いつまでたっても田舎もんの田吾作っていわれるのよ」
まあ、そうだけど。。。
「いまさら、旧大名家の相続争いっていったって、もう一般人なんだし、他人が口だしできるものでもないはずだけどな」
と、いうのはおじいちゃんだ。
「県庁でも知事がその話題を取り上げて、結局はバカ殿が意味ありげに独身なのがマズイだろうっていってたな。結婚しないのは、からだに欠陥でもあんじゃねえのか?と心配してたし」
「体に欠陥って、なに?」
ぼくは真剣にわからなかったので聞き返すと、
「まだわからなくてよろしい」
と一喝された。
う~ん、どんな意味だ。
「おりゃあ、毎朝元気だぞ」
藤川先生がのそりと入ってきて異議を唱える。
「まだまだいけるぜ」
と、下半身を突き出してポーズをとったとたんに、後ろからおとうさんに殴られた。
「子供の前で変なマネするんじゃねえ」
ぼく、中三だし、朝が元気なのは僕だって同じだ。
「とにかく、覚悟を決めて結婚して種馬の役割はたせや」
「おやじさ~ん」
藤川先生ががっくりうなだれてしょげ返ってしまった。
「やっぱり欠陥があるわけ?」
おばあちゃんのとどめのきついセリフに、
「俺は、もっといろんな女とヤリたいだけだ」
と、藤川先生は涙ぐんだのであった。
さすが11代将軍の血をひいているだけのことはある。
食意地と女たらしの合わせ技かよ。

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文化祭前にとんだ事件

2011-06-20 22:46:30 | へちま細太郎

こんばんは、へちま細太郎です。

団部にいる秀兄ちゃんが、教室にやってきた。
「翔(かける)いるか」
本名で名前を呼ばれるなんて、家族にだっていないからもすんげえ違和感がある。
「なあに」
だから、ぼくも先輩に対するそれじゃなくて、親戚のお兄ちゃんのそれで応対した。
「かけるって誰だ」
教室でひそひそいう声に、
「ばか、細太郎のことだよ」
「ああ、あいつの本名かあ」
という変な会話がうねっていた。
「で、何」
ぼくは、秀兄ちゃんのところに行くと、団部の先輩たちもいる。
「げっ」
ぼくは強引に団部につれていかれるのかと思い、身構えたけど、
「嫌がるものを無理強いはしない、安心しろ」
と、先輩が答えた。
「じゃ、何のようだよ」
ぼくがハスに構えて先輩を見ると、直立不動の秀兄ちゃんはぼくをじっとみる。
「何」
「近藤家は、代々事務方で勘定方だったよな」
「はい?」
いきなり変なことを言われて、聞き返した。
「事務方?勘定方?何それ」
「美都藩35万石を支えてきた勘定方の近藤家といえば、その事務能力は幕府にも知れているほどだ」
あ~、そうなの。
「鳥羽伏見の戦いにおいての活躍では、殿の愛妾を賜るほどだったともきいている」
あ、それは単なる成り行きでそうなったって、鳥羽伏見のおじさんが言ってたから、そんな大層なものじゃないよ、と言いたいけど頭がおかしいと言われたくないから黙っていた。
「そこでだ、翔の家には若殿が居候しているときいたが、本当か」
「そうだけど…若殿って、バカ殿じゃないの~?副住職さん姉弟も含めると藤川家3バカトリオともいうけど」
と、笑いながら話すと、
「副住職というと、ご分家の孝洋さんだな」
「田舎ゾクのアタマだよ」
「それはいい、ところで、今、我々武断派は実孝さんを当主に推薦して動き始まっている」
「ナンパ兄ちゃんね」
と、ぼくがいったところでぎろりと睨まれた。
「実孝さんはそんな人じゃない」
そんな人なんだと思うけど。ぼくはそんなに親しくないけど、たまに見かけると藤川先生より気が短そうに思えるんだけどなあ。
「事務方代表の近藤家がどちらを推すのか、態度を明確にしてほしいと、叔母さんに話しておいてほしい」
秀兄ちゃんは、それだけ話すと、正確な回れ右をして先輩たちと高校校舎へと戻っていった。
「なんだあれ」
心配でドアに持たれていたしんいちが、あきれてため息をついている。
「ぼくんちも事務方だって、おとうさんがいっていたよ。今、旧家臣団が揉めているんだってさ」
「なんで、そんな騒ぎになっているの?」
「さあねえ」
「私、知ってるよ」
と、立ち聞きしていた野茂が声をかけてきた。
「藤川先生がこないだした見合いをまた断っちゃったんだって。それで、見合いを設定した武断派のもとご家老さんが怒っちゃったことから騒動が始まったみたいだよ」
「へえ」
何で野茂が知ってんの?と、この情報通な才媛をつくづく眺めると、
「だって、うちも武断派だし、そのご家老さまって母方のおじいちゃんだから」
「え?」
孟宗学園は、美都藩のミニチュア版か?
なんなんだ、この学校は…。
やっぱり、はいらきゃよかった、としんいちと顔を見合わせた。
「はあ」

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鎧兜のおじさん、すり抜けて遊ぶ

2011-06-17 23:09:52 | へちま細太郎

鎧兜のおじさんが、できあがった文化祭の台本を持って現れた。
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~ん」
「何言ってんだか」
ぼくは、ぷかぷか浮くおじさんを見上げて、思わず笑いが出る。
「何やら、陰謀の匂いが漂う学び舎であるの」
周囲をきょろきょろして、
「あんなやつまで出てきたぞ」
と、指をさせば、鳥羽伏見のおじさんが真っ青な顔をして廊下の宙を右往左往している。
そこへ赤松がひょこひょこ歩いてきて、おじさんのからだをすり抜けて行った。
「げ」
鳥羽伏見のおじさんは動きを止め、赤松を見下ろしていたがやがてふわりとその背中にはりつき肩にあごを乗せ、ぼ~とした表情で赤松とともに去っていってしまった。
やがて、
「ぎええええ」
「ひええええ」
という悲鳴が聞こえてきた。
「何でみんな赤松に取りつくんだ?」
「磁場がいいんだろ」
鎧兜のおじさんは、やがて鎧をがちゃがちゃいわせて廊下にふわふわ浮いていった。
「おお、たかひろ、いい女だの~」
入り口でたかひろをすり抜けていくと、
「いつまでたっても慣れねえ」
と、怪訝な表情の彼女にわけも言わずぜえぜえ言ってる。
「陰謀陰謀、楽しいな」
おじさんは、鳥羽伏見のおじさんを追いかけるように空中を泳いでいってしまった。
「また、やっかいな事態にならないといいけど」
好奇心旺盛な先祖をもつ、ぼくへちま細太郎でした。

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顔も見たくないのなら…

2011-06-16 23:24:03 | へちま細太郎

犬猿の仲である藤川先生・桧山先生・のぶちゃん先生の3人は、今日もやってきたご隠居さまのベンツの前でにらみ合っていた。
ご隠居さまはふつうは軽トラで移動するんだけど、今日は当代でありこの学園の理事でもある藤川先生のおとうさんもきていたため、ベンツで来校したというわけ。
でもって、その周りを団部とサッカー部の部員たちが取り囲んでいたのも、ものものしく大げさで険悪なムードを漂わせていた。(仮)嵐軍団さんたちもいた。
そんな中でけんちゃん先生は、ご隠居さまたちと応接室にいた。藤川家において、けんちゃん先生の信頼度がどれだけ大きいかがわかる。
「うちの相続問題になんで赤の他人が首を突っ込むんだ」
「家臣あっての藤川家だ。幕末を乗り切れたのは、われわれ武道派があったればこそだ」
藤川先生と桧山先生の、微妙にずれた会話にぼくたちも黙って聞き耳をたてた。
「バスケ部と団部に首を突っ込んでいるじゃないか」
のぶちゃん先生の嫌味ったらしい声に、藤川先生は年季の入った凄みのある視線を向ける。
「なんだよ、みたくない顔だな」
「ああ?見たくねえんだったら、てめえは失せろ」
う~、元ヤンキーの本領発揮だけど、どこかで聞いたようなセリフを言っていて、めちゃくちゃ笑えるんだけど。
「総理大臣か、おめえは」
桧山先生の応援団仕込みの迫力のある声に、
「ボケとツッコミ」
と、ぼくらのそばにいた匿名希望の東山先生がつぶやいた。
さすが、吉本で育った関西人。違いがわかるんだなあ。
と、もはや学園ドラマではなく時代劇になりつつある、へちま細太郎でした。

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ご隠居様がやってきた

2011-06-15 21:19:36 | へちま細太郎

こんばんは、へちま細太郎です。

昨日の乱闘騒ぎで、小百合の花くびがもげてしまい、痛い腰をさすりながらやってきた中島教授があまりのことに気絶してしまった。
小百合はパフィオ・ペディルム・ペンダントグッズという、蘭の原種だった。
あの、中島教授といわくありげな衣笠米穀店の温室にある蘭の、株分けされた大変貴重なものなんだ。
ドドメな色合いは、パフィオによく見られるものだし、べろんと垂れ下がった部分もよくある。
けど、こんな不気味な花だって、今では貴重な原種だ。桧山先生の罪は大きい。
いつもは気持ち悪いといってはばからない藤川先生でさえ、実はこの花が大変値打ちがあるものだって知っている。
まあ、小百合はリポビタンDや「闘魂込めて」で巨大化してしまったものだけど、彼女から株分けされたいわば子供たちはたくさん存在する。大学の植物園でも目玉であった。
で、この騒ぎをききつけた藤川家のご隠居様が、桧山先生の暴挙に激怒して学校に乗り込んできた。
「藤川家の家臣でありながら、藤川家の家訓をなんと心得る」
慌てた中高の校長が、ご隠居さまに土下座をするという事態に発展してしまった。
頭を下げずにふんぞり返ってた大学の学長の片山教授は、
「別にあの花なら丈夫だから何度でも生き返りますって。ご隠居さんもそんなに目くじらたてんでも…」
「なんじゃと?」
ご隠居さまは片山教授をにらんだが、
「ちりめん問屋じゃなくて、ちりめんジャコやのご隠居さんね、問題は、あんたの孫と家来の子孫が教師でありながら校内で取っ組み合いの喧嘩をやらかしたことにあるわけでしょ~が。しかもボクのカウンセリング研究所とその保健室の前でだよ」
という言葉にうなってしまった。
「それにさ、あんたんとこの孫婿ね、あの唐変木が怒りにまかせてバスケ部員を嫌がらせのように団部に送りこんだことが発端でしょ。そのたんびにバカ殿が桧山のボケナスとその部員との乱闘騒ぎが起こっている。いまどき武道派だのお家騒動だの、時代遅れもはなはだしいと思わないかなあ」
「う~む」
ご隠居さんは腕組みをする。ハラハラして見守る校長二人。
「何とかしなさいよ、中島教授は寝込んじゃったし、ボクとしてはけんか相手に死なれては困るんだよなあ」
すっ呆けた片山教授の発言はしかし、ご隠居さまの心にある決心をさせたようだった。
以上のことは、応接室に忍び込んで話を聞いていた片山教授の弟子である(仮)嵐軍団2号さんから聞いたことだ。

作者注…小百合のパフィオ・ペディルム・ペンダントグッズというのは架空の花ですよん

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藤川先生、怒りの鉄拳

2011-06-14 22:24:47 | へちま細太郎

こんばんは、へちま細太郎です。

団部の顧問の先生は、藤川家代々の武道派の家臣でもある桧山先生だった。
大学時代に応援団に所属し、団長時代に六大学何するものぞ、の東都大学リーグにおいて都の西北にある大学に応援で競り勝った、という伝説の持ち主である。
「そんなもん自慢になるか」
六大学にも東都大学リーグにも属していない大学出身の藤川先生は、ことのほか桧山先生を嫌っていた。
「桧山家は、郡奉行の家だ、竹刀を振り回してばかりで真剣とも立ち会ったことのない、バーチャルどもさ。場数踏んでナンボの世界だね」
タコ壺保健室の中で差し入れのキウイをむさぼり食いながら、藤川先生は表情が曇る。
よほど嫌いなんだろうか。
「せやけど、藤川家もしょうもないねんな、現代に至ってもお家騒動やってるやなんて、アホ通り越して使いたくはないねんけど、バカやね」
関西出身の匿名希望の東山先生は、めったに使わない「バカ」を口にする。
「だねえ、ぼくら家族はそんなことどうでもいいんだけどね、何で外野が騒ぐんだろ」
「そのうち、副住職さんが跡継ぎになるなんて言い出したりして」
藤川先生のはからいでぼくらバスケ部員は、タコ壺保健室に隠れて?いた。
「恐ろしいこというな、いくらなんでもそれはありえん」
といったところで、ガラス戸が開いた。立っていたのは桧山先生だ。
「こら、バカ殿、またも首をつっこみやがって」
と、目の前にあった小百合の首根っこをつかむと、
「なんだ、この気色の悪い花は。保健室におくんじゃねえ」
と、ぼくらが驚く間もなく、小百合をガラス戸の向こうに引き倒してしまった。
「何がプロフェッサー中島だ。足軽野郎の分際で」
「何?」
藤川先生が表情を変えた。
「てめえ、今何をした」
「何言ってんだ」
桧山先生の足元に無残にも引き倒された小百合が、転がっていた。
「ああ、小百合があ」
ぼくたちも立ち上がって、小百合のもとへ駆け付けようとしたところ、
「罪もねえ花に何しやがんだ。てめえそれでも教師か」
と、藤川先生が桧山先生めがけて飛びついていった。
「先生」
「ひえええ」
二人は、小百合の上に倒れこみ、あのドドメ色がつぶれてしまった。
「小百合~」
匿名希望の東山先生が、飛び出していって小百合を殴りあっている二人から引き離した。
「小百合~」
「小百合~、傷は浅いぞ」
「しっかりしろよ~」
と、ぼくらは傷ついたドドメ色の花びらを丁寧に伸ばした。
小百合は小刻みに震えている。
二人の教師はまだ取っ組み合っていた。
それにしても藤川先生、小百合をあんなに嫌っていたのに、何で怒るんだ。
びっくりだよ。
匿名希望の東山先生も必死になって小百合の折れた花の茎につっかえ棒をしている。
小百合、ぼくらのせいでとばっちりくってごめんね。

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武道派とナンパ派

2011-06-12 23:35:35 | へちま細太郎

へろ~子猫ちゃんたち、藤川だよん

何やら、陰謀の予感がする、孟宗学園だ。
全く、外野がうるさいようだが、俺は一向に平気だぞ。周りが弟の実孝を当主にしようとしたら、喜んで後を譲る気満々なんだが、肝心の実孝にその気がない。
「そんなめんどくさいことやってられっか」
と、武道派に人気の実孝もその実はかなりのナンパ師である。
だいたい、今の嫁も海に行って数人に声をかけ、同時進行が続いたあとに残った一人だ。その嫁もうちが過去大名家だったなんて、まったく知らないで結婚したんだ。
「このうそつき、どこが貧乏なのよっ」
と、結婚式のあとのお披露目会の時に実孝をぶん殴ったくらいだ。
ま、いい嫁だったから藤川家としてはいうことがないんだけどね。
う~ん、細太郎の団部騒動でとんでもないことが起こりそうな予感がしてきたぞ。

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