へちま細太郎

大学院生のへちま細太郎を主人公にしたお話。

ぼくは翔じゃない

2006-12-04 19:34:29 | へちま細太郎

藤川だ。
細太郎がいなくなり、俺は気絶したこ~いっちゃんを家に置き去りにし、おふくろさんたちには家で待つようにいい、広之と一緒にまずは駅周辺から探し始めた。
駅員にたずねてみると、早朝にリュックを背負った小学生が上り方面の電車に乗ったのを目撃した、という。
どこにいったんだ?何をするつもりなんだ、細太郎。
土曜日の昼時、駅周辺には大勢の人が群れ集まり、観光客と思しき連中が駅前の俺のごぜんぞさまの銅像の前で写真を撮っている。
このご先祖様のことはあとで説明してやろう、今は細太郎のことだ。
「しかし、なんだってこんなにガキがうろうろしてんだ?」
「どうみたって、小学生か中学生だろ?親は何をやってんだ何を…」
俺たちは、しかし、その雑踏の中に細太郎の姿をみつけた。
「細太郎
走りより、リュックをつかむとぐいっと引き寄せた。
「細太郎、どこへいってたんだ
広之が顔をこちらに向けると、細太郎は怪訝そうな表情をして俺たちを見比べた。
「だれ、おじさんたち」
ぽかんとした顔で、小首をかしげている。
「何ふざけたことをいってんだ」
「翔いいかげんにしないか
広之が、えりもとをぐっと引き寄せた。
「ぼく、ぼく、かけるじゃないよ…、翼だよ」
「なに?」
広之が、ぴくっとほおを引きつらせた。
「つばさ?」
広之は、襟元をはずし翼となのった細太郎の肩に手を乗せた。
「おまえ、名前はつばさというのか?」
「そうだけど、誰?」
広之は細太郎の顔をじっとみた。
「なんだ?」
俺は、わけがわからなかった。