へちま細太郎

大学院生のへちま細太郎を主人公にしたお話。

2006-11-09 20:00:01 | へちま細太郎
赤・黄・青と濁った白の帯が、せまい部屋いっぱいに広がっていた。それとともに、ゴムのむっとするにおいがたちこめていて息苦しさを覚えた。色の帯はせまいドアから次の部屋へ出ようとして、押しあいへし合いしている。息苦しさは倍増し、帯はドアを無理矢理通り抜けると、絨毯を広げるように狭い部屋にどろっと広がった。
ああ、そしてまた、あのゴムのにおい。
助けて、助けて。
息苦しさから逃れようと両手をさしのべると、冷たくてかぼそい指が両手を包み込んだ。
誰?
誰?
おかあさん? おかあさんなの?
(翔、大丈夫よ。治るから)
おかあさん、僕、会いたかったよ、でも、顔が見えないよ。
(大丈夫よ、おかあさんがついているから)
ぼんやりとかすみのむこうに、髪の長いほっそりとした輪郭が浮かぶ。
が、すぐにそれも消えた。
「大丈夫か?細太郎」
うっすらとまぶたをあけると、父親が心配そうにのぞき込んでいた。
「なんだ…、おとうさんか…」
息子のつぶやきに父親は情けない声を上げた。
「ほそたろぉ
…。
ばかか、こいつは。俺はあきれて、首をかいた。
「あんたね、いいかげんにおちょくるのやめてくれる?」
涙めになった白い奴が、くってかかってきた。ばかやろう、キャリアが違うわ。
というわけで、おたふくは幼少のみぎりにすませた藤川でした。