宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『われわれはなぜ死ぬのか:死の生命科学』柳澤桂子(1938生)、ちくま文庫、1997年

2015-03-27 13:08:44 | Weblog
 第1章 死―見るもおぞましきもの
A 体内の細菌が繁殖して、遺体を分解する=死体の腐敗。
A-2 皮膚は2-3日、生きている。

 第2章 人間はいつ死を知ったか
(1)死体の崩壊過程への対処:埋葬
B 死体の埋葬:死体の崩壊過程への対処。
B-2 10万年前、ネアンデルタール人の埋葬。最古。

(2)死:自己の個体性の喪失への恐怖
C 自己の個体性の喪失への恐怖。
C-2 他者の個体性の喪失が、自己に投影された。
C-3 自己の確立は4歳ごろ。他の人が、自分と区別される。
C-4 そこはかとない存在への不安あり。2か月以降の幼児の「黄昏泣き」!

D 個体性が確立しなくても、アニミズム的思考のもとで、他人の死は自分の死でもあった。

(2)-2 人類史:主客一元的な見方から、主客二元論的な見方へ。
E 現代人の死の認識は、「自己意識」と「無」の概念から成り立つ。

F かつては主客一元的な見方。バラモン教の『ヴェーダ』
F-2 現象の世界はマーヤ(幻影)。
F-3 アートマン(各人の魂)はブラフマンと合一することで、真の実在者となる。
F-4 自我を抹殺し、死を乗り越える。再生。

G 人類史:主客一元的な見方から、主客二元論的な見方が強くなってくる。
G-2 「無」は人間にとって理解しにくい概念。

 第3章 生の終わりの多様性
H たとえば太平洋サケは、産卵・受精後、雄も雌も死ぬが、老化はない。瞬時に死ぬ。
I タケは120年に1度、花を開き死ぬが、何が開花を誘導し、何が急速な老化と死をもたらすかは不明。
J サンゴは無性的に増殖するが老衰する。すると有性生殖によって危機を乗り越える。
K 細菌には、老化も死もない。
L なぜ死が生物界に存在するのか?死は、生物にとって必要なのか?

 第4章 死を考えるための生命の歴史:多細胞生物において、生殖細胞は生き続け、体細胞のみが死ぬ
A ①紫外線でひどく傷ついたDNAを持つ細胞は自爆死させるメカニズムあり!
A-2 ②写し間違われたDNAを持つ細胞の死。

B 連綿と続くDNAの流れ。
C ミトコンドリアによる酸化で、細胞の劣化と死。

D 生殖細胞は永遠に生き続けるが、体細胞は死ぬ:多細胞生物の場合。
D-2 一代限りの体細胞。

 第4章-2 原核生物:細菌
E ウイルスは細胞に寄生する。
F 1個の細胞が60兆個の細胞になる:人間のからだ。

G 約46億年前、地球誕生。その後、7-8億年の間に、原始生命誕生。つまり膜で保護された細胞の誕生。ただし核がない。
G-2 つまり原核生物(細菌)の誕生。

H DNAに記された遺伝情報:4つの塩基の連鎖。
H-2 生存に都合のよいタンパク質を作ることができた原核生物が生き残る。

 第4章-3 光合成細菌&好気性細菌
I 秩序を保つ(=生きる)ためには、エネルギーが必要。
I-2 例えば、糖類(ブドウ糖)を分解して放出されたエネルギーが、ATPに貯められ、必要な時、必要な反応に使われる。

J 光合成細菌は、炭酸ガスと水から糖類を作る(光合成)。
J-2 ブドウ糖を食べる細菌が増える。

K 窒素固定細菌は、窒素を利用し、栄養物を作る。
L 硫化水素細菌は、硫化水素を栄養源にして、エネルギーを得る。しかしこれは効率が悪い。

M 光合成で酸素が排出されると、酸素を利用して、糖類を分解する好気性細菌が出現。1個のブドウ糖を分解し38個のATPを作る。これが呼吸!
M-2 嫌気的反応ではATPは2個しかできない。

N 最初の細胞が生まれ15億年後、光合成細菌が誕生。

 第4章-4 真核生物:光合成細菌(葉緑体)・好気性細菌(ミトコンドリア)を取り込む
A 真核生物が我々の祖先。(※動物、植物、カビや原生動物など)真核生物が生まれるのに、原始生命誕生から20億年かかる。
A-2 細菌(原核生物)→古細菌(始原菌)→真核生物(真核細胞)。

B 光合成細菌から2-3億年後、DNAが核膜に包み込まれた真核細胞が出現:真核生物。
B-2 真核細胞は、他の細菌や古細菌を取り込み共生。そのひとつとして光合成細菌を取り込む。光合成細菌が最適に進化し、葉緑体となる。

C 光合成をする生物の増加で酸素増大。
C-2 しかし酸素は、細胞内の分子を酸化する毒物。
C-3 酸素から身を守るため真核細胞が、好気性の呼吸をする好気性細菌を細胞内に取り込み共生。
C-4 好気性細菌はATP も生産してくれる。ただし好気性細菌は老化・死と関係する。
C-5 真核生物(真核細胞)と共生した好気性細菌が、ミトコンドリアとなる。ミトコンドリアはほとんどすべての真核生物に存在。

D 葉緑体とミトコンドリアは、独立のDNAを持つ。
E 真核細胞(真核生物)は、①動く能力を持ち(細胞骨格)、②DNAを染色体へと折りたたむ。(ヒストンというたんぱく質による。)

 第4章-5 細胞骨格:微小管など
F 細胞骨格は①鉄骨の枠組みのようなもので伸び縮し変形・移動を可能にする。また②レールの役割を持ち分子を運ぶ。③細胞の増殖とかかわる。例えば微小管が集まった紡錘糸。
F-2 なお紡錘糸の基点の中心小体は、真核生物の中に入り込んだスピロヘータという原核生物に由来する。中心小体は、固有のDNAを持つ。

 第4章-6 ウイルス:細胞を持たないDNAの断片
G DNAの断片としてのウイルス。
G-2 ウイルスは、DNA、RNAを持つが、細胞は持たない。
G-3 ただしウイルスは、たんぱく質の外被を持つ。
G-4 ウイルスは、生物として扱う。

 第4章-7 生命の歴史と死、まとめ:真核細胞の多細胞化=細胞の分化が死と結びつく、つまり生殖細胞は生き続け、体細胞のみが死ぬ
H 生命界の構成員:①ウイルス、②原核生物の代表としての細菌、③古細菌、④真核生物(動物、植物、菌類、原生生物)。
I 真核細胞の多細胞化。つまり細胞の役割分担=細胞の分化が死と結びつく。要するに、生殖細胞は生き続け、体細胞のみが死ぬ。

 第5章 死の起源と進化
(1)死の起源①:DNAの修復に失敗した細胞は死ぬ=異常な細胞は殺して除去
A 原核生物は、紫外線から逃れたものだけが、生き延びた。Ex. 海の底、胞子
A-2 酸素が増え、オゾン層ができ、紫外線がさえぎられれば、大丈夫。

B 紫外線によって破壊されたDNAを修復する能力を持つ原核細胞(細菌)の出現。
B-2 DNAの二重らせんの二重の鎖は相補的!紫外線で一方が壊れると「除去・修復」。
B-3 あるいはDNAのつなぎ替え=「組み換え」により修復。

C  DNAの修復に失敗した細胞は死ぬ=異常な細胞は殺して除去する。

(2)死の起源②:プラスミドを失った大腸菌の自爆死
D 大腸菌(宿主)の寄生虫のようなプラスミド(大腸菌の染色体のDNAと異なるDNAを持ち、独立して複製を行う)は、大腸菌を殺す毒素と解毒剤を作る。
D-2 解毒剤は早く壊れるので、大腸菌の増殖速度が速いためにプラスミドを失った大腸菌は、DNAをズタズタにされ死ぬ。
D-3 これは細菌の自爆死と考えてもよい。

(3)死の起源③:“環境に不適応な細胞を殺し、除去する”ものとしての単細胞真核生物(原生生物)の細胞死
E 最も下等な真核生物(原生生物)トリパノソーマは、寄生虫だが、宿主のもとで多数増殖し、もっとも適した一部を残し、他は死ぬ。
E-2 原生生物テトラヒメナは、培養液の中でも、もともとの数が少ないと環境の情報を読み切れないためか、増殖できず、全部死ぬ。

(4)死の起源④:原生生物の単性生殖において初めて、細胞の老化・寿命・死が出現
F 原生生物ゾルリムシは、一つの細胞の中で、自家生殖(オートガミー)が起こる。
F-2 ゾウリムシは大核と小核を持つ。
F-3一方で、大核はやがてばらばらになる。他方で、小核が減数分裂し、融合して大核ができる。これが自家生殖(オートガミー)。

G ゾウリムシのクローン(※単性生殖)では、自家生殖(オートガミー)が起きないと、300回の分裂(単性生殖)で死ぬ。
H 有性生殖(接合または自家生殖(オートガミー))があれば、ゾウリムシは不死となる。

(5)死の起源⑤:多細胞の個体が形を保つためには、“自殺遺伝子によるアポトーシス”にもとづく細胞の死・除去が必要
I 単細胞から多細胞の時代へ。多細胞の個体がある形を保つためには、一部の細胞の増殖の抑制・除去が必要。言い換えれば、細胞の死、細胞分裂の停止が必要。
I-2 そうでないと、ガンのようになる。

(5)-2 多細胞生物の細胞死の2形式:()ネクローシスと()アポトーシス
J ()ネクローシス:細胞膜が変化し、細胞が膨潤し、DNA・染色体が壊れる。
J-2 ネクローシスでは細胞の内容物は、外へ流れ出る。
J-3 環境の悪化によって、やむを得ず細胞死する:ネクローシス。

K ()アポトーシス:染色体・DNAが先に壊れ、細胞が死ぬ。
K-2 アポトーシスでは、死ぬ細胞は隣接する細胞か、免疫細胞の一種のマクロファージに食べられる。
K-3 アポトーシスでは、自己を殺すためのたんぱく質があらかじめ合成される。
K-4 そのための情報を持つ自殺遺伝子あり。遺伝子支配されたアポトーシス。

(5)-3 自殺遺伝子によるアポトーシスの例:胎児の手の5本の指の形成
L 胎児の手の5本の指は、肉の塊に4本の筋が入り、そこの細胞が死ぬことで形成される。自殺遺伝子によるアポトーシスとしての細胞死
L-2 自殺遺伝子を働かせて細胞が自爆死する「能動的死」!

(5)-4 アポトーシスの例(続):線虫に「プログラム化された細胞死」を指示の遺伝子
M 線虫は体が透明。受精卵が分裂し1090個の細胞ができるが、そのうち131個が“自殺遺伝子による細胞の自爆死”=アポトーシスを起こす。
M-2 発生の過程の決まった段階で決まった細胞が死ぬ「プログラム化された細胞死」!
M-3 「プログラム化された細胞死」を指示する遺伝子あり。

(5)-5 アポトーシスの例(続々):哺乳類の腫瘍壊死因子(TNF)による細胞の自爆死
N 哺乳類の腫瘍壊死因子(TNF)は癌を殺し、また細胞の自爆死(アポトーシス)を指示。
N-2 この物質は、アポトーシスへの引き金を引き、細胞を自爆させる信号を送る。

(6)どのような時に細胞死が起こるか?:(A)受動的死(ネクローシス)
A 受動的死(ネクローシス):食べ物がないor温度が適さない。

(6)-2 細胞死(続):(B)能動的死(アポトーシス)
B 下等生物の能動的死(アポトーシス)の例。①紫外線に傷つけられた細胞が殺され除去。②生存競争の結果、能動的な死:大腸菌やトリパノソーマ。
③テトラヒメナ:外部環境との調整のため、能動的な死。

B-2 高等動物の能動的死(アポトーシス)の例。(a)線虫:アポトーシスによる細胞の除去。
(b)ニワトリの翼の形成におけるアポトーシス。(c)ウジムシからハエになる時のアポトーシス:腹部等の筋肉の死。(d)オタマジャクシの尾の細胞のアポトーシス。

(6)-3 細胞死(続々):(C)能動的死(アポトーシス)と確認できない細胞死
C 能動的死(アポトーシス)と確認できない細胞死の例
()垢:皮膚細胞の死。()使われず死ぬ神経細胞。()使われず死ぬ生殖細胞。

 第6章 細胞分裂と細胞死:細胞を生かすか殺すか監視する=生と死を管理する機構
A 多細胞生物では、分裂し増えては困る細胞は、殺され除去される。
A-2 個々の細胞を生かすか殺すかを監視する(見きわめる)機構がある。
A-3 分化・分裂すべき細胞と、分裂停止すべき細胞との決定もある。
A-4 細胞分裂を中心に、細胞の生と死が管理される。

B 細胞の生死の監視機構から、細胞に死の命令:アポトーシス
B-2 細胞の生死の監視機構が壊れる:癌化。

C p53たんぱく質は、DNA二重らせんに1か所、傷があれば感知し、細胞分裂を止める。
C-2  p53たんぱく質を作るp53遺伝子に異常があり働かないと、傷ついたDNAがいくらでも複製され、突然変異率上昇。
C-3 またp53遺伝子の異常によって、アポトーシスを起こすべき細胞が、死なずに増殖を繰返すので、癌発生。p53遺伝子の異常による癌は、癌全体の約50%。

 第7章 性と死:有性生殖は、死を免れる手段
A 生殖細胞には、老化も死もない。36億年前の生命の起源から連続している。
A-2 遺伝情報が、変化しながら伝えられる。

B ゾウリムシは、クローンの老化と死を、オートガミー(同一細胞内の核の融合でDNAの混合が起こる)によって、免れる。
B-2 有性生殖は、死を免れる手段。

 第7章-2 原核生物(細菌)の性:F⁺菌とF⁻菌の接合などDNAの組み換え機構
C F因子を持つ細菌:F⁺菌。
C-2 F⁺菌がF⁻菌と接合すると、F⁺菌のDNAがF⁻菌に移行。
C-3 この新しいF⁺菌は二本DNAを持つ。組み換えが起こり雑種のDNAができ、他の部分は分解される。

D かくて遺伝情報(=DNA)の多様化が、突然変異の場合よりも急速に進む。
D-2  F⁺菌とF⁻菌の接合などDNAの組み換え機構は、DNAの多様化で、生存のチャンスを増やす。
D-3 生き残っている生物には必ず、DNAの組み換え機構がある。

 第7章-3 有性生殖と死:体細胞は1代限りで死ぬが、生殖細胞は不死の系列
E 体細胞の半分の染色体をもつ生殖細胞が、各々別の個体から由来し、融合する。
E-2 減数分裂の機構あり。
E-3 体細胞は1代限りで死ぬが、生殖細胞は不死の系列。

 第7章-4 原生生物の共食い:受精(有性生殖)の起源
F 環境の悪化を切り抜けるため、同種の細胞を食べる。受精の起源と言えるかもしれない。

 第7章-5 減数分裂:第1分裂でDNAの組み換えが起こる
G 減数分裂の第1分裂では染色体の間のつなぎ替え=染色体断片ごとの入れ替え=DNAの組み換えが、起こる。
G-2 DNAの組み換えは、突然変異より、非常に効率の良い多様化の手段。

H DNAが紫外線で傷を受けた時の修復機構から、組み換え機構が派生した。
I 細胞の融合(受精)、減数分裂、組み換えは性に伴う現象だが、異なる起源でありうる。だがいずれも生物にとって有利な機構で、生き残った生物はそうした機構によって、今ある。

 第7章-6 生殖細胞:不死であり全能性を持つ
J 単細胞生物では、同一の細胞が、生殖細胞と体細胞の役割を、交互に演ずる。

K 多細胞生物では、体細胞と別に、生殖細胞が作られる。
K-2 生殖細胞は不死である。体細胞は、個体が死ぬと消滅。生殖細胞は、別の生殖細胞と融合し、子供という新たな個体となって生き残る。
K-3 生命の起源にまでさかのぼる、生殖細胞の連続性。(※映画『ルーシー』)

L 生殖細胞は全能性を持つ。つまり個体発生に必要な遺伝情報すべてが発現可能。
L-2 体細胞は、特定の遺伝子(情報)以外は発現せず、スイッチが切られている。

M 卵母細胞は出生時に200万個あるが、卵に成熟するのは数千。監視機構(※欠陥ある細胞を殺す)により、大部分が排除される。
M-2 精子も1回の射精での5億個のうち、半数は欠陥。また受精は1個。ここにも監視機構があるはず。
M-3 以上はともに、突然変異を避けるため。原核生物(細菌)の増殖原理にちかい。たくさん増やして、生き残るものを残す:生殖細胞。

 第8章 死に向けて時を刻む:最終段階まで分化した細胞(=分裂能を失った細胞)は、次第に老化して死ぬ
A 受精後の胚における細胞の分化:DNAと結合し、遺伝子のスイッチを入れるタンパク質が細胞内にある。
A-2 遺伝子が次々と活性化され、胚の分化が進む。
A-3 自然の状態では、分化は不可逆的。分化の時計は逆戻りしない。

B クローンヒツジの場合:ヒツジの乳腺細胞を、核を取り除いた卵母細胞と融合させると、分化の時間を零時に巻き戻す=全能性の回復。
B-2 細胞の分裂能は、普通、最終段階まで分化した細胞では失われる。
B-3 分裂能・分化能を100%持つ(全能性)のは、卵や精子など生殖細胞のみ。

C 分裂能を失った細胞は、次第に老化して死ぬ。

D 多細胞生物における幹細胞:細胞補充のため分裂能を持つ細胞。Ex. 皮膚細胞
D-2 幹細胞は、個体が生存する限り分裂するが、全能性を持つ生殖細胞とは異なる。
D-3 ただし多分化能を持つ幹細胞がある。血球幹細胞からは赤血球も白血球も生じる。
D-4 幹細胞の分裂により、組織の寿命が長くなる。

E 細胞培養において、細胞は一定の回数の分裂の後に死んでしまう:ヘイフリック限界。
E-2 人の胎児の細胞は50回分裂。年齢の高いヒトからの細胞は分裂可能回数が少ない。
E-2 臓器ごとに、固有の分裂寿命がある。

 第9章 すり減ってゆく生命:細胞の老化と死
(1)プログラム化された細胞の老化と死(これまでの叙述!)

(2)それ以外の老化と死の原因 
Ⅰ 突然変異の蓄積
①生殖細胞の突然変異(DNAの複製での塩基のつなぎまちがい)の蓄積による死
②紫外線・放射線による突然変異の蓄積による死
③体細胞におけるDNA複製の間違い。一生に1200か所位。これが老化の原因との説あり。

Ⅱ フリー・ラジカル(活性酸素)によるDNAや分子の酸化が、老化の原因との説あり。
Ⅱ-2 体重あたり発熱量は、体の大きな動物ほど少なく、活性酸素の発生量も減るので、老化が遅く長寿となる。

Ⅲ テロメアDNAが短くなることによるヒトの老化:染色体をくっつかないようにしている両末端のテロメア
Ⅲ-2 テロメアの長さによって、分裂回数が測られる。
Ⅲ-3 テロメアが短くなると、細胞の分裂能力が低下し、ヒトの老化がもたらされるとの説がある。

 第10章 死とは何か?:生命の歴史では、生きている細胞より死んだ細胞がずっと多く、死によってこそ、生は存在する
A 細胞の受動的死:栄養状態が悪いor環境が不適な時。
B 細胞の能動的死(アポトーシス):例えば、DNAがひどい損傷を受けると、p53遺伝子が活性化され、その細胞はアポトーシスを起こす。
C フリーラジカルによる老化と死:酸素を使うようになると、フリーラジカルによりDNAや分子などが酸化され損傷を受け、その蓄積が細胞の老化をもたらし、死に至る。
D DNAの複製の間違い:細胞の老化と死をもたらす。

E 生命の歴史において、生きている細胞より死んだ細胞の方が、ずっと多い。
E-2 死によってこそ、生は存在する。

F 個体の生物学的な死は、体細胞の死である。36億年の生殖細胞によって受け継がれてきた遺伝情報が消滅する瞬間としての死。
F-2 私たちが意識する死は、人間の神経細胞の中にある死、心理的な死、感情にいろどられた死である。これは生命の36億年の歴史と直接には、無関係である。
F-3 36億年の生命の歴史の中に、時を同じくして、自己意識と無を認識する能力を与えられた個体。

 あとがき(1997年、59歳)
A 生殖細胞系列から分化の道を与えられた私たち。体細胞としての私たち。
A-2 死は静かなささやかな出来事である。
A-3 生命の36億年の歴史の一瞬に存在しえた奇跡。

「文庫版のあとがき」2009年(71歳)
B 生命の歴史の中では、生と死は同じ価値を持つ。

C 著者は、死についての考えが、この12年で変わった。
C-2 死について考えなくなった。
C-3 死は、特別なものでなく、今日の生活とつながった一つの出来事にすぎない。
C-4 夫より長生きして、身のまわりを片付けて、去りたい。

《評者の感想》
(1) 「生命の歴史の中では、生と死は同じ価値を持つ」との考察はその通りだろう。そして、「生殖細胞系列から分化の道を与えられた私たち。体細胞としての私たち。」との考察も、まさに妥当。

(2) しかし、この考察と並んで、著者は価値的前提を提示する。「体細胞」でなく、「生殖細胞」が生命の存在の目的との見方を著者はとっているように見える。これは正しいのか?生殖細胞の進化、つまり「DNAの進化」が生命の歴史の目的との前提は、妥当なのか?体細胞は、生殖細胞の系列の維持のために生じた副産物にすぎないとの価値的前提は、正しいのか?
(2)-2 目的は生殖細胞の進化、「DNAの進化」であるとの価値前提に立てば、「生殖細胞系列から分化の道を与えられた私たち」、「体細胞としての私たち」にとって、死は「ささやかな」出来事となる。
(2)-2 これは一見、「醒めた」結論、科学の眼の「冷静さ」のように思える。「悲しい」結論である。だがこれは、「生殖細胞」こそ、生命の歴史の主人公との価値前提に基づく。

(3)そうではなく、体細胞の存在こそ、生命の歴史の、「DNAの進化」の本来の目的ではないのか?体細胞繁栄させるために、DNAは進化してきたはず。“環境に不適応な細胞を殺し除去する”メカニズムの目的は、「DNAの進化」そのものではない。
(3)-2 多細胞生物においては、「DNAの進化」は個体(体細胞及び生殖細胞両方からなる)の生存・繁栄のためにある。単細胞生物(細菌・古細菌)においては、「DNAの進化」は細胞本体(もちろんDNAを含む)の生存・繁栄のためにある。ウイルスでは、DNAそのものが、ウイルス本体と等価なので、「DNAの進化」が、ウイルス本体の生存・繁栄である。

(4)「体細胞が、生殖細胞の系列の維持のために生じた副産物である」との著者の価値的前提は、受け入れてよいのか?人間は多細胞生物だから、「個体(体細胞・生殖細胞)の生存・繁栄」こそが、「DNAの進化」の目的であると言うべきと思われる。
(4)-2 個体(体細胞・生殖細胞)の繁栄・目的のために、「DNAの進化」はあるとの立場にたっても、著者の議論に、大きな影響は与えない。

(5) 生殖細胞の進化、「DNAの進化」が生命の目的であるとの価値前提に立てば、個体(体細胞・生殖細胞)の死は「ささやかな」出来事となる。しかし、個体から見れば、死は「恐るべき」出来事である。
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