米国・多国籍製薬メジャーが、ワクチンと高額新薬で、日本の公費・健康保険市場を狙っている!

11月16日、中央社会保険医療協議会(中医協)は、

平成28年度緊急薬価改定の基準
ア 平成27年10月から平成28年3月までに効能・効果又は用法・用量の一部変更が承認された既収載品で、

イ 平成28年度の企業予想年間販売額(薬価ベース)が、1000億円を超え、かつ、薬価収載された時点における予想年間販売額に対して10倍以上となる既収載品、

に該当する薬剤として、平成29年2月1日から、

小野薬品工業が製造販売するオプジーボ点滴静注20mg150,200円を50%引き下げて75,100円に、同100mg729,849円を50%引き下げて364,925円にすると、決定、発表しました。


オプジーボ(一般名ニボルマブ)は、夢の新薬と言われた抗がん剤・分子標的薬です。
免疫チェックポイント阻害剤とも言われ、がん細胞を攻撃する免疫細胞の働きを抑制する分子(免疫チェックポイント)に結合し、その作用をブロックして、免疫細胞の本来の力を発揮させ、がん細胞を攻撃できるようにする薬剤です。

当初は根治切除不能な悪性黒色腫(メラノーマ)が適用対象だったので、対象数が少なく超高額となってしまいましたが、2015年12月に切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんにも適用されることになり、対象患者が増えました。

オプジーボは、体重60kgの患者の場合、1回あたり約133万円、1ケ月あたり約300万円、1年あたり約3500万円かかります(薬価換算)。日本の健康保険の場合、患者3割負担ですが、高額療養費の自己負担限度額の制度があり、患者負担は最大でも年間100万~200万円です。残りの年間3300万円~3400万円は健康保険の負担となります。

進行性非小細胞肺がんへの適用拡大で、新規使用患者数が、メーカー推定で15000人となり、薬剤費だけで年間、3500万円×15000人=5250億円という膨大な負担(増)となってしまうのです。

日赤医療センター化学療法科の國頭(くにとう)英夫医師による、「仮に、対象となる肺がん患者の半分の5万人が、1年間オプジーボを使えば、総額1兆7,500億円のコスト増」という試算もあります。

また、オプジーボには、日本では100mg約73万円だが、米国では約29.6万円、英国では約14.4万円と、日本が異常に高いという指摘もあります。既存の抗がん剤と比較して、延命効果は、例えば約3ケ月との指摘もあり、費用対効果の問題もあります。


中医協のオプジーボ薬価50%引き下げ決定(11/16)に対して、5日後の11月21日、米国研究製薬工業協会(PhRMA)(日本に事務所があり、オプジーボを共同開発した米国ブリストルマイヤーズスクイブも加盟/日米ワクチン政策意見交換会の事実上の仕切り役))と欧州製薬団体連合会(EFPIA)は連名で、
「日本における最近の薬価に関する動向がイノベーションを評価する方向から外れてきていると感じており、日本の医薬品をめぐる制度に安定性と予見可能性を取り戻すために私ども業界団体も日本政府と共同して取り組むことを提案します」
との声明を発表しました。非常に素早い行動です。
※「PhRMA」HP 2016.11.21プレスリリース参照


続いて日本政府は、オプジーボの半額値下げを契機に、これまで二年に一度だった薬価改定を、全品を対象に毎年調査し、価格改定に反映するという、薬価制度改革の基本方針を、12月20日の財務大臣、厚生労働大臣、官房長官、経済財政担当大臣の四大臣会合で決定しました。11月25日の経済財政諮問会議の民間議員4名の提言がきっかけでした。

日本医師会や薬剤師会、製薬業界から強い反対意見が示されましたが、12月5日には、米国研究製薬工業協会(PhRMA)と欧州製薬団体連合会(EFPIA)、そして在日米国商工会議所(ACCJ)、先進医療技術工業会(AdvaMed)、米国医療機器・IVD工業会(AMDD)、バイオテクノロジーイノベーション協会(BIO)、欧州ビジネス協会(EBC)医療機器委員会などが連名で、
「薬価の毎年改定に反対する共同声明」
を発表しました。
※「PhRMA」HP 2016.12.5プレスリリース参照

なかでも米国は、業界だけでなく、政府も反応しました。
12月6日付のウォール・ストリート・ジャーナルは、次のように報道しました。

●米国政府は、見直しを求める書簡を、菅義偉官房長官に送付。
米国のプリツカー商務長官は12月2日付の書簡で、いかに「失望している」か、を説明。「医療関連製品のインセンティブ構造だけでなく、市場の予測可能性と透明性に対する深刻な懸念を引き起こす」と伝えた。

●全米商工会議所は、同様の内容の書簡を、安倍晋三首相にも送付。

●米国研究製薬工業協会・広報担当者・マーク・グレイソン氏
「プリツカー商務長官とトム・ドナヒュー全米商工会議所会頭の書簡は、日本の患者にとって良好なイノベーション環境がいかに重要かを強調するものだ」と述べた。

●プリツカー商務長官は書簡でオプジーボの名前を挙げなかったが、「医薬品の保険償還価格を引き下げるためのその場しのぎの制度変更」に落胆していると伝えた。
※「PhRMA」HP 2016.12.9プレスリリース参照


このように、相次いで、米国政府、米国研究製薬工業協会(PhRMA)、欧州製薬団体連合会(EFPIA)、在日米国商工会議所などから反対声明が出される中、
政府は、反対意見にも一定の配慮をして、12月20日の四大臣会合で、「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」を決定し、翌21日の経済財政諮問会議で報告しました。

その内容は、「国民皆保険の持続性」と「イノベーションの推進」を両立し、国民が恩恵を受ける「国民負担の軽減」と「医療の質の向上」を実現する観点から、薬価制度の抜本改革に取り組むとし、状況の変化に対応できるよう、新薬収載の機会を最大限活用して、年4回薬価を見直し、全品を対象に毎年薬価調査を行い、価格乖離の大きい品目について薬価改定を行う、というものです。

具体的な内容については、来年中に結論を得るということなので、議論はこれからですが、米国政府をも巻き込んだ米欧製薬業界・多国籍製薬メジャーの薬価引き下げへの抵抗は強力で、彼らが、高額新薬の分野で、日本の健康保険市場を標的としていることは、間違いありません。

TPPの初期の議論では、米国の民間保険会社が日本の国民皆保険制度を破壊するという懸念がありましたが、今は、明らかに、米製薬巨大企業(多国籍製薬メジャー)は、高額な新薬で、日本の皆保険「健康保険市場」を狙っています。

新ワクチンを開発し、日本で承認・定期接種化させ公費負担とし、健康な人すべてをターゲットにワクチンビジネスを展開し、さらに、高額な新薬ビジネスで、皆保険の健康保険制度を通して日本マネーを搾り取る、これが、多国籍製薬メジャーの、利益追求のストラテジーです。

日本では小野薬品が製造販売しているオプジーボの類似薬を、このほど、米国メルク(日本法人MSD)が日本でも販売します。新薬の名前は「KEYTRUDA(キートルーダ)」。このほかにも来年以降、多国籍製薬メジャーの高額新薬が、日本で続々と上梓される見込みです。

超高齢社会を迎え、平成27年度の国民医療費は41兆5千億円。そのうち薬剤費は8.85兆円(H25年度医療機関・保健薬局合計)で、医療費に占める割合は約22%です(中医協発表)。日本の健康保険制度を維持していくためには、合理的かつ正しい方策が必要です。

私は、健康保険ではジェネリック医薬品と漢方薬を中心とし、「まちかど・かかりつけ薬局」を活用したセルフメディケーションを推進していく方向に政策転換することが、医療の質を向上させ、医療制度の抜本的改革につながっていくと思います。


中医協「平成 28 年度緊急薬価改定について」(オプジーボ)(H28.11.16)

●中医協「薬価に係る緊急的な対応について」(H28.11.16)

●中医協「薬価改定の経緯と薬剤費及び推定乖離率の年次推移」(H28.8.24)

●経済財政諮問会議「薬価制度の抜本改革に向けて」(H28.11.25会議資料4-1)

●経済財政諮問会議「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」(H28.12.21資料1)

●はたともこのPPPA(Power Point Policy Account)(60分)
ワクチンビジネス/新薬ビジネス

 

 

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