「奇才―江戸絵画の冒険者たち―」 江戸東京博物館

江戸東京博物館
「奇才―江戸絵画の冒険者たち―」
2020/6/2~6/21



江戸東京博物館で開催中の「奇才―江戸絵画の冒険者たち―」を見てきました。

江戸時代、多くの才能を持った絵師が全国各地で活動し、「斬新で個性的な表現」(公式サイトより)を生み出してきました。

そうした絵師を紹介するのが「奇才―江戸絵画の冒険者たち―」で、北は松前から、南は高知、長崎へと至る30名以上の作品が一堂に公開されていました。


狩野山雪「寒山拾得図」 京都・真正極楽寺真如堂 展示期間:6月2日〜6月21日

まず冒頭で目立っていたのが、狩野山雪の「寒山拾得図」で、中国の唐の僧で奇行が多く、文殊や普賢の化身とされた姿を、まるで妖怪とも言えるような出で立ちで描いていました。巻物を持つ寒山の薄ら笑いはもはや不気味でもあり、肩に手をかける拾得とは、何やら悪巧みをしているかのようでした。これぞ「奇才」の真骨頂と呼べる作品かもしれません。

人気の若冲では「玉蜀黍図」に心引かれました。大きく屈曲して葉を伸ばす玉蜀黍の姿を捉えていて、葉には穴が空き、小さな鳥があたかも隠れん坊をするように見え隠れしていました。素早い筆致と墨の硬軟を使い分けた表現は、颯爽としていて、若冲ならではの独特な生気に満ちていました。



応挙では「淀川両岸図巻」が充実していました。京都・伏見から大阪・天満橋へと至る淀川の両岸の風景を16メートルもの絵巻に表した作品で、会場では一部が開いていました。ここで面白いのは川を中央にして、両岸の景色を上下に描いていることで、あたかも川からの視点を平面へ落とし込んでいるかのようでした。また八幡や淀大橋など、地名を記した画稿も出品されていて、絵巻と見比べることも出来ました。

先の山雪の奇異な「寒山拾得図」に対し、思いっきり力を抜いてデフォルメしたように描いたのが、蘆雪の同じモチーフの作品でした。寒山と拾得が互いに向き合う姿を捉えていて、墨の筆触は席画を思わせるように即興的でした。ゆるキャラ的に見えるかもしれません。

エグ味で知られる京都の絵師、祇園井特では、「鈴屋大人像」が真に迫っていました。60歳を越えた本居宣長の姿を描いていて、細い目や少しすぼめた口元、それに首筋のシワまでも精緻に写していました。もはや年季すら伝わるかのようで、実に厳粛な佇まいではないでしょうか。


狩野永岳の「熊鷹図屏風」にも異様なまでの迫力が感じられました。ちょうど熊が2頭、金雲で包み隠れるように描かれていて、一頭は穴の中からぬっと首を突き出すような仕草をしていました。妙に滑り気のある毛並みや鋭い爪も見どころと面白いかもしれません。

なごみの琳派で知られる中村芳中では、「公卿観楓図」に見入りました。楓を鑑賞する一人の公卿の後ろ姿を描いていましたが、身体は三角形のおにぎりのような形をしていて、まるで人形のように可愛らしく見えました。この他、現存する唯一の巻物で、金などの色彩も華麗な「人物花鳥図巻」にも心を奪われました。

必ずしも有名ではない絵師に魅惑的な作品が多いのも、「奇才展」の楽しいところかもしれません。そのうちの一人が大坂の耳鳥斎で、生前の仕事と関係する21の地獄を表した「別世界巻」が展示されていました。ここでは確かに鬼や地獄に落ちた者たちが描かれているものの、コミカルでかつユーモラスな表現が目立っていて、おおよそ恐ろしく見えませんでした。むしろこれほど楽しげな地獄も他にないかもしれません。

同じく大坂の墨江武禅の「月下山水図」は、月明かりに照らされた山や水辺の景色をモノクロームに写していて、白い近景と黒い遠景の対比のゆえか、ネガとポジを反転させた写真のような独特の視覚効果を生み出していました。

江戸の加藤信清の文字絵仏画にも驚かされました。一見、何ら変哲のないように思える「阿弥陀三尊図」には、実はたくさんの経文が事細かに描かれていて、文字により仏画を作り上げていました。ただ経文はあまりにも小さいため、肉眼ではわからないかもしれません。


片山楊谷「竹虎図屏風」(左隻) 鳥取・雲龍寺 展示期間:6月2日~6月21日

この他、仙台の菅井梅関、水戸の林十江、小布施の高井鴻山、長崎生まれの片山楊谷など、いわばご当地の絵師にも見入る作品が少なくありませんでした。近年、様々な江戸絵画展が行われてきましたが、その中でも新たな発見と出会いの多い展覧会と言えるかもしれません。


葛飾北斎「上町祭屋台天井絵 女浪」  小布施町上町自治会(北斎館寄託) 展示期間:通期

さて一方で有名な絵師で忘れられないのが北斎で、とりわけ小布施の祭屋台の天井絵として描いた「上町祭屋台天井絵 女浪」と「東町祭屋台天井絵 鳳凰図」には強く魅せられました。特に前者の女浪は、触手のように広がる波がとぐろを巻いていて、あたかも異界へと繋がる洞窟の入り口のように思えました。それこそしばらく見ているとブラックホールに吸い込まれるような錯覚に陥るかもしれません。


絵金「播州皿屋敷 鉄山下屋敷」 赤岡町本町二区 展示期間:6月2日~6月21日

見どころの多い「奇才展」のハイライトをあえて挙げるとすれば、高知の絵師、絵金の芝居絵屏風にあるのではないでしょうか。いずれも歌舞伎の場面をモチーフにした計4点の作品が展示されていて、血のような赤などの鮮烈な色彩には目を奪われるものがありました。また敵打ちなど血みどろの場面自体も劇場的で、まるで芝居のワンシーンに立ち会っているような臨場感さえありました。それでいてやや歪んだ構図など、荒削りな面があるのも魅力の1つかもしれません。


蠣崎波響「御味方蝦夷之図 イコトイ」 函館市中央図書館 展示期間:6月2日~6月21日

最後に新型コロナウイルス感染症対策に関する情報です。開幕は当初の4月25日から約1ヶ月以上もずれ込み、6月2日となりました。

ただし予定通り6月21日に閉幕するため、公開されない作品がある上、一部作品の展示期間も変更されています。詳しくは下記リンク先の出品リストをご覧下さい。

「奇才―江戸絵画の冒険者たち―」出品リスト(PDF)

チケットは事前予約制ではなく、窓口でも購入可能ですが、団体の受け入れや夜間開館は中止となりました。さらに入館に際しては、来場者全員の検温と手の消毒が行われていて、感染症の拡大防止のために、入場者数を制限する場合もあります。



私は会期4日目に出向きましたが、平日の午後だったためか空いていて、特に制限は一切ありませんでした。また会話も控えるよう要請されているからか、展示室内も静まり返っていました。

しかし会期が大幅に短縮されたため、今後、入場者が集中し、閉幕に向けて混み合う可能性も考えられます。最新の状況については江戸東京博物館の公式Twitterアカウントをご覧下さい。



6月21日まで開催されています。おすすめします。なお東京展を終えると、山口県立美術館(2020年7月7日~8月30日)、あべのハルカス美術館(2020年9月12日~11月8日)へと巡回します。

「奇才―江戸絵画の冒険者たち―」 江戸東京博物館@edohakugibochan
会期:2020年6月2日(火)~6月21日(日)
時間:9:30~17:30
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し5月4日、18日は開館。
料金:一般1400円、大学・専門学生1120円、小学・中学・高校生・65歳以上700円。
 *団体の受け入れは中止。
 *常設展との共通券あり
 *毎月第3水曜日のシルバーデーは中止。
住所:墨田区横網1-4-1
交通:JR総武線両国駅西口徒歩3分、都営地下鉄大江戸線両国駅A4出口徒歩1分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 「神田日勝 大... 「広島⇔東京 ... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。