「ジョルジュ・ルオー アイ・ラブ・サーカス展」 パナソニック汐留ミュージアム

パナソニック汐留ミュージアム
「ジョルジュ・ルオー アイ・ラブ・サーカス展」 
10/6-12/16



パナソニック汐留ミュージアムで開催中の「ジョルジュ・ルオー アイ・ラブ・サーカス展」のプレスプレビューに参加してきました。

ルオーが子どもの頃から身近に親しんでいたというサーカス。

1872年、パリ郊外に生まれ、裕福とは言えない家庭に育ったルオーは、唯一の楽しみがサーカス鑑賞、とりわけ興行としての移動サーカスを見に行くことでした。

そうしたルオーは、画家になってからも終生、サーカスを描き続けます。その数、全作品のうちの3分の1。

本展ではルオーのサーカスを描いた作品と、当時のサーカスまたキャバレー文化を紹介しています。構成は以下の通りでした。

第1幕 悲哀‐旅回りのサーカス 1902~1910年代
第2幕 喝采‐舞台をひと巡り 1920~30年代
第3幕 記憶‐光の道化師 1940~50年代


始まりは貧しき少年時代、ルオーの憧れでもあった移動サーカスの道化たちです。

ここで見るべきは例えば「操り人形を持つ道化師」(1902-1909)のように道化師らが楽しそうにしていないこと。実はこうした移動サーカスに参加していた人々はいわゆるジプシー。決して裕福ではありません。


右:ジョルジュ・ルオー「操り人形を持つ道化師」(1902-1909) 油彩、紙(カンヴァスで裏打ち) ギャルリーためなが

ルオーはサーカスの人々の有りのままの姿を見つめたからこそ、時に悲しげな面持ちをした道化師を描いたというわけでした。

また道化師にはもう一つポイント、つまり道化師へルオーが自身を投影していたというところも重要です。


「自画像コーナー」展示室風景

とりわけ初期の道化に扮した自画像には、ルオーの内面の葛藤も反映されています。展示では比較的初期の頃の自画像をいくつか紹介。いずれも日本初公開でした。

さてルオーが画家としての一定の地位獲得すると、今度は移動サーカスではなく、常設のサーカス劇場へ出入りするようになります。 貧しいサーカスから一転、言わば社交界としてのサーカスへの進出です。


「第2幕 喝采‐舞台をひと巡り」展示室風景

画商ヴォラールとも親交のあったルオーは、彼の所有していたボックス席でサーカスを鑑賞。次第により鮮やかな色彩を用いて踊り子や曲馬師たちを描いていきます。

会場ではルオーの描いたサーカスのキャラクター毎に作品を展示。そしてここではモチーフによって一定の様式とも言える特徴があるのも面白いのではないでしょうか。


左:ジョルジュ・ルオー「小さな女曲馬師」(1925年頃) 油彩・紙(カンヴァスで裏打ち) 出光美術館

例えば曲馬師。ルオーはいずれもその姿を馬に乗った真横からの構図で描いています。

またお馴染みの道化師も実は全てメイクを取った姿。背景も楽屋裏を思わせる室内で、舞台上ではありません。ようはここでもルオーはあくまでも人間としての道化を見つめていたわけなのです。

さて展示のハイライトはルオー作品では異例の大きさ、高さ2メートルにも及ぶ大作の油彩画3点に他なりません。

そもそもルオーは制作においてキャンバスを立てず、あくまでも机の上に紙を敷いて描くことを好んでいました。それ故に机に収まるような小ぶりの作品が多いわけですが、この3点は全く別物。それにしても何故にこうして大きな作品を描いたのでしょうか。


中央:「傷ついた道化師」(1929-39) 油彩、紙(カンヴァスで裏打ち) 個人蔵、ジュネーブ

答えは簡単。実はいずれもタペストリーの原画として描いたからなのです。

だからこそ絵画の周囲部には縁取りも描写。また「傷ついた道化師」(1929-1939)に関しては日本初公開、さらに3点揃って展示されるのも日本で初めてです。

また一番右の「踊り子」(931-32)の画面左下にちょっと注意して見て下さい。何かもやもやとした部分があることが分かるのではないでしょうか。

これはかつて作品がナチスによって接収された際に傷ついてしまったため、その表面を削った跡なのだそうです。

それに日本初公開と言えば珍しい動物のみを描いた「ライオン」(1931)も注目作ではないでしょうか。


右:ジョルジュ・ルオー「ライオン」(1931) 油彩、インク、グワッシュ、紙(カンヴァスで裏打ち) 個人蔵(ルオー財団協力)

今回の展示では国内の美術館はもとより、パリのルオー財団、またポンピドゥーなどからも作品がやって来ています。

日本でも比較的見る機会多いルオーですが、サーカスに焦点を絞った構成、また新鮮味のある作品など、色々と発見の多い展覧会でもありました。

さて本展ではこうしたルオーと並び、もう一つ大きな見どころが。


サーカス資料展示コーナー

それがルオーと同時代、まさに彼が見ていたであろうサーカスの資料展示です。


サーカス資料展示コーナー

会場にはサーカスの楽屋、またキャバレーを模したセットも登場。当時のパリはあらゆる通りに劇場があると言われたくらいサーカスが盛んだったそうですが、そうした華やいだ雰囲気を味わうことが出来ました。

ラストは晩年の道化師シリーズが。こにはかつての有りのままの人間でもなく、また自身の投影でもない、つまりはキリスト的存在としての道化師が描かれています。


「第3幕 記憶‐光の道化師」展示室風景

サーカス、とりわけ道化師を通して辿るルオーの目指した人間像、その到達点が示されていました。

青幻社から一般書籍として発売中の図録が良く出来ています。

「ジョルジュ・ルオー サーカス 道化師/青幻舎」

付録にはキャバレーのポスターも。まずはお手にとってご覧下さい。

また10月21日には日曜美術館(Eテレ。9:00~)の本篇で取り上げられるそうです。こちらも楽しみにしたいと思います。

12月16日まで開催されています。

「ジョルジュ・ルオー アイ・ラブ・サーカス展」 パナソニック汐留ミュージアム
会期:10月6日(土)~12月16日(日)
休館:月曜日
時間:10:00~18:00
料金:一般800円、大学生600円、中・高校生200円、小学生以下無料。
 *65歳以上700円、20名以上の団体は各100円引。
住所:港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
交通:JR線新橋駅銀座口より徒歩5分、東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より徒歩3分、都営浅草線新橋駅改札より徒歩3分、都営大江戸線汐留駅3・4番出口より徒歩1分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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