都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ルーヴル美術館展」 横浜美術館 6/18
横浜美術館(横浜市西区みなとみらい)
「ルーヴル美術館展 -19世紀フランス絵画 新古典主義からロマン主義へ- 」
4/9~7/18
横浜美術館に到着したのは17時頃だったでしょうか。金曜だけでなく土曜日も延長開館(20時まで)していただけるのは有難いものです。館内は想像していたよりも空いていて、ゆったりとした雰囲気で作品と向かい合うことができました。
「新古典主義かロマン主義のどちらが好きか。」と問われれば、今の段階での私の趣向はロマン主義にあると思います。中でも「盟主」ドラクロワの作品は多く展示されていました。初期作品である「母虎と戯れる子虎」(1831年)の意外なまでに端正に描き込まれた二頭の虎の迫力、諧謔的な雰囲気さえ漂わせる「墓場のハムレットとホレーショ」(1859年)、さらには激しいタッチが生々しい「怒りのメデイア」(1862年)、そして展示されていた作品の中で最も繊細な色彩感が見られた「オフィーリアの死」(1844-53頃)など、どれも印象に残るものばかりで見応えも抜群でした。これまでドラクロワをまとまって拝見したことがなかったので、貴重な機会を楽しむことができました。
「ロマン主義による自然への関心。」とのことで、「自然主義」として登場していたコローやミレーも味わい深い作品ばかりです。中でもコローは好きな作家の一人ですが、今回改めて接してみると、画面全体に美しく散りばめられた小さな宝石のように塗られた油彩の味わいと、幻想的ともいえる「光」の穏やかな表現にはうっとりとさせられます。特に「カステルガンドルフォの思い出」(1865年)は深く印象に残りました。また「泉水のわきにたたずむギリシア娘」(1865-70年頃)も美しい作品です。凛とした横顔を見せる女性が、淡いタッチの中から映えるように描かれて、地面まで長く伸びた白い服が見事な質感を見せています。コローの魅力を十分に満喫できる作品でした。その他「自然主義」では、水際に照らされた陽の温かさと中央部分の木立の柔らかな質感に魅せられたドービニーの「沼、ロンプレの近く」(1870年)と、何やら胸騒ぎをさせられる赤々しい夕焼けが強烈なルソーの「森の落日」(1866年)が心に留まりました。
以前はあまり関心を持って見てこなかったアングルですが、極めて高い完成度を感じさせる「トルコ風呂」(1859-63年頃)の凄まじさには圧倒されます。全裸の女性がのたうち回るように描かれ、その特異な構図感からして目を見張らせますが、それぞれの女性の官能的な表情には非常に興味をそそられました。古典的な技法が見せる堅牢な画面構成とは裏腹に、そこから垣間見ることのできる人間の欲望を剥き出しにしたようなある意味での「卑猥さ」のギャップ感。入浴という日常の「癒し」の光景を切り取った作品なのに、落ち着きや安らぎ感を与えません。見る前に抱いていた漠然とした先入観は簡単に打ち砕けました。「泉」(1820-56年)で見せた女性の柔らかな肉体の美しさと合わせて、アングルの深い魅力を初めて教えられたような気がしました。
ダヴィットの「マラーの死」(19C初頭)や、ピコの「アモルとプシュケ」(1817年)などの名画も、実際に目にするのは初めてでしたが見応え十分でした。会場を一巡しながら作品を流し目で見ても、今回の展覧会に出品されたものがどれだけ素晴らしいのかが良く分かります。もちろん、二巡目はじっくり時間をかけて鑑賞しました。名前負けすることのない期待以上に力の入った展覧会です。
ところで今回のチケットは、昨年に横浜美術館が企画した「開館15周年スタンプカード」でいただいた特典の無料券で観覧しました。これは、4つの展覧会を有料で入場すれば、ショップの500円引きと一つの企画展招待券がプレゼントされるというものです。残念ながらこの企画は今年はありませんが、その代わり次の企画展から「リピーター割引」を始めるそうです。観覧済みの有料券を提示すればチケット料金が団体料金になるとのことで、チケットの期限も一年間です。些細な取り組みかも知れませんが私は支持したいです。秋から開催される予定の「李禹煥展」が今から楽しみです。
「ルーヴル美術館展 -19世紀フランス絵画 新古典主義からロマン主義へ- 」
4/9~7/18
横浜美術館に到着したのは17時頃だったでしょうか。金曜だけでなく土曜日も延長開館(20時まで)していただけるのは有難いものです。館内は想像していたよりも空いていて、ゆったりとした雰囲気で作品と向かい合うことができました。
「新古典主義かロマン主義のどちらが好きか。」と問われれば、今の段階での私の趣向はロマン主義にあると思います。中でも「盟主」ドラクロワの作品は多く展示されていました。初期作品である「母虎と戯れる子虎」(1831年)の意外なまでに端正に描き込まれた二頭の虎の迫力、諧謔的な雰囲気さえ漂わせる「墓場のハムレットとホレーショ」(1859年)、さらには激しいタッチが生々しい「怒りのメデイア」(1862年)、そして展示されていた作品の中で最も繊細な色彩感が見られた「オフィーリアの死」(1844-53頃)など、どれも印象に残るものばかりで見応えも抜群でした。これまでドラクロワをまとまって拝見したことがなかったので、貴重な機会を楽しむことができました。
「ロマン主義による自然への関心。」とのことで、「自然主義」として登場していたコローやミレーも味わい深い作品ばかりです。中でもコローは好きな作家の一人ですが、今回改めて接してみると、画面全体に美しく散りばめられた小さな宝石のように塗られた油彩の味わいと、幻想的ともいえる「光」の穏やかな表現にはうっとりとさせられます。特に「カステルガンドルフォの思い出」(1865年)は深く印象に残りました。また「泉水のわきにたたずむギリシア娘」(1865-70年頃)も美しい作品です。凛とした横顔を見せる女性が、淡いタッチの中から映えるように描かれて、地面まで長く伸びた白い服が見事な質感を見せています。コローの魅力を十分に満喫できる作品でした。その他「自然主義」では、水際に照らされた陽の温かさと中央部分の木立の柔らかな質感に魅せられたドービニーの「沼、ロンプレの近く」(1870年)と、何やら胸騒ぎをさせられる赤々しい夕焼けが強烈なルソーの「森の落日」(1866年)が心に留まりました。
以前はあまり関心を持って見てこなかったアングルですが、極めて高い完成度を感じさせる「トルコ風呂」(1859-63年頃)の凄まじさには圧倒されます。全裸の女性がのたうち回るように描かれ、その特異な構図感からして目を見張らせますが、それぞれの女性の官能的な表情には非常に興味をそそられました。古典的な技法が見せる堅牢な画面構成とは裏腹に、そこから垣間見ることのできる人間の欲望を剥き出しにしたようなある意味での「卑猥さ」のギャップ感。入浴という日常の「癒し」の光景を切り取った作品なのに、落ち着きや安らぎ感を与えません。見る前に抱いていた漠然とした先入観は簡単に打ち砕けました。「泉」(1820-56年)で見せた女性の柔らかな肉体の美しさと合わせて、アングルの深い魅力を初めて教えられたような気がしました。
ダヴィットの「マラーの死」(19C初頭)や、ピコの「アモルとプシュケ」(1817年)などの名画も、実際に目にするのは初めてでしたが見応え十分でした。会場を一巡しながら作品を流し目で見ても、今回の展覧会に出品されたものがどれだけ素晴らしいのかが良く分かります。もちろん、二巡目はじっくり時間をかけて鑑賞しました。名前負けすることのない期待以上に力の入った展覧会です。
ところで今回のチケットは、昨年に横浜美術館が企画した「開館15周年スタンプカード」でいただいた特典の無料券で観覧しました。これは、4つの展覧会を有料で入場すれば、ショップの500円引きと一つの企画展招待券がプレゼントされるというものです。残念ながらこの企画は今年はありませんが、その代わり次の企画展から「リピーター割引」を始めるそうです。観覧済みの有料券を提示すればチケット料金が団体料金になるとのことで、チケットの期限も一年間です。些細な取り組みかも知れませんが私は支持したいです。秋から開催される予定の「李禹煥展」が今から楽しみです。
コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )
« 「海が満ちる... | 「広がりのあ... » |
がっかり半分だったのですが、実際は予想以上の展覧会でした。
ドラクロアのトラの絵は近くによってみました。上手に描いてますね。
コローのイタリア滞在時の絵や“カステルガンドルフォの思い出”にも
魅せられました。
チラシにでてたダヴィッドの“マラーの死”は4月に訪問したベルギー
王立美術館の同じのをみました。図録をよく読んでみるとここに出て
いるのは本人の模写なんですね。これで謎が解けました。ダビッドが
ナポレオンの失脚の後、ベルギーに亡命したので本物が王立美術館にあるわけです。
コメントありがとうございます。
何とマラーの死が模写でしたか!
図録は購入しなかったので全く気づきませんでした。不覚…。
本人とはいえ、
ちょっと記載があっても良かったかもしれませんね。
セザンヌについての記事へコメント
ありがとうございます。この頃、
講演会が面白くてよく参加します。
今日も午後から、「フィリップス・
コレクション展」についての講演会
に参加してきます
ルーブル美術館展では、現場で観ると
作品が沢山あり過ぎて見逃していたのを
ここではじっくりと観覧することができて
本当に1つ1つの作品が素晴らしくて
感激いたしました。
はろるどさんがコローの絵が良かったそう
ですが、私も彼の自然描写が大好きです。
ラ・トゥール展を招聘した高橋氏が2008年頃
には、コローをまとめて展覧したい、と
おっしゃていました。
TBさせて頂きます。
Juliaさんは最近あちこちの講演会にお出かけになられていますよね。
私もその熱心さを、少しは見習わなくてはいけません。
またブログでアップされるのを楽しみに待ってます。
ルーヴルは想像以上の展覧会でした。
記事にも書きましたが、
初めてアングルやドラクロワ(実はドラクロワもそんなに好きではなかったのです…。)の魅力を教えられた気がしました。
2008年ですか、コローは!
今から楽しみです。
私もやっとこの展覧会行ってきました。
「もしかして行かないのでは・・・」
と内心思ってもいたのですが、
はっきり言って、行って良かったです。
行けば行ったで必ず素敵な作品に
巡り合えます。
今回もまたそうでした。
名実共に充実した展覧会でしたよね。
早くルーヴル本家が見てみたいです!
アングルの良さもなんとなく分かったような気がします。