都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「芳年『月百姿』を主に - 月の浮世絵展」(後期展示) 礫川浮世絵美術館
礫川浮世絵美術館(文京区小石川1-2-3 小石川春日ビル5F)
「芳年『月百姿』を主に - 月の浮世絵展」
8/1-25
雑居ビル5階にある、まるで画廊のように小さい美術館の浮世絵展です。月岡芳年の晩年の代表作「月百姿」シリーズ(全100点のうち30点)と、月をモチーフにとる広重や英泉、それに国芳などの浮世絵が数点紹介されています。
「月百姿」全点(作品画像が掲載されています。)
「月百姿」(1885-1891)は月をテーマにした作品ですが、その素材は歴史や能、それに説話などと多種多様です。よって、それぞれの絵の『ストーリー』を前提知識として把握していると、より理解が深まるのかと思います。とは言え、展示でも一部の作品の背景等について、その説明がキャプションでなされていました。やや敷居の高い部分があることは事実ですが、その空想的な雰囲気を見るだけでも十分に楽しむことは出来ます。どれも発色が鮮やか(*1)で、カラフルな配色を見ているだけでも飽きません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/08/d0/e06edaf150c47b652f47509b5938c113.jpg)
惹かれたものをいくつか挙げていきます。まずは「月のものくるい」(1889)です。これは『ものくるい』の女性が、箱に入れた一巻の文を読んで泣いている作品だそうですが、背景の影絵のような橋と艶やかな着物を纏う女性の対比、それに巧みな遠近感にて空高く舞う文の描写などが見事だと感じました。ちなみにこの橋は五条大橋だそうです。雲のようになびく文には一体、どのようなことが書かれていたのでしょうか。文が、今にも消えていく煙のように立ち上っています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6e/4f/65b6e9e5f06e0cd6230c28a8c6249726.jpg)
後ろ姿のカッコ良い「深見自休」(1887)も印象的です。ひらひらと散る桜吹雪の下、肩をならして歩くのは一人の武士でしょうか。この衣装は向日葵の紋様をあしらっているのかもしれません。まるで夜空で開く花火のような花を咲かせています。勇ましい姿です。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/56/43/aea024c88345bd303efb92a9b531aac9.jpg)
どこか風流な「赤壁月」(1889)も美しさの光る佳品です。芳年らしからぬ落ち着いた構図をとっていますが、水墨画のような濃淡の映える崖と山、それにのんびりと進む小舟の様子が素朴な味わいを醸し出していました。グロテスクな芳年のイメージも吹き飛ぶ、詩心すら感じさせる作品です。
ところで礫川浮世絵美術館では、次回、9月1日から、川瀬巴水の展覧会(土井コレクション「川瀬巴水」展 9/1-25)が予定されています。そちらも是非見に行きたいと思います。
今週の土曜日、25日までの開催です。(8/17)
*1 元来、浮世絵が伝統的に用いていた植物染料ではなく、「洋紅」と呼ばれる合成絵具が使われている。
「芳年『月百姿』を主に - 月の浮世絵展」
8/1-25
雑居ビル5階にある、まるで画廊のように小さい美術館の浮世絵展です。月岡芳年の晩年の代表作「月百姿」シリーズ(全100点のうち30点)と、月をモチーフにとる広重や英泉、それに国芳などの浮世絵が数点紹介されています。
「月百姿」全点(作品画像が掲載されています。)
「月百姿」(1885-1891)は月をテーマにした作品ですが、その素材は歴史や能、それに説話などと多種多様です。よって、それぞれの絵の『ストーリー』を前提知識として把握していると、より理解が深まるのかと思います。とは言え、展示でも一部の作品の背景等について、その説明がキャプションでなされていました。やや敷居の高い部分があることは事実ですが、その空想的な雰囲気を見るだけでも十分に楽しむことは出来ます。どれも発色が鮮やか(*1)で、カラフルな配色を見ているだけでも飽きません。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/08/d0/e06edaf150c47b652f47509b5938c113.jpg)
惹かれたものをいくつか挙げていきます。まずは「月のものくるい」(1889)です。これは『ものくるい』の女性が、箱に入れた一巻の文を読んで泣いている作品だそうですが、背景の影絵のような橋と艶やかな着物を纏う女性の対比、それに巧みな遠近感にて空高く舞う文の描写などが見事だと感じました。ちなみにこの橋は五条大橋だそうです。雲のようになびく文には一体、どのようなことが書かれていたのでしょうか。文が、今にも消えていく煙のように立ち上っています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6e/4f/65b6e9e5f06e0cd6230c28a8c6249726.jpg)
後ろ姿のカッコ良い「深見自休」(1887)も印象的です。ひらひらと散る桜吹雪の下、肩をならして歩くのは一人の武士でしょうか。この衣装は向日葵の紋様をあしらっているのかもしれません。まるで夜空で開く花火のような花を咲かせています。勇ましい姿です。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/56/43/aea024c88345bd303efb92a9b531aac9.jpg)
どこか風流な「赤壁月」(1889)も美しさの光る佳品です。芳年らしからぬ落ち着いた構図をとっていますが、水墨画のような濃淡の映える崖と山、それにのんびりと進む小舟の様子が素朴な味わいを醸し出していました。グロテスクな芳年のイメージも吹き飛ぶ、詩心すら感じさせる作品です。
ところで礫川浮世絵美術館では、次回、9月1日から、川瀬巴水の展覧会(土井コレクション「川瀬巴水」展 9/1-25)が予定されています。そちらも是非見に行きたいと思います。
今週の土曜日、25日までの開催です。(8/17)
*1 元来、浮世絵が伝統的に用いていた植物染料ではなく、「洋紅」と呼ばれる合成絵具が使われている。
コメント ( 9 ) | Trackback ( 0 )
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AYAKASHIで芳年ファンが増殖中というところでしょうか。こちらで紹介されている絵も素晴らしいですね。
この美術館には行ったことがなかったのでチャンス!と思ったのですが、25日までですか。微妙。
>AYAKASHIで芳年ファン
そうかもしれませんね。
月岡芳年=無惨絵というイメージばかり先立っていたのですが、
こんなに幅広い世界があったとは全く思いませんでした。
これからは追っかけていきたいですね。
>25日までですか。微妙。
とても小さな美術館なので時間はかからないかと思います。
(小さな小部屋が二つあるに過ぎません。)
もし少しでも余裕がおありでしたら、
何かのついでにでも是非!
ただ、絵の背景を知っているともっと楽しいのになぁ
と、悔しさも感じました。
難しいところですね。
次回の巴水も楽しみですね。
「月百姿」には「浮世絵の品格」すら感じました。
「最後の浮世絵師」といわれた月岡芳年の晩年の作ですから、浮世絵の一つの到達点なのかもしれません。
浮世絵は、その後、川瀬巴水らの新版画として再興されるわけですが、「浮世絵の品格」は巴水の夕暮れの絵に伝わっているような気がします。巴水展が楽しみです。
こんばんは。前期も行けば良かったなと今更ながらに後悔しています…。
仰る通り、絵の背景について詳しいともっと面白いかもしれませね。
次回の巴水も楽しみです。
@とらさん
こんばんは。
>月岡芳年の晩年の作ですから、浮世絵の一つの到達点なのかもしれません。
なるほどそういうことなのかもしれません。
劇画的ともいうのでしょうか、
ややエキゾチックな雰囲気もあるように思いました。
西洋画移入の影響もありそうです。
>巴水の夕暮れの絵に伝わっているような気がします。
楽しみですね。
ここの美術館を知ったのもとらさんのおかげです。
どうもありがとうございました。
芳年は芝居好きで(江戸の人間で芝居とウナギが嫌いな人の方が珍しい)色んな芝居や稗史、草双紙から作品を拵えてゆきましたが、そこから幕末~明治に何が好まれていたかが見えて、それも楽しいです。
わたしは国芳―芳年―年方―清方・照方―深水・紫明・・・という流派の血脈が大好きなのです。
もともと物語絵が好きなのもこの辺りのおかげかな、と思ったりしています。
>芳年は芝居好きで
やはりそうでしたか。その辺の知識が有ればもっと楽しめたかなと思いました。画題のネタが豊富ですよね。
>国芳―芳年―年方―清方・照方―深水・紫明・・・という流派の血脈
国芳、芳年、それに深水は私も好きです。
清方は見事な作品が多くて感心するのですが、
どこか絵に難しさを感じてしまいます。
>そこから幕末~明治に何が好まれていた
この時期の浮世絵史を見るような展示があればと思います。
維新前後の浮世絵展なんてあれば…。
>維新前後の浮世絵展なんてあれば
花小金井の方にある、ガスミュージアムが丁度その時代の浮世絵を大量に所蔵していて、テーマごとに展覧会を開催しています。
http://www.gasmuseum.jp/
ここは江戸東京たてもの園ともバスルートがつながっています。
府中美―たてもの園―ガス なんてツアーも良いですよ。
赤煉瓦のわたし好みの建物です。
>花小金井の方にある、ガスミュージアムが丁度その時代の浮世絵を大量に所蔵していて、テーマごとに展覧会を開催しています。
http://www.gasmuseum.jp/
これはこれはご丁寧にありがとうございます。
小金井にそのような施設があったとは…。今も文明開化の展覧会をやっているのですね。
今度府中市美にでも行った際に、ご推薦のコースでまわってみます。