「小原古邨」 太田記念美術館

太田記念美術館
「企画展 小原古邨」
2019/2/1~3/24



明治10年に金沢に生まれ、明治末期から昭和前期にかけ、主に輸出向けの木版花鳥画を制作した小原古邨(1877~1945)は、これまで海外で高い評価を得てきました。一方で、国内では、必ずしもよく知られた木版画家ではありませんでした。

しかし昨年、茅ヶ崎市美術館で行われた「小原古邨展―花と鳥のエデン」は、口コミなどで評判も広がり、会期終盤には入場が規制されるほど人気を博しました。

古邨ブーム再びとなるかもしれません。太田記念美術館にて「企画展 小原古邨」が開催されています。

さて今回の古邨展は、茅ヶ崎の「小原古邨展―花と鳥のエデン」の巡回展ではなく、別の摺りの作品が出展されていましたが、何よりも構成が最も異なっていました。

つまり、茅ヶ崎では、春夏秋冬の季節別に作品を並べていましたが、太田記念美術館では、原則、画業を時系列に紹介する内容になっていました。特に古邨が、それぞれ版元であった松木平吉(大黒堂)と秋山武右衛門(滑稽堂)と制作した、明治末期までにウエイトが置かれていて、昭和に入り、新版画を進めた渡邊庄三郎(渡邊版画店)と作った作品と、半ば比較するかのように展示されていました。


小原古邨「鵞鳥」 個人蔵 *前期展示

元々、日本画家に師事していた古邨は、木版画への道を進み、大黒堂と滑稽堂から、多くの作品を世に送り出しました。明治末までの古邨の作風は、淡い色彩と基調として、時に水彩と見間違うかのような、日本画とも言える魅力をたたえていました。

そもそも画稿も、絹本に肉筆で描き、写真湿板で写した物を下絵にしていて、「桜に烏」などは、瑞々しい色彩を伴っていました。こうした一連の画稿が数点出ているにも特徴で、古邨のリアルな筆の息遣いを見ることが出来ました。


小原古邨「蓮に雀」 個人蔵 *前期展示

「柿に目白」も魅惑的な一枚で、丸々と熟れた朱色の柿の実に、白い腹をした一羽の目白がとまる姿を描いていました。背景はうっすらと青みがかっていて、大気や空を表しているかのようでした。

「雨中の桐に雀」も印象に深い作品で、細い線で示された雨の中、3羽の小さな雀が、桐の葉の下で雨宿りをしていました。ともかく古邨は鳥などの小動物を描くことに長けていて、木兎や鷺、鳩に鶏など、思わず目を細めてしまうほどに愛らしい生き物がたくさん登場していました。

「滝に鶺鴒」にも目がとまりました。瑞々しい青みを伴った、滔々と水の落ちる滝壺の岩に、一羽の鶺鴒がとまっていて、細かな波が辺りを渦巻いていました。水の筋から波の飛沫など、大変に精緻な表現で、水のグラデーションも細かに表現されていました。その色彩の透明感は、おおよそ木版とは思えないかもしれません。

チラシの表紙を飾った「踊る狐」は、木版と試摺が並べて展示されていました。まるで擬人化した狐が踊る異色作で、微笑ましい姿を見せていましたが、試摺には毛並みを柔らかくすなどの指示が書かれていて、古邨の表現に対してのスタンスも伺うことが出来ました。


小原古邨「紫陽花に蜂」 渡邊木版美術画舗 *前期展示

昭和に入った古邨は、版元を渡邉庄三郎の渡邉版画店に替え、再び輸出向けの木版画を制作しました。この頃の作品は、以前も色彩が鮮やかで、まさに時流に乗った新版画的な木版表現を主体としていました。この明治末までと昭和期における作風の変化も、古邨を追う上で重要なポイントで、これほど版元で作品の表情が異なるとは思いませんでした。

渡邊版画より出た「月夜の桜」は、画稿、試摺、木版と3点が揃っていました。画稿には、満月の下、桜の花が赤紫色になる光景を描いていて、試摺でも同様の表現が見られました。しかし完成した木版は、画稿と大いに色が異なり、全てがまるで巴水画を思わせるような藍一色に染まっていました。これは渡邊が意図して変えたものでしたが、受け手側のニーズに応えるためのものだったのかもしれません。



そのほか、主に夜の戸外を描いた珍しい風景画も目を引きました。既に茅ヶ崎でご覧になった方も多いかもしれませんが、画稿と木版の比較しかり、また新たな視点で古邨の画業を知ることが出来るのではないでしょうか。


小原古邨「月に木菟」 個人蔵 *後期展示

会期の情報です。展覧会は完全2期制です。前後期で全ての作品が入れ替わります。総出展数は150点ですが、一度に見ることは叶いません。

「企画展 小原古邨」出展リスト(PDF)
前期:2月1日(金)~24日(日)
後期:3月1日(金)~24日(日)

最後に会場内の状況です。私はタイミング良く、平日の夕方前に行くことが出来ました。よって館内にはかなり余裕があり、どの作品もじっくり見られました。閉館前は人も疎らで、ほぼ貸切でした。


しかし一度、茅ヶ崎で話題を集めた小原古邨を、今度は東京で紹介する単独の回顧展です。実に茅ヶ崎の展覧会以前、小原古邨の作品がまとめて公開されたのは、1998年の平木浮世絵美術館にまで遡らなくてはなりません。

「小原古邨 花咲き鳥歌う紙上の楽園/東京美術」

後半にかけて混み合うことも予想されます。早めの鑑賞をおすすめします。



3月24日まで開催されています。

「企画展 小原古邨」 太田記念美術館@ukiyoeota
会期:2019年2月1日(金)~3月24日(日)
 *前期:2月1日(金)~24日(日)、後期:3月1日(金)~24日(日)
休館:2月4日、12日、18日、25日~28日、3月4日、11日、18日。
時間:10:30~17:30(入館は17時まで)
料金:一般700円、大・高生500円、中学生以下無料。
住所:渋谷区神宮前1-10-10
交通:東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅5番出口より徒歩3分。JR線原宿駅表参道口より徒歩5分。
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