「VOCA展 2008」 上野の森美術館

上野の森美術館台東区上野公園1-2
「VOCA展 2008 現代美術の展望 - 新しい平面の作家たち」
3/14-30



2年前より見続けています。桜より一足先に、春の上野を現代アートで彩る「VOCA展」です。本年は36名の作家が紹介されていました。

出品者、及び各受賞作品については以下、リンク先HPをご参照下さい。

出品者
受賞作品
 VOCA賞 横内賢太郎
 奨励賞 川上幸之介、笹岡啓子
 佳作賞 伊藤雅恵、藤原裕策
 大原美術館賞 岩熊力也 
 府中美術館賞 関根直子



まず印象深いのは、入口横通路の正面にある伊藤雅恵の「忘れないアクシデント」(油彩、キャンバス)です。タイトルの意味するところは不明ですが、透明感溢れる色とりどりの絵具が舞う様子は、ちょうど晴天の元に広がる草原上に群れた花畑をイメージさせます。白のタッチが点々と、たとえば蝶が飛び交うかのように空間を駆けていました。この開放感はたまりません。

まるで石壁画のような重厚なマチエールにて、図書館か学校などを思わせる堅牢な建物の階段を一人の女性が降りる姿を捉えた、三宮一将の「彼女の名は知らない」(油彩、キャンバス)も、そのどことない絵の風格に魅せられる作品です。窓から差し込む光が床を仄かに照らし出し、場を包み込むヒンヤリとした空気の気配を巧みに伝えています。また、ちょうど画面中央に浮かぶシャボン玉のような円は一体何を表すのでしょうか。白昼夢を見ているような気分にもさせられました。

最近、各グループ展などで見る機会も多い元田久治からは、かの廃墟画、「Indication-Tokyo Station」(インク、紙)が出品されています。今回の舞台は、ちょうど今、復原中の東京駅丸の内口赤レンガ駅舎です。建物は大地震に襲われた後のように歪み、正面広場の地下空間もひしゃげてその姿を無惨にさらしていますが、アスファルト舗装から生える草などには、廃墟より新たな方向へと進む再生のイメージも微かに漂わせています。またタイムスリップしてこの場に現れたかのような一台の路面電車の姿も心にとまりました。絵の中の時間の所在を迷わせるような不思議なモチーフです。(「増殖するイメージ 『山田純嗣、元田久治、廣澤仁』」@新宿高島屋 3/19-4/1)

一風変わった森本絵利の三点の点描画、「御影石」、「森」、「カリフラワー」(アクリル、半透明紙)の趣向も面白く感じました。薄い紙の上に置かれた極小の絵具の粒が、網状のグラデーションを描きながら、各モチーフを抽象的に表しています。また森本の細かな点描同様、そのシンプルな技法で、今度は対照的なダイナミックな景色を表した中西信洋の「stripe drawing」(鉛筆、紙)も印象的です。岩のひしめき合う洞窟の内部とも、またダイヤなどの鉱石の輝きとも、さらには一つ一つのエネルギーの渦が画面上にて大きくうねる様子とも言えるような不思議な光景が、白の象徴的な画面に力強く広がっています。全てが線に還元される興味深い作品です。

最近、惹かれている阪本トクロウの「山水」(雲肌麻紙、アクリル、木製パネル)に見る静けさも心に染み入ります。二枚続きの大きなパネルに示された、水色と白のみのマットなアクリル絵具だけで描かれた影絵のような湖上には、一隻の白鳥の遊覧船が気持ち良さそうに悠々を浮かんでいました。殆どストイックなまでに切り詰められた画面構成より伝わる、それとは全く逆のゆとりある気配がいつもながらに魅力的です。(「岩田壮平・阪本トクロウ二人展@いつき美術画廊 3/24-4/5)



その他では、サテンを用いた画面に複層的な図像がのり、その光沢感のある質感にセンスを感じる横内賢太郎の「Book-CHRI IMOCE」(染料、メディウム、サテン布)、または南画、もしくは山水画を現代アート風に仕立てた岩熊力也の「reverb」(アクリル、ポリエステル)、さらにはそのテイストはやや苦手であるものの、爛れた色遣いや彼岸の世界を思わせるモチーフが鮮烈な安田悠の「Link」(油彩、キャンバス)などが印象に残りました。(TWS-Emerging 095/096 安田悠、シムラユウスケ@トーキョーワンダーサイト本郷 6/7-29)



この展示を見るといよいよ春が来たという気持ちになります。今月30日までの開催です。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
もうそんな季節 (kino)
2008-03-20 18:45:11
VOCA展はじまっていたんですね、うっかりしてました。確かにこの展覧会を見ると、春が来たという気がしますね。ギャラリーの展示が加藤泉さんというのも楽しみです。早く行かねば。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-03-20 21:13:09
kinoさんこんばんは。

>VOCA展はじまっていたんです

2日目に拝見してきました。会期も短いので、うっかりすると見逃してしまいますよね。是非!

>ギャラリーの展示が加藤泉さん

これがまたツボでした。はじめてあの彫刻を見た時は、やや苦手な印象もあったのですが、今では愛おしく思えてしまうのがとても不思議です。
 
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