「浮世絵師 溪斎英泉」 千葉市美術館

千葉市美術館
「浮世絵師 溪斎英泉」
5/29-7/8



千葉市美術館で開催中の「浮世絵師 溪斎英泉」へ行って来ました。

開館記念の歌麿、そして最近話題となった清長しかり、千葉市美術館の最大の目玉が江戸絵画、中でも浮世絵展であることは言うまでもありません。

今回の主人公は渓斎英泉 (けいさいえいせん)。いささか聞き慣れないかもしれませんが、文化年間より幕末期、つまり最も江戸文化の熟した時期に活躍した浮世絵師で、とりわけ美人画のジャンルにおいて大きな業績を残しました。


「舟中の男女」大判錦絵 文政(1818-30) 千葉市美術館

本展ではそうした英泉の業績を美人画のみならず、風景画、摺物などを交えて紹介しています。

一部展示替えこそあるものの、総出品数は約300点です。質量ともに見応え満点でした。

構成は以下の通りです。

1.初期の美人画とその周辺
2.英泉美人の流行
3.風景画の時代へ
4.江戸名所・名物と美人
5.肉筆美人画
6.摺物の世界
7.契情道中双六
8.藍摺の世界
9.活躍の広がり
10.版本


冒頭、初期の美人画からしてそれこそサブタイトルならぬ芳しき媚薬、英泉ワールド全開です。

装飾性豊かな細部への眼差し、そして鮮烈なまでの色味、さらにはどこかエグ味すらたたえた顔面の描写と、総じて幕末期ならではの生き生きとした人物表現を楽しむことが出来ます。


「美人会中鏡 時世六佳撰」大判錦絵 文政(1818-30) 名古屋市博物館

また英泉の美人画で重要なのは大首絵のシリーズです。

「今世美女競 けいしゃ」など、特徴的な釣りあがった目にきりりと引き締まった鼻筋、そしてオーバーアクションなまでにグイッと迫り出した顔と、英泉一流の美人画様式を見ることが出来るのではないでしょうか。

一方、これらの美人画と並んで興味深いのは風景画です。 実は英泉、北斎や広重が人気になる前から風景画に取り組み、かなり多くの数の作品を残しています。


「木曾街道 塩尻嶺諏訪ノ湖水眺望」大判錦絵 天保6-7年(1835-36)頃 たばこと塩の博物館

中でも注目したいのは日本橋から大津までの街道を70枚の連作で描いた「木曾街道」シリーズです。

うち英泉は24枚を描いたそうですが、広重を連想させる温和な作風は、鮮烈な美人画とはやや異なった印象を受けるかもしれません。

また風景画では一枚、「雪中山水図」忘れることが出来ません。

縦長の空間に切り立つ岩山、木立、そして家々を表した作品ですが、そこには版画というよりも肉筆、また言い換えれば水墨画のような雰囲気が漂っています。

また風景画と関係し、名所絵でも多くの作品を残したのが英泉です。 江戸の料亭や寺社仏閣を描いた連作には、かの抱一や文晁が出入りしたことでも知られる「美人料理通 山谷 八百善」もありました。

肉筆、そして摺物も充実しています。 言うまでもなく摺物とは私的な依頼で作られた作品です。

その分、上質な紙や絵具が用いられていることが多く、一連の版画では分かりにくい英泉の繊細ならタッチを改めて確認することが出来ました。


「浮世風俗美女競 一秋水浸芙蓉」大判錦絵 文政(1818-30)中期 千葉市美術館

さて美人画の英泉、とりわけ最も才能を発揮したのは遊女を描いた作品ではないでしょうか。 中でも高価な絵具を使い、吉原のスターたちを描いた55枚の連作、「契情道中双六」は展覧会のハイライトと言えるかもしれません。

ともかく驚かされるのは遊女たちの個性的なポーズ、そして非常に派手な衣服の文様の細かな描写、そして原色を多用した色の遣い方です。

大見得を切る遊女たちの力強さは例えれば武者絵にも相当します。英泉ここにありとでも言えるような作品に目もクラクラしまいました。 まさに媚薬にノックアウトです。


「今様花鳥風月」大判錦絵3枚続 天保期(1830-44)千葉市美術館

当時流行った藍摺、またゴッホとの関係を見る展示もあります。

ジャポニスムの時代、雑誌「パリ・イリュストレ」で日本文化を紹介する特集号が出版されましたが、その表紙を飾ったのが他ならぬ英泉でした。

ゴッホはこの雑誌から英泉の花魁を見て、それを「タンギー爺さん」に取り込みます。 この英泉の表現主義的とも言える作品、ゴッホのみならず、当時の西欧に強い印象を与えたのは間違いなさそうです。

[市民美術講座]
「藍摺の流行:英泉を中心に」
日時:6月23日(土・祝)14:00より
場所:11階講堂にて。聴講無料/先着150名 
講師:田辺昌子 (学芸課長)

[イブニング・スライド&レクチャー]
夜間開館に合わせて担当学芸員が展覧会の見どころを解説します。
日時:6月15日(金)、6月29日(金)17:00~18:00
場所:9階講座室  *内容は各回とも同じ。
講師:田辺昌子 (学芸課長)

一部作品に展示替えがあります。詳しくは下記リンク先リストをご覧下さい。

「浮世絵師 溪斎英泉」出品リスト(PDF1010KB)

元々、千葉市美術館設立のきっかけの一つとして、開館前に千葉市が収集した英泉のコレクションがありました。以来、開館から約17年、調査研究を踏まえ、ようやく実現したまさに千葉市美だからこその一大回顧展として差し支えありません。

「浮世絵師列伝/別冊太陽/平凡社」

7月8日まで開催されています。

「浮世絵師 溪斎英泉」 千葉市美術館
会期:5月29日(火)~ 7月8日(日)
休館:6月4日(月)、6月18日(月)、7月2日(月)
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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