「BLACKS ルイーズ・ニーヴェルスン|アド・ラインハート|杉本博司」 DIC川村記念美術館

DIC川村記念美術館
「BLACKS ルイーズ・ニーヴェルスン|アド・ラインハート|杉本博司」
2/2-4/14



DIC川村記念美術館で開催中の「BLACKS ルイーズ・ニーヴェルスン|アド・ラインハート|杉本博司」のプレスプレビューに参加してきました。

「黒」を重要な要素とした美術作品の特徴とは一体何か。どのような作品であれ、何らかの形で色を意識しないことはありませんが、言わば「色彩の誘惑」(プレスリリースより引用)を排した「黒」はより異質。むしろ強い個性を持っているのかもしれません。

前置きがややこしくなりました。端的に本展では「黒」を基調とした現代の三作家を紹介。作品を通して開ける「黒」の美しさはもとより、個々に全く異なった表現を楽しめるような展示となっています。

さてその三作家とは。ルーズ・ニーヴェルスン(アメリカ。1899~1988)、アド・ラインハート(アメリカ。1913~1967)、そして杉本博司(日本。1948~)。それぞれ彫刻、絵画、写真の分野で業績を残すアーティストです。


杉本博司「劇場」シリーズ:展示室風景

早速、お馴染みの杉本博司から。出品はいずれも「劇場」シリーズ。いわゆる世界各地の劇場内部のスクリーン、映画一本分を長時間露光で捉えた作品です。


杉本博司「劇場」シリーズ:展示室風景

杉本はモノクロームについて、「カラー写真はあまりにも人工的。白黒世界は現実世界からの抽象である。」と述べています。

一見、上映前の真っ白なスクリーンかと思いきや、先にも触れたように実は映画一本分が写し出されているというこの作品。通常、一瞬間を写し出すに過ぎないカメラのファインダーを長時間開けておくことで、逆に人の眼は分からない光を捉えることに成功しています。


杉本博司「劇場」シリーズ:展示室風景

それはまさに杉本が「シャッターの持たない人間の眼は必然的に長時間露光になる。(略)はじめて眼が開いた時に露光は始まり、臨終の時で眼を閉じるまでが、人間の眼の一回の露光である。」をカメラで体現したもの。それを通じて人間の見ることの意味、つまりは知覚の在り方そのものを洞察しているわけです。

なお作品は主に70、80年代のものと、90年代の計25点超で構成。さり気なくこのスケールで「劇場」を見られることは滅多にありません。

さて続いてはルイーズ・ニーヴェルスン。キエフに生まれ、アメリカで活躍した女性の木彫家です。あえて申し上げましょう。このニーヴェルスンの彫刻作品を見るだけでも、本展へ行く価値は十分にあります。

と言うのも、そもそも国内で殆ど紹介されない彼女の作品をまとめて見られるからです。

出品は15点。いずれも国内各地の美術館より集められたものですが、それは日本にあるニーヴェルスン・コレクションの殆ど。しかも作家の変遷を辿れるように比較的初期から最晩年の作品までと幅広く揃っています。


ルイーズ・ニーヴェルスン「世界の庭 Vl」1959年 塗料、木材 93.5×190.5×22.2cm
DIC川村記念美術館
©Estate of Louise Nevelson / ARS, New York/JASPAR, Tokyo, 2012


ニーヴェルスンの彫刻は極めて独特。ともかくも黒い箱を一つ一つ積み上げていくような手法はあまり他に例がありません。

初期の50年代ではまだ箱の大きさも形もランダム。既製の木製品(時に廃材も利用。)を寄せ集めて作品にしていましたが、後に自身でパーツの形状を考えて構成、それを艶消しの黒に塗装、組み立てて制作。次第に幾何学的で統一感のある巨大壁画の作風へと変化しました。


ルイーズ・ニーヴェルスン「夢の家 XXX」1972年 塗料、木材 180×67×36cm
DIC川村記念美術館
©Estate of Louise Nevelson / ARS, New York/JASPAR, Tokyo, 2012


元々、メキシコの壁面家、ディエゴ・リベラの助手の経験もあったというニーヴェルスン、黒を用いたのは「形をよりはっきり見せるため。」からだそうです。

また会場では黒の作品を同じく黒の壁面に並べていますが、これは作家自身が自在を展示した際によく試みられたとのこと。作家の意図を再現しています。

それにしても曲線と直線、また細部と全体の関係。組み上げられた箱全体の建築的な存在感と、内部の凹凸のある細かな装飾の魅力、大変に見ごたえがあるのではないでしょうか。

ルイーズ・ニーヴェルスン。私にとって忘れらない作家がまた一人増えました。

ラストはアメリカ抽象芸術を代表する作家でもあるアド・ラインハート。まさに黒の展覧会に相応しい黒の画家として差し支えありません。


アド・ラインハート「無題」1966年 他
スクリーンプリント、紙 滋賀県立近代美術館


最初には晩年の小品、版画が数点。写真はおろか、遠目からでも黒一色にしか見えませんが、近づくと色調が微妙に変化していることが分かります。

そして代表的な「抽象絵画」シリーズです。 ここではほぼ1.5メートル四方の限りなく正方形に近い3点、川村記念とサムソン美術館の「抽象絵画」、そして東京現代美術館の「タイムレス・ペインティング」が並んでいます。


アド・ラインハート:展示室風景

ラインハートは「色彩はものを見えなくする。色彩は野蛮で不安定だ。」と考え、色はもちろん、質感、筆致、光、動き、形などを極限にまで排し、唯一無二。言わば非絵画的とも言える一連の黒のシリーズを制作しました。


アド・ラインハート:展示室風景

しかしながら先の版画同様、ここでも3点並べることで、初めて浮かび上がる異なった黒を見ることが出来ます。

杉本、ニーヴェルスン、ラインハート。写真、彫刻、絵画の異なったメディアから開ける様々な黒のイメージ。表現こそ違いますが、シリーズでの制作、構図やモチーフとしての反復や結合と、共通点も存在します。

川村記念美術館ならではの現代美術から「黒」の魅力を探る展覧会。会場が総じて暗めなのも特徴ですが、徐々に目が慣れてくると、作品の黒と空間の闇が奇妙にも調和してくることが分かります。


お茶席企画「Tearoom in BLACKS」

なお今回はお茶席でも黒に因んだ企画が。陶芸家・横山拓也と木工作家・新宮州三のコラボによる黒の茶碗と漆器で抹茶とお菓子をいただけます。(10:30~16:30、一服800円)

関連の講演会プログラムも充実。いずれも先着60名で聴講は入館料のみ。要チェックです。

「三次元における黒―素材、空間、色彩」
梅津元 氏 (埼玉県立近代美術館主任学芸員/芸術学)
2月23日(土)14:00~15:30

「黒いカンヴァス : マティスからラインハートまで」
田中正之 氏 (武蔵野美術大学教授)
3月9日(土)14:00~15:30

「闇と色彩 ― 写真と黒の関係」
清水穣 氏(同志社大学教授)
3月23日(土)14:00~15:30

杉本もニーヴェルスンもラインハートも館外作品が多数。この切り口で揃うことは二度とないかもしれません。


ルイーズ・ニーヴェルスン:展示室風景

4月14日までの開催です。私はおすすめします。

「BLACKS ルイーズ・ニーヴェルスン|アド・ラインハート|杉本博司」 DIC川村記念美術館@kawamura_dic
会期:2月2日(土)~4月14日(日)
休館:月曜日。但し2/11は開館。2/12は休館。
時間:9:30~17:00(入館は16時半まで)
料金:一般1300(1100)円、学生・65歳以上1000(800)円、小・中・高生500(400)円。
 *( )内は20名以上の団体。
 *2/15(金)は DIC株式会社の創業記念日につき入館無料。
住所:千葉県佐倉市坂戸631
交通:京成線京成佐倉駅、JR線佐倉駅下車。それぞれ南口より無料送迎バスにて30分と20分。東京駅八重洲北口より高速バス「マイタウン・ダイレクトバス佐倉ICルート」にて約1時間。(一日一往復)

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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