都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
金沢に谷口建築を訪ねて 前編:鈴木大拙館
金沢出身の建築家、谷口吉郎と、子の谷口吉生に所縁のある金沢には、いくつかの谷口建築が存在します。

その1つが金沢出身の仏教哲学者の鈴木大拙を顕彰し、思索の場として建てられた鈴木大拙館で、2011年に谷口吉生の設計によってオープンしました。

金沢駅からバスに乗り、最寄りの本多町で下車して、本多通りから小道へ折れると、鈴木大拙館が姿を現しました。ちょうど北陸放送のビルの裏側に位置し、小立野台地の斜面緑地を背にしていて、建物越しにも鬱蒼とした森を目にすることが出来ました。

玄関棟、展示棟、思索空間棟と名付けられた3つの棟からなっていて、いずれも回廊で結ばれつつ、玄関の庭、水鏡の庭、露地の庭の3つの庭が、建物を取り囲むように配されていました。

受付を済ませ、右手にクスノキのある玄関の庭を眺めながら、内部回廊を直進すると、展示棟に辿り着きました。この棟は展示空間と学習空間から構成されていて、大拙の書や写真、言葉が紹介されていた他、一部の著作を手にとって閲覧することも可能でした。
「単にものを鑑賞する場としない」(公式サイトより)とする鈴木大拙館では、あくまでも空間全体にて大拙の心や思想に触れることを志向していて、いわゆる資料などの展示品は多くはありませんでした。

展示棟を出ると、水の満たされた水鏡の庭が目に飛び込んできました。ちょうど正面の思索空間棟を囲みつつ、水盤が展示棟の間に築かれていて、ベンチに座わりながら、思い思いに建物などを眺めることも出来ました。

ちょうどこの日は雲ひとつない晴天のため、水盤には建物の影や周囲の樹木が映り込んでいて、時折、吹く風に揺れては、僅かに波を立てていました。

水に浮かぶような思索空間棟を眺めつつ、風や樹木のざわめきに耳を傾けていると、突如、大きな水音とともに、水盤に波紋が広がる光景を目に飛び込んできました。それは一瞬の静寂を打ち破り、僅かな緊張感を与えつつも、すぐさま元の静寂へと戻っていき、さも永続的な時間を刻んでいるかのようでした。

最も特徴的な建物は思索空間棟と言えるかもしれません。がらんとした内部には、畳による椅子のみがぐるりと四角形を描くように置かれていて、それ以外のものは一切ありませんでした。

そして四方には開口部があり、常に開け放たれているのか扉もなく、周囲の景色ともに、僅かな風が吹き込んでくる様を肌で感じることも出来ました。どのように中で過ごすかについてはあくまでも来館者に委ねられていました。
開口部より切り取られた借景も殊更に美しく、ぼんやりと眺めていると、いつしか時間の感覚を忘れていくかのようで、それこそ無の境地へと達するかのようでした。

明治3年に同地、金沢市本多町に生まれた鈴木大拙は、禅を研究すると、後にアメリカへ渡っては、仏教哲学を世界に紹介しました。生前には、建物の設計者である谷口吉生の父、吉郎との交流もあったそうです。

館内で紹介されていた「外は円くても中に四角なところがあって欲しい」との大拙の言葉を思い浮かびました。
鈴木大拙館はシンプルでかつ、直線で構成された幾何学的な建物でしたが、四角はもとより、水盤の波紋の円など、それこそ仙崖の表した「○△□」、つまりは鈴木大拙が「ユニバース」と名付けたとされる宇宙的な世界を感じることが出来るかもしれません。

移ろう景色に見惚れつつ、大拙の言葉にも触れながら、しばらく身と心を鈴木大拙館へと委ねました。

なお鈴木大拙館の横手からは、松風閣庭園や中村記念美術館などへと続く小道がのびています。私も少しだけ散策して、次の目的地の「谷口吉郎・吉生記念金沢建築館」へと向かいました。

後編「谷口吉郎・吉生記念金沢建築館」へと続きます。
「鈴木大拙館」
休館:月曜日
*月曜日が休日の場合はその直後の平日。
*年末年始(12月29日~1月3日)
*展示替え休館日あり。
時間:9:30~17:00
*入館は16時半まで。
料金:一般310(260)円、65歳以上210円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*金沢市文化施設共通観覧券で入場可。(1DAYパスポート520円、3日間パスポート830円。)
住所:石川県金沢市本多町3-4-20
交通:JR金沢駅兼六園口(東口)より城下まち金沢周遊バス、及び北陸鉄道路線バス「本多町」下車、徒歩4分。

その1つが金沢出身の仏教哲学者の鈴木大拙を顕彰し、思索の場として建てられた鈴木大拙館で、2011年に谷口吉生の設計によってオープンしました。

金沢駅からバスに乗り、最寄りの本多町で下車して、本多通りから小道へ折れると、鈴木大拙館が姿を現しました。ちょうど北陸放送のビルの裏側に位置し、小立野台地の斜面緑地を背にしていて、建物越しにも鬱蒼とした森を目にすることが出来ました。

玄関棟、展示棟、思索空間棟と名付けられた3つの棟からなっていて、いずれも回廊で結ばれつつ、玄関の庭、水鏡の庭、露地の庭の3つの庭が、建物を取り囲むように配されていました。

受付を済ませ、右手にクスノキのある玄関の庭を眺めながら、内部回廊を直進すると、展示棟に辿り着きました。この棟は展示空間と学習空間から構成されていて、大拙の書や写真、言葉が紹介されていた他、一部の著作を手にとって閲覧することも可能でした。
「単にものを鑑賞する場としない」(公式サイトより)とする鈴木大拙館では、あくまでも空間全体にて大拙の心や思想に触れることを志向していて、いわゆる資料などの展示品は多くはありませんでした。

展示棟を出ると、水の満たされた水鏡の庭が目に飛び込んできました。ちょうど正面の思索空間棟を囲みつつ、水盤が展示棟の間に築かれていて、ベンチに座わりながら、思い思いに建物などを眺めることも出来ました。

ちょうどこの日は雲ひとつない晴天のため、水盤には建物の影や周囲の樹木が映り込んでいて、時折、吹く風に揺れては、僅かに波を立てていました。

水に浮かぶような思索空間棟を眺めつつ、風や樹木のざわめきに耳を傾けていると、突如、大きな水音とともに、水盤に波紋が広がる光景を目に飛び込んできました。それは一瞬の静寂を打ち破り、僅かな緊張感を与えつつも、すぐさま元の静寂へと戻っていき、さも永続的な時間を刻んでいるかのようでした。

最も特徴的な建物は思索空間棟と言えるかもしれません。がらんとした内部には、畳による椅子のみがぐるりと四角形を描くように置かれていて、それ以外のものは一切ありませんでした。

そして四方には開口部があり、常に開け放たれているのか扉もなく、周囲の景色ともに、僅かな風が吹き込んでくる様を肌で感じることも出来ました。どのように中で過ごすかについてはあくまでも来館者に委ねられていました。
開口部より切り取られた借景も殊更に美しく、ぼんやりと眺めていると、いつしか時間の感覚を忘れていくかのようで、それこそ無の境地へと達するかのようでした。

明治3年に同地、金沢市本多町に生まれた鈴木大拙は、禅を研究すると、後にアメリカへ渡っては、仏教哲学を世界に紹介しました。生前には、建物の設計者である谷口吉生の父、吉郎との交流もあったそうです。

館内で紹介されていた「外は円くても中に四角なところがあって欲しい」との大拙の言葉を思い浮かびました。
鈴木大拙館はシンプルでかつ、直線で構成された幾何学的な建物でしたが、四角はもとより、水盤の波紋の円など、それこそ仙崖の表した「○△□」、つまりは鈴木大拙が「ユニバース」と名付けたとされる宇宙的な世界を感じることが出来るかもしれません。

移ろう景色に見惚れつつ、大拙の言葉にも触れながら、しばらく身と心を鈴木大拙館へと委ねました。

なお鈴木大拙館の横手からは、松風閣庭園や中村記念美術館などへと続く小道がのびています。私も少しだけ散策して、次の目的地の「谷口吉郎・吉生記念金沢建築館」へと向かいました。

後編「谷口吉郎・吉生記念金沢建築館」へと続きます。
「鈴木大拙館」
休館:月曜日
*月曜日が休日の場合はその直後の平日。
*年末年始(12月29日~1月3日)
*展示替え休館日あり。
時間:9:30~17:00
*入館は16時半まで。
料金:一般310(260)円、65歳以上210円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*金沢市文化施設共通観覧券で入場可。(1DAYパスポート520円、3日間パスポート830円。)
住所:石川県金沢市本多町3-4-20
交通:JR金沢駅兼六園口(東口)より城下まち金沢周遊バス、及び北陸鉄道路線バス「本多町」下車、徒歩4分。
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