都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「マーク・ロスコ 瞑想する絵画」 川村記念美術館(Vol.1・プレビュー)
川村記念美術館(千葉県佐倉市坂戸631)
「マーク・ロスコ 瞑想する絵画」
2/21-6/7

『聖地』佐倉で、まさに一期一会となるロスコの展覧会が始まりました。川村記念美術館での「マーク・ロスコ 瞑想する絵画」展のプレビューに参加してきました。
まず本エントリでは、展示の構成を順に写真でご紹介したいと思います。会場は同美術館内、先だって昨年に増築された企画展示ゾーン(増築についてはプレスをご参照下さい。)です。大きく分けて二つの部屋の中に、今回メインの「シーグラム壁画」の大展示室を中核として、計4つの空間が展開されていました。

入口。手狭なドアを抜けると深淵なロスコの世界が待ち受けます。

導入部の展示室。一点のみ、来場者を待ち構えんとして立ちふさがります。ちなみに本作品、「どこかが見たことがある。」と思われた方も多いのではないでしょうか。これはMOTの常設でも目にする機会も多い「赤の中の黒」(1958)でした。

続いて二つめの部屋です。ここからロスコが「シーグラム壁画」を手がけた過程を辿ります。

ちなみに入口側から展示室を望むと上のような形となります。手前に「赤の中の黒」、二番目の部屋に書簡群、そして最奥部の広い展示室に「シーグラム壁画」と続いていました。

「シーグラム壁画」についてはキャプションにも記載がありますが、公式サイト内の解説を前もって頭に入れておいても良いかもしれません。なぜなら今回の展示はこの壁画を単に視覚で受け止めるだけでなく、ロスコがそこへかけた情熱とを追体験する内容でもあるからです。

テート・ギャラリーにシーグラム壁画を展示するため、当時の館長ノーマン・リードと約5年にもわたってやり取りした書簡が並びます。その文面にロスコの思いが汲み取れるというものでした。もちろん本邦初公開です。

「テート・ギャラリーのシーグラム壁画展示のための模型」(1969)
ずばりロスコがテートでの展示のためにつくった模型です。

そしていよいよ開けるのは大展示室、「シーグラム壁画」による新・『ロスコ・ルーム』です。テート3点、ワシントン・ナショナル・ギャラリー5点、そして川村美7点の計15点の作品が空間を敢然と包み込み、そして支配しています。ぐるりと一周、その色と形、さらには気配に呑み込まれること必至ではないでしょうか。

「シーグラム壁画」展示室。作品位置の高さに注目です。人の身長をゆうに超える場所に掲げられています。これは当初のロスコの意図により近い形で再現するために設定されました。ここからしても川村に通常あるロスコ・ルームとは一味も二味も違うことがお分かりいただけるでしょう。

高さとともにもう一つ、作品同士の幅にもまた驚かれるのではないでしょうか。僅か5センチの隙間を挟み、まさにひしめき合ってずらりと揃います。ちなみに本展覧会はテート・モダンとの共同企画、巡回展ですが、壁画の展示の仕方に関しては若干異なっています。「イギリスで見た。」という方でももう一度試す価値は十分にありそうです。

そもそもロスコは同壁画を30点ほど制作しましたが、そのうちの半数、15点も一堂に会するのは今回が初めてです。だからこそ『一期一会』のロスコ展であるわけでした。

鼓動の高まるかのような熱気とともに、反面の異様ならざる不安感、圧迫感を覚えます。
「無題」(1969)
「シーグラム壁画」を経由すると、それまでとは異なった『らしからぬ』作品が一点、登場します。赤や朱を用いたものよりも虚空を超える広がり、そして無限の地平線のようなスケール感を見るのは私だけではないかもしれません。

そして最後の最後、もう一つ待ち構えるのが別の『ロスコ・ルーム』です。私の拙い写真では黒にしか見えませんが、その実は深い色の『波』がしずかにたゆたう作品でした。静かな音を感じるかもしれません。
「無題」(1964)
グレーのロスコの正面にある本作品がラストになります。一見、何ものにも動じない『赤』が永遠の場を開き、来場者を送り出します。

(c) Kawamura Memorial Museum of Art 2009
プロのカメラマンによる写真をお借りします。川村でのロスコの展示というと、例えばニューマンの光へと繋がるような闇夜のイメージもありますが、今回の企画では必ずしも暗くありません。照度の異なった空間で見るロスコもまた斬新でした。
最後に一つ、興味深い点を挙げたいのは、本展示の音声ガイド(500円)です。作品の解説が吹き込まれているのは言うまでもありませんが、それとともにモーツァルトの弦楽五重奏曲が丸々一楽章分挿入されています。これはロスコがこよなく愛したモーツァルトの音楽とともに壁画を見て欲しいという、ご子息、クリストファー・ロスコ氏のアイデアによって実現した企画でもあるそうです。ロスコとモーツァルトの意外な共鳴にも感じ入るものがありました。
以上です。次回以降のエントリでは、プレビュー時に行われたレクチャーなどの様子をお伝えしたいと思います。(以下のリンク先にアップしました。)
「マーク・ロスコ 瞑想する絵画」 川村記念美術館(Vol.2・レクチャー)
*展示基本情報*
「マーク・ロスコ 瞑想する絵画」
場所:川村記念美術館
交通:京成、JR佐倉駅より無料シャトルバス。駐車場(無料)あり。
会期:2009年2月21日(土)―6月7日(日)
時間:午前9時30分-午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館:月曜日(ただし5/4は開館)、5/7(木)
料金:一般1500円、学生・65歳以上1200円、小中高校生500円。(3/8まで有効の早期割引クーポンあり。)
*写真の撮影、掲載については全て主催者の許可をいただいています。
「マーク・ロスコ 瞑想する絵画」
2/21-6/7

『聖地』佐倉で、まさに一期一会となるロスコの展覧会が始まりました。川村記念美術館での「マーク・ロスコ 瞑想する絵画」展のプレビューに参加してきました。
まず本エントリでは、展示の構成を順に写真でご紹介したいと思います。会場は同美術館内、先だって昨年に増築された企画展示ゾーン(増築についてはプレスをご参照下さい。)です。大きく分けて二つの部屋の中に、今回メインの「シーグラム壁画」の大展示室を中核として、計4つの空間が展開されていました。

入口。手狭なドアを抜けると深淵なロスコの世界が待ち受けます。

導入部の展示室。一点のみ、来場者を待ち構えんとして立ちふさがります。ちなみに本作品、「どこかが見たことがある。」と思われた方も多いのではないでしょうか。これはMOTの常設でも目にする機会も多い「赤の中の黒」(1958)でした。

続いて二つめの部屋です。ここからロスコが「シーグラム壁画」を手がけた過程を辿ります。

ちなみに入口側から展示室を望むと上のような形となります。手前に「赤の中の黒」、二番目の部屋に書簡群、そして最奥部の広い展示室に「シーグラム壁画」と続いていました。

「シーグラム壁画」についてはキャプションにも記載がありますが、公式サイト内の解説を前もって頭に入れておいても良いかもしれません。なぜなら今回の展示はこの壁画を単に視覚で受け止めるだけでなく、ロスコがそこへかけた情熱とを追体験する内容でもあるからです。

テート・ギャラリーにシーグラム壁画を展示するため、当時の館長ノーマン・リードと約5年にもわたってやり取りした書簡が並びます。その文面にロスコの思いが汲み取れるというものでした。もちろん本邦初公開です。

「テート・ギャラリーのシーグラム壁画展示のための模型」(1969)
ずばりロスコがテートでの展示のためにつくった模型です。

そしていよいよ開けるのは大展示室、「シーグラム壁画」による新・『ロスコ・ルーム』です。テート3点、ワシントン・ナショナル・ギャラリー5点、そして川村美7点の計15点の作品が空間を敢然と包み込み、そして支配しています。ぐるりと一周、その色と形、さらには気配に呑み込まれること必至ではないでしょうか。

「シーグラム壁画」展示室。作品位置の高さに注目です。人の身長をゆうに超える場所に掲げられています。これは当初のロスコの意図により近い形で再現するために設定されました。ここからしても川村に通常あるロスコ・ルームとは一味も二味も違うことがお分かりいただけるでしょう。

高さとともにもう一つ、作品同士の幅にもまた驚かれるのではないでしょうか。僅か5センチの隙間を挟み、まさにひしめき合ってずらりと揃います。ちなみに本展覧会はテート・モダンとの共同企画、巡回展ですが、壁画の展示の仕方に関しては若干異なっています。「イギリスで見た。」という方でももう一度試す価値は十分にありそうです。

そもそもロスコは同壁画を30点ほど制作しましたが、そのうちの半数、15点も一堂に会するのは今回が初めてです。だからこそ『一期一会』のロスコ展であるわけでした。

鼓動の高まるかのような熱気とともに、反面の異様ならざる不安感、圧迫感を覚えます。

「シーグラム壁画」を経由すると、それまでとは異なった『らしからぬ』作品が一点、登場します。赤や朱を用いたものよりも虚空を超える広がり、そして無限の地平線のようなスケール感を見るのは私だけではないかもしれません。

そして最後の最後、もう一つ待ち構えるのが別の『ロスコ・ルーム』です。私の拙い写真では黒にしか見えませんが、その実は深い色の『波』がしずかにたゆたう作品でした。静かな音を感じるかもしれません。

グレーのロスコの正面にある本作品がラストになります。一見、何ものにも動じない『赤』が永遠の場を開き、来場者を送り出します。

(c) Kawamura Memorial Museum of Art 2009
プロのカメラマンによる写真をお借りします。川村でのロスコの展示というと、例えばニューマンの光へと繋がるような闇夜のイメージもありますが、今回の企画では必ずしも暗くありません。照度の異なった空間で見るロスコもまた斬新でした。
最後に一つ、興味深い点を挙げたいのは、本展示の音声ガイド(500円)です。作品の解説が吹き込まれているのは言うまでもありませんが、それとともにモーツァルトの弦楽五重奏曲が丸々一楽章分挿入されています。これはロスコがこよなく愛したモーツァルトの音楽とともに壁画を見て欲しいという、ご子息、クリストファー・ロスコ氏のアイデアによって実現した企画でもあるそうです。ロスコとモーツァルトの意外な共鳴にも感じ入るものがありました。
以上です。次回以降のエントリでは、プレビュー時に行われたレクチャーなどの様子をお伝えしたいと思います。(以下のリンク先にアップしました。)
「マーク・ロスコ 瞑想する絵画」 川村記念美術館(Vol.2・レクチャー)
*展示基本情報*
「マーク・ロスコ 瞑想する絵画」
場所:川村記念美術館
交通:京成、JR佐倉駅より無料シャトルバス。駐車場(無料)あり。
会期:2009年2月21日(土)―6月7日(日)
時間:午前9時30分-午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館:月曜日(ただし5/4は開館)、5/7(木)
料金:一般1500円、学生・65歳以上1200円、小中高校生500円。(3/8まで有効の早期割引クーポンあり。)
*写真の撮影、掲載については全て主催者の許可をいただいています。
コメント ( 13 ) | Trackback ( 0 )
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やっぱり学生には料金設定が高くって
行くべきかどうか迷っちゃいます…。
都内ならまだしも、佐倉では往復の交通費も
ばかになりませんからね。
さらに図録も購入したいとなると…。
時間はあるが金はないないんだなぁこれがw
お疲れさまでした!
ロスコ・ルームまでへ辿りつくまでも
期待感徐々に高まりたまりませんね。
贅沢な空間を作ってくれたものです。
さて会期中何度足を運びましょう。
出来れば今度は晴天の日に。
こんばんは。
>学生・65歳以上1000円→1200円ですよね?
ご指摘感謝です!早速訂正しました。どうもありがとうございます。
>学生には料金設定が高くって行くべきかどうか迷っちゃいます…。都内ならまだしも、佐倉では往復の交通費もばかになりません
確かに早期割引を用いても1100円にはなりますね。交通費は京成の方が若干安かったと思います。と申しても往復2000円程度はするでしょうが…。ロンドンのテートへ行くと思えばということでご勘弁下さい。(^^)
@Takさん
こんばんは。先日はどうもお世話になりました。
>ロスコ・ルームまでへ辿りつくまでも期待感徐々に高まり
シーグラム壁画にハイライトを絞ったことで、より分かりやすい展示になっていましたね。あの巨大空間、本当に圧巻、というのか驚きました。今までのロスコ・ルームとは全然違います。
>晴天
そうですね。暖かくなったらまた行きたいですね。あと2、3回は何とか!
とても良い企画でしたね。
私の場合は、日頃の行いは悪いのですが、快晴で温かく・・・。
トークの最後に、モーツァルトの弦楽五重奏曲のことを聞きましたが、とき既に遅く・・・。
>モーツァルトの弦楽五重奏曲のことを聞きましたが、とき既に遅く
なかなか面白い趣向だと思いました。
本来なら音楽は作品と切り離すべきなのでしょうが、
それでも聴いていると色々とイメージが広がってくるのは事実です。
>日頃の行いは悪いのですが、快晴で温かく
何を仰いますか!
それでもやはり川村は天気の良い日に限りますよね。
先日はありがとうございました。
迷子を拾ってもらい、助かりました!
ここへはGWの頃に行く予定です。
あの送迎バスが長くてなかなか・・・
でも行く価値のある展覧会ですね。
久々にお会い出来て愉しかったです。
>ここへはGWの頃に行く予定です。
あの送迎バスが長くてなかなか・
バスは結構時間がかかりますよね。
ただGWの頃でしたら温かいですし、緑も美しいのではないでしょうか。
是非是非お出かけなさって下さい!
こんばんは
そう、上の写真では私が観た時よりも、シーグラム絵画が明るく
見えていい感じなのですが、プレビューだから明るくしてた
のでしょうか?
あるいはデジカメの性能!?
>シーグラム絵画が明るく見えていい感じ
何と!私が観た時は結構明るかったのですが、ひょっとすると照明などがまた変わったのかもしれませんね。美術館に確かめてみます。
>デジカメ
下手な写真ばかりですみません…。
川村記念美術館を初訪問しました。
ジャンルは違えど、相国寺で一堂に会した「動植綵絵」に通じる
パワースポットのようなものを感じました。
でも私は黒の連作に、より一層心奪われたんです。
あの深みは実際に作品と向き合ってはじめて分かりますね。
常設のロスコルームはどんな雰囲気なんでしょう。
バーネット・ニューマンの部屋は光に満ち、素晴らしかったです。
音声ガイドに音楽が収録されているとはろるどさんの記事で知り、
利用することにしました。
椅子に座りクラシックをBGMに眺めるロスコ。
ゆったり深く空間を味わうことができました。
>初訪問
川村は初訪問でいらしたのですね。仰るように建物にはあまりときめきませんが、ロケーションは首都圏でも随一かと思います。コレクションも見事です。
>黒の連作に、より一層心奪われたんです。
同感です。黒の中から様々な色がわいていました。本当にじわりと何かが迫られる作品です。
>常設のロスコルームはどんな雰囲気
率直なところ賛否両論です。改装後は以前の部屋に比べてやや息苦しさがあるような気もします。ただしニューマンに関しては素晴らしいですね。ロスコとの対比的な展示だと思いました。(ロスコ=暗、ニューマン=明)
>クラシックをBGMに眺めるロスコ
まさかモーツァルトとロスコが共鳴するとは思いませんでしたね。新鮮な体験でした。
青春18きっぷで行ってきました~
体力ぎりぎり勝負ですー
ですが、大好きなロスコのシーグラム壁画が見れるとなれば、体力とか言ってられません。
あの大展示室にずっといたいと思うくらいでしたから・・・
ロスコのような静的な現代絵画にはそれのみの展示空間というものは必要なのでは?と今しみじみと思っています。
>18きっぷ
遠路はるばる、本当にお疲れ様です。
以前私も静岡県美まで18で行ったことがありますが、
それはもう腰が疲れました。(熱海からが長かったです…。)本当に体力勝負ですよね。
>あの大展示室にずっといたいと思うくらいでした
迫力ありましたよね。音声ガイドは借りられましたか?
モーツァルトとロスコの組み合わせは賛否両論もありそうですが、
まさ五感で受け止めることが出来ました。
>静的な現代絵画にはそれのみの展示空間というものは必要
同感です。だからこそ川村のロスコルームが評価されているのでしょうね。
後ほどお伺いします!