「横山華山」 東京ステーションギャラリー

東京ステーションギャラリー
「横山華山」 
9/22~11/11



東京ステーションギャラリーで開催中の「横山華山」を見てきました。

江戸時代の後期、岸駒に入門し、呉春に私淑しては、人物や花鳥、または風俗画などで多くの優品を残した絵師がいました。

それが横山華山で、主に京都で活動し、横山派を築いては、当時の絵師たちにも影響を与えました。

崋山の原点は蕭白にありました。そもそも横山家は蕭白と交流があり、華山も幼い頃から蕭白の作品に触れていました。

蕭白の影響を色濃く反映したのが、「蝦蟇仙人図」で、蕭白の同名の作品をほぼ写していました。左手を大きく曲げて蝦蟇を操る仙人の姿を描いていて、蕭白画には独特のエグ味がある一方、華山画は身体の肉付きをより立体的に捉えていて、西洋画の影響を伺えるものがありました。


横山華山「唐子図屏風」(左隻) 文政9(1826)年 個人蔵

華山が得意としたのは人物画で、中国の故事を取り上げつつも、同時代の市井の人々の日常を巧みに描きました。「唐子図屏風」は、左右に唐子を配した作品で、取っ組み合いをしたり、鶏を遊ばせたりする子どもたちを、生き生きとした様子で表現していました。

あえて華山の画業の頂点をあげるなら、風俗画にあるかもしれません。中でも目を引くのが「紅花屏風」で、紅花の栽培から収穫、加工、そして染料として出荷されるプロセスを六曲一双の大画面に表しました。


横山華山「紅花屏風」(右隻) 文政6(1823)年 山形美術館・山長谷川コレクション *展示期間:9/22~10/14

ここでも細やかでかつ生き生き人物表現を特徴としていて、種を蒔く人から花をつむ人、さらに選別や加工をする人々などを素早い筆致で描いていました。どの人物の表情も異なっているものの、皆、楽しそうに笑顔を浮かべていて、収穫や生産の喜びが伝わってくるかのようでした。人物は全部で220人にも及び、華山は、紅花の生産地である東北や北関東を取材して制作しました。京都の紅花問屋の注文を受けた作品でもあったそうです。

その「紅花屏風」と並び、華山の画業の1つの頂点を示すのが、上下巻で全長30メートルにも及ぶ「祇園祭礼図巻」でした。会場では、嬉しいことに、上下巻の全てが開いていただけでなく、下絵の墨画もあわせて公開されていました。



上巻では宵山から山鉾巡行の前祭が示され、下巻では近年、50年ぶりに復活したことでも話題を集めた後祭をはじめ、芸妓の歩く神輿洗練物が描かれていました。なお神輿洗練物は、現在行われていない行事で、絵画資料として詳細に描かれているのは、本絵巻しか確認されていません。

ここで面白いのは、上巻で、特に構図でした。というのも、絵巻では必ずしも各鉾の全体像を捉えずに、あえて枠外にはみ出すように描いているため、山鉾がさも動いて巡行しているように見えるからでした。そして描写は驚くほど精緻で、鉾の装飾品や曳き手の人々までが、事細かに写されていました。その臨場感のある表現に、頭の中で祇園囃子のコンチキチンが思い浮かぶほどでした。

富士山や天橋立、それに中国の西湖などの景勝地を舞台にした山水画にも優品が少なくありません。うち「花洛一覧図」は、京都の町並みを鳥瞰的に表した摺物で、細密な描写が評判を呼んだのか、華山の名を一躍、世に知らしめました。


横山華山「夕顔棚納涼図」 大英博物館

「夕顔棚納涼図」も魅惑的ではないでしょうか。夕顔の棚の下でのんびり寛ぐ男女を表していて、久隅守景の「夕顔棚納涼図屏風」を連想させるものがありました。また華山の軽妙でかつ愉悦感のある人物表現は、どこか英一蝶の画風に近しい面があるかもしれません。

チラシに「見ればわかる」とありましたが、まさかこのような絵師が江戸後期で活動していたとは知りませんでした。ただし華山は、当時から無名の絵師では全くなく、明治か大正の頃まではよく知られていて、フェノロサなどを通して海外でも評価されていました。しかしながら、どういうわけか、いつしか忘れられ、知る人ぞ知る絵師となってしまいました。


横山華山「富士山図」 京都府(京都文化博物館管理)

出品は会期を通して120点超と不足はありません。(展示替えを含む)また、ボストン美術館や大英博物館など、海外からも作品がいくつか里帰りしています。まさに「華山再発見」の展覧会と言えるかもしれません。

展示替えの情報です。前後期で一部の作品が入れ替わります。

「横山華山」展出品リスト(PDF)
前期:9月22日(土)~10月14日(日)
後期:10月16日(火)~11月11日(日)

展示替えは多数です。既に後期に入りましたが、前後期の2つで1つの展覧会と捉えて良さそうです。*「紅花屏風」の展示は終了しました。



前期展示の最終日の日曜に出かけて来ましたが、館内は思いの外に賑わっていました。ひょっとすると口コミなどで評判が広まっているのかもしれません。



11月11日まで開催されています。おすすめします。

「横山華山」 東京ステーションギャラリー
会期:9月22日(土)~11月11日(日)
休館:月曜日。但し9月24日、10月8日、11月5日は開館。9月25日(火)、10月9日(火)は休館。
料金:一般1100(800)円、高校・大学生900(600)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
時間:10:00~18:00。
 *毎週金曜日は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
住所:千代田区丸の内1-9-1
交通:JR線東京駅丸の内北口改札前。(東京駅丸の内駅舎内)
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