「フェルメール展」 上野の森美術館

上野の森美術館
「フェルメール展」
2018/10/5〜2019/2/3



日本美術展史上最大のフェルメールの展覧会が、上野の森美術館ではじまりました。

それがまさに「フェルメール展」で、「牛乳を注ぐ女」、「マルタとマリアの家のキリスト」、「手紙を書く婦人と召使い」、「ワイングラス」、「手紙を書く女」、「赤い帽子の娘」、「リュートを調弦する女」、「真珠の首飾りの女」、「取り持ち女」を合わせ、計9点のフェルメールの絵画がやって来ます。(但し「赤い帽子の娘」は12月20日まで展示。「取り持ち女」は2019年1月9日より公開。)

またフェルメールだけに留まらず、ハブリエル・メツー、ピーテル・デ・ホーホ、ヘラルト・ダウなど、同時代のオランダの絵画も40点ほど同時に展示されていました。


ハブリエル・メツー「手紙を読む女」 1664〜1666年頃 アイルランド・ナショナル・ギャラリー

一連のオランダ絵画が想像以上に充実していました。中でも白眉は、メツーの「手紙を読む女」と「手紙を書く男」でした。画家の絶頂期に描いた対の絵画で、ともに恋文をやり取りする様子を表していました。「手紙を読む女」には鮮やかな光が差し込んでいて、背後の白い壁や女性の衣服を美しく引き立てていました。また、手前には、一頭の子犬が背を伸ばしていて、その先には使用人と思しき女性が、壁の海景画を見やっていました。一部がカーテンに隠れていて、全体像を見ることが出来ないものの、大波に飲まれそうな船が描かれていて、この先の「愛の苦難」(解説より)を暗示していると言われています。

もう一方の「手紙を書く男」では、ブロンドの豊かな髪を垂らし、上等な衣服を身につけた若い男性が、恋文をペンで記していました。全体の収まり良い構図はもとより、細部も秀逸で、特にテーブルのクロスの模様、そして同じくテーブル上にある金属製の器を、実に精緻に表していました。器のメタリックな質感すら伝わるようで、率直なところ、今回の展覧会で最も引かれたのが、「手紙を書く男」でした。


ピーテル・デ・ホーホ「人の居る裏庭」 1663〜1665年頃 アムステルダム国立美術館

庭で恋人が座る姿を描いたホーホーの「人の居る裏庭」も魅惑的で、建物のレンガの豊かな質感は、フェルメールの「小路」を連想させるものがありました。さらにダウの「本を読む老女」では、暗がりの中、一心不乱に本を読む老いた女性の顔や手の皺、そして聖書の文字などが、極めて細密に描かれていました。


ヘラルト・ダウ「本を読む老女」 1631〜32年頃 アムステルダム国立美術館

ほかにもレンブラント周辺の画家による「洗礼者ヨハネの斬首」、エマニュエル・デ・ウィッテの「ゴシック様式のプロテスタントの教会」、ヤン・ウェーニクスの「野うさぎと狩りの獲物」も強く印象に残りました。中でも「ゴシック様式のプロテスタントの教会」では、教会内部を満たす光に透明感があり、「野うさぎと狩りの獲物」では、兎のふさふさとした毛が極めて写実的に示されていました。これまでにもフェルメール関連の展覧会が開催され、同時期のオランダの絵画も紹介されてきましたが、今回は点数こそ少ないものの、力作揃いではないでしょうか。「フェルメール展」の見どころは、何も全てフェルメールにあるわけではありません。


ヨハネス・フェルメール「マルタとマリアの家のキリスト」 1654〜1655年頃 スコットランド・ナショナル・ギャラリー

フェルメールの8点の絵画は、暗がりの1室、「フェルメール・ルーム」に並んで公開されていました。入口から向かって右に「マルタとマリアの家のキリスト」、左に「牛乳を注ぐ女」があり、正面の壁には右から「ワイングラス」、「リュートを調弦する女」、「真珠の首飾りの女」、「手紙を書く女」、「手紙を書く婦人と召使い」、「赤い帽子の娘」の順に並んでいました。これほどの数のフェルメール作品を目の当たりにすること自体、初めてだっただけに、まずは展示空間そのものに圧倒されました。


ヨハネス・フェルメール「ワイングラス」 1661〜1662年頃 ベルリン国立美術館

8点を見比べて、最も引かれたのは、日本初公開でもある「ワイングラス」でした。白いデカンタを手にした紳士が、女性にワインを勧めていて、おそらくは恋の駆け引きの場面を描いたとされています。男性の表情は何やら誇らしげで、物事を優位に進めているように見える一方、女性の表情はグラスで隠されていて分からず、両者の行く末はどうなるか分かりません。

ステンドグラスの透明感、そして色彩感が際立っているものの、室内はかなり薄暗く、例えば先のメツーの光とはかなり異なっていました。こうした淡い光の表現こそ、フェルメールの得意としたところかもしれません。また構図に苦心したのか、右後方の床にやや歪みが見られるものの、先のステンドグラスや手前の木彫りのある椅子、テーブル上の厚手の絨毯などは細かに描かれていて、重厚感も感じられました。


ほかのフェルメールでは、「牛乳を注ぐ女」が際立っていました。「フェルメール展」のメインビジュアルを飾り、各種刊行されたムックなどでも、ほぼ全て表紙となった絵画ですが、その完成度をもってすれば、当然のことなのかもしれません。私としては、2007年に国立新美術館で開催された「フェルメール『牛乳を注ぐ女』とオランダ風俗画展」以来、約11年ぶりの再会となりました。

さてチケットの購入、ないし会場の状況です。「フェルメール」展は、事前日時入場制のため、原則、前売日時指定券を購入しないと入場出来ません。各日の入場時間枠は、9 : 30〜10 : 30、11 : 00〜12 : 30、13 : 00〜14 : 30、15 : 00〜16 : 30、17 : 00〜18 : 30、19 : 00 ~ 20 : 00の計6つに分かれています。その指定の枠の中であれば、どの時間にも入場することが可能で、入場後は閉館まで時間の制限がなく鑑賞出来ます。時間枠での入れ替え制ではありません。

私も楽しみにしていた展覧会だけあり、前々から日時指定券を購入しておきました。オンラインでは、フジテレビダイレクトとチケットぴあが対応していて、情報の入力などで、やや手間がかかりますが、私はフジテレビダイレクトのシステムを使い、セブンイレブンで紙のチケットを発券しました。

購入したのは、会期2日目、10月6日(土)の15時から16時半の入場枠でした。出かける少し前にチケットサイトを確認したところ、10月6日の事前チケットは完売しておらず、夕方以降に関しては、当日の日時指定券も販売されていました。「フェルメール展」では、前売日時指定券に余裕があった場合のみ、当日の日時指定券(前売+200円)も発売されます。



公式サイトに「時間枠後半のご入場をおすすめします。」とあったため、当日は、開始時間枠の約1時間後、16時少し前に上野へ行くことにしました。予定通り、16時前に美術館に着くと、入場待ちの列は一切なく、そのまま待ち時間なしでスムーズに入館出来ました。

チケットには音声ガイドが無料で付いていたので、ガイドを借り、会場内へと入りました。順路は、先に2階へ上がり、オランダ絵画を展示したあと、1階へ降りて、フェルメールに関する映像かあり、白い回廊を抜け、フェルメールの出展作が全て揃う「フェルメール・ルーム」へと進むように作られていました。

最初の2階の展示室からして相当の人出で、どの絵画も2〜3重の人で覆われていました。中でも2階の会場の中ほど、行き止まりのようになっている展示室が、最も混雑していました。ただ時間指定制で、一定の人数を制限しているからか、例えば「怖い絵」展の時のように、人が展示室を埋め尽くすほどではなく、タイミングを見計らえば、どの作品も自分のペースで観覧出来ました。


ヨハネス・フェルメール「真珠の首飾りの女」 1662〜1665年頃 ベルリン国立美術館

続いて1階へ降り、「フェルメール・ルーム」へ行くと、さらに作品の前に多く人がいて、簡単に最前列へ辿り着けるような状況ではありませんでした。ただ後列の空間には比較的余裕があり、そこから単眼鏡で鑑賞している方も見受けられました。心なしか、作品もやや高い位置に掲げられていて、遠くからでも見られるようになっていました。特に人気を集めていたのが、「ワイングラス」と「牛乳を注ぐ女」で、多くの観客が詰めかけていた一方、「マルタとマリアの家のキリスト」だけは、あまり人がおらず、すぐに最前列で見られました。



一通り、遠目でフェルメール作品を鑑賞した後は、再び2階へ上がり、最初のオランダ絵画の展示室に戻りました。すると驚いたことに、まるで貸切のように人が疎らで、10名もおらず、どの作品もがぶりつきで鑑賞可能でした。時間を確認すると16時40分頃でした。つまり16時半までと、次の入場枠の17時の前の間だったため、来館者がなく、空いていたわけでした。

先ほど混んでいた行き止まりのスペースも余裕が出来ていて、ゆっくり見られた上、メツーの2点の前にも2〜3人ほどしかいませんでした。17時の少し前の段階において、15時から16時半枠で入場された大半の方は、既に2階を見終えていたようでした。


ヨハネス・フェルメール「手紙を書く婦人と召使い」 1670〜1671年頃 アイルランド・ナショナル・ギャラリー

17時を回り、1階の「フェルメール・ルーム」へ降りましたが、多少、人が引いていたものの、さすがに空いているとは言えず、「牛乳を注ぐ女」などには、まだ多くの人が見入っていました。そしてにさらに30分程度、フェルメールの絵画を鑑賞し、美術館を出たのは、17時半頃でした。



すると入場口から公園内へと続く人の列が出来ていました。それは17時から18時半の入場枠の待機列で、概ね入場まで30分ほどかかるとのことでした。どうやら時間枠の前半に来館者が集中して、長い列が出来るようでした。よって現段階において列を回避するためには、各時間枠の後半に出向くのが最も有効なようです。(但し、夜間に関しては、閉館時間が迫るため、この限りではありません。)

「フェルメール会議/双葉社スーパームック/双葉社」

会場内に各章毎の解説はありましたが、作品にキャプションはありません。その代わりに、全作品の簡単な解説が記された小冊子をもらえます。

「赤い帽子の娘」の展示は12月20日で終了し、「取り持ち女」が来年の1月9日より公開されます。これほどにフェルメールの絵画が集まる機会はもうないかもしれません。改めて出向くつもりです。



ロングランの展覧会です。2019年2月3日まで開催されています。なお東京展終了後、大阪市立美術館へと巡回します。

*大阪展会期:2019年2月16日(土)~5月12日(日)。内容が一部、異なります。フェルメールは6作品。「恋文」が出展されます。

「フェルメール展」@VermeerTen) 上野の森美術館@UenoMoriMuseum
会期:2018年10月5日 (金) 〜2019年2月3日 (日)
休館:12月13日(木)。
時間:9:30~20:30
 *入場は閉館30分前まで。
 *但し開館・閉館時間が異なる日があり。
料金:一般2500円、大学・高校生1800円、中学・小学生1000円。
 *前売日時指定券料金。事前日時入場制。チケット情報
 *前売日時指定券の販売に余裕があった場合のみ当日日時指定券(前売+200円)を販売。
住所:台東区上野公園1-2
交通:JR線上野駅公園口より徒歩3分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅徒歩5分。京成線京成上野駅徒歩5分。
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