「エミール・ガレ 自然の蒐集」 ポーラ美術館

ポーラ美術館
「エミール・ガレ 自然の蒐集」 
3/17~7/16



ポーラ美術館で開催中の「エミール・ガレ 自然の蒐集」のプレスプレビューに参加して来ました。

19世紀末、アール・ヌーヴォーの工芸家として活動したエミール・ガレは、自然界に存在する様々な形を見据え、植物や昆虫、それに海の生き物などをモチーフに取り込んで作品を制作しました。

そのガレの自然への着眼点と、創造の源泉と言うべき森と海に着目したのが、「エミール・ガレ 自然の蒐集」展で、ポーラ美術館、および北澤美術館ほか、国内のガレ・コレクションが130点ほど展示されていました。


エミール・ガレ「女神文香水瓶」 1884年 ポーラ美術館 ほか

冒頭は初期作品でした。1846年、フランス北東部のナンシーで、陶磁器やガラス器を扱う製造販売業の家に生まれたガレは、30歳の頃に父から経営を受け継ぎ、1877年にガレ商会の事業主となりました。若い頃からガラス製造や装飾に関する技術を身につけていたゆえか、翌年のパリ万博で銅メダルを受賞するに至りました。


エミール・ガレ「蓋付コンポート」 1870年代 ポーラ美術館 ほか

初期から中期の技法で重要なのは、透明色のガラスを素地としたエナメル彩で、研究熱心なガレは化学実験を繰り返し、あらゆる色彩や透明度の顔料を開発しては、多様な作品を作り出しました。


「エミール・ガレ 自然の蒐集」展示室風景

ガレがジャポニスムに接したのは比較的早く、1867年のパリ万博のことでした。ここで父の代理として半年間パリに滞在したガレは、日本から出品された多くの文物を見る機会に恵まれました。そして先の銅メダルを受賞した万博では、北斎漫画の図柄を写した「鯉文花器」を出品しました。自らが開発して特許を得た、「月光色ガラス」を効果的に生かしました。


エミール・ガレ「ユリ文花器」 1895〜1897年 ポーラ美術館 ほか

またジャポニスムの素材として人気を集めていたキク関しても興味を寄せ、ナンシーへ農商務省の技師として留学していた日本人の高島北海とも交流を深めました。「キクの国についてお伺いしたいことがございます。」との言葉を残しているそうです。またこの頃、ガレは日本から植物をオランダへ持ち帰ったシーボルトの苗床を仕入れました。ヨーロッパの広域で日本植物のブームがおきていました。


エミール・ガレ「ヘチマ文脚付花器」 1884〜1889年 ポーラ美術館

ガレが当初から作品へ積極的に取り込んでいたのが、植物と昆虫のモチーフでした。そもそもガレは植物学に詳しく、植物の作品においても、おおむね種を同定出来るほどに、細かに彫り出しました。一方で昆虫ややや異なり、カマキリやトンボなどを写実的に表したと思えば、キメラに近いような複数の昆虫を組み合わせることもありました。


エミール・ガレ「コバン草文水差」 1905年 飛騨高山美術館 ほか

ナンシーは16世紀以来、植物園が創設され、19世紀には園芸業が盛んになるなど、植物に関わりの深い街でもありました。ガレも少年時代から植物採集に没頭し、のちにガレ家が自邸を構えると、敷地内に庭園を築いては、世界各地の植物、おおよそ2500種を集めました。その庭園は工房内の敷地にも築かれ、作品のモチーフとして利用しました。また単に写すだけでなく、例えば花が咲いては散りゆく姿など、生態の変化にも着目し、自然のはかなさや生命の循環も表現しました。


エミール・ガレ 花瓶「大麦」 1900年頃 北澤美術館 ほか

1900年のパリ万博でグランプリを受賞したガレは、次第に詩的とも呼べうる表現で、象徴性の高い作品を作るようになりました。植物や生物の生態のみならず、光や大気、1日や四季の変化までを取り込みました。


「エミール・ガレ 自然の蒐集」展示室風景

また同じく晩年、特に亡くなるまでの5年間の間、ガレは海の生き物にも興味を覚え、いくつかの作品を制作しました。それに関しては「今トピ」の下記の記事でまとめました。改めてお目通し下されば幸いです。


初期から晩年へかけて、スタイルを変えながら、生き物だけでなく、時に四季の移ろいをなどを表現したガレは、まさに自然を見据え、蒐集していた芸術家と呼べるのかもしれません。


「エミール・ガレ 自然の蒐集」展示室風景

ほかにも工芸とコレクションの絵画と参照する展示をはじめ、版画、昆虫や鉱物標本との比較もあり、ガレの作品世界を様々な角度から知ることも出来ました。意外にもポーラ美術館としては、開館以来初となるガレの展覧会でもあります。


「エミール・ガレ 自然の蒐集」展示室風景

写真はプレスプレビュー時に撮影しましたが、一般会期中においても、撮影禁止作品を除くと、原則的に撮影が可能です。


7月16日まで開催されています。

「エミール・ガレ 自然の蒐集」 ポーラ美術館@polamuseumofart
会期:3月17日(土)~7月16日(月・祝)
休館:会期中無休。
時間:9:00~17:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1800(1500)円、65歳以上1600(1500)円、大学・高校生1300(1100)円、中学・小学生700(500)円。
 *( )内は15名以上の団体料金。
 *小学・中学生は土曜日無料。
住所:神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
交通:箱根登山鉄道強羅駅より観光施設めぐりバス「湿生花園」行きに乗車、「ポーラ美術館」下車すぐ。有料駐車場(1日500円)あり。
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