「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」 三菱一号館美術館

三菱一号館美術館
「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展~アメリカ合衆国が誇る印象派コレクションから」 
2/7-5/24



三菱一号館美術館で開催中の「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展~アメリカ合衆国が誇る印象派コレクションから」を見てきました。

アメリカで唯一の西洋絵画を集めた国立美術館のワシントン・ナショナル・ギャラリー。同館のコレクションがまとめてやって来たのは2011年、六本木の国立新美術館(京都市美術館へ巡回)以来のことです。

前回は印象派前史からポスト印象派までを時代を追って俯瞰する構成でした。チラシ表紙を飾ったマネの「鉄道」やセザンヌの「赤いチョッキ」などに心打たれたことを今も覚えています。

あれから4年です。今度の会場は丸の内の一号館。端的に前回と何が違うのでしょうか。その答えの一つとして「小さなフランス絵画」というキーワードがあります。

「小さなフランス絵画の革新性 (担当学芸員インタビュー)」@ワシントン・ナショナル・ギャラリー展公式サイト

と言うのも本展の核となるのが、美術館の創設者の長女であるエイルサ・メロンのコレクションであるということです。彼女は弟のポールとともにナショナル・ギャラリーのコレクションを拡充。特にエイルサは小型の印象派作品を寄贈しました。


ピエール=オーギュスト・ルノワール「花摘み」 1875年 油彩・カンヴァス
National Gallery of Art, Washington, Ailsa Mellon Bruce Collection


その作品はいずれも自邸を飾るために蒐集されたものです。つまりこれ見よがしに大空間で展示するというよりも、さも手元に引き寄せては愛でるような、言わば身近な場で楽しむために集められた作品ばかりなのです。


エドゥアール・ヴュイヤール「黄色いカーテン」 1893年頃 油彩・カンヴァス
National Gallery of Art, Washington, Ailsa Mellon Bruce Collection


ヴュイヤールの「黄色いカーテン」はどうでしょうか。40センチ四方の小さな作品、一人の女性が分厚い黄色のカーテンを開けようとしています。もう一枚の花柄のカーテンも美しい。手前のベットのシーツでしょうか。それも黄色い。ともかく色彩の美しさが際立っています。

エイルサは日常の風景を装飾的に描いたナビ派の作品を好んで集めたそうです。よって本展でもヴュイヤールとボナールが充実。それぞれ8点と9点。この二人の画家のみで独立した一つの章が組み立てられています。


ピエール=オーギュスト・ルノワール「モネ婦人とその息子」 1874年 油彩・カンヴァス
National Gallery of Art, Washington, Ailsa Mellon Bruce Collection


「親密」もテーマの一つです。というのも、画家にとって身近なモデル、つまり家族であり、また友人であったりする人物を描いた作品が多い。またモデル同士、例えば恋人同士や時に飼い主とペットといった関係を描いた作品も目立ちます。


ピエール=オーギュスト・ルノワール「猫を抱く女性」 1875年頃 油彩・カンヴァス
National Gallery of Art, Washington, Gift of Mr. and Mrs. Benjamin E. Levy


その最たる作品がチラシ表紙を飾るルノワールの「猫を抱く女性」ではないでしょうか。白く、またうっすら光り輝くドレスに身を纏った女性が文字通り猫を抱く姿。優し気な視線は猫を見定めていて、その体を首から胸でしっかりと受け止めています。猫は取り澄ました表情をしていますが、すっかり安心したようにして身を任せています。女性のピンク色を帯びた肌をはじめ、猫の毛など、細かな描写もニュアンスに富んでいました。


ピエール=オーギュスト・ルノワール「アンリオ夫人」 1876年頃 油彩・カンヴァス
National Gallery of Art, Washington, Gift of the Adele R. Levy Fund, Inc.


ルノワールに良品が目立ちました。約10点です。2011年展にも出ていましたが、「アンリオ夫人」もやはり美しい。胸をやや開けた白いドレス。大きな目を見開いてはうっすら笑みをたたえています。背景は薄い水色です。透明感を帯びています。画家ならではの朧げな筆致です。肘の辺りは背景の薄い水色と混じり合っているようにも見えます。

ちなみにモデルの夫人を描いた11点のうち、唯一この作品のみが、夫人の手元に残されたそうです。そういう意味ではモデルと作品自体が密でもあります。余程出来映えに満足したのでしょう。

私の好きなシスレーが3点出ていたのも嬉しいところでした。うち特に惹かれたのは「ポール=マルリーの洪水」です。画家が繰り返し描いた作品の一つですが、水面の光の煌めき、グレーの雲の質感も実に美しい。そして小舟に乗っては行き交う人々の姿も見えます。よく指摘されることではありますが、洪水という災害を思わせない、どこか情緒的な作品でもあります。


アルフレッド・シスレー「牧草地」 1875年 油彩・カンヴァス
National Gallery of Art, Washington, Ailsa Mellon Bruce Collection


なお余談ですが、今秋に練馬区立美術館でシスレーの回顧展が行われるそうです。

「アルフレッド・シスレー:イル=ド=フランス、川のある情景展」(仮称)@練馬区立美術館 9月20日(日)~11月15日(日)

こちらにも期待しましょう。

さて最後に一つ、どうしても忘れられない作品があります。それがアントワーヌ・ヴォロンの「バターの塊」です。

図版がないので何ともお伝えしにくいのですが、ともかく画面いっぱいに描かれたのはてんこ盛りのバター。木のヘラが刺さり、下方は白い布にも覆われています。手前に卵が二つあるのはバターの大きさを伝えるためでしょう。そこから推測するに卵を7~8個は積み上げたくらいの高さ、クローズアップされたバターの塊の姿はまるで氷山です。画面いっぱいにそびえ立つ。ともかくバターが圧倒的な物質感をもって描かれています。

マネの「牡蠣」やセザンヌの「三つの洋梨」同様、食べ物をモチーフとした小品です。ひょっとするとエイルサのダイニングルームを飾っていたのかもしれません。派手さこそありませんが、これぞ今回のキーワードでもある「小さなフランス絵画」を象徴した作品と言えるのではないでしょうか。


ポール・セザンヌ「牛乳入れと果物のある静物」 1900年頃 油彩・カンヴァス
National Gallery of Art, Washington, Gift of the W. Averell Harriman Foundation in memory of Marie N. Harriman


出品は全68点。もちろん2011年展に出た作品もいくつか目にしましたが、うち38点は日本初公開です。その意味では新鮮味もありました。

会期第2週目の日曜の夕方前に出かけましたが、館内は予想以上に混雑していました。

特にはじめの方の展示室は絵画の前の行列が遅々として進みません。そして必ずしも広いとは言えない同館の展示スペースです。キャパシティに余裕があるわけでもありません。


エドゥアール・マネ「キング・チャールズ・スパニエル犬」 1866年頃 油彩・リネン
National Gallery of Art, Washington, Ailsa Mellon Bruce Collection


今後は入場規制がかかることも予想されます。まずは早めの観覧をおすすめします。(金曜の夜間開館も狙い目となりそうです。)

5月24日まで開催されています。

「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展~アメリカ合衆国が誇る印象派コレクションから」 三菱一号館美術館
会期:2月7日(土)~5月24日(日)
休館:月曜日。但し祝日の場合は開館。4月6日、5月18日は開館。
時間:10:00~18:00。毎週金曜日(祝日除く)は20時まで。
料金:大人1600円、高校・大学生1000円、小・中学生500円。
 *ペアチケットあり:チケットぴあのみで販売。一般ペア2800円。
住所:千代田区丸の内2-6-2
交通:東京メトロ千代田線二重橋前駅1番出口から徒歩3分。JR東京駅丸の内南口・JR有楽町駅国際フォーラム口から徒歩5分。
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