「ジョゼフ・コーネル×高橋睦郎 箱宇宙を讃えて」 川村記念美術館

川村記念美術館千葉県佐倉市坂戸631
「コレクション Viewpoint - ジョゼフ・コーネル×高橋睦郎 箱宇宙を讃えて」
4/10-7/19



川村記念美術館で始まった「コレクション Viewpoint - ジョゼフ・コーネル×高橋睦郎 箱宇宙を讃えて」のプレスプレビューに参加してきました。

定評のある同美術館のコレクションといえば、まず20世紀のアメリカ現代美術が挙げられますが、その中でも特に高い人気を誇るのがこのコーネルではないでしょうか。今回の展覧会では所蔵のコーネル作品全16点(出品リスト)を、高橋睦郎の詩を「道案内」(チラシより引用)にしながら、星空をイメージした展示室にて紹介しています。まさに詩とアートのコラボレーションだと言えるのかもしれません。

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コーネルと詩人の高橋睦郎との接点は、1971年、彼が初めて行ったグッゲンハイム美術館でコーネルのカタログに出会ったことに遡ります。そこで高橋は胸が「キュン」(本人談)となる経験をし、後に実際の小箱を追うようになりました。またこの展覧会が成立した切っ掛けというのも、93年にここ川村記念美術館へ巡回した日本初のコーネル展の際、企画された講演会にて作品に一編の詩を添えたことに由来しています。以来、相当の時間が経過しましたが、結果的に所蔵のコーネルの全作品に詩を詠み終えたということで、今回の展示が実現しました。

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展示室全体がコーネルの小箱を包み込む一種の宇宙のように作り上げられています。ガラス板で区切られた暗室に置かれたコーネルの小箱やコラージュは、それこそ宇宙に点々と漂う星々の如く輝いていました。



今回の展示ではコラージュと小箱、そして詩が、それぞれ各一点ずつ、まさに恋人のように寄り添い合って並べられています。

プレビュー時に高橋氏の詩の朗読がありました。その様子を踏まえ、2、3点の展示作品について簡単に紹介したいと思います。

ジョセフ・コーネル「無題(ピアノ)」(1947-48年頃)



高橋睦郎
音符の鉢でぎゅう詰めの巣箱
表面を叩くと 出てくる 出てくる
耳の孔から入った蜂たちは
頭蓋を あたらしい巣箱にする
音楽の甘い蜜でいっぱいの巣


音符に包まれた小箱。コーネルは元々クラシック音楽をこよなく愛していた。なおこの作品の裏面にはオルゴールが付いている。(その音楽が会場にBGMとしても流れている。)詩ではその音符を蜂にたとえた。

ジョセフ・コーネル「無題(オウムと蜂の住まい)」(1948年頃)



高橋睦郎
オウムたちの世界
チョウたちの世界
二つの世界は お互いを知らない
どちらの世界も知っている人間には
自分の世界がありません


右にオウムが、また左に蝶がまるで博物標本のように置かれている。コーネルは部類の鳥好きでもあった。詩ではそうしたオウムや蝶たちの持つ一つの楽園に対して、我々人間の世界はどうであるのかと問いかける内容になっている。

ジョセフ・コーネル「鳥たちの天空航法」(1961年頃)



高橋睦郎
梢高い巣の中で 卵は夢見る
星となって 天の軌道をめぐること
ときに道を逸れて 落ちること
落下の速度で燃えて 消滅すること
だが 卵は割れ 毛に覆われた雛が出てくる
飛び立っても 飛び上がっても
地上に引き戻される 重たいいのち!


上部の白い球は鳥の象徴ではないだろうか。詩ではその球を鳥の魂に見立て、また下部の人手の散る空間を海と捉えた。(海上を飛ぶ鳥たちのイメージ。)ちなみにこの球については、コーネルが好きだったゲームのピンボールという考えもある。「ペニー・アーケード」でもペニーコインを模したモチーフが見られた。



なお会場内では高橋の詩の原稿もあわせて紹介されています。先に長文の原稿を仕上げてから、何日もの推敲、ようは「引き算」の過程を経て、完成へと至るのだそうです。

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高橋はコーネル作品に感じられる特に寂しさや儚さに強く惹かれています。また小箱を一つの完結した小宇宙、半ば孤独の存在として捉え、その中にこめられた悲しさから逆に一つのモノを作り上げる喜びを得ることを、芸術家の一つの理想であるとも述べました。さらにコーネルは決して生前、知られざる作家というわけではありませんでしたが、ニューヨークという大都会の中で小箱のような作品を作り続けた彼を、高橋は「都会の中の隠者」とも呼んでいます。コラージュや小箱につめられたプライベートな空間は、高橋のテキストを経由することで、より親しみやすいイメージへと解放されているかもしれません。



ところでこの展覧会の主役、コーネルと高橋の詩以外に、もう一つ見逃してはならないものがあります。それがフランス綴じの活版印刷による図録です。高橋の詩集はこうした形態で発行されることも多いそうですが、今回もそれに合わせてこうした味のある図録が登場しました。一枚一枚、ページをペーパーナイフで裂いていくことで初めて高橋のテキストとコーネルの小箱が邂逅します。

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あくまでも「コレクション Viewpoint」、ようは所蔵作品展の一環ということで、決して規模で勝負する展示ではありませんが、(会場は展示室一室です。)回顧展とは異なった切り口で見るコーネルの小箱はとても愛おしく感じられました。もちろん今回のために作られた星空空間のインスタレーションも見どころではあるのは言うまでもありません。

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4月17日に高橋睦郎本人による詩の朗読会があります。展示を楽しむにはこの企画に参加されるのが一番ではないでしょうか。

高橋睦郎 詩の朗読会「コーネルの箱宇宙を讃える」
日時:4/17(土)14:00-15:00
内容:高橋睦郎がコーネルに捧げる新作詩を朗読し、コーネル作品の魅力について語ります。終了後、書籍サイン会も行います。
場所:集合はエントランスホール。予約不要、入館料のみ。

7月19日まで開催されています。

注)写真の撮影と掲載については主催者の許可を得ています。また*の写真については「撮影:渡邊修 川村記念美術館2010」
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