「李禹煥展 余白の芸術」 横浜美術館 11/26(二回目)

横浜美術館(横浜市西区みなとみらい)
「李禹煥展 余白の芸術」
9/17~12/23

横浜美術館で開催中の李禹煥展です。先日、トリエンナーレに出向いた際に、もう一度見てきました。

前回見た時の感想には、会場について云々と、特に狭さを感じたことについてあれこれと書きましたが、今回、再度展覧会の場へ足を踏み入れてもその印象が変わることはありませんでした。作品から広がってくる『場』の静謐な気配を最も良く味わえるのは、やはり美術館の中でも一番高い天井を持つ展示室に並ぶ「照応」シリーズです。キャンバス中へ丹念に置かれ、また軽やかにも映る点は、刷毛によって何度も塗られたことが分かるほど厚みがありました。刷毛一本一本の細い線が集合して一つの点となり、さらにはその線同士の隙間から、キャンバスの白地が透き通るように浮き上がってもいます。刷毛の痕跡は、李の一つの筆跡として、上から下、または右から左へと流れ、点そのものに独得な揺らぎを与えるのと同時に、作品全体に震えをもたらしていました。この一見、キャンバスに点が一二個しかないというシンプルな画面ながら、全体にどこか動きを感じるのは、細やかな刷毛のタッチのなせる業なのかもしれません。

いわゆる絵画作品の「風と共に」と「照応」では、濃く描かれた点よりも、薄い味わいのそれの方が、より美しく、穏やかに見えます。また薄い点は、キャンバスの白へと染み込むように調和して、さらにその外側へと連なっていくようにも感じられました。つまりは点からキャンバス、さらにはその外側の場へ、さながら空気の流れのように、絶え間なくつながっているというわけなのです。さらには、その点の向きによって、つながりの方向が示唆されているようにも思えます。点がキャンバス内を回転しているように見えたり、またキャンバスの余白を巻き込みながらひたすら外へ向かおうとするのも、点に確固とした存在感があって、そこが核になっているからなのではないでしょうか。

会場の一番最後にある、壁に直接点の配されたいわゆるウォール・ペインティングの「照応」は、前回見た時よりも不思議と落ち着いて見えました。また点は、キャンバスの上で見せたような軽くフワッとした質感ではなく、まるで壁にしがみつくかのように強固にこびりついています。(刷毛の細かい線の筆跡自体が殆ど潰れているようです。)この作品は、前回の感想に「泰然とある。」と書きましたが、その由来はこの点の見せる重量感にあるのかもしれません。つまり、どっしりとした壁の重みと対応するかのような点の重みが感じられるわけなのです。もちろんこの作品からも、点から壁、さらには美術館全体へとつながっていくような無限の広がりを感じますが、それよりもどこか鈍く、まるで壁に引き止められているかのように、この場にやるせなく残っているようにも見えてきます。壁を直接、『場』へ引き込むという、ある意味で贅沢な手法による作品ですが、非常に難しい要素を持った、つまりは引き離すものと引き離されるものせめぎ合い(前回の感想では、もがくと書きました。)の『場』になっているようにも感じました。

12月23日までの開催です。見る度に多様に表情を変えるのも李の作品の良さなので、出来ればもう一度出向いてみようかと思います。

*李禹煥展、一回目の感想はこちら

*「李禹煥展 余白の芸術」関連記事
 ・李禹煥と菅木志雄の対談「もの派とその時代」(11/13)
 ・李禹煥本人によるレクチャー「現代美術をどう見るか」(9/23)
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