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東京オペラシティアートギャラリー 「ヴォルフガング・ティルマンス展」

東京オペラシティアートギャラリー(新宿区)
「ヴォルフガング・ティルマンス展」
2004/10/16~12/26

先日、初台のオペラシティで開催されていたヴォルフガング・ティルマンスの個展を見てきました。

会場には、様々なサイズに切り取られた写真が、一見無造作に、たくさん並びます。対象のジャンルは、モデル、静物、風景、金塊、天体、光から、コンポジション的な要素と、非常に多岐にわたっています。どれも、ティルマンス自身の関心の対象が、そのままストレートに写真になって表現されたとでも言えるのでしょうか。また、それぞれの写真は、テープやクリップで簡単に壁に留められていて、わざとチープな感覚が演出されています。よく趣味で、自分の部屋をお気に入りのポスターや写真で埋め尽くす方がいますが、まさに会場はそんな雰囲気です。何やらティルマンス個人の部屋を覗いているような気分にもさせられます。「美術館で作品を鑑賞する。」ということは、ともすればやや堅苦しさを感ずる行為ですが、そういった要素をなるべく打ち消すような空間が出来上がっていたように思います。

彼が撮る写真はどれも鮮やかです。どこから光が当たっているかわからないぐらいたくさんの光を取り入れて、実に細部まで鮮明に被写体を捉えます。あまりにも鮮やかすぎるので、どの写真も現実の一コマとしてではなく、ティルマンスの仮想がそのまま表明されているのではないかと思うほどでした。言い換えれば、とても非自然的で恣意的なのです。虚構とでも言えるでしょうか。また、パッと風景を撮っただけのような作品からも、撮った側の存在(つまりティルマンス。)を強く感じさせるものが多いようにも思います。もし彼が、自身の世界の中にだけ見えているものを、そのまま見る側にこびることなく写真にしているとすれば、こちらとしては、彼との視点の共有が必要になってきそうです。

ティルマンスにとっては、普段見逃してしまうような何気ないシーンがとても美しく見えるのでしょう。コンポジション的な作品はおいておくとしても、彼の写真は「何がその人にとって美しいものか。」ということを、強く考えさせられるものが多いと思いました。モデルがじーっとこちらを見つめる瞬間や、あまり高級そうでない服が皺を寄せているだけの空間。こうした写真のもつ美しさを提示させられると、彼の感性の鋭さと、ある意味の危うさがひしひしと伝わるような気がしました。

ティルマンスは、ゲイカップルや、日本では露骨すぎるとして捉えられそうな性的表現にも果敢に挑戦しているようです。会場に並んだ作品には一部修正が入ったり、展示そのものがなされていないようでしたが、ギャラリーのショップにあった彼の作品集(洋書)には、もっと鋭い表現のものがありました。彼の世界観をもっと感じるには、こちらも会場と合わせて見るべきだと思います。(出来れば展示してほしいですが。)

展示会場の独特の雰囲気、そして写真の中に見える繊細な彼の感性。それに美を感じ、世界観を共にするかは、上にも書きましたが、見る人との感性の相性が問題になりそうです。私は、ティルマンスの作品そのものより、彼の考えていることやその行動、つまり本人自身に興味がわきました。今後、彼は何に興味を覚え、何を写真にしていくのでしょうか。ティルマンスの作品には、被写体を強く強くえぐり出してくるような激しさや、見る者を圧倒するようなメッセージはあまりありません。見ていくうちに寂しくなっていくような作品もあります。しかし写真からにじみ出るようなティルマンスの美学。正直言いまして、私自身がそれを掴み損ねてしまった気もしましたが、色々と考えさせられる展覧会でした。また別の個展があれば是非見たいと思います。
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