『野又 穫 Continuum 想像の語彙』 東京オペラシティアートギャラリー

東京オペラシティアートギャラリー
『野又 穫 Continuum 想像の語彙』
2023/7/6~9/24



1955年に生まれた画家の野又穣は、一見空想的ながらも、リアルと地続きにあるような建築物や風景を描き、2020年にはイギリスの有力ギャラリーに所属するなど、世界を舞台に活動してきました。

その野又の作品世界を紹介するのが『野又 穫 Continuum 想像の語彙』で、会場には1980年代の初期作から今年の新作までの約90点の作品が公開されていました。



まず冒頭には野又の1980年代の作品が並んでいて、いつの時代ともつかないような謎めいた建物がぽつりと建つ様子が描かれていました。



その後の1990年代に入ると、野又の描く建物は大型化していって、自然と建築が渾然一体となるような光景を見ることができました。



また1990年代末から21世紀の初頭に入ると、今度は船の帆や風車、気球といった工業的ともいえる構造物が登場していて、建物というよりも、何らかの機械的な装置を連想させるものもありました。



さらに2008年頃の「光景」のシリーズでは、建物が闇に紛れつつ、明るい光を放っていて、どこかSF的な世界をイメージさせる景色が広がっていました。



キリコやエッシャーの絵に登場するような建物から、植物園を思わせるガラスの構造物、またダ・ヴィンチの考案した動力機関やヨーロッパの堅牢な要塞、そしてバベルの塔など、野又の描く建物から自由なイメージを思い浮かべて見るのも楽しいかもしれません。



このほかにも建築の模型や、絵画制作にあたり参考にしたと思われる絵葉書や写真などの資料も興味深く思えました。



時空を超えた野又穫の不可思議な建築風景。東京オペラシティ アートギャラリーにて個展が開催中!|Pen Online


撮影が可能です。9月24日まで開催されています。*写真はすべて『野又 穫 Continuum 想像の語彙』展示作品。

『野又 穫 Continuum 想像の語彙』 東京オペラシティアートギャラリー@TOC_ArtGallery
会期:2023年7月6日(木)~9月24日(日)
休館:月曜日。(祝日の場合は翌火曜日)、8月6日(日)*全館休館日
時間:11:00~19:00 
 *入場は閉館30分前まで。
料金:一般1400(1200)円、大・高生800(600)円、中学生以下無料。
 *同時開催中の『収蔵品展076 寺田コレクション ハイライト(後期)』、『project N 91小林紗織』の入場料を含む。
 *( )内は各種割引料金。
住所:新宿区西新宿3-20-2
交通:京王新線初台駅東口直結徒歩5分。
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『イギリス風景画と国木田独歩』 茅ヶ崎市美術館

茅ヶ崎市美術館
『イギリス風景画と国木田独歩』
2023/6/18〜8/27


トマス・ゲインズボロ『荷馬車のいる丘陵地帯の森の風景』 1745〜46年頃 郡山市立美術館

茅ヶ崎市美術館にて『イギリス風景画と国木田独歩』が開かれています。

これは明治時代の小説家、国木田独歩の代表作『武蔵野』を起点に、その世界観に影響を与えたウィリアム・ワーズワース(*)から当時のイギリスの風景画の系譜を辿るもので、同国の画家、およびイギリス風景画に影響を受けた日本の画家の作品が展示されていました。*イギリスのロマン派の詩人。1770年〜1850年。

いずれも郡山市立美術館と府中市美術館、および同館のコレクションで、絵画だけでなく、版画や水彩の優品も目立っていました。

トマス・ゲインズボロの『荷馬車のいる丘陵地帯の森の風景』とは、文字通り森の中を馬車が進む様子を描いたもので、空には白い鳥が舞うとともに、この後の天気の変化を連想させるような暗い雲が広がっていました。


ジョン・クローム『ヘレスドンの眺め』 1807年頃 郡山市立美術館

ジョン・クロームの『ヘレスドンの眺め』とは、イングランド南東部、ケント州のカンタベリーの村を俯瞰して描いた作品で、雲の広がる空の下、光に反射して蛇行する川や建物などを見ることができました。


リチャード・ウィルソン『キケロの別荘』 郡山市立美術館

神々しいまでの夕陽を背に、崩れかけた廃墟と手仕事に励む女性を描いたのが、リチャード・ウィルソンの『キケロの別荘』でした。ウェールズ出身のウィルソンは、ロランやプッサンのもと、古代の神殿などを登場させて演出する理想的風景とも呼べる絵画に影響を受けた画家で、透明感に満ちた画面にも魅力を感じました。


牧野義雄『チェルシー発電所遠望』 明治40年 府中市美術館

このほか、日本の画家では渡米後、ロンドンへと移った牧野義雄の作品も印象に深かったかもしれません。テムズ川に面した発電所を描いた『チェルシー発電所遠望』における淡くオレンジ色の光にも見入りました。


チャールズ・ワーグマン『西洋紳士スケッチの図』 1870年代 郡山市立美術館

国内3館のコレクションによってイギリス風景画の変遷を追う良い機会だったかもしれません。ターナーやコンスタブルといった有名な画家だけでなく、むしろあまり見ることの少ない画家の作品にも惹かれるものを感じました。


一部作品の撮影が可能でした。



8月27日まで開催されています。

『イギリス風景画と国木田独歩』 茅ヶ崎市美術館@chigasakimuseum
会期:2023年6月18日(日)〜8月27日(日)
休館:月曜日(ただし7月17日は開館)、7月18日(火)。
時間:10:00~17:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(900)円、大学生800(700)円、市内在住65歳以上500(400)円。
 *高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:神奈川県茅ヶ崎市東海岸北1-4-45
交通:JR線茅ヶ崎駅南口より徒歩約8分。
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『宮永愛子-海をよむ』 ZENBI-鍵善良房

ZENBI-鍵善良房-KAGIZEN ART MUSEUM
『宮永愛子-海をよむ』
2023/6/3~8/27



現代アーティスト、宮永愛子の個展が、京都・祇園のZENBI-鍵善良房(かぎぜんよしふさ)にて開かれています。

それが『海をよむ』と題した展示で、会場には新作『くぼみに眠る海 -猫-』をはじめ、鍵善良房にちなんだ「鍵」のモチーフや、老舗和菓子店である鍵善所蔵の木型から発想を得たガラスの作品などが展示されていました。



まず1階の展示室で目立っていたのが、『くぼみに眠る海 -仔犬-』などで、ナフタリンによって象られた仔犬がかわいらしいすがたを見せていました。

またガラスによる『くぼみに眠る海 -鳩-』や『水鳥』なども並んでいて、いずれも宮永の曾祖父で、京焼の陶芸家である初代宮永東山の東山窯の石膏型を用いていました。



近年、活動の拠点を生まれ育った京都へと戻した宮永は、陶房に残る古い型にガラスを流し込み、作品を手がけていて、さながら自身のルーツを今につなぐべく制作を続けてきました。



こうした作品とともに並ぶのは、漆芸家で木工家であり、祇園に生まれた黒田辰秋の『赤漆流稜文飾手筐』などの工芸品で、透明感のある宮永のオブジェと美しいコントラストを描いていました。



このほか、お庭に展示された『くぼみに眠る海 -猫-』も魅惑的ではないでしょうか。それこそかつてからこの場所に住んでいる猫のようにひっそりと佇んでいました。



邸宅を思わせるZENBI-鍵善良房の小さな空間とも作品がよく調和して見えたかもしれません。ガラスやナフタリンの作品の放つ白く淡い光を見入りながら、しばし静寂の時間を過ごすことができました。


8月27日まで開催されています。

『宮永愛子-海をよむ』 ZENBI-鍵善良房-KAGIZEN ART MUSEUM@ZENBI_KAGIZEN
会期:2023年6月3日(土)~8月27日(日)
休館:水曜日。
時間:10:00~18:00
 *入館は17:30まで
料金:⼀般1000円、⼤学・⾼校・中学⽣700円、⼩学⽣以下無料。
場所:京都市東山区祇園町南側570-107
交通:京阪線祇園四条駅6番出口より徒歩3分。阪急線京都河原町駅から徒歩10分。
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『若林奮 森のはずれ』 武蔵野美術大学美術館

武蔵野美術大学美術館
『若林奮 森のはずれ』 
2023/6/1〜8/13



戦後の日本を代表する彫刻家のひとりである若林奮(1936〜2003年)の回顧展が、東京・小平の武蔵野美術大学美術館にて開かれています。

それが『若林奮 森のはずれ』で、会場には『所有・雰囲気・振動―森のはずれ』や『Daisy Ⅰ』をはじめとする代表作のほか、ドローイングや小品など約100点の作品と資料が公開されていました。



まず1階正面のアトリウムで目を引くのが、人の背丈ほどある角柱が10点ほど並び立つ『Daisy Ⅰ』のシリーズでした。これは1990年代以降、若林が自然の精緻な観察をとおして作られたもので、植物のヒナギクに類する名称を表す言葉としてDaisyと名付けられました。

いずれも鋼材の角柱から築かれていて、表面にはかつての工業製品の名残を示すかのような文字や記号が残されていました。



ともかく角柱そのものの重量感が強く感じられて、一見無機的ながらも、黒さびの表面の細かな質感など、思いの外に表情豊かなすがたを見せていました。



これらは人の高さほどあるため、直接上部を見ることは叶いませんでしたが、手前のスロープより見下ろすと胡粉やベンガラといった自然物を原料とした色素の粉末が充填されていることがわかりました。また内部はグリッドに分割されたり、植物の目のような板が隆起しているなど、Daisyのイメージが包み隠されているように思えました。



1階から2階へとあがり、同じくアトリウムに展示された『The First White Core』も存在感があったかもしれません。これは木による白塗りの壇の上に石膏の塊を載せたもので、『Daisy』のシリーズに先立って作られました。



また『The First White Core』の周囲には時に空色を連想させるように色彩に明るい『Sulphur Drawing』が並んでいて、重厚な1階とは異なった軽やかともいえる空間を築いていました。


このほか30年ぶりに展示されたという『所有・雰囲気・振動―森のはずれ』も独特の趣きを見せていたかもしれません。

一連の作品に続き、若林の制作を時間を追って紹介する「資料編」も大変に充実していました。若林は1975年に武蔵野美術大学の助教授に就任し、84年に退任しましたが、まさにこの場所だからこそ実現し得た展覧会ともいえるのではないでしょうか。想像以上に見応えがありました。



アトリウムの展示作品のみ撮影が可能でした。

8月13日まで開催されています。おすすめします。

『若林奮 森のはずれ』 武蔵野美術大学美術館@mau_m_l
会期:2023年6月1日(木)〜8月13日(日)
休館:水曜日。
時間:11:00~19:00
 *土・日曜・祝日は10:00~17:00
料金:無料
場所:東京都小平市小川町1-736
交通:西武国分寺線鷹の台駅下車徒歩約20分。JR線国分寺駅北口より「国分寺駅北口」4番停留所から西武バス「武蔵野美術大学」、または「小平営業所」行きに乗車、「武蔵野美術大学正門」下車すぐ。
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『ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ』 アーティゾン美術館

アーティゾン美術館
『ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ』
2023/6/3~8/20


ヴァシリー・カンディンスキー『自らが輝く』 1924年 石橋財団アーティゾン美術館

フランスを中心としたヨーロッパ、およびアメリカ、また日本における抽象絵画の展開をたどる展覧会が、アーティゾン美術館にて開かれています。

それが『ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ』で、石橋財団のコレクションを中心に、国内外の美術館、また個人蔵の作品をあわせ約250点もの作品が公開されていました。


ウィレム・デ・クーニング『リーグ』 1964年 石橋財団アーティゾン美術館

今回の『ABSTRACTION』の見どころとしてあげられるのが、20世紀美術の抽象絵画の歴史を、その発生からおおよそ1960年代までの展開に沿って紹介していることで、オルフィスムやバウハウス、また戦後アメリカの抽象表現主義から日本の具体などと幅広く網羅していました。


フランティセック・クプカ『赤い背景のエチュード』 1919年頃 石橋財団アーティゾン美術館

またアーティゾン美術館における近年の新収蔵作品が95点も公開されていて、人気のカンディンスキーやクレーはもとより、国内ではなかなかまとめて見る機会の少ないドローネーやクプカの優れた作品も鑑賞することができました。


ロベール・ドローネー『街の窓』 1912年 石橋財団アーティゾン美術館

さらに海外からポンピドゥー・センターやフィリップス・コレクションなどの美術館、また個人コレクションからも初公開作品を含む計30点余りの作品がやって来ていて、展示にいわば厚みを与えていました。これほどのスケールで抽象表現に関する作品を目にすること自体が、極めて稀といえるかもしれません。


ザオ・ウーキー『07.06.85』 1985年 石橋財団アーティゾン美術館

フランス抽象絵画を切り開いたアルトゥング、スーラージュ、ザオ・ウーキーの3名の作家の後期作品に着目した展示も見どころだったのではないでしょうか。


リタ・アッカーマン『愚かな風』 2022年

このほか、リタ・アッカーマン、鍵岡リグレ アンヌ、婁正綱ろうせいこう、津上みゆき、柴田敏雄、髙畠依子、横溝美由紀といった現代の7名の作家の作品を紹介する展示も充実していました。


モーリス・エステーヴ『ブーローニュ』 1957年 石橋財団アーティゾン美術館

イロハニアートにも展覧会の見どころについて寄稿しました。

アーティゾン美術館で開催中の『ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開』見どころは? | イロハニアート


ジョルジュ・マチュー『10番街』 1957年 石橋財団アーティゾン美術館

先日の日曜(16日)の午後に改めて出向いてきましたが、会場内は混雑こそしていないものの、思いの外に賑わっていました。


マーク・トビー『傷ついた潮流』 1957年 石橋財団アーティゾン美術館

会期も残すところ約1ヶ月を切り、夏休みにかけて混み合うかもしれません。事前にウェブサイトよりチケットを購入しておくことをおすすめします。


8月20日まで開催されています。

『ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ』 アーティゾン美術館@artizonmuseumJP
会期:2023年6月3日(土)~8月20日(日)
休館:月曜日(7月17日は開館)、7月18日。
時間:10:00~18:00
 *8月11日を除く毎週金曜日は20時まで。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:【ウェブ予約チケット】一般1800円、大学・高校生無料(要予約)、中学生以下無料(予約不要)。
 *事前日時指定予約制。
 *ウェブ予約チケットが完売していない場合のみ当日チケット(2000円)も販売。
住所:中央区京橋1-7-2
交通:JR線東京駅八重洲中央口、東京メトロ銀座線京橋駅6番、7番出口、東京メトロ銀座線・東西線・都営浅草線日本橋駅B1出口よりそれぞれ徒歩約5分。
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『横尾忠則 原郷の森』 横尾忠則現代美術館

横尾忠則現代美術館
『横尾忠則 原郷の森』 
2023/5/27~8/27



美術家の横尾忠則が出版した小説『原郷の森』にあわせて、小説の世界観を視覚的に体感できる展覧会が、横尾忠則現代美術館にて開かれています。



それが『横尾忠則 原郷の森』で、森を模した空間には横尾の絵や版画などの作品が、小説から抽出された言葉とともに展示されていました。



まず目に飛び込んでくるのが、暗がりの中、木漏れ日のような照明によって映された大型の絵画で、四方の壁だけでなく、展示室の中に設置された造形物にも並んでいました。



それらは時に行手を阻むように立っていて、まさに森を彷徨うかのようにして作品を見て歩くように作られていました。



小説『原郷の森』とは、主人公のYが三島由紀夫と宇宙霊人に導かれ、美術、小説、映画などさまざまな分野で名を残した人々と芸術や人生について語り合うもので、2022年に文藝春秋より発表されました。


そこにはピカソやキリコといった横尾が私淑する芸術家をはじめ、黒澤明らといった交流のあった文化人、または親鸞にブッダといった280名もの人物が登場して、彼らが入れ替わり立ち替わり現れては思い思いの言葉を残す内容となっていました。



そして彼らの存在は横尾の人生に何らかの影響を及ぼしたと言われていて、芸術観の形成にも関わってきました。



ともかく作品は「首吊り縄」の登場するモチーフから有名な「Y字路」シリーズに「ピンクガール」、さらに近年集中して描いている「寒山拾得」などと多岐にわたっていて、横尾の集大成ともいうべく作品世界を見ることができました。



このほかには建築家の武松幸治の監修で作られた、キュミラズム・トゥ・アオタニも面白いのではないでしょうか。



窓外に広がる摩耶山麓の風景が不定形なミラーに反射し、万華鏡のような空間を築いていて、しばらく滞在しているといつしか横尾のコラージュの中に入り込んでいるような錯覚を覚えました。



横尾忠則現代美術館は、兵庫県西脇市に生まれた横尾忠則からの寄贈、および寄託作品を保管し、広く公開するために開設された美術館で、兵庫県立美術館王子分館の西館をリニューアルし、2012年11月にオープンしました。


一部作品を除いて撮影も可能でした。



8月27日まで開催されています。

『横尾忠則 原郷の森』 横尾忠則現代美術館@YTmocaStaff
会期:2023年5月27日(土) ~8月27日(日)
休館:月曜日。ただし7月17日(月・祝)は開館し、7月18日(火)は休館。
時間:10:00~18:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般700(550)円、大学生550(400)円、70歳以上350(250)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:神戸市灘区原田通3-8-30
交通:阪急電車王子公園駅より徒歩約6分。JR線灘駅より徒歩約10分。
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『古代メキシコ―マヤ、アステカ、テオティワカン』 東京国立博物館・平成館

東京国立博物館・平成館 特別展示室
『古代メキシコ―マヤ、アステカ、テオティワカン』
2023/6/16~9/3



北アメリカ南部のメキシコでは、前15世紀から後16世紀の約3千年以上にわたって独自の文明を築き、人々は神を信仰し時に畏怖しながら、大神殿やピラミッドなどの壮大なモニュメントを築きました。

そうした諸文明のうちマヤ、アステカ、テオティワカンに着目したのが今回の展覧会で、会場では近年の発掘調査の成果を交えながら、メキシコ国内の主要博物館から選ばれた約140件の品々を公開していました。


『チコメコアトル神の火鉢(複製)』 原品:アステカ文明 1325〜1521年 メキシコ国立人類学博物館

まず3つの文明に入る前に取り上げられていたのが、前1500年頃にメキシコ湾岸部に興ったオルメカ文明でした。これはメソアメリカで展開する多彩な文明のルーツともいわれていて、マヤ、アステカ、テオティワカンに通底するキーワードとして「トウモロコシ」、「天体と暦」、「球技」、そして「人身供犠」を紹介していました。


『死のディスク石彫』 テオティワカン文明 300〜550年 メキシコ国立人類学博物館

これに続くのが、紀元前100年頃、メキシコ中央高原の海抜2300メートルほどの盆地におこり、550年頃まで栄えたのがテオティワカンでした。


『シパクトリ神の頭飾り石彫』、『羽毛の蛇神石彫』 ともにテオティワカン文明、200〜250年 テオティワカン考古学ゾーン

テオティワカンは死者の大通りと呼ばれる巨大空間を中心に、ピラミッドや儀礼の場、官僚の施設、居住域などが建ち並ぶ計画都市を築いていて、約25㎢の面積の中に最大10万人が暮らしました。


『香炉台』 マヤ文明 680〜800年 アルベルト・ルス・ルイリエ パレンケ遺跡博物館

3つの文明で最も古いのは紀元前1200年頃におこり、後1世紀頃に王朝が成立したマヤでした。マヤでは250年から950年にかけて、ピラミッドをはじめとする公共建築や集団祭祀などを特徴とした都市文化を築き上げていて、14世紀頃には独自色が薄れたとされるものの、スペインの侵攻を受けるまで文明が続きました。


『96文字の石板』 マヤ文明 783年 アルベルト・ルス・ルイリエ パレンケ遺跡博物館

このマヤで興味深いのは、表語文字と音節文字から構成されたマヤ文字で、とりわけ古典期マヤを代表する都市国家パレンケの王宮の遺跡より発見された『96文字の石板』に目を引かれました。


『チャクモール像』 マヤ文明 900〜1100年 ユカタン地方人類学博物館 カントン宮殿

またマヤではパレンケのパカル王(在位:615〜683年)の妃と考えられる人物の出土品のほか、神への捧げ物を置いたという石像の『チャクモール像』も目立っていたかもしれません。3つの文明の展示におけるいわばハイライトを築いていました。


『鷲の戦士像』 アステカ文明 1469〜86年 テンプロ・マヨール博物館

このほか、ラストのアステカでは『鷲の戦士像』や古代メキシコでは珍しい金の製品なども見どころだったかもしれません。会場内の撮影も可能でした。


「パカル王と赤の女王 パレンケの黄金時代」より「赤の女王」出土品展示風景

一部内容が重複しますが、イロハニアートへも展示について寄稿しました。

マヤ、アステカ、テオティワカン─古代メキシコ文明の壮大な遺産とは?『古代メキシコ』展見どころ紹介 | イロハニアート


9月3日まで開催されています。なお東京での展示を終えると、九州国立博物館(2023年10月3日~12月10日)、国立国際美術館(2024年2月6日~5月6日)へと巡回します。

『古代メキシコ―マヤ、アステカ、テオティワカン』@mexico2023_24) 東京国立博物館・平成館 特別展示室(@TNM_PR
会期:2023年6月16日(金) ~9月3日(日)
休館:月曜日。ただし7月17日(月・祝)、8月14日(月)は開館し、7月18日(火)は休館。
時間:9:30~17:00
 *土曜日は19:00まで開館。
 *6月30日(金)~7月2日(日)、7月7日(金)~9日(日)は20:00まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般2200円、大学生1400円、高校生1000円、中学生以下無料。
 *当日に限り総合文化展も観覧可。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR線上野駅公園口・鶯谷駅南口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄京成上野駅より徒歩15分。
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『三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions』 千葉市美術館

千葉市美術館
『三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions』
2023/6/10~9/10



動物を樟で彫る「ANIMALS(アニマルズ)」で知られる彫刻家、三沢厚彦は、近年、空想上の麒麟やキメラといった複数の動物のイメージを組み合わせる表現を手がけるなど、大型の木彫も精力的に制作してきました。

その三沢の千葉県初の個展が『三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions』で、多次元をテーマに、1990年代の初期未発表作から最新作までの約200点の彫刻と絵画が展示されていました。



今回の個展で最も印象に深いのは、企画展示室に留まらず、美術館の建物全体が会場になっていることでした。



まず1階のさや堂ホールでは、三沢の「ANIMALS」のペガサスとともに、舟越桂の『青い体を船がゆく』といった彫刻や杉戸洋の『おほしさま』などの絵画が展示されていて、ネオ・ルネサンス様式の空間と作品が響き合う様子を見ることができました。



また同じく1階のエレベーターホールではクマがいたり、4階のびじゅつライブラリー(図書室)においてもヒョウやリスなどが展示されていて、さながら動物たちを探し歩くような体験を得ることができました。



このほか、5階常設展示室におけるセミやカエルなど、思わぬ場所に潜む小さな生き物たちも可愛らしく見えるかもしれません。



クマなどに代表される「ANIMALS」に加え、もうひとつの見どころといえるのが、三沢が動物の彫刻を手がける以前に制作していた初期の作品でした。



それらは海岸で拾った流木や廃材、日用品を組み合わせるアッサンブラージュの手法によってできた作品で、「コロイドトンプ」シリーズと名付けられていました。そこにはクマやウマなどの動物も記号的に含まれていて、手法こそ異なるものの、のちの「ANIMALS」シリーズへと展開を伺わせるものがありました。

近年の三沢が制作に注力するキメラが展示のハイライトだったのではないでしょうか。暗がりの一室には、四つ脚のキメラに加え、最新作となる二本脚で立ち上がるキメラが対峙するように置かれていて、独特の緊張感が漂うとともに、シュールとも呼べるような光景を築き上げていました。



7月14日からは子どもアトリエにおいて「つくりかけラボ12 三沢厚彦|コネクションズ 空洞をうめる」が開かれ、三沢を中心に活動するアートコレクティブ「コネクションズ」のメンバーが、来場者とともに千葉の街から着想を得たプロジェクトを展開します。そちらにあわせて出かけるのも楽しいかもしれません。



さや堂ホールやロビー、および会場内の一部展示室の撮影も可能です。


WEBメディアのイロハニアートへも展示の見どころを寄稿しました。

リアルとファンタジーが交錯する。彫刻家・三沢厚彦の個展が千葉市美術館にて開催中! | イロハニアート



9月10日まで開催されています。おすすめします。

『三沢厚彦 ANIMALS/Multi-dimensions』 千葉市美術館@ccma_jp
会期:2023年6月10日(土)~9月10日(日) 
休室日:6月12日(月)、19日(月)、26日(月)、7月3日(月)、10日(月)、18日(火)、8月7日(月)、21日(月)、9月4日(月) *第1月曜日は全館休館
時間:10:00~18:00。
 *入館は閉館の30分前まで
 *毎週金・土曜は20時まで。
料金:一般1200(960)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
 *( )内は前売り、市内在住の65歳以上の料金。
 *リピーター割引:本展チケット(有料)半券の提示で、会期中2回目以降の観覧料が半額。
 *常設展示室「千葉市美術館コレクション選」も観覧可。
 *ナイトミュージアム割引:金・土曜日の18時以降は共通チケットが半額
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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『I LOVE ART 17 プレイプレイアート展』 ワタリウム美術館

ワタリウム美術館
『I LOVE ART 17 プレイプレイアート展』
2023/3/19〜8/3


小谷元彦『Surf Angel(Provisional Monument 2)』 2022年

ワタリウム美術館にて『I LOVE ART 17 プレイプレイアート展』が開かれています。

これはワタリウム美術館のコレクションより19人、さらにゲストとして小谷元彦を迎え、計20名のアーティストを紹介するもので、2階から4階の展示室へ約150展もの作品が所狭しと並んでいました。


ニキ・ド・サン=ファル 展示作品

まず2階ではアンディ・ウォーホルにソル・ルウィット、またニキ・ド・サン=ファルなどの作品が展示されていて、ナムジュン・パイクのロボット「K-567」が時折奇妙な動きを見せていました。


小谷元彦『Surf Angel(Provisional Monument 2)』 2022年

この空間で特に目立つのが、ゲストアーティストとして迎えられた小谷元彦の『Surf Angel(Provisional Monument 2)』で、昨年、宮城県石巻市にて開かれた芸術祭、『リボーンアート・フェスティバル2021-22(後期)』のために制作された作品でした。

ここでは波の上のサーフボードに乗りながら、バランスをとるように両手を大きく広げ、背中に羽根をつけた水着すがたの天使を象っていて、鏡のはめ込まれた頭部は幾何学的なかたちをしていました。


小谷元彦『Surf Angel(Provisional Monument 2)』 2022年

それにしても高さ6メートルの『Surf Angel(Provisional Monument 2)』の迫力は並大抵のものではなかったかもしれません。これほど大きな作品をどのように展示室に入れたのかと思ってしまうほどでした。


手前:ファブリス・イベール『ベシーヌの人(ポフ125)』 1988〜98年

続く3階では小沢剛、またアレクサンドル・ロトチェンコ、そして4階ではディヴィッド・ホックニーらの作品が展示されていて、とりわけ11の身体の穴より水が吹き出すファブリス・イベールの噴水『ベシーヌの人』に目を引かれました。


手前:ソル・ルウィット『ピラミッド』 1986年 右:ナムジュン・パイク『ロボット K-567』 1993年

作品を広場の中の風景や人物に見立た展示とのことでしたが、端的にワタリウム美術館のコレクション展としても見応えがあったかもしれません。


左下:オラフ・ニコライ『上野公園/テント』 1999年 右上:アレクサンドル・ロトチェンコ『空間構成13番「三角形の中の三角形」』 1921年(2018年再構築)

またリボーンアートでキービジュアルを飾った小谷の『Surf Angel(Provisional Monument 2)』をまさか東京で見られるとは思いませんでした。


ジョナサン・ボロフスキー『分子男』 1983年

会場内の撮影も可能です。


8月3日まで開催されています。

『I LOVE ART 17 プレイプレイアート展』 ワタリウム美術館@watarium
会期:2023年3月19日(日)〜8月3日(木)*会期延長
休館:月曜日。但し7月17日は開館。
時間:11:00~19:00 
 *毎週水曜日は21時まで開館。
料金:一般1500円、25歳以下(学生)・高校生・70歳以上1300円、小・中学生500円。
 *ペア券:大人2人2600円。
 *会期中何度でも展覧会へ入場できるパスポート制チケット。
住所:渋谷区神宮前3-7-6
交通:東京メトロ銀座線外苑前駅より徒歩8分。
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『ケニー・シャーフ I’m Baaack』 NANZUKA UNDERGROUND 草月会館

NANZUKA UNDERGROUND 草月会館
『ケニー・シャーフ I’m Baaack』
2023/6/10〜7/9 *草月会館は6/30まで


ケニー・シャーフ『JANGARU!』(2023年)

アメリカのアーティスト、ケニー・シャーフの個展が、東京・神宮前のNANZUKA UNDERGROUNDと赤坂の草月会館にて開かれています。


右からケニー・シャーフ『AKAO』(2023年)、「ARBO ROSO」(2022年)

まずNANZUKA UNDERGROUNDにて展示されているのが、シャーフの新作の絵画で、いずれも代名詞ともいえる巨大なアメーバやSFの宇宙人を連想させるようなキャラクターが描かれていました。


ケニー・シャーフ『Pintura del Tokyo』(2023年)

それらは変幻自在にすがたを変えつつ、画面を飛び回るように表されていて、絵画に類稀なる動きや生命感を与えていました。


ケニー・シャーフ『NAMIGO』(2022年)

と同時に背景には日本語の新聞の引用と思しき文章や文字がたくさん記されていて、新型コロナウィルスや福島の原発事故を扱った記事などが引用されていることを見てとれました。


ケニー・シャーフ『Cosmic Cavern』 展示風景

この絵画とともに公開されているのが、暗室を用いた『Cosmic Cavern』と題するインスタレーションでした。


ケニー・シャーフ『Cosmic Cavern』 展示風景

これは打ち捨てられた玩具や衣類、それに家電といったオブジェクトを室内に散乱するように並べつつ、ブラックライトで照らし出すもので、本来的にゴミであったものがポップなアートとして転換する光景を楽しむことができました。


草月会館 展示風景

一方、草月会館では、イサムノグチの手がけた石庭を舞台にアルミによるカラフルな立体彫刻を展開していて、あたかもキャラクターたちが空間を支配しているような雰囲気が感じられました。


「夢の車」

このほか、会館前に公開中の「夢の車」も目立っていたかもしれません。かつての1985年にシャーフ自身がキャデラックへとペイントと改造を施した車で、車外だけなく車内もシャーフのカラフルな色彩世界が渦巻いていました。


草月会館 展示風景

草月会館とNANZUKA UNDERGROUNDでは会期が異なります。


アメリカの「ポップ・シュルレアリスト」、ケニー・シャーフの30年ぶりの個展が都内2会場にて開催中!|Pen Online


草月会館 展示風景

草月会館は6月30日まで、NANZUKA UNDERGROUNDは7月9日まで開催されています。

『ケニー・シャーフ I’m Baaack』 NANZUKA UNDERGROUND@NANZUKAUNG
会期:2023年6月10日(土)〜7月9日(日)
休館:月、火曜。
時間:11:00~19:00
料金:無料。
住所:渋谷区神宮前3-30-10
交通:東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅5番出口より徒歩8分。JR山手線原宿駅竹下口より徒歩10分。

『ケニー・シャーフ I’m Baaack』 草月会館
会期:2023年6月10日(土) 〜6月30日(金)
休館:日、月曜
時間:11:00〜16:00 *金・土曜は17時まで。
料金:無料
住所:港区赤坂7-2-21
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線、都営地下鉄大江戸線青山一丁目駅南青山4番出口より徒歩5分。
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『高橋龍太郎コレクション「ART de チャチャチャー日本現代アートのDNAを探るー」展』 WHAT MUSEUM

WHAT MUSEUM
『高橋龍太郎コレクション「ART de チャチャチャー日本現代アートのDNAを探るー」展』
2023/4/28〜8/27



日本屈指のアートコレクターで精神科医の高橋龍太郎が収集したコレクションを紹介する展覧会が、東京・天王洲のWHAT MUSEUMにて開かれています。


岩崎貴宏『リフレクション・モデル(金閣)』 2014年

それが『高橋龍太郎コレクション「ART de チャチャチャー日本現代アートのDNAを探るー」展』で、会場には岡村桂三郎に鴻池朋子、また山口晃や横尾忠則といった33名の現代作家の作品、約40点が展示されていました。


華雪『木』 2021年

高橋龍太郎が本格的に現代美術を収集しはじめたのは1997年のことで、草間彌生や合田佐和子を出発点とすると、奈良美智や村上隆、そして名和晃平といった日本の現代美術家らの作品をコレクションしました。


町田久美『郵便配達夫』 1999〜2005年
 
その数は約3000点にも及んでいて、2008年以降は国内外の23の公立・私立美術館にて「ネオテニー・ジャパン高橋コレクション」といった展覧会にて広く公開されてきました。


岡村桂三郎『白象03-1』 2003年、『獅子08-1』 2008年 

今回は日本の歴史の中で築かれた文化や芸術、それに価値観を継承しつつ、独自の視点で再解釈して新たに表現している作家に焦点を当てていて、最初の空間では岡村桂三郎の板絵や杉本博司の写真、それに井上有一の作品などが暗がりの中で光に浮かび上がる光景を見ることができました。


鴻池朋子『無題』 2010年

また襖や岩絵具など日本の建築様式や素材に向き合いながら制作する作家も紹介されていて、髑髏をモチーフとした鴻池朋子の襖絵や、墨の線や岩絵具の質感を活かして若冲の雄鶏を彷彿させるようなイメージを描いた町田久美の絵画にも目を引かれました。


山口英紀『動脈』 2008年 

このほか、ビルの並ぶ都市風景を水墨にて精緻に描いた山口英紀や、九谷焼の赤絵の技術を用いなが幾何学模様を表した見附正康の作品なども見どころだったかもしれません。


見附正康『無題』 2022年

掛け軸を用い、三味線の調べとともにシュールな映像が展開する束芋のインスタレーションにも心を惹かれました。


熊條雅由 展示作品

なお1階のスペースでは同館で初めて公開制作が行われていて、1989年生まれの画家、熊條雅由の作品や画材、また制作プロセスなどを見ることもできました。


高橋龍太郎のコレクションから探る、日本の現代アートのDNA。WHAT MUSEUMにて展覧会が開催中!|Pen Online

一部を除き、撮影も可能です。8月27日まで開催されています。

『高橋龍太郎コレクション「ART de チャチャチャー日本現代アートのDNAを探るー」展』 WHAT MUSEUM Space 1, 2F(@what_terrada
会期:2023年4月28日(金)〜8月27日(日)
休館:月曜日。祝日の場合、翌火曜休館。
時間:11:00~18:00
 *入館は閉館1時間前まで
料金:一般1500円、大・専門学生800円、高校生以下無料。
住所:品川区東品川2-6-10 寺⽥倉庫G号
交通:東京モノレール天王洲アイル駅徒歩5分。東京臨海高速鉄道りんかい線天王洲アイル駅B出口徒歩4分。
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『ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会』 森美術館

森美術館
『森美術館開館20周年記念展 ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会』 
2023/4/19〜9/24


ジャカルタ・ウェイステッド・アーティスト『グラフィック・エクスチェンジ』(2015年、部分)

学校で習う教科を入口として、現代アートの作品を紹介する展覧会が、森美術館にて開かれています。

それが『ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会』で、会場では54組のアーティストによる約150点の作品が公開されていました。


イー・イランの『ダンシング・クイーン』(2019年)

まず冒頭の「国語」では言葉や言語をテーマとした作品や、文学や詩の要素を持つ作品が展示されていて、さまざまな女性の生活を支えてきたポップソングの歌詞を織物にしたイー・イランの『ダンシング・クイーン』などを見ることができました。


アイ・ウェイウェイ(艾未未)『漢時代の壷を落とす』(1995/2009年)、『コカ・コーラの壷』(1997年)

これに続くのが今回の展示にて最もボリュームを占める「社会」で、美術史を主題としたアイ・ウェイウェイに森村泰昌や、戦争や災害をテーマとするディン・Q・レに畠山直哉などの作品に目を引かれました。


ヴァンディー・ラッタナ『爆弾の池』(2009年) 

ヴァンディー・ラッタナの『爆弾の池』とは、カンボジアの農地に点在する円形の凹みや湖を写真に収めたもので、いずれもベトナム戦争中に米軍の爆撃によって作られた爆弾クレーターでした。


ハラーイル・サルキシアン『処刑広場』(2008年)

またハラーイル・サルキシアンは『処刑広場』において、シリアで過去に公開処刑が行われた三つの街の広場を写していて、先の『爆弾の池』と同じく一見、平穏な景色に映りながらも、その内実を知るとまた違った印象が与えられました。


青山悟 作品展示風景

このほか「社会」では、工業用ミシンを用いた刺繍を制作し、労働のあり方を問い直す青山悟の作品や、愛知県の製陶産業の歴史と世界経済の関係を人間浄瑠璃にて語る田村友一郎の映像も見応えがあったかもしれません。


李禹煥(リ・ウファン)『関係項』(1968/2019年)、『対話』(2017年)

さらに「哲学」、「算数」、「理科」、「総合」と展示が続いていて、宮島達男に李禹煥、またマリオ・メルツに杉本博司、そして宮永愛子からヤン・ヘギュといったさまざまな作品を見ることができました。


杉本博司 作品展示風景

出品作品の半数以上は森美術館のコレクションにて占められていて、端的に同館のコレクション展としても充実していたのではないでしょうか。


現代アートで学ぶ、新しい世界。『ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会』が森美術館にて開催中!|Pen Online


ヤン・へギュ、作品展示風景

なお「音楽」と「体育」の上映作品は前期と後期で作品が入れ替わります。上映スケジュールなどは同館のWEBサイトにてご確認ください。


ヤコブ・キルケゴール『永遠の雲』(2023年)

会期中は無休です。9月24日まで開かれています。

『森美術館開館20周年記念展 ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会』 森美術館@mori_art_museum
会期:2023年4月19日(水)〜9月24日(日)
休館:会期中無休。
時間:10:00~22:00
 *火曜日は17時で閉館。ただし5月2日(火)、8月15日(火)は22時まで。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:[平日]一般2000(1800)円、高校・大学生1400(1300)円、4歳~中学生800(700)円、65歳以上1700(1500)円
[土・日・休日]一般2200(2000)円、高校・大学生1500(1400)円、4歳~中学生900(800)円、65歳以上1900(1700)円。
 *( )内はオンラインチケット料金。
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅より地下コンコースにて直結。都営大江戸線六本木駅より徒歩10分。都営地下鉄大江戸線麻布十番駅より徒歩10分。
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『ART IN YOU アートはあなたの中にある』 三井住友銀行東館 1Fアース・ガーデン

三井住友銀行東館 1Fアース・ガーデン
『ART IN YOU アートはあなたの中にある』
2023/5/20~6/17



福祉実験ユニット、ヘラルボニーの契約作家、16名の作品を紹介する展覧会『ART IN YOU』が、三井住友銀行東館 1Fアース・ガーデンにて開かれています。

2018年、松田崇弥、松田文登により設立されたヘラルボニーは、主に知的な障がいのあるアーティストと契約を結ぶと、ライセンスビジネスや作品をプロダクトに落とし込むブランドの運営、また建設現場の仮囲いに作品を転用する「全日本仮囲いアートミュージアム」などさまざまな事業を展開してきました。


森啓輔『Let it be』

また2021年には盛岡市に「HERALBONY GALLERY」を開設すると、作品の販売を通して、各アーティストの制作を世に積極的に広めてきました。


藤田望人『と・と・と』、『apples』

今回の『ART IN YOU』では金沢21世紀美術館のチーフキュレーターである黒澤浩美のキュレーションのもと、ヘラルボニーの16名の契約作家の作品が展示されていて、絵画を中心にコラージュといった多様な表現を見ることができました。


井口直人『無題』

キュビズムを思わせるような画面構成と鮮やかな色彩を特徴とする森啓輔の絵画や、コピー機を用い自らの身体を介在させた井口直人のコラージュ、さらにはグラフィティアートのような味わいが感じられる藤田望人の絵画などは特に魅惑的だったかもしれません。


GAMON『無題』

このほか、G7広島サミット国際メディアセンターのIoTスマートごみ箱「SmaGO」のデザインに作品が採用されたGOMONの力強い絵画にも心を引かれました。


内山.K『マックィーンクワガタの地図』、『トリケラパークの地図』

毎週土日にはヘラルボニースタッフによるギャラリートークも行われます。(時間:14:00〜14:30)予約は不要です。こちらに参加して見るのも面白いかもしれません。


丸の内にて異彩が放たれる。福祉実験ユニット、ヘラルボニーが16作家による『ART IN YOU』を開催!|Pen Online


『ART IN YOU アートはあなたの中にある』展示風景

会期中は無休です。6月17日まで開催されています。

『ART IN YOU アートはあなたの中にある』@heralbony) 三井住友銀行東館 1Fアース・ガーデン
会期:2023年5月20日(土)~6月17日(土)
休館:会期中無休。
料金:無料
時間:10:00~18:00 *土日祝は13:00から 
住所:千代田区丸の内1-3-2
交通:東京メトロ丸の内線・東西線・半蔵門線・千代田線、都営三田線大手町駅C14出口より直結。
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『橋本関雪 生誕140周年 KANSETSU』 福田美術館・嵯峨嵐山文華館

福田美術館・嵯峨嵐山文華館
『橋本関雪 生誕140周年記念 KANSETSU 入神の技・非凡の画』
2023/4/19~7/3


橋本関雪『麗日図』 1934年 個人蔵

日本画家、橋本関雪の生誕140年を期し、福田美術館、嵯峨嵐山文華館、白沙村荘橋本関雪記念館の3館にて『橋本関雪 生誕140周年記念 KANSETSU 入神の技・非凡の画』展が開かれています。

まず嵐山第1会場である福田美術館では、82年ぶりに公開される『俊翼』をはじめ、代表作『木蘭』といった文展出品の作品が公開されていて、関雪の画家としての歩みや到達点を追っていました。

神戸生まれの関雪は儒学者の父の薫陶を受けて育つと、詩文の教養を身につけ、京都で四条派に学び、写実せいと装飾性を持ち得た作品を制作しました。


橋本関雪『仙姐図』 1923年 福田美術館

そして南画や中国絵画の要素を加えて独自の画風を確立すると、モナリザといった西洋絵画の影響を思わせるような『仙姐図』なども描きました。


橋本関雪『木蘭』 1918年 白沙村荘橋本関雪記念館

『木蘭』は中国、北魏の物語「木蘭詩」に登場する少女を主題とした作品で、梅に水を飲ませる戦友のそばにて、故郷に想いを寄せながら休憩する戦いに赴いた男装の少女を描いていました。


橋本関雪『俊翼』 1941年 福田美術館

翼を広げて飛ぶ猛禽のすがたを描いた『俊翼』とは、橋本関雪聖戦記念画展に出品されたもので、鷹に戦闘機のイメージを投影した寓意的な作品でした。


橋本関雪『春山遊猿』 1942年 個人蔵

このほか、狸や狐、それに猿などの動物をモチーフとした作品も魅惑的だったかもしれません。


橋本関雪『芍薬白猫」 1930年 福田美術館

また芍薬の花の咲く中、陽の光を浴びて佇む『芍薬白描』の瀟洒な味わいにも心を惹かれました。


橋本関雪『閑適』 1918年 白沙村荘橋本関雪記念館

これ続く嵐山第2会場の嵯峨嵐山文華館では、『狗子』に『梅渓漁夫』、また『閑適』など白沙村荘橋本関雪記念館の作品が紹介されていて、花鳥に人物、風景などを巧みに描き分ける関雪の高い画技を見ることができました。


橋本関雪『前田又吉追善茶会画巻』 1901年 白沙村荘橋本関雪記念館

18歳の時に描いたという『前田又吉追善茶会画巻』も目を引くのではないでしょうか。前田の遺族が没後7年に遺愛の品を展観して供養した時の様子を表したもので、盆栽などの品々を端正に写しとっていました。


橋本関雪『梅渓漁夫』 1924年 白沙村荘橋本関雪記念館

展示替えの情報です。会期中作品が入れ替わります。

『橋本関雪 生誕140周年記念 KANSETSU 入神の技・非凡の画』作品リスト(PDF)
前期:4月19日(水)~5月29日(月)
後期:5月31日(水)~7月3日(月)


5月29日に前期展示が終わり、展示替えののち、5月31日より後期展示がスタートします。


橋本関雪『狗子』 1942年頃 白沙村荘橋本関雪記念館

今回はスケジュールの都合上、白沙村荘橋本関雪記念館の展示を見ることはできませんでしたが、福田美術館と嵯峨嵐山文華館の2館の内容だけでも想像以上に充実していました。まさに関雪の回顧展の決定版と捉えて差し支えありません。



7月3日まで開催されています。

『橋本関雪 生誕140周年記念 KANSETSU 入神の技・非凡の画』 福田美術館@ArtFukuda
会期:2023年4月19日(水)~ 7月3日(月)
 *前期:4月19日(水)~5月29日(月)、後期:5月31日(水)~7月3日(月)
休館:5月30日(火)
時間:10:00~17:00。最終入館は16時半まで。
料金:一般・大学生1500(1400)円、高校生900(800)円、小中学生500(400)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *嵯峨嵐山文華館両館共通券あり。
住所:京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町3-16
交通:嵐電(京福電鉄)嵐山駅下車、徒歩4分。阪急嵐山線嵐山駅下車、徒歩11分。JR山陰本線(嵯峨野線)嵯峨嵐山駅下車、徒歩12分。
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『リナ・ボ・バルディ展 with Marcenaria Baraúna』 ブラジル大使館

ブラジル大使館
『リナ・ボ・バルディ展 with Marcenaria Baraúna』
2023/5/9〜5/25



1914年にイタリアで生まれたリナ・ボ・バルディは、椅子やファッション、都市デザインなどを手がけると、戦後はブラジルへと移住し、自邸「ガラスの家」やサンパウロ美術館などを設計しました。

そのリナ・ボ・バルディの設計した椅子に着目して活動を紹介するのが『リナ・ボ・バルディ展 with Marcenaria Baraúna』で、会場にはヴィンテージ作品のほか、リナ・ボ・バルディが立ち上げに関わり、現在もサンパウロにて家具を作り続けるバラウナ工房の現行品が展示されていました。



まず最初に紹介されるのがヴィンテージ作品で、自邸「ガラスの家」やサンパウロ美術館の講堂、また「ベナンの家」のレストランのためにデザインした椅子が並んでいました。



リナ・ボ・バルディは自身の手がけた建物の多くにオリジナルの椅子をデザインしていて、木材によるシンプルな構造をした作品が目立っていました。



サンパウロのポンペイ地区の文化施設「SRSCポンペイア」では、建物だけでなく、家具や職員の制服、グラフィックなどをリナ・ボ・バルディが手がけていて、図書室や食堂のための椅子もデザインしました。



これに続くのが主にバラウナ工房による現行品の展示で、同工房の協力のもとに世界で初めて復刻された「SESC ポンペイア文化センター」のチェアや初公開となる「キッズデスク」などが紹介されていました。



直接座って感触を確かめることのできる現行品の展示も良かったかもしれません。2室に加えて映像とコンパクトな内容でしたが、思いの外に見応えがありました。



間もなく会期末です。5月25日まで開催されています。

『リナ・ボ・バルディ展 with Marcenaria Baraúna』 ブラジル大使館
会期:2023年5月9日(火)〜5月25日(木)
休館:土曜、日曜。
料金:無料
時間:11:00~17:00 
住所:港区北青山2-11-12
交通:東京メトロ銀座線外苑前駅3番出口より徒歩10分
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