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狂想の五山送り火

2011-08-13 15:17:31 | Weblog


爆発した福島第一原子力発電所の3号機はウラン238とプルトニウムを混ぜたMOX燃料を焚いていた。

プルトニウムはギリシア神話でプルトン、ローマ神話ではプルートとよばれる冥府の王にちなんで命名された。死者は亡霊となり、冥府で生前の所業について裁きを受け、極悪人は奈落で永遠の責め苦にあうのだと、古代ギリシア人は想像した。

核兵器の原料になるプルトニウムは、地獄の業火のイメージである。

今朝(2011年8月13日)の朝日新聞が、京都の「五山送り火」の薪問題のニュースを報じていた。東日本大震災の津波になぎ倒された岩手県陸前高田市の松の薪を燃やす計画について、紆余曲折のすえ最終的に京都市長が8月12日に計画を放棄すると発表した、と伝えた。京都市があらためて陸前高田から取り寄せた薪500本の放射能検査をした結果、放射性セシウムが検出されたからだ。

京都市の依頼で、民間検査機関がすべての薪の表皮と、内側を一部削り取って調べた。その結果、表皮のみに1キログラムあたり1130ベクレルの放射性セシウムが検出された。

皮肉なことだ。最初に陸前高田から持ち込まれていた薪からは、放射能は検出されなかった。薪には陸前高田の人々が鎮魂の思いを書き込んでいた。にもかかわらず、主催者の地元保存会は計画を中止した。すると、京都市と保存会に批判が集まった。そこで方向転換をし、再び、陸前高田の薪を五山送り火で焚くことにしたら、今度は薪の表皮から放射能が検出された。

さて、もし五山送り火で陸前高田の薪を燃やす場合は、薪の表皮だけでなく、放射能が検出されなかった部分も焚くはずだったろう。そもそも表皮1キロあたりのベクレルではなくて、薪1キロあたりのベクレルが問題になるべきだった。薪1キロから出る表皮は、重量にして薪の10分の1より重くなることはないだろう。こういう想定に立てば、薪1キロの放射能は113ベクレル以下になる。

食品に含まれる放射性物質の暫定基準値について、厚生労働省のサイトを見ると、放射性セシウムの場合、飲料水、牛乳などについては1リットルあたり200ベクレル、野菜・肉・卵・魚などについては1キロあたり500ベクレルとし、この基準値を上回るものは飲食しないとしている。

この暫定基準値を信用する側の立場に立てば、1キロあたりセシウム量113ベクレルの薪は、もし食ったとしても、放射線障害の面だけでいえば問題ない数字になる。

福島第一原発以降、これからさき数十年、日本人は放射線の数値の評価を、それぞれの判断――というか、決断できめ、カロリー表と放射線量のリストをにらみながら、日常生活をおくることになる。

福島第一原発事故後、外国人がいっせいに日本からひきあげた。日本の企業が電力不足などを理由に海外移転を検討している。いまや、日本の公的機関が発表する放射能の安全基準を信用できないとして、放射能汚染を理由に海外へ移民する日本人が出てもおかしくない政治的・社会的な不信がこの国に広がっている。

ところで、日本人一般が医療検査で被爆する放射線量は、国連の統計では、世界平均の3.7倍にあたる2.25ミリシーベルトである。この過剰な医療被曝については、病から身を守るためのコストとして容認されてきた。

どうやら目的にそれなりの意義があれば、一般に、日本人は放射線被曝にさほど神経質にならない。

厚生労働省の暫定基準にしたがえば、食用に供して問題ない程度の放射線量の薪500本でさえ焚くことを京都市長らが恐れたのは、とりもなおさず、あるかなきかのリスクでさえ払う理由を認めなかったからだ。「五山送り火」に、東日本大震災・津波の鎮魂を込めることの意味を、その程度にしか考えていなかった――そのことが陸前高田をはじめ東北の被災者の心を引き裂く。「五山送り火」が、いまや、人間の魂にかかわる行事ではなく、観光都市京都が生き延びるための収益行事になっていることを、京都市長自らが認めたわけである。

(2011.8.13 花崎泰雄)

追記
●8月14日のNHKニュースによると、陸前高田市の松の木が、震災で亡くなった人たちの供養のために、千葉県にある成田山新勝寺に送られ、9月に護摩の木と一緒に焚かれることになった。新勝寺は、陸前高田市から発送する前に、松の皮を削れば心配はないとしている。

●薪500本でこれだけの騒ぎだ。瓦礫処分の受け入れを巡ってどんな大騒ぎが始まるのだろうか。

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