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朝貢外交

2017-02-04 22:29:18 | Weblog

来日したマティス米国防長官が2月3日、安倍・日本国首相に「尖閣諸島は日本の施政下にある領域であり、安保条約の適用範囲だ」(朝日新聞2月4日朝刊)と明言し、中国の拡張的態度に戦々恐々としている日本政府を安心させた。

しかし、よくよく考えるまでもなく、上記の「安保条約適用範囲」発言は先のオバマ政権でも、当時の米国防長官がしばしば口にし、2014年は来日したオバマ大統領自らも言明した約束である。

日本政府は日米安保条約が日本の安全保障の根幹であり、日米同盟の核心であると言い続けてきた。そうした重要な日米国家間の約束事でありながら、米国の大統領が交代したことで、改めて約束の確認をとらねば安心できないという不安定さは異常だ。

尖閣諸島が日米安保の適用範囲であるとの確認を、日本政府がアメリカ政府高官に求めたのは、トランプ米大統領の政治家としての資質の欠陥に不安を抱いているからだ。

トランプ米大統領の常軌を逸した発言とふるまいが、異常事態を巻き起こしている。メキシコ大統領との電話会談で、メキシコが麻薬問題などを自力で解決できないのなら米軍を送り込む、と発言したと伝えられた。オーストラリア首相との電話会談では、オバマ政権時代にオーストラリアと約束した難民の引き取り――オーストラリアにいるイラク人を中心にした難民1000人余りを米国が引き取り、代わりに米国にいる中米からの難民をオーストラリアが引き取る約束――をめぐって、豪首相がアメリカへ爆弾犯を輸出しようとしていると非難し、1時間の予定の電話会談を25分で一方的に打ち切った。オーストラリアは湾岸戦争、アフガニスタン、イラクと米軍に寄り添って出兵し、オーストラリア国内でも、オーストラリアは世界の保安官・米国の副保安官になっている、と身内からも批判が出るほどだった。それほど米国に寄り添ってきた国の首相であっても、このような仕打ちを受ける。

ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニストである経済学者のポール・クルーグマンが2月3日の同紙に “Donald the Menace” という論評を書いている。書き出しはこうだ。トランプ政権は米国人を外交的危機、ひょっとしたら戦争にさえ引きずり込むかもしれない。

このような人物とまともな外交交渉は可能か?

トランプ大統領の、イスラム教徒をターゲットにした米国入国禁止の大統領令は米国内に分裂をもたらし、ヨーロッパの主要国や国連事務総長らからも厳しく非難されている。日本国の安倍首相はこうしたトランプ批判からは距離を置いて、米国の内政問題であると逃げを打っている。国連決議で米国に遠慮して棄権にまわる例の手法である。安倍首相は2月10日に米国でトランプ大統領と会談しなければならない。下世話で下品な言葉遣いをすれば、どのツラさげて俺に会いに来た、というような状況は避けたい。そのようなことを平気で言う人物であると恐れている。

訪米に先駆けて、「日米首脳会談に向け、政府が検討する経済協力の原案が2日、明らかになった。トランプ米大統領が重視するインフラへの投資などで4500億ドル(約51兆円)の市場を創出し、70万人の雇用を生み出すとしている。日米間の貿易不均衡を批判するトランプ氏に10日の会談で示して理解を得たい考えだが、日本の公的年金資産の活用をあて込むなど異例の手法だ」という記事が朝日新聞に掲載された。

ホワイトハウスへの手土産である。「ただ、政府内には『米国なしに日本経済は成り立たない。(相互利益の)ウィンウィンだ』(政府関係者)という評価の一方、トランプ氏に寄り添い過ぎて朝貢外交と言われてしまう(首相周辺)という批判もある」と同記事はいう。

米国の名目GDPは4兆6千億ドル規模で世界のGDPの22%を占め、日本のそれは17兆3千億ドル規模で6%弱を占める程度である(2014年)。1人当たり名目GDPは米国が約5万6千ドルで世界第7位、日本が約3万2千ドルで第28位(2015年)。失業率は米国で5%ちょっと、日本で3%台である(2015年)。

2017年2月3日発表の米国の統計では、1月には米国の雇用は22万7千人増えた。失業率は4.8%、賃金は3%伸びて26ドルの増。

日本に比べればはるかに経済好調な大国・アメリカのさらなる雇用増のために、国債残高がGDP比で300%近い日本(米国は100%少々)が、友好の証として投資をして差し上げようというのだから、朝貢外交と言われても仕方がない。

トランプ大統領は日本に対して、米軍駐留経費の負担増をもとめ、日本は米国からの自動車輸出を困難にしている、為替操作をしている、など根拠のない言いがりをふっかけいる。

日本に駐留する米軍の経費の75%は日本国が負担している。韓国とイタリアでは各40%、ドイツでは30%である。フォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディは日本で売れ行き好調である。トランプ大統領は日本だけではなく、ドイツにも中国にも為替操作をしていると言っている。

これらが米大統領の妄想であることは、日米安保の費用分担問題を見ればよくわかる。日米安保条約は第6条で「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される」としている。米軍は日本の安全に寄与すると同時に、米国の安全と利益を目的として、極東において日本の基地を使用することができる。米国にとって日米安保条約の意義はそちらの方にある。日本の基地を母港とする米空母がイラク攻撃に出撃したこともある。イラクは極東の範囲から外れるが、出撃ではなく移動であるからと日米両政府は問題にしなかった。

そういうわけで、これ以上日本が米軍駐留経費の負担増に応じれば、新たな日米安保ただ乗り論が噴出する可能性がある。過去のただ乗り論では、ただ乗りするのは日本だったが、新しいただ乗り論では、米国が自国の核心的利益である世界戦略の一環として日本に駐留させている米軍の駐留経費の大半を日本に負担させて、ただ乗りをしているという議論になる。

以上、すべてはわかりきったことなのに、それでもアメリカに対して日本の為政者は朝貢外交を続けている。どこか別のところに根の深い理由がある。

(2017.2.4  花崎泰雄)



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