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国家とテロリズム

2023-10-14 23:44:03 | 国際

パレスチナ自治区のガザ地区を支配するハマスがイスラエルに対してロケット弾攻撃を開始、ハマスの戦闘員がイスラエルの町を襲撃した。ハマスの戦闘員たちはイスラエルから人質をガザに連れて行った。これに対してイスラエル軍はガザ地区を空爆した。イスラエル兵をガザに送り込み、地上戦でハマスの戦闘員を粉砕する準備を進めている。10月7日から始まったハマスとイスラエル軍の戦闘がハマスとイスラエルの戦争に拡大している。

米国、EU、イギリス、カナダ 、 オーストラリア、日本、 イスラエル はハマスをテロ組織に指定している。米国防長官は空母打撃郡をイスラエル沖に向かわせた。同時に、バイデン大統領がブリンケン国務長官をイスラエルに派遣した。ワシントン・ポスト紙やCNNによると、ブリンケン氏はテル・アビブで、「アメリカ合衆国国務長官としてだけでなく、一人のユダヤ人としてここに来た」「アメリカは常にあなたがたの側だ」と発言した。

古い話だが1963年にジョン・F・ケネディ大統領が西ベルリンで “Ich bin ein Berliner”とドイツ語で西ベルリン市民に寄り添う演説をした。Ich bin ein Berlinerは、英語のI am a Berlinerのドイツ語訳だが、ドイツ人にとってBerlinerはジャム入りドーナツも意味し、ドイツ人が私はベルリンっ子という場合はIch bin  Berlinerと不定冠詞抜きで語る。ケネディ氏は、私は1個のジャム入りドーナツだ、と言ったのだと茶々を入れる報道もあった。いやいや、西ベルリンのドイツ人がein Berlinerというと文法的に不自然だが、アメリカ市民が西ベルリンの市民の列に加わるという意思表示をする場合はIch bin ein Berlinerでいいのだ、という学者の意見も出て、メディアを賑わした。ブリンケン氏の「一人のユダヤ人として……」という発言で思い出した話である。

ところで、イギリスのBBCが報道の中立・公正の立場から、ハマスに「テロリスト」の“冠詞”をつけないと表明した。ハマスをテロ組織と呼ぶスナク政権とBBCの間に緊張が走っている。

これもまた、少し古いことになるが『帝国との対決――イクバール・アフマド発言集』(太田出版、2003年)に興味深い話が書かれているのを思い出した。イクバール・アフマドは「テロリズム――彼らの、そして、わたしたちの」で次のようなことを書いている。

1930年代から1940年代初期まで、パレスチナのユダヤ人地下組織は「テロリスト」と記述されていた。1944年ごろまでにはホロコーストに対する同情が西欧圏に広がり、テロリストのシオニストが「自由の戦士」と呼ばれるようになった。ノーベル平和賞を受賞したメナヒム・ベギン氏(イスラエル首相)はかつてそのクビに10万イギリス・ポンドの報奨金がかけられたテロリストだった。レーガン米大統領はソ連軍と戦うアフガニスタンのムジャヒディンをホワイトハウスに招いた。ソ連と戦っていたころのオサマ・ビン・ラディンも米国の友人だった。

テロ行為に対する道徳的嫌悪感は相手次第で変わる。公的な非難の対象になっている集団のテロ行為は糾弾され、政府が是認する集団のテロ行為は称賛するよう、私たちは求められる。これがイクバール・アフマドのメッセージの一つである。昔々、マックス・ウェーバーが『職業としての政治』で「心情倫理」「責任倫理」の対立を指摘した。ハンス・モーゲンソーは『国際政治――権力と平和』で、個人であれば、正義を行わしめよ、たとえ世界が滅ぶとも、といえるが、国家にはそのように主張するいかなる権利もない、とウェーバーの議論を敷衍した。

このような考え方が現在の国際政治の動向を決めている。マックス・ウェーバーの言った心情倫理と責任倫理の考え方の亀裂は埋められないままだ。国際政治は18世紀から19世紀にかけてのプロイセンの将軍クラウゼビッツの「戦争は他の手段による政治の延長」という考え方に毒されている。ハンナ・アレントは『暴力について』でクラウゼビッツ流の考え方を時代遅れと指摘し、サハロフの「熱核戦争を他の手段による政治の延長と考えるのは不可能だ」という言葉と対比させている。

国家としてのイスラエルは世界情勢の混乱の中で誕生した。英仏露は第1次大戦中にサイクス・ピコ協定でオスマン・トルコの領土の分割を決めた。イギリスはマクマホン協定でアラブの独立を約束し、一方で、バルフォア宣言でユダヤ人のパレスチナ復帰と建国を認めた。1930年代のナチス政権は一時期ユダヤ系人口のドイツ国外移住を進めた。シオニストのリーダーの中には、パレスチナにユダヤ人を移住させるための職業訓練キャンプをナチスと共同でドイツ国内にi設立した者もいた。この準備を進めたナチス側の担当者がアイヒマンだった。

英語の「テロリズム」の語源はフランス語で、18世紀のフランス革命期のジャコバン党がロベスピエールの独裁の下で行った恐怖政治から派生している。

 

(2023.10.14 花崎泰雄)

 

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