5月22日付朝日新聞のオピニオンのページで、元東京都知事の猪瀬直樹氏が新型コロナ下のオリンピック開催に賛成する意見を述べていた。「コロナ禍の今こそ、人間の限界に挑戦する選手の活躍から勇気をもらうことが『夢の力』につながるでしょう。菅義偉首相らは、なぜ開催するのかを繰り返し訴えていく必要があります」と。
一連の主張の中で、猪瀬氏はこうも言った。「五輪が過度な商業主義に走っているとして、『だから、やめられない』などと批判するのは、そもそも間違っています。五輪はビジネスそのもので、スポーツ産業です。お金が動かなければ、選手も生活できない。五輪は、日ごろ脚光を浴びることがないマイナー競技の選手がメダルを取って知名度を上げるための最大の機会です」と。
猪瀬氏はオリンピックの東京開催が決まった2013年9月7日、東京都知事であり五輪招致委員会の会長だった。
新型コロナを理由に関係者は2020年の東京オリンピックの開催を2021年に延期した。震災復興五輪、コロナ克服祝賀五輪、コロナと闘う連帯五輪とオリンピックの開催理念も漂流した。開催日までに2ヵ月を切ったいま、やみくもにオリンピック開催を目指すのは、猪瀬氏のいうようにオリンピックがビジネスであって、スポーツ産業であるからだ。オリンピックを開催することで日本の景気は盛り上がり、集まった金のしたたり効果で国民が豊かになる。それが菅政権の延命にプラスの効果をもたらす――だから菅首相は何が何でもオリンピック開催に固執するのだと、新聞は書き続けてきた。
Covid-19流行のさなかのオリンピック開催はいったい何のため、誰のため、コロナ禍で身動きでない市民の疑問が、世論調査でオリンピック開催に否定的な意見を急上昇させた。
2021年5月23日付の信濃毎日新聞が、オリンピック開催の中止を社説で主張した。続いて西日本新聞、沖縄タイムスが同様の主張を繰り広げ、5月26日には朝日新聞がオリンピックの中止を求めた。
新聞社は新聞を発行することで利益を生み出す。編集局は取材を通じて間接的に意見をにおわすが、表立って新聞社としての見解や意見を主張することはない。そういう約束になっている。新聞社の意見はもっぱら論説委員会が書く社説を通じて表明される。
この段階でオリンピック中止論を唱えれば、賛同とともに新聞批判も呼び起こすことだろう。いくつかの日本の新聞が社説でオリンピック中止論を主張し始めたのは、社説の使命を再確認したことと、社説でオリンピック中止論を唱えても、それほどひどい新聞批判の逆風が吹くこともないだろうというよみがあったからだろう。
(2021.5.27 花崎泰雄)
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