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大義名分

2014-11-15 16:54:30 | Weblog

2014年の師走は、新聞などで知る限り、どうやら解散・総選挙になりそうな情勢である。だが、なぜ、いま、総選挙が必要なのか。それが、どうも、ははっきりしない。

野党は大義名分のない解散・総選挙になるであろうと批判している。批判しつつも、仕掛けられたけんかなら受けて立とうではないか、という態度である。

安倍政権の経済政策は金融緩和・円安・株高・企業減税・規制緩和といった、米国流のお化粧を施したサプライサイド経済学の手法である。このやりかたを、レーガノミックスをまねて、アベノミックスという珍妙な名前で呼んでいる。当初は三本の矢などと自信満々だったが、いまでは刀折れ矢尽きる日が刻々と迫っている、と週刊誌などにはやし立てられている。

株価が安倍政権の人気のバロメーターの一つになった。政府とその御用機関である日銀は、株価と物価のつり上げのためにあれこれ画策している。しかし考えてみれば、株価など実体経済とは縁遠い国際投機筋の思惑、つまり投機心理の反映にすぎない。

株価を上げるために年金資金をつぎ込もうという動きも始まっている。厚生年金と国民年金の資産は合わせて約百二十七兆円ある。この資産の投資配分をめぐって、政府は年金積立金管理運用独立行政法人に、国内株式に投資できる枠を倍増させて25%に引き上げさせることにした。その分、国債などの枠を縮小する。株式投資で年金資金に大穴を開けた場合、はたして誰が責任をとるのだろうか。

いくつかの経済指標は景気上向きを示しているが、一部の景気上向き企業の恩恵を受ける社会層とそうでない層の格差が、今まで以上に広がっている。そうでない層が大半なのであろう、消費は落ち込み、全体としての景気は上向かない。

総選挙をやれば消費税10パーセントへの引き上げ実施か先送りかが争点になりそうだ、とメディアは伝える。先送りならアベノミックスの失敗を認めることになる。つまりは、アベノミックスそのものについての有権者の判断を仰ぐことになる。

アベノミックスが失速するのは目に見えているので、失速前に総選挙をして、議員数の目減りを最小限にするのが師走総選挙の狙いだ、というのが野党やメディアの多くの見方である。

安倍自民党が衆院で議席を減らせば、その分野党の議席が増える。だから野党の中には衆院解散・総選挙には大義名分がないと批判しつつ、その一方で内閣不信任案を出して、憲法上の大義名分をつくる手助けをしてやろういう動きがある。

さて、ジャーナリズムの機能の一つはアジェンダ・セッティングとされている。日本の新聞は政局と政争を報じるが、アジェンダについてはあまり論じない。

日本では利益の配分をめぐる争点のようなロー・ポリティックスは票と直結するが、外交・憲法をめぐる議論のようなハイ・ポリティックスは票につながらない。だから、当然のこととして、国民に対して事前の断りもなく一内閣の閣議決定で憲法解釈を変更した個別的自衛権と集団的自衛権をめぐる安倍政権の奇妙な論理の是非や、中国・韓国との外交姿勢、経済と企業の論理ではなく、文明的な視点からの長期的エネルギー・原子力政策などが本格的な争点として浮上して来ることはない。これらは、世論調査では安倍政権の姿勢に対して国民の危惧が強く表れている問題点なのだが。

日本のメディアの政治担当の記者たちは、独立してアジェンダ・セッティングをする気力も能力もなく、閉鎖社会永田町の準インサイダーとしてコップの中の政争に加担しているかのように見える。

したがって、総選挙があった場合、国民にとっての議題が何であるかをメディアが明瞭に説明する可能性は低い。政府・与党や、野党の選挙キャンペーンに盛り込まれた議題を復唱するだけにとどまるだろう。

ひところ、日本のテレビで、マイケル・サンデル教授のハーバード白熱教室で語られる「正義」の番組が人気になった。師走総選挙にあたっては、ジャーナリズムの機能を失いかけている日本のメディアの報道だけを追いかけるだけでなく、政治哲学の本なども書棚から引っ張り出して読みつつ、観戦なさいませ。

(2014.11.15 花崎泰雄)




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