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news commentary

シンパシー

2011-03-14 23:08:33 | Weblog
   
    sympathy: ad. Late L. sympathia, having a fellow feeling (OED)

日本の新聞にもちらっと紹介されたが、東北関東大地震の直後、『ニューヨーク・タイムズ』のコラムニスト、ニコラス・クリストフが3月11日付の同紙に “Sympathy for Japan, and Admiration” というエッセイを書いた。

クリストフは1995年の阪神淡路大地震のさい、タイムズ紙の東京特派員だった。そのときの阪神淡路大地震の取材経験から彼は、次のような調子でエッセイを書きだした。

あのときは日本政府の対応のまずさから、助かるはずの人がむざむざ瓦礫の下で死ぬことになった。だが、日本の一般の人々の方は、その不屈の忍耐力、ストイックな冷静さ、整然たる規律を示した。それはまさに高貴(ノーブル)とよぶにふさわしい態度であった。「これから数日、数週間の日本を注視しよう。そこには学ぶべき教訓がきっとある」。ほめすぎだが、心に響くお見舞いと励ましのメッセージである。必要なときに欲しいメッセージとはこのようなものである。

日本では、いったん引退を決めたあと、気が変ってまた東京都知事選に出馬する石原慎太郎が以下のような発言をしたと朝日新聞デジタル版(3月14日)で読んだ。

「日本人のアイデンティティーは我欲。この津波をうまく利用して我欲を1回洗い落とす必要がある。やっぱり天罰だと思う」と述べた。都内で報道陣に、大震災への国民の対応について感想を問われて答えた。発言の中で石原知事は「アメリカのアイデンティティーは自由。フランスは自由と博愛と平等。日本はそんなものはない。我欲だよ。物欲、金銭欲」と指摘した上で、「我欲に縛られて政治もポピュリズムでやっている。それを(津波で)一気に押し流す必要がある。積年たまった日本人の心のあかを」と話した。一方で「被災者の方々はかわいそうですよ」とも述べた。

石原は自らヤハウェ神を気取って、「東北関東大地震の津波は今様ノアの大洪水である」と言っているように見受けられる。まるで津波の犠牲者たちが我欲・物欲・金銭欲にまみれていたが故に、天罰を受けたと聞こえる。

タイムズ紙に載ったクリストフのエッセイに対して、クリストフのブログには「手を下した戦争犯罪を認めようとさえしない日本という国や日本人に対して同情も賞賛も必要ない」という書き込みがされたが、その後、この書き込みをした人をたしなめる意見が次々と書き込まれた。

日本の行政のCEOである首相・菅直人の3月12日の「東北地方太平洋沖地震に関する菅内閣総理大臣メッセージ」と、13日の「菅総理からの国民の皆様へのメッセージ」をテレビで聞き、官邸のサイトでそのテキストを読んだが、この人のシンパシーとコミュ二ケーション能力の不足に失望させられた。3月12日のメッセージはこう始まっていた。

「地震が発生して1日半が経過をいたしました。被災をされた皆さんに心からお見舞いを申し上げますとともに、救援、救出に当たって全力を挙げていただいている自衛隊、警察、消防、海上保安庁、そして各自治体、関係各位の本当に身をおしまない努力に心から感謝を申し上げます」

●被災をされた皆さんに心からお見舞いを申し上げます
●救援、救出に当たって全力を挙げていただいている自衛隊、警察、消防、海上保安庁、そして各自治体、関係各位の本当に身をおしまない努力に心から感謝を申し上げます

冒頭、被災者に対するシンパシーを表明する文章よりも、救助にあたっている国家機関・地方行政機関へのねぎらいの方が長いのである。誰に向かってのメッセージのつもりなのだろうか? 「自衛隊、警察、消防、海上保安庁、そして各自治体、関係各位の本当に身をおしまない努力に心から感謝」と機関名をあげてくどくど書くよりも、「岩手・宮城・福島3県をはじめとする被災地の皆様」と具体的に地域名をあげて親しくよびかけ、「あと少しがんばってください。日本国民も、政府・行政機関も、国際社会も、あなたがたをそう長くは待たせません」というふうに血の通った修辞でメッセージを始めれば、役人の書いた行政報告文書ではなく、暖かい気持ちをこめたメッセージが被災地に届いたはずである。

今回の危機は首相にとっては、彼の指導力が試される最大にして最後の舞台である。にもかかわらず、内閣官房長官の14日の記者会見によると、首相は被災地の視察に行きたいと希望していたが、現地から受け入れ態勢が整っていないと断られたという。

(2011.3.14 花崎泰雄)


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