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豪腕小沢投手の失投か

2007-10-12 14:55:24 | Weblog
民主党党首・小沢一郎のISAF(国際治安支援部隊)参加発言に対する批判が広がっている。新聞が伝えるところによると――。

OEF(不朽の自由作戦)参加の一環としてインド洋での給油活動を継続したい自由民主党が批判を浴びせている。「インド洋での海上自衛隊の給油活動と、アフガニスタンに地上軍を送り、武力行使に加わることでは、どちらが憲法違反なのか」「きちんと憲法を改正してからやるべきだ」など、ISAF参加の方こそ憲法違反だと強調している。

社会民主党党首の福島瑞穂も「憲法はいかなる場合でも武力行使を認めていない。小沢見解は違憲である。政府に対して野党が結束して迫っていこうという今、なぜこういう主張をするのか理解できない」と批判した。

民主党の中からも「無理がある」との批判が出ている。この党内からの異論に対して小沢は「党の方針に従って行動しなければ党人ではない。いやなら離党する以外にない」と語った。そのうえで、ISAFは治安維持、軍事部門だけでなく、いろんな民生活動が入っているので、参加する場合は民生支援中心の活動を念頭に置いているとした。

このあたりが小沢一郎という人間のどうも信用しきれないところである。彼は『世界』に寄稿した論文の中で「国連活動に積極的に参加することは、たとえ結果的に武力の行使を含むものであってもむしろ憲法の理念に合致する」とはっきり書いていた。

憲法変更へ向けて作られた2005年の民主党の「憲法提言」は、「何らかの形で憲法の中に、国連が主導する集団安全保障活動への参加を位置づけ、曖昧で恣意的な解釈を排除し、明確な規定を設ける。これにより、国際連合における正統な意志決定に基づく安全保障活動とその他の活動を明確に区分し、後者に対しては日本国民の意志としてこれに参加しないことを明確にする。こうした姿勢に基づき、現状において国連集団安全保障活動の一環として展開されている国連多国籍軍の活動や国連平和維持活動(PKO)への参加を可能にする。それらは、その活動の範囲内においては集団安全保障活動としての武力の行使をも含むものであるが、その関与の程度については日本国が自主的に選択する」としている。

この「憲法提言」に基づいて、小沢は①インド洋での給油活動は現行憲法に違反する②そんなことをするよりも、むしろ現行憲法を変更したうえで、武力行使を伴う国連活動に参加するほうが、日本の国益に寄与する、と主張しているのだろうか。

どうもそうではないらしい。小沢は現行憲法下でも武力行使を伴う国連活動への参加は可能であると考えているらしい。五百旗頭真他編『小沢一郎 政権奪取論』(朝日新聞社 2006年)によると、日本が国連の強制措置に参加しても、国連の行動は従来の戦争ではなく国際警察行為だから交戦権の行使にはあたらず、現行憲法に抵触しない、というのが小沢の理屈である。

しかしこの本の中で、国連中心主義の実際的政策選択の面では、小沢の思考は極端なブレを見せている。

「国連にはほぼ全世界の国が参加しているわけですから、多数の国がいいと判断したものに従う以外にないのです」

と、極端な国連中心主義を表明するかと思うと、一方で、

「小沢さんの考えは、何もかもを国連の判断にゆだねて、国連が決めたら、何であれ『行きます』といっているように見えます」

という編者の質問に対して、

「それは全くの誤解です。もちろん、憲法上の問題がないことが大前提です」

と答えている。また、

「実際にそれをやるかどうかは、日本の国益に合致することが必要だということですね」

という編者の質問に対して、

「そう。もちろんそうです。何でも行かなきゃいけないということじゃないです」

と答えている。

学位論文の口頭試問でこのような答え方をしたら、致命的だろう。

ドイツは1955年に基本法(憲法)を変更して軍を持った。同時にNATO(北大西洋条約機構)に加盟した。ただし派兵はNATO域内に限られていた。1994年にドイツの憲法裁判所が域外派兵を合憲とする見解を出した。こうした手続きを踏んで、ドイツはISAFに参加している。つまり、ドイツでは国連治安活動参加への軍の参加は海外派兵であると正しく認識されている。

ISAFは国連安全保障委員会決議1386号で、国連認可の国際治安支援部隊の指定を受けている。国連がNATO軍に指揮権をあずける形をとっている。

一方、OEFも国連安全保障委員会決議1368号に基づく国連認可の治安活動であると主張する向きもある。しかし、国連が指揮権をアメリカ軍にあづけたとはっきり読める文言は、決議1368号には示されていない。

したがって、インド洋給油活動の根拠となっているテロ対策特別措置法は、「国連安保理決議第1368号において国際の平和と安全に対する脅威と認められたことを踏まえ……テロ攻撃による脅威の除去に努めることにより国連憲章の目的達成に寄与する米国等の軍隊等(「諸外国の軍隊等」)の活動に対して我が国が実施する措置等」などを目的とすると定められている、と苦しい説明をしている。

日本政府はOEF参加を国連の治安活動参加の一環であり、日米安全保障条約に基づく活動ではないと説明している。一方、オーストラリアは、自国のOEF参加の根拠は米国との軍事同盟アンザス条約の発動であると、国民に明言している。

というわけで、理屈はますますこんがらがってゆく。この間に、国会の議論や世論が奇妙に単純化され、

「政府が主張するインド洋での給油活動と、小沢の言うアフガニスタンでの武力行使をともなう治安活動参加では、違憲性が少ないのはどちらの方か」

という選択に発展する可能性がある。政府・自民党はこの対比をうまく利用して、世論を「給油」の方へ誘導するだろう。

小沢発言は、結果として、政府の「給油」継続を助ける失投におわる可能性が高い。なんとも間抜けな第五列効果といえよう。

(2007.10.12 花崎泰雄)


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